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第三章
楽しいパン作り
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「では奥さま。ロルフさまをこちらにどうぞ」
案内されたテーブルに背の高い椅子が置かれていてそこに座らせるとちょうどロルフの身長にちょうどいい。
「フランツ、この椅子……」
「はい。アズールさまがこちらでお料理を手伝ってくださっていた時にお座りになっていた椅子です。それを今度はお子さまがお使いになるとは感慨深いものがありますね」
「ええ。本当に」
アズールがルーディーのために小さな手でオニギリを握っていたとヴェルナーとフランツから報告を受けたこともあったものね。
そうそう、ちっちゃくて、すぐに崩れてしまいそうなそれをルーディーが美味しそうに食べてくれたって、アズールが嬉しそうに教えてくれたのよね。
ふふっ。懐かしいわ。
「ロルフさま、これをどうぞ」
ロルフの前に置かれた小さなパン生地。
「わぁっ、ちっちゃいねぇー」
「ふふっ。生地を寝かせて焼いたら大きくなりますよ」
「ねんね?」
「はい。パンも寝たら大きくなるんですよ。ロルフさまと同じですよ」
「ろーふ、おなじぃ」
嬉しそうに尻尾を揺らして、ペタペタと小さな手で叩いて、パン生地を広げようとする。
「ロルフさま。パン生地を優しく持ってゆっくりと広げるといいですよ」
フランツは優しくロルフの目の前でやって見せてくれる。
「おぉーーっ」
目の前で形が変わっていくのを見て、目をキラキラと輝かせている。
ふふっ。本当に可愛くてたまらない。
「ろーふも、ちゅるー」
そう言ってがっしりと掴んだ生地を横に引っ張るとあっという間にパン生地は千切れてしまった。
「ああっ……」
ボトンと千切れて落ちたパン生地を見て、
「ふぇ……っ」
と悲しげな声をあげる、
さっきまで嬉しそうに揺らしていた尻尾も悄然としてしまっていて、なんと声をかけてあげればいいかと思っていると、
「ロルフさま、大丈夫ですよ。ほら」
フランツが千切れて落ちてしまったパン生地を取り、ロルフの手に握られたままの片割れを合わせると、あっという間に元の形に戻った。
「わぁーっ、ろーふの、ぱん!!」
喜ぶロルフと同じようにロルフの尻尾も嬉しそうに揺れる。
ふふっ、よかったわ。
「好きな形にしていきましょうね」
フランツの声かけに、ロルフは今度は優しく生地を伸ばし形を作っていく。
ロルフは一体どんなパンを作るのかしら?
ほっぺたに打ち粉用の白い粉をつけて、一生懸命形作っている姿に応援していると、
「れきちゃーっ!!」
と可愛い声が厨房に響いた。
どんなものを作ったのかと近づいて見てみると、
「まぁっ!」
「おおっ、これは……」
あまりの可愛さにフランツも声を上げた。
「これ、アズールね。なんて可愛いの!」
私の声に得意げな顔を見せてくれるロルフ。
その小さな手で作ってくれたパンは、耳が長くて可愛らしい形をしていた。
「素晴らしいですね。焼き上がったら、チョコペンでお顔を描きましょう。もっとアズールさまにそっくりになりますよ!」
「かくーっ!!」
ロルフが嬉しそうに声を上げていると、
「アリーシャ、ここにいたのか」
と後ろからヴィルの声が聞こえた。
驚いて振り向くと、ヴィルの腕にはルルの姿があった。
しかも涙のあとがある。
「あら、どうしたの?」
「ルルが目を覚まして、アリーシャとロルフがいなかったから寂しかったみたいだ。私の胸に抱きついてきて、にーちゃぁー、あーちゃぁーって泣くから、探しに行こうと言って連れ出したんだ。そうしたら厨房で音がするから来て見たんだよ」
「そうだったの。ルル、ごめんなさいね」
「あーちゃぁー」
まだ涙声のルルを抱きしめて背中を優しく撫でてやると、ようやく落ち着いたのか、目の前で起こっていることが気になってきたみたい。
「まんま?」
テーブルの上に置かれた、ロルフのパンを指を差す。
「ええ、そうよ。ロルフが作ったの。あっ、ルルもやってみる? フランツ、できるかしら?」
「はい。もちろんでございます」
そういうと、大きなパン生地の塊から小さく切り分けてルルに手渡す。
「ううー、おいでぇー」
ロルフが自分のいる場所を空けてルルを呼び寄せる。
あの椅子はロルフとルルの二人なら安全に座れるから大丈夫ね。
ロルフの隣にルルを置いてやると、ロルフはルルにパン生地の触り方を一生懸命教えてあげている。
拙い言葉同士だけど、やっぱり双子だけあって通じるものがあるのかもしれない。
ロルフの教えがいいからか、ルルは最初から綺麗に形作っていく。
「れきちゃーっ!!」
見ると、そこには狼の形をしたパン。
自分なのか、私たちなのか、それともパンの形を教えてあげていたロルフなのか、狼率が高いここではかなりの難問だけれど、ロルフがアズールを作ったのだから、きっと……と当たりをつけて
「ルル、上手にできたわね。ルーディーにそっくりだわ」
