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第一章
少しでも早く
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<sideルーディー>
「もう帰りたくなっていらっしゃるのではありませんか?」
「当たり前だろう。あんな悲しそうな笑顔で見送られて心が痛い」
「ええ、そうですね。それでもアズールさまは頑張っていらっしゃいましたよ。あのお年で、愛しい人と離れるのがどれだけお辛いか……。わがままを仰ったのもほんのわずかの時間だったのでしょう?」
「ああ。そうだな。爺の提案を聞く前にはもう私を見送ると決めてくれていたようだったからな」
「王子と、そしてこの国の将来のために我慢なさったんですね。本当に愛していらっしゃるのですよ、王子のことを」
ヴェルナーの言葉が心に沁みる。
まだ5歳のアズールには恋だの、愛だのはわからないと思っていた。
ただ生まれた時からずっとそばにいるから慕ってくれているものなのだと思っていたんだ。
だけど、アズールの思いは私への愛が詰まっている。
ああやってわがままを言いながらもすぐに身を引いてくれたのは全て私のため。
それがわかったからこそ、私も行きたくないとは言えなかった。
成人を迎えようかとする私がわがままなど言って、アズールに嫌われたくなかったのだ。
だから私は必死に悲しみを抑えながら、アズールと離れた。
私が離れている間、少しでもアズールを寂しがらせないように、そしてアズールに近寄るものなど現れないように、いつも以上にたっぷりと私の蜜を染み込ませておいたブランケットをアズールに渡してきた。
あの効果が薄れるまでに私はアズールの元に戻るために。
そして、私にはもう一つ間に合わせなければいけないことがある。
すでに唾液の交換を済ませた私たちは、週に一度はお互いに唾液を摂取しなければ体調を崩してしまう。
玄関での別れの前に二人の部屋でキスをして唾液を摂取してきたが、たっぷりと唾液を味わった私と違って、アズールはそんなにたくさんの量を摂取できない。
だから、一週間を待たずして体調を崩してしまう恐れがある。
アズールのために、私は少しでも早くアズールの元に戻らなければいけないのだ。
「ヴェルナー。頑張って私を送り出してくれたアズールのために少しでも早く戻るにはどうしたらいいと思う?」
「儀式にかかる時間は変えようがございません。ということは行き帰りの時間を早めるしか方法はないでしょう」
「ついてきてくれるか?」
「もちろんでございます。私も早くアズールさまのお喜びになる顔が拝見しとうございます」
「少しでも早く着いたら、マクシミリアンとの時間にするが良い」
「――っ!! 王子! お揶揄いにならないでください」
「ははっ。泣く子も黙るヴンダーシューン王国最強の騎士団長も愛しいパートナーの名を聞くと可愛らしくなるのだな」
「王子っ!」
「ははっ。わかった、冗談だよ。では出発しようか」
ヴェルナーがいてくれるおかげで、私もこんなふうに話ができるのだ。
そして、マクシミリアンがついていてくれるから、アズールを残してくることもできた。
仕事とはいえ、二人には感謝してもしきれないな。
予定より数時間も早く最初の宿泊地に到着した。
馬を休ませて、明日も早くに出発できる。
今日の宿泊地は王族専用の離れのある宿。
ここなら私の姿を見て、怯える者を見ることもない。
食事と風呂を済ませたら、さっさと寝て体力を回復させるに限るな。
まだまだ道は長いのだから。
女将の余計な挨拶も全てなくし、さっさと離れに案内させる。
ヴェルナーとその他の騎士たちが交代で扉の外と周辺を警護しているから安心だ。
部屋の中に一人でいるとどうしてもアズールのことを思い出してしまう。
今頃アズールは何をして過ごしているだろう。
