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第一章
心の疲れと優しい人たち
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<sideヴェルナー>
「ヴェルナー」
無事にご帰還くださいと祈りを捧げていた私の耳に、突然ルーディー王子の声が飛び込んできた。
「――っ、えっ? お、王子っ!?」
「どうした? 何をそんなに驚いているんだ?」
私の反応に何が何だかわからないとでもいうような表情をしているが、それはこちらの方だ。
「お、驚きもしますよ。たった今、神殿に向かわれたところなのですよ。どうかなさったのですか?」
「たった今? 本当か?」
「は、はい。こちらをご覧ください」
そう言って時計を見せると、ルーディー王子は目を丸くして神殿を振り返った。
「何か問題でもございましたか?」
「いや、違うんだ。なるほど。実に不思議な場所なのだな。神殿は」
そう小さく呟くと、今度はにこやかな笑顔を浮かべながら私をみた。
「儀式はもう無事に済ませた」
「えっ? もう? まことでございますか?」
「ああ。神殿長に次期国王として正式に認められた。これでアズールの元に帰ることができるぞ!」
嬉しそうに笑顔を見せるルーディー王子には確かに自信が漲っているように見えた。
何が起こったのかは尋ねてもお話になることはならないだろう。
神殿での儀式は神殿長と次期国王と認められたお方だけが知ることができることなのだから。
私はただ、儀式を無事に終えられたことを喜ぶだけだ。
「アズールさまもきっとお喜びになりますよ。それではすぐに参りましょう」
「ああ、そうだな。アズールも、そしてマクシミリアンも喜ぶだろうな」
「王子っ、お揶揄いにならないでくださいませ」
「ははっ」
こんなにも嬉しそうな王子のお顔を拝見できるのはいつぶりだろう。
でも本当によかった。
アズールさまのために、そして、愛しいマクシミリアンの元に少しでも早く帰り着くために、私たちは急いで帰途に就いた。
<sideアズール>
「はぁーっ」
「アズールさま。しっかりお食事を摂らなければ体調を崩してしまいますよ」
「あずーる、ルーに、あいたいの」
「アズールさまのお気持ちは存じ上げておりますが、もうしばらくの辛抱でございますよ」
「まっくす、そればっかり……」
「申し訳ございません。ですが、今頃ルーディー王子もアズールさまとお会いできるように頑張っていらっしゃると思いますよ」
「うん……そうだね。ごめんね、まっくす」
ルーに会えないのがこんなにも辛いなんて思わなかった。
病室でひとりぼっちでずっとずっと待つのには慣れていたから、一週間くらい頑張れるって思ってた。
だって、あの時と違ってお父さまもお母さまもマックスも爺も、他にもたくさんの人がそばで一緒にいてくれるから。
ルーがいない寂しさだって我慢できるって思ってた。
それなのに、ルーと会えないだけで心にポッカリと穴が空いたみたいですごく寂しいんだ。
ルーだって、頑張ってくれているのに。
僕はわがままばっかり。
いつだってルーがそばにいてくれたから、あんなに待つのに慣れていたはずの僕がたった数日も我慢できなくなってるんだ。
だから、優しいマックスに八つ当たりなんかしちゃって……悪い子だな。僕は。
「まっくす、ごめんね。あずーる、いやなこだった」
「いいえ、滅相もございません。私もヴェルナーに会えなくてわがまま言いたくなっているのです。同じでございますよ」
「まっくす……」
「さぁ、今日は最後の飾り付けをなさるのでしょう? その前に少しでもお召し上がりください」
優しいマックスは怒ったりしない。
マックスも同じように寂しいのに。
僕も頑張らないとな。
一生懸命大好きなニンジンを一つ食べたけれど、ルーに食べさせてもらった時のような美味しい味はしなかった。
ルーに食べさせてもらいたいな。
「もう、はいらない……」
「それではもうしばらく経ってからにいたしましょう」
「ありがとう、まっくす」
僕はいつものように椅子からぴょんと飛び降りようとして立ち上がると、ふらっと目の前が暗くなるのを感じた。
「アズールさまっ!!」
今まで聞いたこともないようなマックスの大きな声を聞きながら、僕は意識を失ってしまった。
「ん……っ」
「アズール? 目が覚めた?」
「お、かぁさま……ぼく……」
「少し無理をしちゃったのね。昨日はよく眠れなかった?」
「ううん、ルーのくれたやわらかいのに、まきついて、ちゃんとねたよ」
「そう。でもきっと心が眠れていなかったのかもしれないわ」
「こころ?」
僕が自分の心臓に手を置くと、お母さまはにっこりと笑った。
「アズールは今、誰のことが頭に浮かんだ?」
「んーっと、ルー」
「そうね。アズールはルーディー王子が大好きだのもね。いつでもアズールの心にルーディー王子がいるから、寝ていてもきっと探しているのよ。隣にいなくて探し続けて心が少し疲れてしまったの。だから、少しお休みしましょう」
「でも……」
「んっ? 何が気になるの?」
「ルーはがんばっているのに、ぼくだけやすむなんて……」
「アズール……大丈夫、休んでいいの。ルーディー王子もそう仰るわ」
お母さまがぎゅっと抱きしめてくれる。
ルーとは匂いも温もりも違うけれど、でもすごく安心する。
そうだ。
蒼央だった時、ずっと欲しかった温もりだ。
「おかあ、さま……だいすき……」
「ええ。アズール。お母さまもアズールが大好きよ」
