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第二章
辛く悲しい言葉
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<sideヴェルナー>
ウサギ族の思わぬ生態を知り、驚きが隠せない。
けれど、考えてみれば男でも子を孕むとなれば、神もそのように身体を作り替えているのだろう。
なんせ『神の御意志』の運命の番として生まれるウサギ族なのだ。
それくらい神秘的なことがあってもなんの不思議もない。
私の蜜とは性質は異なるが、出ることについては同じことなのだからアズールさまが納得できるように話を進めていければいい。
全ての性教育を担うことになるよりはずっとやりやすいな。
「あの……ところで、アリーシャさま。そのウサギ族の生態というか、性教育についてはアリーシャさまがお話をなさるのですか?」
「そのことについてなのだけど、書物を読む限りは今までのウサギ族の子たちはみんな番である王子に教えられているようなの。だから、アズールも王子にお任せした方が良いのではないかしら? あなた、どうかしら?」
確かに子を孕むことはお二人の共同作業となるわけだから、まずは王子にもウサギ族の生態についてご報告する必要があるだろう。
「そうだな。まずは王子にアズールの身体の変化について、話をしておく必要があるな。王子が話を聞いた上で王子自身がアズールに教えるか、私たちに任せてもらうかを決めていただこう。今日すぐにでも……いや、だめだな。明日にでもアズールのところにお越しいただいた時にでも少しお話をしてみよう。アリーシャとヴェルナーも同席するか?」
「いいえ、それはあなたと王子だけでお話しした方がよろしいかと。ねぇ、ヴェルナー」
「はい。私もそう考えます」
アリーシャさまの言葉に思いっきり賛同すると、ヴォルフ公爵は一瞬何かを言いかけたような気がしたが、
「わかった、そうしよう」
とそれ以上は何もおっしゃらなかった。
私はその言葉にホッと胸を撫で下ろした。
いや、だって流石にその場に同席するのは厳しい。
なんせアズールさまと王子の閨に関することなのだから。
私は聞かない方がいいのだ。
「それではそろそろアズールさまがお目覚めになるころですので、私は失礼致します」
「ああ、ヴェルナー。アズールのこと、よろしく頼むぞ」
「はい。お任せください」
そう言って私は応接室を出た。
お任せくださいなんてあんな大見得を切ったが、今のところ大した自信はない。
けれど、あのアズールさまに性教育を教えるという無理難題から逃れることができた喜びを考えれば、精通を説明するくらい大した話ではない。
そうだ。
精通なんてものは世の中の男が全て経験する、生理現象なのだ。
それを話すくらいどうってことない!!
よし!
ささっと話をしてみよう!!
これでも私は歴史あるヴンダーシューン王国で騎士団副団長を務めた男だ!
わからないことを導くことなどできないはずがない!
私は自分に気合を入れてアズールさまのお部屋に向かった。
扉を何度か叩いたが気配がない。
まだ眠っているのかもしれない。
もう少し経ってからにしようか。
部屋の前に立つ警備兵に中で動きがあれば報告するようにと声をかけ、部屋から離れようとしたその時、部屋の中で物音を感じた。
お目覚めになったかと思い、部屋の中のアズールさまに向かって声をかけようとするとガチャリと扉が開いた。
「アズールさま、お目覚め――」
「ふぇぇーーっん、ゔぇ、るぅーー」
小さな扉の隙間から、大粒の涙を次々に流しながら私の名を呼ぶアズールさまの姿に驚いた。
それでもこのお姿を他の者に見せてはいけないと頭で理解する前に身体が動いた。
角度的に警備兵からアズールさまのこの小さなお姿は見えていない。
それでも私の身体で隠すようにアズールさまを抱きかかえ部屋の中に素早く入った。
アズールさまは私の腕の中でその小さな身体をさらに小さく縮めて身体を震わせていた。
一体何が起こったのだろう?
アズールさまを狙う不届ものが侵入したとは考えられないがとりあえず室内を見回るが、やはり怪しげな気配はどこにも感じられない。
ならば、寝ている間に怖い夢でもみてしまったのだろうか。
その可能性はある。
だが、王子のブランケットを抱きしめて寝ている時には悪い夢を見ることは今までに一度もなかった。
だからこそ、あのブランケットにアズールさまを任せて一人で寝かせることができたのだ。
もし、悪い夢でもみたのなら何か対策を考えなければいけないだろう。
私なりにいろいろと考えてはみたが、どれもアズールさまがこんなにも身体を震わせて泣いている理由が見当たらない。
一体どうしたというのだろう。
腕の中で少し震えがおさまったような気がして、
「アズールさま。もう怖くないですよ。大丈夫です」
と声をかけると、アズールさまはゆっくりと顔を上げた。
と言っても、まだ目しか見えていないが、アズールさまのほんのり赤かったはずの瞳が涙を流しすぎて真っ赤になってしまっている。
「ゔぇ、るぅーー」
「アズールさま。怖い夢でもみたのですか?」
怯えさせないようにできるだけ優しい声をかけると、アズールさまは小さく顔を横に振り、
「ちがうの……」
という。
怖い夢ではないとしたら、一体なんだろう?
