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第三章

可愛い反抗期

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<sideアリーシャ>

「うーん」

「あら、ロルフ。もう起きたの?」

「まんま、ちょころ、いくぅー」

むくっとベッドから起き上がって、今にもアズールたちの部屋に駆け出していきそうだけどまだ夜明け前。
きっと二人は甘い夜を過ごして幸せそうに眠っているはず。

寝起きで寂しがっているロルフには悪いけど、いつも頑張っているルーディーとアズールには実家で過ごしている時くらいは二人っきりの時間を過ごさせてやりたいと思うのは親心。

「ロルフ、ほら。まだお外は暗いでしょう? ママたちのところはもう少し明るくなってからにしましょう。ねっ」

「やぁーっ!」

尻尾をゆさゆさと揺らして抗議する姿に、幼いときのクレイを思い出して思わず笑ってしまう。

アズールがまだお腹の中にいる時、少し体調が優れなくてクレイが楽しみにしていたお出かけを取りやめたことがあった。
可哀想だと思って、ヴィルと二人で行ってらっしゃいと声をかけたのだけど、ヴィルは私のことを心配して結局お出かけはしなかった。

いつもならクレイは素直にいうことを聞いてくれるのだけど、あの時は

「やぁーっ、絶対お出かけする!!」

と尻尾を大きく揺らして抗議して、床に倒れてジタバタと暴れたのよね。

まだ小さいのにいつも大人びた発言をしていたのに、あの時だけは年相応に見えて、クレイの初めての反抗期が可愛すぎて思わず笑ってしまった。

実はあの時、お出かけの後で立ち寄るはずだったお店で、クレイとヴィルが私のためにサプライズを用意してくれていて、それを見せられなくなることがクレイは嫌だったんだと、後でヴィルから教えてもらって涙が出るほど嬉しかった。

だって、初めての反抗期が私を思ってのことだったのだから、嬉しくないわけがない。
でも、あの後、ヴィルとクレイは二人でたくさん話をして、涙を流しながら謝ってくれたのよね。

――あのね、ぼく……おかあさまと、おとうとか、いもうとをまもれる、おにいちゃんになる! やくそくする!

泣きながらそう言ってくれたクレイは、生まれてきたちっちゃなアズールを見て、

――アズール、僕の可愛い弟。これからは僕が大切に守ってあげるからね。早く大きくなるんだよ。

あの時の約束を守るように満面の笑みで声をかけ、アズールにキスをしてあげてたのよね。

ふふっ、クレイは覚えてるかわからないけれど、キスのことはルーディーには秘密にしておいた方がいいかもしれないわね。


「まんまっ、いくぅー!」

「じゃあ、ちょっとお散歩にでも行きましょうか」

「おちゃんぽ? いくぅー!!」

「ふふっ。寒いから、ブランケット被っていきましょうね」

ベッドを見ると、ルルはヴィルのすぐ隣で気持ちよさそうに眠ってる。
これなら少しの時間くらいなら大丈夫そう。

すっかりご機嫌になったロルフを抱っこして、そっと寝室を出ると家の中がしんと静まり返っている。
かすかに音が聞こえるのはきっと厨房の音。

今日はルーディーたちもいるから、たっぷりと朝食を用意してくれているはず。

フランツの食事はアズールはもちろんルーディーも子どもたちも楽しみにしているから、張り切ってくれていたものね。

すると、突然ロルフが

「あーちゃん、ふらんちゅのちょこ、いくぅ!」

と言い出した。

『あーちゃん』というのは私のこと。まだ名前をうまく呼べないロルフとルルに呼びやすい名前にしてもらってるの。
流石におばあちゃんとはまだ呼ばれたくないのよね。

ちなみに、ヴィルは、『びーじーたん』と呼ばれているわ。
いくら、ロルフたちが話せるようになったと言っても、流石にヴィルおじいちゃんは難しいものね。
自分から呼ばせた、この愛称をヴィルは気に入っているみたい。

同じ感じで、陛下のことは『くーじーたん』と呼んでいるみたい。
このヴンダーシューン王国で、陛下をそう呼べるのはロルフとルルだけね。

眦を下げて嬉しそうに返事をなさっているから問題はないだろうけど。

「じゃあ、フランツのところに行ってみましょうか」

「わぁーい!!」

私の腕の中で飛び跳ねて……狼族なのにこういうところはアズールにそっくりね。
本当に可愛いんだから。

私はロルフを抱っこして、ロルフの要望通りに厨房へ向かった。


「フランツ」

「えっ? お、奥さま。それにロルフさまも。こんなにお早い時間にどうなさったのですか?」

「ロルフがフランツのところに行きたいっていうものだから、忙しい時間だとは思ったのだけど少し寄らせてもらったの」

「そうでございましたか。ロルフさまからそう仰っていただけるなんて嬉しいですよ。今はちょうどパン生地の発酵が終わったところなのです。いい匂いがするでしょう?」

「いいにおーい、ちゅるーっ」

さっきまでの反抗期が嘘のように嬉しそうにしている。

ふふっ。よかったわ。

「ロルフさま。もしよければ、朝食用のパンをお作りになりませんか?」

「ぱん?」

「ええ、ロルフさまがいつも召し上がっていらっしゃるパンですよ。きっと、ルーディーさまもアズールさまも、それに皆さまもロルフさまがお作りになったパンをお喜びになると思いますよ」

そんなフランツの提案に、ロルフは目を輝かせて、

「ちゅくるーっ!!」

と大声をあげた。
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