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第三章
アズールさまのお役目
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「あ、あのアズールさまはお腹に赤ちゃんがいらっしゃいますが、そんなに蜜をお飲みになって大丈夫なのですか?」
「うん、大丈夫。だって、ルーの蜜はお薬なんだって!」
「えっ……お薬、でございますか?」
「うん。あのね――――」
アズールさまは蜜の効能について嬉しそうに教えてくださった。
まさかあの蜜にそのような効果があったとは……。
ティオの話ではご懐妊が判明した頃のアズールさまは、何も食事を受けつけず随分お痩せになったということだった。
今はお腹の膨らみはもちろんのこと、お顔もほんの少しだがふっくらとされて以前よりも健康的だ。
「そんな効果があるのですね。お腹の赤ちゃんの成長にルーディーさまも一役買っておられるとは……。お腹にいるうちからお夫夫でお子さまをお育てになっていらっしゃるなんて素晴らしいことです」
「あっ、そっか……。そうだよね。ルーがいないと僕が元気でいられないんだもんね」
「もちろんアズールさまのご存在があってこそ、ルーディーさまのお力を役立てることができるのですよ。どちらが欠けてもお子さまの成長には足りないのですから」
「うん。ありがとう。ヴェル。僕……ずっと不安だったんだ」
「アズールさま……」
「ヴェル、僕の話聞いてくれる?」
「ええ。もちろんですとも」
私は目の前のアズールさまをさっと抱きかかえてソファーまで連れて行き、そっと座らせた。
「ヴェル、僕……重くなった?」
「ええ。以前よりはもちろん大きくなっていらっしゃいますね。でも、幸せの重みですよ」
「うん。最近はね、お腹がポコポコ動くんだ。ほら、見て」
流石に裸のお腹を見せてくれることがなくてホッとした。
けれど、服の上からでもわかるほど元気に動き回っているのがわかる。
「ねぇ、触ってみて」
「よろしいのですか?」
「うん。元気いっぱいだよ」
団長に知られたら怒られそうだなと思いつつ、触ってみたいという好奇心に抗うことはできなかった。
決して、アズールさまに触れたいという邪な気持ちではない。
ただ、お腹の中にいる生命の動きをこの手で感じたいだけだ。
「し、失礼します」
初めての体験に緊張しながら、そっと手を伸ばすと私が触れたところにぽこっと振動が伝わってくる。
「おおっ!! すごいですね!」
アズールさまが元々お痩せになっているからだろう。
かなり鮮明にお腹の中の動きが伝わってくる。
この中で生きているんだと思うだけで感動してしまう。
「お腹の中にね、二人いるんだよ」
「双子でいらっしゃいますか。それは楽しみでございますね」
「ヴェルは女の子と男の子どっちがいいと思う?」
ああ、やはりそのことを気にしておられたのか。
「女の子でも男の子でも無事にお生まれになることが何よりも大切なことでございますよ」
「うん、そうだよね。でもね、僕……ずっと心配だったんだ。お義父さまがね、女の子は跡継ぎにはなれないって教えてくれたの。でもお腹の中にはもう赤ちゃんがいて、今から性別を変えることなんて出来ないのに、この子がもし女の子で……ルーがもし男だったらよかったのにって思ってたら、お腹の赤ちゃんは傷つくだろうなって。僕はね、ヴェルも知っていると思うけど、生まれる前の蒼央の時の記憶があって……あの時、自分がいらない子だったって言われたのが、ずっと忘れられなかったんだ……。お腹の赤ちゃんがあの時の僕と同じように親の言葉で傷ついたりするんじゃないかって思ったら不安でたまらなかった……だから、その時はなんとかして、お腹の赤ちゃんを守らなきゃって思ってたんだ」
「アズールさま……」
ああ、もうアズールさまは親になっておられるのだ。
だから、お腹の御子を必死で守ろうとしていらっしゃる。
「でもね、さっきヴェルがルーと一緒にお腹の赤ちゃんを育ててるって言ってくれて気づいたんだ。ルーの蜜を飲んで僕のお腹の中で大きくなった赤ちゃんをルーが傷つけることを言うはずないって。そうだよね?」
「ええ。もちろんですとも。ルーディーさまは性別など気にしておられませんよ。陛下もただ事実をお教えになっただけで、アズールさまがお産みになるお子さまが女のお子さまであったとしてもとてもお慶びになるはずです」
とはいえ、妊娠中のデリケートな時期にお話することではないが。
次に同じようなことが起こらないようにこれはフィデリオさまにお話しておいた方がよさそうだ。
「うん。ルーはね、ずっと男の子でも女の子でも関係ないって言ってくれてたんだ。ただ僕が責任を感じて不安になっちゃってただけ。でも、お腹の赤ちゃんをルーと一緒に大きく成長させてるんだって思ったら、僕だけの責任じゃないよね?」
「ふふっ。そうでございますよ。そもそも性別の決め手になるものは中に注がれる蜜にあるそうですから、アズールさまにはどうしようもないのですよ」
「えっ、そうなの?」
まぁ、それは男女のそれに関したことでウサギ族も同じかはわからないけれど、そう思っていただいた方がアズールさまのお気持ちも楽になるだろう。
「はい。ですから、アズールさまが責任を感じられたり、不安に思われたりする必要はございませんよ。アズールさまはお腹に宿った生命を大切に育むのが大事なお役目なのです。性別のことまではお役目には入っておりませんよ。ですからアズールさまは何もご心配などされず、お腹の中を居心地よくなさるために心穏やかに楽しくお過ごしください」
「そっか、そうなんだ……うん。わかった! 僕、お腹の赤ちゃんといっぱい楽しむ!!」
