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第三章
私の悩み
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<sideルーディー>
「ルーディー、アズールに初めての発情期が来たらアズールの誕生日を待たずして、お前と初夜を迎えさせることが正式に決まった」
父上から直々にそう告げられたとき、この17年我慢し続けてきた思いがようやく身を結んだ気がしたと同時に複雑な感情が込み上げた。
日に日にアズールの匂いが強くなっていくのを感じていたから近いのではないかと思っていたが、ヴォルフ公爵の様子からするとアズールが成人するまでは許可されることはないと半ば諦めていたのだ。
だから、この決定は私の心を大きく乱した。
嬉しいのはもちろんだ。
だが、これまでの我慢の毎日を考えれば、アズールとそういうことになった時に、暴発してしまうのではないかという不安も込み上げる。
なんせ、この17年、想像するだけだったアズールとの初夜を迎えるのだ。
アズールに挿入するよりも前に、いや、そこまで持つかどうか。
もしかしたらアズールの裸を見ただけで暴発してしまうのではないか。
そんな考えが頭をよぎったとき、私の脳裏にアズールと初めて出会った日のことが甦る。
まだ制御できない子どもだったとはいえ、まだ赤子だったアズールに興奮し、それを抑えることもできず、大量の蜜を漏らしてしまうという失態を犯してしまったあの日の出来事を忘れた日など一日たりとてない。
あの時のことをアズールはさすがに知らないが、今回もし、アズールの前でそんな失態を犯してしまったら?
そんな不安に駆られてしまう。
いや、仮に万が一、そんな失態を犯したとしても心優しいアズールが私を嘲笑ったりなどするはずがないのはわかっている。
だが、私には獣人としてのプライドがあるのだ。
アズールに決して痛みを与えず、最初から快感のみを与えてやりたい。
私の望みはそれだけだ。
今日も訓練を終えてから公爵家に向かう。
「アズールはどこだ?」
「ただいまアズールさまは厨房におられます」
「ヴェルナーも一緒だろうな?」
「はい。もちろんでございます」
マクシミリアンが予定よりも随分と早く訓練を切り上げたせいで、アズールからの出迎えがなかったな。
まぁ、いい。
たまには私からアズールを迎えに行ってやろう。
私の足音にすぐに気づくアズールだが、料理に夢中になっているのなら驚かすこともできるかもしれない。
アズールが驚きながらも、私に飛びついてくるのを見られるな。
そんな想像をしながら、そっと厨房へ向かうと、アズールの声が聞こえてくる。
「ねぇ、フランツ。このソースのレシピも僕が結婚するまでには教えてね」
ああ、あのソースは確かに美味しいな。
あれを私のために覚えてくれるというのか。
まぁ、アズールが作ったものならば、なんの味付けもない、ただ肉を焼いただけのものだったとしても極上の味に感じられる私だが、アズールが私のために作ってくれるということに意義がある。
ああ、私はアズールに愛されているな。
幸せを感じながらアズールの元に向かうと、
「わぁ、嬉しい! 約束だよ!」
とアズールの浮かれたことが聞こえる。
約束?
約束とはもしや……
嫌な予感を感じて厨房に足を踏み入れた瞬間、アズールがフランツに小指を差し出そうとしているのが見える。
それをさせてはならない!!
さっとアズールを後ろから抱きしめると、アズールは驚きの声を上げながらもすぐに私だと気づいた。
アズールは私がなぜ焦っていたのか気づいていないようだったが、話をすると以前アズールに話して聞かせたのを思い出してくれたようだ。
蒼央のいた世界では約束をするときにお互いに小指を絡める動作をするらしい。
――ゆびきりげーんまん……
こうやって約束するんだよ。僕、一度でいいからこんなふうに約束してみたかったんだ。
ルーと初めての約束できて嬉しい。
そう言って嬉しそうに笑ってくれたのを昨日のことのように覚えている。
だが、我が国ではそれは売女や男娼が客に誘いをかけるときの合図なのだ。
まさか、それをアズールに全てを説明するわけにもいかず、ただこの国ではやってはいけない仕草なのだというと納得してくれた。
私と二人っきりでいる時だけならという約束で許しているが、アズールは嬉しさのあまりそれを忘れてしまったのだろう。
耳を折り曲げ心から反省の意を示しているアズールをこれ以上叱ったりはしないが、もう一度しっかりと伝えておかねばな。
アズールを抱きしめていると、ふわりとアズールの匂いに包まれる。
やはり今日は昨日よりもさらに強くなっている。
発情期が少しずつ近づいてきているのを感じる。
ああ、本当に甘くていい匂いだ。
食事よりもアズールを食べたくて仕方がなくなる。
だが、発情期を迎えたアズールが私を誘うまでは手を出してはいけないと公爵からもキツく言われているのだからまだもう少しの辛抱だ。
最近ではアズールに会う時には拘束具をつけている。
そうでもしないと、会うだけでズボンの昂りが抑えきれなくなるのだ。
くっ!