マクシミリアンと爺に任せてきたから大丈夫だとは思うが、会えない時間が長くなればなるほど心配になってしまうのは決して二人を信用していないわけではない。
それが運命の番というものなのだろう。
アズール……アズール……。
まだ離れて数時間だというのに、こんなにも恋しいとはな。
アズールも同じように私を恋しがって泣いているのではないか。
寝ている間も先へ進めたらいいのにとすら思ってしまうが、馬が潰れてはどうにもならない。
余計なことを考えずにさっさと食事を済ませよう。
ヴェルナーに声をかけすぐに食事を用意させる。
それをあっという間に平らげた私は、離れの奥にある風呂場に向かった。
脱衣所に入ると薄い着物を身につけた女性が三人、頭を床に擦り付けながら正座で待っていた。
ヴェルナーがさっとその三人を排除させようとしたが、こんな勝手なことをした奴らだ。
話をこの耳でしっかりと聞いておかねばなるまい。
「なんだ、お前たちは!」
「は、はい。王子殿下のご入浴のお世話をさせていただきます」
「入浴の世話だと? 誰がそんなことを頼んだんだ! 私には世話など必要ない!」
「で、ですが……」
「お前たち、私に口答えをするとはそれがどういうことなのかわかっているのだろうな?」
「ひぃーーっ!!」
「さっさと出ていけ! 二度と私の前に現れるな!!」
「も、申し訳ございませんっ!!」
感情のままに吠えてしまい、獣人としての本能がつい出てしまったようだ。
恐怖に慄いた様子で出ていったが、これで終わりだと思うなよ。
「ヴェルナー!」
「はい。すぐに調査いたします」
ヴェルナーは私の言わんとしていることを理解し、頭をさげ風呂場を出ていった。
その間に風呂に入っておくとするか。
さっきの三人が余計なものを仕掛けた様子は……ないな。
一安心して風呂に入る。
それにしてもさっきの三人がきていた薄衣は、濡れると溶けてしまう素材で出来ている衣服だ。
あんなのを着て私の風呂の世話だと?
私が裸に興奮して襲って子でもできればという算段だろうが、愚かな者たちだ。
私にはもうすでにアズールという愛しい相手がいて、それが運命の相手で、しかも唾液の交換まで済ませているのだ。
今更他の者に欲情することがあるわけがない。
獣人は本能に忠実で女を見れば見境なしに襲うというデマが王都以外の地で広まっているらしいと聞いたことがあるが、本当だったようだな。
こんな噂がアズールの耳に入る前にさっさと消し去ってしまうに限る。
これもアズールを守るために私がすべきことだな。
「もう帰りたくなっていらっしゃるのではありませんか?」
「当たり前だろう。あんな悲しそうな笑顔で見送られて心が痛い」
「ええ、そうですね。それでもアズールさまは頑張っていらっしゃいましたよ。あのお年で、愛しい人と離れるのがどれだけお辛いか……。わがままを仰ったのもほんのわずかの時間だったのでしょう?」
「ああ。そうだな。爺の提案を聞く前にはもう私を見送ると決めてくれていたようだったからな」
「王子と、そしてこの国の将来のために我慢なさったんですね。本当に愛していらっしゃるのですよ、王子のことを」
ヴェルナーの言葉が心に沁みる。
まだ5歳のアズールには恋だの、愛だのはわからないと思っていた。
ただ生まれた時からずっとそばにいるから慕ってくれているものなのだと思っていたんだ。
だけど、アズールの思いは私への愛が詰まっている。
ああやってわがままを言いながらもすぐに身を引いてくれたのは全て私のため。
それがわかったからこそ、私も行きたくないとは言えなかった。
成人を迎えようかとする私がわがままなど言って、アズールに嫌われたくなかったのだ。
だから私は必死に悲しみを抑えながら、アズールと離れた。
私が離れている間、少しでもアズールを寂しがらせないように、そしてアズールに近寄るものなど現れないように、いつも以上にたっぷりと私の蜜を染み込ませておいたブランケットをアズールに渡してきた。
