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第二章
ウサギ族の思わぬ生態
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<sideヴォルフ公爵>
「あなた……そもそも、精通って何かご存知?」
「はっ? アリーシャ、いきなり何を言い出すのだ? もちろん知らないわけがないだろう。体内で子種が作られて放出される、いわば身体が大人になったという証だな」
「ええ。その通りですわね。でもそれをそのままアズールに話をしたらどうなるかしら?」
「これをそのまま?」
アリーシャの発言の意図がわからずに困惑してしまう。
ヴェルナーもアリーシャの言葉の真意をまだ掴めていないようだ。
「私もアズールが生まれて、ウサギ族について勉強したのです。そうしたら、ウサギ族の男の子の場合精通こそあるものの、その蜜の中には子種が存在しないということがわかりましたの」
「な――っ、それはまことか?」
「ええ。でも、考えてみればそうですわよね。そもそも獣人としてお生まれになった王子の番として生まれてくるのだから、ウサギ族に子種は必要ないでしょう?」
「確かに……そう言われればそうだな。ならば、その蜜には何が入っているのだ?」
「実はその中に子どもを孕むことができる種が入っているそうです」
「んっ? 子種は入っていないのではなかったか?」
「子種ではないのです。子を孕むことができる種ですわ」
アリーシャの言っている意味が私にはまだ理解ができずにいる。
子を孕むことができる、種……一体どういうことだ?
「アリーシャ、悪いがもう少しわかりやすく教えてはくれないだろうか」
「ウサギ族は男女どちらでも子を孕むことができる。それはお分かりですわね? ウサギ族の女性は私たちと同じく子宮を持ち、初潮を迎え、大人の身体になって子を孕むのです。ですが、我が国で生まれたウサギ族の子の8割以上がアズールと同じく男の子なのです。アズールに男性のものがついているということは体内に子宮が存在しないのですよ」
「あっ、そうか……」
「男のままの身体ではどうしたって子を孕むことはできないでしょう? そのためにアズールたち、ウサギ族の男性から出てくる蜜はアズールたちの身体を女性のように変化させる種が入っているのです」
「なら、自分の身体からでた蜜を自分で飲むということか?」
自分自身に置き換えて考えてみると、それはかなり辛いものがある。
流石にアズールも自分の身体から出たものを飲みたいと思わないのではないか?
「いいえ。それを運命の番である王子に飲んでいただくのです。すると、体内で王子の蜜と交わり王子の中に特別な子種ができるのですよ。その特別な子種がアズールの身体に入ることで、アズールの身体が妊娠できるように変化するのです。完全に孕むことができる身体になるにはしばらくの期間、その特別な蜜を注ぎ続ける必要があるようですが、その点は問題ないでしょう。ウサギ族は獣人の性欲についていけるとされているそうですから……」
「そのような身体の変化があるとは……知らなかったな。おそらく王子もご存知ないのではないか?」
「ええ。多分ご存知ないと思いますわ。私が知ることができたのは、ウサギ族の子を産んだ母だけが読むことを許されているという書物を読んだからですもの」
「ということは、性教育は元々アリーシャさまがなさることになっていたということでしょうか?」
確かに母親だけが知らされているのなら、そういうことになるが。
まぁ、母親であるアリーシャがアズールに話をするのならアズールも理解しやすいのかもしれない。
「そもそも、性教育はアズールにとって悪いことなのかしら?」
「アリーシャ、何を今更……」
「あなたはどう思われるの?」
「それは…悪いことではないが、説明の仕方によるだろう」
「そうですわね。もし、アズールがなんの教育もないままに精通を迎えてしまったら、きっと自分を病気だと思って落ち込んでしまうかもしれないわ。あの子は優しい子だから、病気だと言って私たちに心配をかけたくないとそのことを伝えようともしないはず。自分が病気だと悩んでいたら、食事も喉を通らなくなって終いには本当に病気になってしまうかもしれないわ」
アリーシャのいう通りだ。
アズールは決して私たちに心配させるようなことを言わない。
いつも笑顔で大丈夫だと答えるような子なのだ。
いつだったか、熱を出しても自分からは言わなかった。
大人しく寝ていれば大丈夫だと思ったと、心配かけたくなかったのだと確かにそう言っていた。
あの時、なんでも気になることは話してくれと言ったけれど、きっと今でも私たちに心配をかけたくないと思っているのだろうな。
「狼族と違って、身体も小さなウサギ族は繊細なのですよ。アズールに不安を与えないようにすることが私たちにとって何よりも大切なことだわ。まずは性教育と精通を切り離して考えることが必要なのではないかしら?」
「性教育と精通を切り離して……でも、どうすれば良いのだ?」
「今はまだ子種やいつか子どもを妊娠するというところまでは話す必要はないでしょうけど、精通はアズールにとって近しい未来なのでしょう? それだけは説明をしてあげていた方がいいのではないかしら?」
「そうだな」
「あの、それでしたら精通については私にお任せくださいませんか? 私自身の言葉でなんとかアズールさまが病気だと心配なさることがないようにお話ししたいと思います」
「おお、ヴェルナー! やってくれるか?」
「はい。性教育は流石に私には荷が勝ちすぎておりましたが、蜜が出るということに関してだけなら同じ男として話ができるかもしれません。きっとアズールさまのお大事なところが反応なさるのも、蜜を出されるのも王子に関する時だけだと思われますので、そのようにお話を進めていきたいと思いますがいかがでしょうか?」
「なるほど。それなら、良さそうだ」
私の言葉にヴェルナーはようやく心から安堵の表情を浮かべたように見えた。
「あなた……そもそも、精通って何かご存知?」
「はっ? アリーシャ、いきなり何を言い出すのだ? もちろん知らないわけがないだろう。体内で子種が作られて放出される、いわば身体が大人になったという証だな」
「ええ。その通りですわね。でもそれをそのままアズールに話をしたらどうなるかしら?」
「これをそのまま?」
アリーシャの発言の意図がわからずに困惑してしまう。
ヴェルナーもアリーシャの言葉の真意をまだ掴めていないようだ。
「私もアズールが生まれて、ウサギ族について勉強したのです。そうしたら、ウサギ族の男の子の場合精通こそあるものの、その蜜の中には子種が存在しないということがわかりましたの」
「な――っ、それはまことか?」
「ええ。でも、考えてみればそうですわよね。そもそも獣人としてお生まれになった王子の番として生まれてくるのだから、ウサギ族に子種は必要ないでしょう?」
「確かに……そう言われればそうだな。ならば、その蜜には何が入っているのだ?」
「実はその中に子どもを孕むことができる種が入っているそうです」
「んっ? 子種は入っていないのではなかったか?」
「子種ではないのです。子を孕むことができる種ですわ」
アリーシャの言っている意味が私にはまだ理解ができずにいる。
子を孕むことができる、種……一体どういうことだ?
