上 下
218 / 287
第三章

出産報告

しおりを挟む
<sideアリーシャ>

「アリーシャ! どうだった?」

「ええ、無事に生まれたわ」

てっきりそれぞれの部屋で待っているかと思ったのに、手術室の前で待ちかねているなんて驚いてしまったわ。
でも、ヴィルとクレイ、それにティオの嬉しそうな顔を見ると、私も嬉しくなる。

「アズールさまのご様子はいかがですか?」

「ええ、とっても元気よ。今、早速赤ちゃんたちにミルクをあげているの」

「えっ? もうミルクがお出になったのですか?」

「ええ。ルーディーがそばにいてくれているおかげよ」

その言葉にティオの顔が一気に赤くなる。
相変わらず純情で可愛らしいんだから。

「それで、子どもたちはどっちだった?」

待ちきれないと言った様子でヴィルが尋ねてくる。

「どちらも狼族で男の子と女の子だったわ」

「おおーっ!! そうか、二人の子だ。それは可愛いだろうな」

「ええ、黒耳の男の子はしっかりした顔立ちでルーディーによく似ていたわ。女の子はね、ふふっ」

「なんだ? 女の子はどうしたんだ?」

「アズールと同じ真っ白な耳と尻尾を持っていたわ」

「な――っ、狼族で白い耳、とな? それはまた珍しい」

驚くのも無理はない。
王家の血筋なら黒耳、そこから遠くなるにつれてグレーや茶色になるのだけど、私の知る限り真っ白な耳を持つ狼族はいなかったはずだから。

「『神の御意志』とその運命の番の子どもたちだもの。そんなこともあるわ。たとえ、真っ白でも真っ黒でも変わらないでしょう?」

「ああ、それはもちろん。これからみんなで育てていくとしよう。そうだ、アリーシャ。陛下へのご報告はどうする? ルーディーがするのか?」

「いえ、当分はアズールの世話に忙しいだろうから、私たちでしておきましょう。その代わり、ルーディーから連絡があるまではこちらに来るのはお待ちいただくことになるけれど」

「そうだな。アズールも子どもたちもまだ万全ではないだろうからな」

「父上、私たちが陛下に報告に行ってきますよ。ついでにマクシミリアンとヴェルナーにも伝えてきましょう」

「ああ、お前たちが行ってくれるならありがたい。頼むよ」

「ではすぐに行って参ります」

そういうと、クレイはティオをつれてすぐにお城へ向かった。


<sideフィデリオ>

「公爵家からの連絡はまだか? もう、子どもたちは生まれたのではないか?」

アズールさまが今日出産なさるとのご報告を、ルーディーさまから受けてからというもの30分おきに同じことを聞かれている気がする。

アズールさまのご出産予定日まではまだ時間があったから、これほど早く生まれる聞いて、もしかしたら不測の事態かと思って心配したけれど、アントン医師の診察の元、今のタイミングが子どもを産む絶好機なのだと言われたそうで胸を撫で下ろした。

ルーディーさまの蜜のおかげで順調に大きくなっていると言っていたし、おそらくその影響もあるのだろう。
それくらいルーディーさまがアズールさまと子どもたちのためにせっせと蜜をお与えになったということだ。

アズールさまだけでなく、ルーディーさまも子どもたちの成長のために頑張られたのだから、きっと元気な御子がお生まれになるに違いない。

もうそろそろ連絡が来る頃かと思っていると、ヴォルフ公爵家よりクレイさまとティオさまがお越しになったと報告があった。

「おおっ、来たか! すぐに通すのだ!」

陛下はそれはそれは嬉しそうにお二人を呼び入れて、挨拶もそこそこにお二人からのご報告をお受けになった。

「陛下。我が弟アズールが、先ほど無事に狼族の男の子と女の子の双子を出産致しましたのでご報告いたします」

「おおっ!! 男と女だと? それはめでたい!! それで、アズールと子どもたちは元気なのか?」

「はい。先ほど無事に初乳も飲み、健やかに眠っているとの報告を受けております」

「なんとっ! もう初乳を? さすが、アズールだな」

驚くのも無理はない。
初乳が出るのは出産後、自然分娩でも六時間ほど、帝王切開であれば半日はかかると言われているのだから。

初乳が出るのは母体が回復した証拠であり、それを飲ませると健やかに育つ。
これで三歳までは体調を崩すことなく、お育ちになることだろう。

それにしても本当に回復が早い。
あえて口にはしないが、おそらくルーディーさまのおかげだろうな。
しおりを挟む
感想 546

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

処理中です...