「ええ、その心意気ですよ。ただし、ご無理だけはなさらないでくださいね」
そういうと、アズールさまはようやくいつものような無邪気な笑顔を見せてくれた。
「うん、大丈夫。だって、ルーの蜜はお薬なんだって!」
「えっ……お薬、でございますか?」
「うん。あのね――――」
アズールさまは蜜の効能について嬉しそうに教えてくださった。
まさかあの蜜にそのような効果があったとは……。
ティオの話ではご懐妊が判明した頃のアズールさまは、何も食事を受けつけず随分お痩せになったということだった。
今はお腹の膨らみはもちろんのこと、お顔もほんの少しだがふっくらとされて以前よりも健康的だ。
「そんな効果があるのですね。お腹の赤ちゃんの成長にルーディーさまも一役買っておられるとは……。お腹にいるうちからお夫夫でお子さまをお育てになっていらっしゃるなんて素晴らしいことです」
「あっ、そっか……。そうだよね。ルーがいないと僕が元気でいられないんだもんね」
「もちろんアズールさまのご存在があってこそ、ルーディーさまのお力を役立てることができるのですよ。どちらが欠けてもお子さまの成長には足りないのですから」
「うん。ありがとう。ヴェル。僕……ずっと不安だったんだ」
「アズールさま……」
「ヴェル、僕の話聞いてくれる?」
「ええ。もちろんですとも」
私は目の前のアズールさまをさっと抱きかかえてソファーまで連れて行き、そっと座らせた。
「ヴェル、僕……重くなった?」
「ええ。以前よりはもちろん大きくなっていらっしゃいますね。でも、幸せの重みですよ」
「うん。最近はね、お腹がポコポコ動くんだ。ほら、見て」
流石に裸のお腹を見せてくれることがなくてホッとした。
けれど、服の上からでもわかるほど元気に動き回っているのがわかる。
「ねぇ、触ってみて」
「よろしいのですか?」
「うん。元気いっぱいだよ」
団長に知られたら怒られそうだなと思いつつ、触ってみたいという好奇心に抗うことはできなかった。
決して、アズールさまに触れたいという邪な気持ちではない。
ただ、お腹の中にいる生命の動きをこの手で感じたいだけだ。
「し、失礼します」
初めての体験に緊張しながら、そっと手を伸ばすと私が触れたところにぽこっと振動が伝わってくる。
「おおっ!! すごいですね!」
アズールさまが元々お痩せになっているからだろう。
かなり鮮明にお腹の中の動きが伝わってくる。
この中で生きているんだと思うだけで感動してしまう。
「お腹の中にね、二人いるんだよ」
「双子でいらっしゃいますか。それは楽しみでございますね」
「ヴェルは女の子と男の子どっちがいいと思う?」
ああ、やはりそのことを気にしておられたのか。
「女の子でも男の子でも無事にお生まれになることが何よりも大切なことでございますよ」
「うん、そうだよね。でもね、僕……ずっと心配だったんだ。お義父さまがね、女の子は跡継ぎにはなれないって教えてくれたの。でもお腹の中にはもう赤ちゃんがいて、今から性別を変えることなんて出来ないのに、この子がもし女の子で……ルーがもし男だったらよかったのにって思ってたら、お腹の赤ちゃんは傷つくだろうなって。僕はね、ヴェルも知っていると思うけど、生まれる前の蒼央の時の記憶があって……あの時、自分がいらない子だったって言われたのが、ずっと忘れられなかったんだ……。お腹の赤ちゃんがあの時の僕と同じように親の言葉で傷ついたりするんじゃないかって思ったら不安でたまらなかった……だから、その時はなんとかして、お腹の赤ちゃんを守らなきゃって思ってたんだ」
「アズールさま……」
ああ、もうアズールさまは親になっておられるのだ。
だから、お腹の御子を必死で守ろうとしていらっしゃる。
「でもね、さっきヴェルがルーと一緒にお腹の赤ちゃんを育ててるって言ってくれて気づいたんだ。ルーの蜜を飲んで僕のお腹の中で大きくなった赤ちゃんをルーが傷つけることを言うはずないって。そうだよね?」
「ええ。もちろんですとも。ルーディーさまは性別など気にしておられませんよ。陛下もただ事実をお教えになっただけで、アズールさまがお産みになるお子さまが女のお子さまであったとしてもとてもお慶びになるはずです」
とはいえ、妊娠中のデリケートな時期にお話することではないが。
次に同じようなことが起こらないようにこれはフィデリオさまにお話しておいた方がよさそうだ。
「うん。ルーはね、ずっと男の子でも女の子でも関係ないって言ってくれてたんだ。ただ僕が責任を感じて不安になっちゃってただけ。でも、お腹の赤ちゃんをルーと一緒に大きく成長させてるんだって思ったら、僕だけの責任じゃないよね?」
「ふふっ。そうでございますよ。そもそも性別の決め手になるものは中に注がれる蜜にあるそうですから、アズールさまにはどうしようもないのですよ」
「えっ、そうなの?」
まぁ、それは男女のそれに関したことでウサギ族も同じかはわからないけれど、そう思っていただいた方がアズールさまのお気持ちも楽になるだろう。
「はい。ですから、アズールさまが責任を感じられたり、不安に思われたりする必要はございませんよ。アズールさまはお腹に宿った生命を大切に育むのが大事なお役目なのです。性別のことまではお役目には入っておりませんよ。ですからアズールさまは何もご心配などされず、お腹の中を居心地よくなさるために心穏やかに楽しくお過ごしください」
「そっか、そうなんだ……うん。わかった! 僕、お腹の赤ちゃんといっぱい楽しむ!!」
「ええ、その心意気ですよ。ただし、ご無理だけはなさらないでくださいね」
そういうと、アズールさまはようやくいつものような無邪気な笑顔を見せてくれた。
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