「アリーシャ、悪いがもう少しわかりやすく教えてはくれないだろうか」
「ウサギ族は男女どちらでも子を孕むことができる。それはお分かりですわね? ウサギ族の女性は私たちと同じく子宮を持ち、初潮を迎え、大人の身体になって子を孕むのです。ですが、我が国で生まれたウサギ族の子の8割以上がアズールと同じく男の子なのです。アズールに男性のものがついているということは体内に子宮が存在しないのですよ」
「あっ、そうか……」
「男のままの身体ではどうしたって子を孕むことはできないでしょう? そのためにアズールたち、ウサギ族の男性から出てくる蜜はアズールたちの身体を女性のように変化させる種が入っているのです」
「なら、自分の身体からでた蜜を自分で飲むということか?」
自分自身に置き換えて考えてみると、それはかなり辛いものがある。
流石にアズールも自分の身体から出たものを飲みたいと思わないのではないか?
「いいえ。それを運命の番である王子に飲んでいただくのです。すると、体内で王子の蜜と交わり王子の中に特別な子種ができるのですよ。その特別な子種がアズールの身体に入ることで、アズールの身体が妊娠できるように変化するのです。完全に孕むことができる身体になるにはしばらくの期間、その特別な蜜を注ぎ続ける必要があるようですが、その点は問題ないでしょう。ウサギ族は獣人の性欲についていけるとされているそうですから……」
「そのような身体の変化があるとは……知らなかったな。おそらく王子もご存知ないのではないか?」
「ええ。多分ご存知ないと思いますわ。私が知ることができたのは、ウサギ族の子を産んだ母だけが読むことを許されているという書物を読んだからですもの」
「ということは、性教育は元々アリーシャさまがなさることになっていたということでしょうか?」
確かに母親だけが知らされているのなら、そういうことになるが。
まぁ、母親であるアリーシャがアズールに話をするのならアズールも理解しやすいのかもしれない。
「そもそも、性教育はアズールにとって悪いことなのかしら?」
「アリーシャ、何を今更……」
「あなたはどう思われるの?」
「それは…悪いことではないが、説明の仕方によるだろう」
「そうですわね。もし、アズールがなんの教育もないままに精通を迎えてしまったら、きっと自分を病気だと思って落ち込んでしまうかもしれないわ。あの子は優しい子だから、病気だと言って私たちに心配をかけたくないとそのことを伝えようともしないはず。自分が病気だと悩んでいたら、食事も喉を通らなくなって終いには本当に病気になってしまうかもしれないわ」
アリーシャのいう通りだ。
アズールは決して私たちに心配させるようなことを言わない。
いつも笑顔で大丈夫だと答えるような子なのだ。
いつだったか、熱を出しても自分からは言わなかった。
大人しく寝ていれば大丈夫だと思ったと、心配かけたくなかったのだと確かにそう言っていた。
あの時、なんでも気になることは話してくれと言ったけれど、きっと今でも私たちに心配をかけたくないと思っているのだろうな。
「狼族と違って、身体も小さなウサギ族は繊細なのですよ。アズールに不安を与えないようにすることが私たちにとって何よりも大切なことだわ。まずは性教育と精通を切り離して考えることが必要なのではないかしら?」
「性教育と精通を切り離して……でも、どうすれば良いのだ?」
「今はまだ子種やいつか子どもを妊娠するというところまでは話す必要はないでしょうけど、精通はアズールにとって近しい未来なのでしょう? それだけは説明をしてあげていた方がいいのではないかしら?」
「そうだな」
「あの、それでしたら精通については私にお任せくださいませんか? 私自身の言葉でなんとかアズールさまが病気だと心配なさることがないようにお話ししたいと思います」
「おお、ヴェルナー! やってくれるか?」
「はい。性教育は流石に私には荷が勝ちすぎておりましたが、蜜が出るということに関してだけなら同じ男として話ができるかもしれません。きっとアズールさまのお大事なところが反応なさるのも、蜜を出されるのも王子に関する時だけだと思われますので、そのようにお話を進めていきたいと思いますがいかがでしょうか?」
「なるほど。それなら、良さそうだ」
私の言葉にヴェルナーはようやく心から安堵の表情を浮かべたように見えた。
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