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欧介さんとのおでかけ

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あっ、そういえばどうしよう……。
明日欧介さんと出かけるなら何を着ていこうかな。

欧介さんの隣に並んでいてもおかしくなさそうな服……どれがいいかなぁ。

寝室のクローゼットの中の服をゴソゴソ取り出し、大きな姿見を見ながら自分に当てては、うーんと悩むのを繰り返していると、廊下をバタバタと駆けてくる音が聞こえた。

あれ?
と思った瞬間、僕の部屋の扉が開いた音が聞こえてきた。

「渚っ! どこだ?」

お兄さま?
珍しいな、お兄さまがこんなに慌ててるなんて。

「お兄さま、僕はここ――」
「渚っ!!」

バーンと寝室の扉を開かれて驚く僕を見ながら、お兄さまはそれよりもさらに驚いた表情をみせ

「何やってるんだ?」

と問いかけてきた。

見れば、ベッドにはクローゼットから取り出した服がこんもりと積み上がっている。
何にしようかと悩んでいる間にこんなに散らかしてしまったようだ。

「わっ、ごめんなさい……あとでちゃんと片付けます」

「それはいいが、何をやっていたんだ?」

「あ、あの……明日お出かけすることになったので何を着ようかと考えてたんです。どれがいいかわからなくって……」

「出かける? もしかして桐島さんと出かけるのか?」

「はい。あれ? でもどうしてそれを?」

「父さんに聞いた。本当だったんだな……」

お兄さまの表情がなんとも辛そうだ。
一体どうしたんだろう?

「あの、もしかして何か予定でもありました? それならお断りしても……」

「いや、そうじゃない。気にしないでいいよ。ただ私は渚を手放すのが辛いだけだ」

「手放す? どういう意味ですか? 僕はお兄さまと離れたりしないですよ?」

「ふふっ。渚は優しいな。だが……そうだな。渚はずっと私の大切な弟だ。たとえ、嫁にいってもな……」

「えっ? 今、なんて言ったんですか? 最後の方がよく聞こえなくて……」

「いや、なんでもない。明日出かけるなら私が服を選んでやろう」

そう言って、お兄さまは僕が散らかした服とクローゼットに残った服を見て、あっという間に決めてくれた。

「さぁ、これでいい。桐島さんも気に入ってくれるだろう」

「わぁ、ありがとうございます。さすがお兄さまですね」

嬉しくて笑顔を向けると、なぜだか少し悲しげな表情を浮かべたような気がした。


翌日、お兄さまの選んでくれた服に身を包み、約束の時間よりも早く支度を整えた僕は、リビングで9時になるのを今か今かと待ち望んでいた。

約束の10分ほど前にピンポンと玄関ベルの音がして、もしかして……と思っていると、執事の篠崎しのざきさんがやってきて、

「渚さま。桐島さまがお見えでございます」

と声をかけてくれた。

僕が慌てて玄関へ向かおうとすると、お父さまとお兄さまも玄関へとやってきた。

「渚、出かけるのか?」

「はい。欧介さんが到着されたようなので出掛けてきます」

「私たちも門まで送ろう。桐島さんにご挨拶もしたいしな」

なんだか妙に緊張感が漂っている気がするけれど僕の気のせいかな?
不思議に思いながらも、一緒に向かうと、門の前に大きな車が見えた。

あっ、昨日とは違う車だ。
今日のもかっこいいな。

「欧介さん、おはようございます」

「ああ、渚くんおはよう。おや、一緒にいらっしゃるのは天都さんとご子息の蒼也くんかな」

欧介さんは僕の後ろに目を向けて声をかけると、お父さまがすぐに駆け寄ってきた。

「桐島さん、ご無沙汰しております。この度は渚と特別なご縁をいただきましたようでありがとうございます」

僕と特別なご縁?
どういう意味?
ああ、もしかして知り合ったってことかな?

確かに不思議な縁だったよね。
あの時偶然出会えたんだから。

欧介さんとの出会いを思い出しているうちにお父さまと欧介さんとのお話は終わったようだ。

「さぁ、渚くん。行こうか」

「渚、行っておいで」

「渚、十分気をつけるんだぞ!」

「蒼也、つまらないことを言うなっ!」

嬉しそうな欧介さんと、満面の笑みを浮かべたお父さま、そして悲しげな表情を浮かべたお兄さまと三者三様の様子になんとなく違和感を感じながら、僕は欧介さんにエスコートされて車に乗り込んだ。

「今日の格好は昨日とまた印象が違うね」

「ふふっ。今日のお出かけに悩んでいたら兄が選んでくれたんです」

「お兄さんが?」

「はい。欧介さんと一緒だとどういうのが良いのか悩んでしまって……ささっと決めてくれて助かりました」

「そうか……」

そういうと黙り込んでしまった欧介さんがちょっと気になりつつも、

「あ、あの……今日はどこにいくんですか?」

と尋ねてみた。

「その前に行きたいところがあるんだ。すぐ着くから」

車を走らせる欧介さんを見つめながらどこにいくんだろうと思っていると、到着したのはなぜかハイブランドのお店。

「えっ? ここ、ですか?」

「ああ。そうだよ、さぁ行こう」

僕が驚いている間に手を取られお店の中へと連れて行かれた。

欧介さんをみてさっと近寄ってきた黒服のスタッフさんに何やら話しかけると、すぐに個室へと案内された。

「あの、欧介さん。何かお洋服でも買われるんですか?」

「渚くんのをね、選びに来たんだ」

「えっ? 僕のを? この格好じゃ、ダメでしたか?」

「ああ、違うよ。せっかくお兄さんが選んでくれた服だから、汚すわけにはいかないと思ってね」

「汚す?」

「そうなんだ。今日はこのまま軽井沢のコテージに行こうと思ってるんだ」

「コテージ……?」

欧介さんから出てきた思いがけない言葉に驚いてしまう。

「ああ、都会から離れてキャンプみたいなものをするのもたまには良いだろう?」

「キャンプ? わぁ、僕そういうの一度やってみたかったんです」

「ふふっ。よかった。じゃあ、これに着替えようか」

そういうと、いつの間にか用意されていた服を渡され試着室に連れて行かれた。

「あっ、これ……」

着替えて大きな姿見に写った姿を見ると、欧介さんが今着ている服によく似ている気がする。
ふふっ。お揃いなのかな……。
なんか嬉しい。

「欧介さん、どうですか?」

カーテンを開けて外に出ると、僕の姿を見て欧介さんは嬉しそうな笑顔を浮かべていた。

「ああ、よく似合うな。この服は汚しても構わないからな。羽鳥はとりくん、彼が着てきた服を包んでくれ」

スタッフの方があっという間に包んでくれた服を欧介さんがさっと持ってくれて、僕たちはそのままお店を出た。

「あっ、お支払いは……?」

「大丈夫、もう済んでいるから」

「でも、僕の服なのに……」

「私のわがままで着替えさせたんだ。私が支払うのは当然だから気にしないでいいよ」

「ありがとうございます。欧介さんのとお揃いのお洋服なんてすっごく嬉しいです」

せっかくのご厚意を無下にしちゃいけないよね。
お父さまからも何かをしてもらったら、すみませんと謝るよりお礼を言って受け取りなさいって言われてきたし。

僕がお礼をいうと、欧介さんは満面の笑みで応えてくれた。
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