というと、
「ふふっ。ぱっぱ、ちょっくりーっ!!」
と嬉しそうに尻尾を揺らす。
ああ。よかったわ、合っていて。
ホッとしながら、笑顔でヴィルと顔を見合わせた。
案内されたテーブルに背の高い椅子が置かれていてそこに座らせるとちょうどロルフの身長にちょうどいい。
「フランツ、この椅子……」
「はい。アズールさまがこちらでお料理を手伝ってくださっていた時にお座りになっていた椅子です。それを今度はお子さまがお使いになるとは感慨深いものがありますね」
「ええ。本当に」
アズールがルーディーのために小さな手でオニギリを握っていたとヴェルナーとフランツから報告を受けたこともあったものね。
そうそう、ちっちゃくて、すぐに崩れてしまいそうなそれをルーディーが美味しそうに食べてくれたって、アズールが嬉しそうに教えてくれたのよね。
ふふっ。懐かしいわ。
「ロルフさま、これをどうぞ」
ロルフの前に置かれた小さなパン生地。
「わぁっ、ちっちゃいねぇー」
「ふふっ。生地を寝かせて焼いたら大きくなりますよ」
「ねんね?」
「はい。パンも寝たら大きくなるんですよ。ロルフさまと同じですよ」
「ろーふ、おなじぃ」
嬉しそうに尻尾を揺らして、ペタペタと小さな手で叩いて、パン生地を広げようとする。
「ロルフさま。パン生地を優しく持ってゆっくりと広げるといいですよ」
フランツは優しくロルフの目の前でやって見せてくれる。
「おぉーーっ」
目の前で形が変わっていくのを見て、目をキラキラと輝かせている。
ふふっ。本当に可愛くてたまらない。
「ろーふも、ちゅるー」
そう言ってがっしりと掴んだ生地を横に引っ張るとあっという間にパン生地は千切れてしまった。
「ああっ……」
ボトンと千切れて落ちたパン生地を見て、
「ふぇ……っ」
と悲しげな声をあげる、
さっきまで嬉しそうに揺らしていた尻尾も悄然としてしまっていて、なんと声をかけてあげればいいかと思っていると、
「ロルフさま、大丈夫ですよ。ほら」
フランツが千切れて落ちてしまったパン生地を取り、ロルフの手に握られたままの片割れを合わせると、あっという間に元の形に戻った。
「わぁーっ、ろーふの、ぱん!!」
喜ぶロルフと同じようにロルフの尻尾も嬉しそうに揺れる。
ふふっ、よかったわ。
「好きな形にしていきましょうね」
フランツの声かけに、ロルフは今度は優しく生地を伸ばし形を作っていく。
ロルフは一体どんなパンを作るのかしら?
ほっぺたに打ち粉用の白い粉をつけて、一生懸命形作っている姿に応援していると、
「れきちゃーっ!!」
と可愛い声が厨房に響いた。
どんなものを作ったのかと近づいて見てみると、
「まぁっ!」
「おおっ、これは……」
あまりの可愛さにフランツも声を上げた。
「これ、アズールね。なんて可愛いの!」
私の声に得意げな顔を見せてくれるロルフ。
その小さな手で作ってくれたパンは、耳が長くて可愛らしい形をしていた。
「素晴らしいですね。焼き上がったら、チョコペンでお顔を描きましょう。もっとアズールさまにそっくりになりますよ!」
「かくーっ!!」
ロルフが嬉しそうに声を上げていると、
「アリーシャ、ここにいたのか」
と後ろからヴィルの声が聞こえた。
驚いて振り向くと、ヴィルの腕にはルルの姿があった。
しかも涙のあとがある。
「あら、どうしたの?」
「ルルが目を覚まして、アリーシャとロルフがいなかったから寂しかったみたいだ。私の胸に抱きついてきて、にーちゃぁー、あーちゃぁーって泣くから、探しに行こうと言って連れ出したんだ。そうしたら厨房で音がするから来て見たんだよ」
「そうだったの。ルル、ごめんなさいね」
「あーちゃぁー」
まだ涙声のルルを抱きしめて背中を優しく撫でてやると、ようやく落ち着いたのか、目の前で起こっていることが気になってきたみたい。
「まんま?」
テーブルの上に置かれた、ロルフのパンを指を差す。
「ええ、そうよ。ロルフが作ったの。あっ、ルルもやってみる? フランツ、できるかしら?」
「はい。もちろんでございます」
そういうと、大きなパン生地の塊から小さく切り分けてルルに手渡す。
「ううー、おいでぇー」
ロルフが自分のいる場所を空けてルルを呼び寄せる。
あの椅子はロルフとルルの二人なら安全に座れるから大丈夫ね。
ロルフの隣にルルを置いてやると、ロルフはルルにパン生地の触り方を一生懸命教えてあげている。
拙い言葉同士だけど、やっぱり双子だけあって通じるものがあるのかもしれない。
ロルフの教えがいいからか、ルルは最初から綺麗に形作っていく。
「れきちゃーっ!!」
見ると、そこには狼の形をしたパン。
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「ルル、上手にできたわね。ルーディーにそっくりだわ」
というと、
「ふふっ。ぱっぱ、ちょっくりーっ!!」
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