優しく背中を撫でられながら、僕は落ち着いた気持ちで眠りについた。
ぐっすりと眠る僕の部屋の外で、ルーからの明日到着の知らせを持ったマックスがどうしようと悩んでいたことには僕は知る由もなかった。
「ヴェルナー」
無事にご帰還くださいと祈りを捧げていた私の耳に、突然ルーディー王子の声が飛び込んできた。
「――っ、えっ? お、王子っ!?」
「どうした? 何をそんなに驚いているんだ?」
私の反応に何が何だかわからないとでもいうような表情をしているが、それはこちらの方だ。
「お、驚きもしますよ。たった今、神殿に向かわれたところなのですよ。どうかなさったのですか?」
「たった今? 本当か?」
「は、はい。こちらをご覧ください」
そう言って時計を見せると、ルーディー王子は目を丸くして神殿を振り返った。
「何か問題でもございましたか?」
「いや、違うんだ。なるほど。実に不思議な場所なのだな。神殿は」
そう小さく呟くと、今度はにこやかな笑顔を浮かべながら私をみた。
「儀式はもう無事に済ませた」
「えっ? もう? まことでございますか?」
「ああ。神殿長に次期国王として正式に認められた。これでアズールの元に帰ることができるぞ!」
嬉しそうに笑顔を見せるルーディー王子には確かに自信が漲っているように見えた。
何が起こったのかは尋ねてもお話になることはならないだろう。
神殿での儀式は神殿長と次期国王と認められたお方だけが知ることができることなのだから。
私はただ、儀式を無事に終えられたことを喜ぶだけだ。
「アズールさまもきっとお喜びになりますよ。それではすぐに参りましょう」
「ああ、そうだな。アズールも、そしてマクシミリアンも喜ぶだろうな」
「王子っ、お揶揄いにならないでくださいませ」
「ははっ」
こんなにも嬉しそうな王子のお顔を拝見できるのはいつぶりだろう。
でも本当によかった。
アズールさまのために、そして、愛しいマクシミリアンの元に少しでも早く帰り着くために、私たちは急いで帰途に就いた。
<sideアズール>
「はぁーっ」
「アズールさま。しっかりお食事を摂らなければ体調を崩してしまいますよ」
「あずーる、ルーに、あいたいの」
「アズールさまのお気持ちは存じ上げておりますが、もうしばらくの辛抱でございますよ」
「まっくす、そればっかり……」
「申し訳ございません。ですが、今頃ルーディー王子もアズールさまとお会いできるように頑張っていらっしゃると思いますよ」
「うん……そうだね。ごめんね、まっくす」
ルーに会えないのがこんなにも辛いなんて思わなかった。
病室でひとりぼっちでずっとずっと待つのには慣れていたから、一週間くらい頑張れるって思ってた。
だって、あの時と違ってお父さまもお母さまもマックスも爺も、他にもたくさんの人がそばで一緒にいてくれるから。
ルーがいない寂しさだって我慢できるって思ってた。
それなのに、ルーと会えないだけで心にポッカリと穴が空いたみたいですごく寂しいんだ。
ルーだって、頑張ってくれているのに。
僕はわがままばっかり。
いつだってルーがそばにいてくれたから、あんなに待つのに慣れていたはずの僕がたった数日も我慢できなくなってるんだ。
だから、優しいマックスに八つ当たりなんかしちゃって……悪い子だな。僕は。
「まっくす、ごめんね。あずーる、いやなこだった」
「いいえ、滅相もございません。私もヴェルナーに会えなくてわがまま言いたくなっているのです。同じでございますよ」
「まっくす……」
「さぁ、今日は最後の飾り付けをなさるのでしょう? その前に少しでもお召し上がりください」
優しいマックスは怒ったりしない。
マックスも同じように寂しいのに。
僕も頑張らないとな。
一生懸命大好きなニンジンを一つ食べたけれど、ルーに食べさせてもらった時のような美味しい味はしなかった。
ルーに食べさせてもらいたいな。
「もう、はいらない……」
「それではもうしばらく経ってからにいたしましょう」
「ありがとう、まっくす」
僕はいつものように椅子からぴょんと飛び降りようとして立ち上がると、ふらっと目の前が暗くなるのを感じた。
「アズールさまっ!!」
今まで聞いたこともないようなマックスの大きな声を聞きながら、僕は意識を失ってしまった。
「ん……っ」
「アズール? 目が覚めた?」
「お、かぁさま……ぼく……」
「少し無理をしちゃったのね。昨日はよく眠れなかった?」
「ううん、ルーのくれたやわらかいのに、まきついて、ちゃんとねたよ」
「そう。でもきっと心が眠れていなかったのかもしれないわ」
「こころ?」
僕が自分の心臓に手を置くと、お母さまはにっこりと笑った。
「アズールは今、誰のことが頭に浮かんだ?」
「んーっと、ルー」
「そうね。アズールはルーディー王子が大好きだのもね。いつでもアズールの心にルーディー王子がいるから、寝ていてもきっと探しているのよ。隣にいなくて探し続けて心が少し疲れてしまったの。だから、少しお休みしましょう」
「でも……」
「んっ? 何が気になるの?」
「ルーはがんばっているのに、ぼくだけやすむなんて……」
「アズール……大丈夫、休んでいいの。ルーディー王子もそう仰るわ」
お母さまがぎゅっと抱きしめてくれる。
ルーとは匂いも温もりも違うけれど、でもすごく安心する。
そうだ。
蒼央だった時、ずっと欲しかった温もりだ。
「おかあ、さま……だいすき……」
「ええ。アズール。お母さまもアズールが大好きよ」
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