もうすでに限界を迎えそうなくらいに昂っている。
これ以上昂れば、尻尾も激しく動いてしまいそうだ。
尻尾の動きを見せてしまえば、さすがにアズールを誤魔化すのも難しい。
アズールに己の欲望を気づかれぬように必死に理性で抑え付けながら、私はアズールを連れてダイニングルームに向かった。
「ルーディー、アズールに初めての発情期が来たらアズールの誕生日を待たずして、お前と初夜を迎えさせることが正式に決まった」
父上から直々にそう告げられたとき、この17年我慢し続けてきた思いがようやく身を結んだ気がしたと同時に複雑な感情が込み上げた。
日に日にアズールの匂いが強くなっていくのを感じていたから近いのではないかと思っていたが、ヴォルフ公爵の様子からするとアズールが成人するまでは許可されることはないと半ば諦めていたのだ。
だから、この決定は私の心を大きく乱した。
嬉しいのはもちろんだ。
だが、これまでの我慢の毎日を考えれば、アズールとそういうことになった時に、暴発してしまうのではないかという不安も込み上げる。
なんせ、この17年、想像するだけだったアズールとの初夜を迎えるのだ。
アズールに挿入するよりも前に、いや、そこまで持つかどうか。
もしかしたらアズールの裸を見ただけで暴発してしまうのではないか。
そんな考えが頭をよぎったとき、私の脳裏にアズールと初めて出会った日のことが甦る。
まだ制御できない子どもだったとはいえ、まだ赤子だったアズールに興奮し、それを抑えることもできず、大量の蜜を漏らしてしまうという失態を犯してしまったあの日の出来事を忘れた日など一日たりとてない。
あの時のことをアズールはさすがに知らないが、今回もし、アズールの前でそんな失態を犯してしまったら?
そんな不安に駆られてしまう。
いや、仮に万が一、そんな失態を犯したとしても心優しいアズールが私を嘲笑ったりなどするはずがないのはわかっている。
だが、私には獣人としてのプライドがあるのだ。
アズールに決して痛みを与えず、最初から快感のみを与えてやりたい。
私の望みはそれだけだ。
今日も訓練を終えてから公爵家に向かう。
「アズールはどこだ?」
「ただいまアズールさまは厨房におられます」
「ヴェルナーも一緒だろうな?」
「はい。もちろんでございます」
マクシミリアンが予定よりも随分と早く訓練を切り上げたせいで、アズールからの出迎えがなかったな。
まぁ、いい。
たまには私からアズールを迎えに行ってやろう。
私の足音にすぐに気づくアズールだが、料理に夢中になっているのなら驚かすこともできるかもしれない。
アズールが驚きながらも、私に飛びついてくるのを見られるな。
そんな想像をしながら、そっと厨房へ向かうと、アズールの声が聞こえてくる。
「ねぇ、フランツ。このソースのレシピも僕が結婚するまでには教えてね」
ああ、あのソースは確かに美味しいな。
あれを私のために覚えてくれるというのか。
まぁ、アズールが作ったものならば、なんの味付けもない、ただ肉を焼いただけのものだったとしても極上の味に感じられる私だが、アズールが私のために作ってくれるということに意義がある。
ああ、私はアズールに愛されているな。
幸せを感じながらアズールの元に向かうと、
「わぁ、嬉しい! 約束だよ!」
とアズールの浮かれたことが聞こえる。
約束?
約束とはもしや……
嫌な予感を感じて厨房に足を踏み入れた瞬間、アズールがフランツに小指を差し出そうとしているのが見える。
それをさせてはならない!!
さっとアズールを後ろから抱きしめると、アズールは驚きの声を上げながらもすぐに私だと気づいた。
アズールは私がなぜ焦っていたのか気づいていないようだったが、話をすると以前アズールに話して聞かせたのを思い出してくれたようだ。
蒼央のいた世界では約束をするときにお互いに小指を絡める動作をするらしい。
――ゆびきりげーんまん……
こうやって約束するんだよ。僕、一度でいいからこんなふうに約束してみたかったんだ。
ルーと初めての約束できて嬉しい。
そう言って嬉しそうに笑ってくれたのを昨日のことのように覚えている。
だが、我が国ではそれは売女や男娼が客に誘いをかけるときの合図なのだ。
まさか、それをアズールに全てを説明するわけにもいかず、ただこの国ではやってはいけない仕草なのだというと納得してくれた。
私と二人っきりでいる時だけならという約束で許しているが、アズールは嬉しさのあまりそれを忘れてしまったのだろう。
耳を折り曲げ心から反省の意を示しているアズールをこれ以上叱ったりはしないが、もう一度しっかりと伝えておかねばな。
アズールを抱きしめていると、ふわりとアズールの匂いに包まれる。
やはり今日は昨日よりもさらに強くなっている。
発情期が少しずつ近づいてきているのを感じる。
ああ、本当に甘くていい匂いだ。
食事よりもアズールを食べたくて仕方がなくなる。
だが、発情期を迎えたアズールが私を誘うまでは手を出してはいけないと公爵からもキツく言われているのだからまだもう少しの辛抱だ。
最近ではアズールに会う時には拘束具をつけている。
そうでもしないと、会うだけでズボンの昂りが抑えきれなくなるのだ。
くっ!
もうすでに限界を迎えそうなくらいに昂っている。
これ以上昂れば、尻尾も激しく動いてしまいそうだ。
尻尾の動きを見せてしまえば、さすがにアズールを誤魔化すのも難しい。
アズールに己の欲望を気づかれぬように必死に理性で抑え付けながら、私はアズールを連れてダイニングルームに向かった。
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