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第三章

新婚夫夫を迎えるために

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<sideフィデリオ(爺)>

「陛下っ! ご報告でございます」

「ルーディーか?」

「はい。ヴォルフ公爵家より使いの者が参りまして、先ごろルーディーさまとアズールさまが無事に初夜をお済ませになり、お部屋から出てこられたそうでございます」

「おお、そうか……っ、やっとだな。長かった……」

ヴォルフ公爵家からの報告に陛下は椅子にぐったりと身体を預け、安堵の表情を浮かべていらっしゃった。

それもそのはず。
アズールさまが発情期を迎えられ、ルーディーさまと共にお部屋に篭られたのが一週間も前。
その間、ずっと心配なさって睡眠もままならないご様子だったのだから。

「そ、それで、アズールは無事なのか?」

「医師の診察をお受けになったとは伺っておりませんので、おそらくご無事かと存じます」

「そうか、それならいいが……なんと言っても、ルーディーは18年近くも我慢し続けていたのだからな。それがようやく解禁ともなれば、獣人としての本能が目覚めても不思議はないだろう?」

陛下の仰りたいことは私にもよくわかる。
けれど、アズールさまを大事になさっているルーディーさまのこと。
どれだけ我慢し続けていたからといっても、アズールさまに無体をするような真似はなさらないと言い切れる。
なんせ私はルーディーさまのおそばでずっと見守ってきたのだから。

「恐れながら陛下。今までの獣人のお方がどのようなことをなさったのかは存じあげませんが、ルーディーさまに限ってはそのようなことはございません。ご自分がどれほど苦しくてもアズールさまを第一にお考えになるはずでございますよ。陛下はもう少しご子息のことを信用なさってくださいませ」

「フィデリオ……」

「申し訳ございません、大変失礼なことを申し上げました」

「いや、お前の言うとおりだ。私は獣人ということばかりに気を取られて、息子を信じることを忘れてしまっていたようだ。そうだな、あのルーディーがアズールを傷つけるようなことをするはずがないな。この一週間という期間もアズールに合わせてゆっくりと優しく過ごしていたからかもしれん。そうだな、そうに決まっている」

陛下は自分に言い聞かせるとように何度も何度もそう言い続けていらっしゃった。

「それで、ルーディーとアズールはいつからここで生活を始めるのだ?」

「それが……今夜にはこちらにアズールさまをお連れするそうでございます」

「なんだと? 今夜? それはまた……。ヴォルフ公爵がよく許したものだな」

「それが、アズールさまのたってのご希望だそうです。きっとルー――」
「そうか! アズールは早く私に会いたくてそう言ってくれたのだな!!! ああ、アズールとようやく一緒に暮らせるのだ。あの可愛らしいアズールを膝に乗せられる日が来るかもしれないな」

ルーディーさまのお部屋で一緒に過ごされたいのだと言おうとしたのだが、陛下の耳には入っていないご様子。
しかも叶わぬ夢などを妄想していらっしゃるが、アズールさまを膝に乗せる?
そんなこと、ルーディーさまがお許しになるわけがない。
アズールさまがもしそう望まれても、身体をお繋げになる前ならともかく、初夜を無事にお済ませになられたルーディーさまならお許しにはならないだろう。

しかし、ここで私がどれだけご忠告したとしても陛下のお耳には届きそうもない。
ここはルーディーさまからおっしゃっていただいた方が良さそうだ。

「とにかく、今夜はご夕食を公爵家でお済ませになってからこちらにお越しになるようでございますので、お二人がお越しになりましたら、陛下のお部屋にご案内してもよろしゅうございますか?」

「ああ、そうだな。私の部屋でいい。頼むぞ、フィデリオ」

「はい。承知しました」

私は頭をさげ、陛下のお部屋から出るとすぐに今夜からルーディーさまとアズールさまがお過ごしになる部屋の最終確認に向かった。

お二人がお過ごしになるお部屋は次期国王と王妃のお部屋があるのだが、おそらくアズールさまはそこをお好みにはならないだろう。

きっと以前お泊まりになったルーディーさまのお部屋を希望なさるに違いない。

次期国王と王妃のお部屋は結婚式をお迎えになってからお過ごしになるお部屋ということにしておこう。
それまでにアズールさまが気に入るお部屋に整えておこう。

今夜からルーディーさまのお部屋にアズールさまがお住まいになる。
ようやくルーディーさまの願いが叶う日が来たというわけか。

これからしばらくはシーツの交換が多くなりそうだ。
予備はまだまだたっぷりと準備しているが、もう少し集めておいた方がいいかもしれないな。
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