真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第一章

アズールさまの涙

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<sideマクシミリアン>

重い口を一生懸命開けながら、必死に食事を終わらせたアズールさまが突然倒れられ慌ててその小さな身体を受け止めた。

想像していたよりもずっと小さくて軽いその身体に驚きながら、急いでお祖父さまを呼ぶともうすでにアズールさまの異変に気づいていたのか、医師に連絡をとってくれていた。

小さな身体がこの数日でさらに痩せてしまったように見える。
私がついていながら、どうしてもっと早くお声がけしなかったのだろうと己を責めるが、そうしたところでアズールさまが目を覚ますわけではない。

後でお詫びするとして、今はただやるべきことをするだけだ。

心身ともにストレスがかかっている状態で、その上、運命の番と長時間離れたことがアズールさまの心に大きな痛みを与えているということで、一応栄養薬は処方されたものの、効果はそれほど期待できないと医師は話していた。

なんと言っても、何よりの薬はルーディー王子がそばにいることなのだから。

「マクシミリアン、アズールは私に任せて。あなたはアズールが一生懸命やっていたことを引き継いであげてちょうだい。ルーディー王子が帰って来たら、元気になったアズールとすぐにパーティーをして差し上げたいの」

「はい。アズールさまをお願いいたします。念のため、入り口に騎士を配備しておきますので、何かございましたらすぐにお声がけください」

「わかったわ」

専属護衛としてアズールさまのおそばを離れることは職務怠慢だと言われてもおかしくない。
だが、今のアズールさまには優しい温もりが必要なのだ。
それは私には逆立ちをしても与えられない。
ここはアリーシャさまにお任せするしかない。

パーティー会場となる広間に向かうと、すでにお祖父さまが準備を始めていた。

「マクシミリアン、アズールさまのご様子はどうだ?」

「今はまだぐっすりと眠っておいでです。栄養を摂れるようにとお薬をいただきましたが、一番のお薬は王子が帰って来てくださることですから……」

「ああ、そうだな。アズールさまにはアリーシャさまがついてくださっているのか?」

「はい」

「ならば、我々のやるべきことを進めるとしよう」

アズールさまが心配で言葉も発することもなく、作業に没頭していると

「マクシミリアンさまっ! マクシミリアンさまっ!」

と今まで聞いたこともないほど慌てふためいたベンの声が聞こえた。

「どうした? アズールさまに何か?」

「い、いえ。はぁっ、はぁっ」

もどかしく思いながらも息を切らしているベンが落ち着くのを待ち、話を聞いた。

「い、いま、ルーディー王子より早馬が参りました」

「何? 見せてくれっ!」

差し出された手紙を見て、あまりの驚きに私は膝から崩れ落ちた。

「マクシミリアンっ、どうしたんだ?」

「王子が儀式を終えられて帰途に就かれ、明日にはお屋敷に戻られるそうです」

「な――っ、まことか? それは何と素晴らしい連絡だ! 思っていたよりも随分と早いが、きっとアズールさまのために頑張ってくださったのだろうな」

「ええ、おそらくそうでしょう。私はすぐにでもアズールさまにご報告をして参ります」

「ああ。そうするがいい。私はここで、準備を続けておく」

広間の準備をお祖父さまにお任せし、急いでアズールさまのお部屋に向かったはいいが、まだぐっすりとお眠りの最中だろうか。

勝手に寝室に入るのは気が引ける。
だが、1秒でも早く王子のご帰還をお伝えしたい。

「マクシミリアン、どうしたんだ? そんなところでうろちょろとして」

「えっ? あっ、ヴォルフ公爵さま。お見苦しいところをお見せして申し訳ございません」

「それはいいが、どうしたのだ? アズールが心配なら中に入ったらいいだろう?」

「いえ、今はお休みになっておられるのです。アリーシャさまがついていてくださるので安心なのですが……実は、ルーディー王子から早馬が届きまして、アズールさまにそれをお伝えしようと思い、お部屋まで伺ったのですがお休みのところをお起こしするのは忍びなく悩んでいたのでございます」

「そうか。だが、王子からの連絡なら眠っていたとしてもすぐに聞きたいというだろう。気にせず入るがいい」

ヴォルフ公爵に背中を押され、私は中に入った。

寝室の扉を叩き、アリーシャさまがすぐに出てこられた。
アズールさまにお話が……というとすぐに察してくださったようで、

「アズール、アズール」

と声をかけ起こしてくださった。

「んーっ、おかぁ、ちゃま……」

眠そうな目を擦り、こちらに目を向けたアズールさまは、とろんとした可愛らしい目で私を見つめる。

「――っ!!」

初めてみるその可愛らしい目にドキッとしていると、部屋の中の王子の匂いに威嚇されているような気がして背中に恐ろしいものを感じ身体が震える。

ああ、こんなに離れていてもいつでもアズールさまを守っていらっしゃるのだ。

私は決して間違いなど犯したりしない。
ヴェルナー、私にはあなただけです。

「ま、っくちゅ……どう、ちたの?」

寝起きで舌足らずになっているアズールさまに、王子からの手紙が届いたことを伝える。

「儀式を終えられ、もうすでにこちらに向かっていらっしゃいます。明日にはご到着なさいますよ」

「――っ!!! ほんと? ルー、かえってくる? あした、あえる?」

「はい。明日お帰りになりますよ。アズールさま、本当にようございました」

アズールさまの嬉しさが伝わってきて、私も思わず涙が込み上げる。

「ルーに、あえるんだ……」

アズールさまは喜びを噛み締めるように小さく呟きながら、大粒の涙を流した。
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