無理やり聞き出すのは良くないと思いつつも気になって仕方がない。
「私にお教えいただけますか?」
「んー、でも……こわいの……」
「大丈夫ですよ。私がアズールさまを守りますから。私はアズールさまだけの護衛ですよ」
できるだけ明るく、そして優しく告げると、アズールさまの表情が少し和らいだ気がした。
けれど、その後すぐに
「あのね、ぼく……もうすぐ、しんじゃうの……」
と大粒の涙と一緒に悲しい言葉が聞こえた。
ウサギ族の思わぬ生態を知り、驚きが隠せない。
けれど、考えてみれば男でも子を孕むとなれば、神もそのように身体を作り替えているのだろう。
なんせ『神の御意志』の運命の番として生まれるウサギ族なのだ。
それくらい神秘的なことがあってもなんの不思議もない。
私の蜜とは性質は異なるが、出ることについては同じことなのだからアズールさまが納得できるように話を進めていければいい。
全ての性教育を担うことになるよりはずっとやりやすいな。
「あの……ところで、アリーシャさま。そのウサギ族の生態というか、性教育についてはアリーシャさまがお話をなさるのですか?」
「そのことについてなのだけど、書物を読む限りは今までのウサギ族の子たちはみんな番である王子に教えられているようなの。だから、アズールも王子にお任せした方が良いのではないかしら? あなた、どうかしら?」
確かに子を孕むことはお二人の共同作業となるわけだから、まずは王子にもウサギ族の生態についてご報告する必要があるだろう。
「そうだな。まずは王子にアズールの身体の変化について、話をしておく必要があるな。王子が話を聞いた上で王子自身がアズールに教えるか、私たちに任せてもらうかを決めていただこう。今日すぐにでも……いや、だめだな。明日にでもアズールのところにお越しいただいた時にでも少しお話をしてみよう。アリーシャとヴェルナーも同席するか?」
「いいえ、それはあなたと王子だけでお話しした方がよろしいかと。ねぇ、ヴェルナー」
「はい。私もそう考えます」
アリーシャさまの言葉に思いっきり賛同すると、ヴォルフ公爵は一瞬何かを言いかけたような気がしたが、
「わかった、そうしよう」
とそれ以上は何もおっしゃらなかった。
私はその言葉にホッと胸を撫で下ろした。
いや、だって流石にその場に同席するのは厳しい。
なんせアズールさまと王子の閨に関することなのだから。
私は聞かない方がいいのだ。
「それではそろそろアズールさまがお目覚めになるころですので、私は失礼致します」
「ああ、ヴェルナー。アズールのこと、よろしく頼むぞ」
「はい。お任せください」
そう言って私は応接室を出た。
お任せくださいなんてあんな大見得を切ったが、今のところ大した自信はない。
けれど、あのアズールさまに性教育を教えるという無理難題から逃れることができた喜びを考えれば、精通を説明するくらい大した話ではない。
そうだ。
精通なんてものは世の中の男が全て経験する、生理現象なのだ。
それを話すくらいどうってことない!!
よし!
ささっと話をしてみよう!!
これでも私は歴史あるヴンダーシューン王国で騎士団副団長を務めた男だ!
わからないことを導くことなどできないはずがない!
私は自分に気合を入れてアズールさまのお部屋に向かった。
扉を何度か叩いたが気配がない。
まだ眠っているのかもしれない。
もう少し経ってからにしようか。
部屋の前に立つ警備兵に中で動きがあれば報告するようにと声をかけ、部屋から離れようとしたその時、部屋の中で物音を感じた。
お目覚めになったかと思い、部屋の中のアズールさまに向かって声をかけようとするとガチャリと扉が開いた。
「アズールさま、お目覚め――」
「ふぇぇーーっん、ゔぇ、るぅーー」
小さな扉の隙間から、大粒の涙を次々に流しながら私の名を呼ぶアズールさまの姿に驚いた。
それでもこのお姿を他の者に見せてはいけないと頭で理解する前に身体が動いた。
角度的に警備兵からアズールさまのこの小さなお姿は見えていない。
それでも私の身体で隠すようにアズールさまを抱きかかえ部屋の中に素早く入った。
アズールさまは私の腕の中でその小さな身体をさらに小さく縮めて身体を震わせていた。
一体何が起こったのだろう?
アズールさまを狙う不届ものが侵入したとは考えられないがとりあえず室内を見回るが、やはり怪しげな気配はどこにも感じられない。
ならば、寝ている間に怖い夢でもみてしまったのだろうか。
その可能性はある。
だが、王子のブランケットを抱きしめて寝ている時には悪い夢を見ることは今までに一度もなかった。
だからこそ、あのブランケットにアズールさまを任せて一人で寝かせることができたのだ。
もし、悪い夢でもみたのなら何か対策を考えなければいけないだろう。
私なりにいろいろと考えてはみたが、どれもアズールさまがこんなにも身体を震わせて泣いている理由が見当たらない。
一体どうしたというのだろう。
腕の中で少し震えがおさまったような気がして、
「アズールさま。もう怖くないですよ。大丈夫です」
と声をかけると、アズールさまはゆっくりと顔を上げた。
と言っても、まだ目しか見えていないが、アズールさまのほんのり赤かったはずの瞳が涙を流しすぎて真っ赤になってしまっている。
「ゔぇ、るぅーー」
「アズールさま。怖い夢でもみたのですか?」
怯えさせないようにできるだけ優しい声をかけると、アズールさまは小さく顔を横に振り、
「ちがうの……」
という。
怖い夢ではないとしたら、一体なんだろう?
無理やり聞き出すのは良くないと思いつつも気になって仕方がない。
「私にお教えいただけますか?」
「んー、でも……こわいの……」
「大丈夫ですよ。私がアズールさまを守りますから。私はアズールさまだけの護衛ですよ」
できるだけ明るく、そして優しく告げると、アズールさまの表情が少し和らいだ気がした。
けれど、その後すぐに
「あのね、ぼく……もうすぐ、しんじゃうの……」
と大粒の涙と一緒に悲しい言葉が聞こえた。
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