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第三章

賢い子たち

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<sideルーディー>

父上には全く悪気はなかった。
それはよくわかっている。

ただ、アズールに王家と公爵家の存続がかかっているような話をしてストレスを与えたのは事実だ。

父上から話を聞いたその日の夜、アズールは眠りが浅かったように思えた。

アズールのことだから、不安になっていたのだろう。
それでも私の前では笑顔を見せてくれるアズールの優しさに心が痛んだ。

一人で辛い思いをしてもらいたくなくて、悩み事があるのなら教えて欲しいと尋ねて強引に聞き出したが、アズールは父上を決して悪くは言わなかった。
自分がただ不安に思っているだけなのだと、そんな言葉をかけてくれる。

こんなにも心優しいアズールにこれ以上不安にさせたくない。

「女だろうが、男だろうが関係ない。私たちの大事な子どもたちだ。アズールは元気な子を産むことだけを考えていればいい」

私の思いを告げると、アズールは笑顔を見せてくれた。

これでどれだけアズールの精神的不安を癒せたかはわからないが、それからは不安げな表情も減ったかのように思えた。


そんな時、アズールの腹の子たちの性別がわかるとアントンに言われて、アズールは悩んでいるように見えた。

聞きたい。
でも、もし女の子だったら父上たちががっかりするだろうか……。

そんなことを思っているのがありありと感じられた。

もちろんアズールが聞きたいなら構わないが、少しでも悩んでいるのならやめておいたほうがいい。
だから、私は生まれた時の楽しみにしたらいいと言ったのだ。

アズールは私の答えに安堵の表情を浮かべ、

「アントン先生……僕、性別は聞かないでおきます」

と静かに告げた。

「そうですね、聞かずともあと数ヶ月でお会いになれますから。いずれにしても可愛らしい子に間違いはございませんよ」

「はい。会えるのを楽しみにしてます。ねぇ、赤ちゃん」

アズールが話しかけると、アズールの大きな腹がポコポコと波打つように動くのが見える。

「ふふっ。アズールに返事をしているな。本当に賢い子たちだ」

アズールの腹に手を置くと、ぽんぽんとタッチしているような感覚すら覚える。
本当にこの子たちは私たちの声が聞こえているのかもしれないな。

<sideヴェルナー>

「ヴェルナー、少しいいか?」

アズールさまのご懐妊が判明してから、ずっと騎士団をおやすみなさっておられる団長が突然副団長室に訪ねて来られて驚いてしまった。

「団長、アズールさまに何かございましたか?」

「ははっ。お前は鋭いな」

「わざわざ騎士団までお越しになるのですから、そうとしか考えられません」

「ああ、なるほどな。確かにアズールのことだ」

「今、アズールさまはお屋敷にいらっしゃるのですか?」

「そうだ。今は少し昼寝をしているのでな、その間にヴェルナーに話に来たのだ」

ということはあまり良くない話か。
アズールさまに何か心配事でもあるのかもしれない。

そう思いつつも、ただ黙って団長の言葉を聞き続けた。

「実は、アズールの話し相手になって欲しくてな」

「えっ? 話し相手、でございますか?」

「ああ、私がいない間、お前とティオに騎士団に戻ってもらったところ悪いのだが、アズールもだいぶ体調も整ってきているから、気分転換にお前と話をしたり、お茶をしたりして過ごさせてあげたいのだ。どうだ? 頼まれてくれないか?」

「それは、願ってもないことでございますが……本当にそれだけなのですか?」

「ふっ。やはりヴェルナーには勝てぬな。実はアズールは腹の子の性別のことで父上から少し重圧をかけられていたのだ。今はもう気にしていないと言っているが、たまに少し不安そうにしているのを見かけるから、やはり気にしているのではないかと思って心配なのだ。アズールは私には大丈夫だと言っているが、お前には心の内を話すのではないかと思ったんだ」

「もしかして、跡継ぎのことでしょうか?」

「ああ、そうだ。私としては正直に言って元気で生まれてくれさえすればどちらでも構わぬ。だが、父上に女では跡継ぎになれないと聞いて不安になってしまったようだ」

そんなことを聞いてしまってはあのアズールさまも不安に思われても不思議はない。

「承知しました。それでは今からお伺いしてもよろしいですか?」

「ああ、来てくれるか。助かる」

「その代わり、団長はこのまま騎士団でお務めをお願いいたしますね。この後は若い騎士たちに訓練をつける予定でしたから。団長が相手になってくださったら若い騎士たちも喜びます」

そういうと、団長は渋々ながらも引き受けてくださった。

私は急いで、アズールさまの好きな菓子を手に公爵家に向かった。
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