あの効果が薄れるまでに私はアズールの元に戻るために。
そして、私にはもう一つ間に合わせなければいけないことがある。
すでに唾液の交換を済ませた私たちは、週に一度はお互いに唾液を摂取しなければ体調を崩してしまう。
玄関での別れの前に二人の部屋でキスをして唾液を摂取してきたが、たっぷりと唾液を味わった私と違って、アズールはそんなにたくさんの量を摂取できない。
だから、一週間を待たずして体調を崩してしまう恐れがある。
アズールのために、私は少しでも早くアズールの元に戻らなければいけないのだ。
「ヴェルナー。頑張って私を送り出してくれたアズールのために少しでも早く戻るにはどうしたらいいと思う?」
「儀式にかかる時間は変えようがございません。ということは行き帰りの時間を早めるしか方法はないでしょう」
「ついてきてくれるか?」
「もちろんでございます。私も早くアズールさまのお喜びになる顔が拝見しとうございます」
「少しでも早く着いたら、マクシミリアンとの時間にするが良い」
「――っ!! 王子! お揶揄いにならないでください」
「ははっ。泣く子も黙るヴンダーシューン王国最強の騎士団長も愛しいパートナーの名を聞くと可愛らしくなるのだな」
「王子っ!」
「ははっ。わかった、冗談だよ。では出発しようか」
ヴェルナーがいてくれるおかげで、私もこんなふうに話ができるのだ。
そして、マクシミリアンがついていてくれるから、アズールを残してくることもできた。
仕事とはいえ、二人には感謝してもしきれないな。
予定より数時間も早く最初の宿泊地に到着した。
馬を休ませて、明日も早くに出発できる。
今日の宿泊地は王族専用の離れのある宿。
ここなら私の姿を見て、怯える者を見ることもない。
食事と風呂を済ませたら、さっさと寝て体力を回復させるに限るな。
まだまだ道は長いのだから。
女将の余計な挨拶も全てなくし、さっさと離れに案内させる。
ヴェルナーとその他の騎士たちが交代で扉の外と周辺を警護しているから安心だ。
部屋の中に一人でいるとどうしてもアズールのことを思い出してしまう。
今頃アズールは何をして過ごしているだろう。
マクシミリアンと爺に任せてきたから大丈夫だとは思うが、会えない時間が長くなればなるほど心配になってしまうのは決して二人を信用していないわけではない。
それが運命の番というものなのだろう。
アズール……アズール……。
まだ離れて数時間だというのに、こんなにも恋しいとはな。
アズールも同じように私を恋しがって泣いているのではないか。
寝ている間も先へ進めたらいいのにとすら思ってしまうが、馬が潰れてはどうにもならない。
余計なことを考えずにさっさと食事を済ませよう。
ヴェルナーに声をかけすぐに食事を用意させる。
それをあっという間に平らげた私は、離れの奥にある風呂場に向かった。
脱衣所に入ると薄い着物を身につけた女性が三人、頭を床に擦り付けながら正座で待っていた。
ヴェルナーがさっとその三人を排除させようとしたが、こんな勝手なことをした奴らだ。
話をこの耳でしっかりと聞いておかねばなるまい。
「なんだ、お前たちは!」
「は、はい。王子殿下のご入浴のお世話をさせていただきます」
「入浴の世話だと? 誰がそんなことを頼んだんだ! 私には世話など必要ない!」
「で、ですが……」
「お前たち、私に口答えをするとはそれがどういうことなのかわかっているのだろうな?」
「ひぃーーっ!!」
「さっさと出ていけ! 二度と私の前に現れるな!!」
「も、申し訳ございませんっ!!」
感情のままに吠えてしまい、獣人としての本能がつい出てしまったようだ。
恐怖に慄いた様子で出ていったが、これで終わりだと思うなよ。
「ヴェルナー!」
「はい。すぐに調査いたします」
ヴェルナーは私の言わんとしていることを理解し、頭をさげ風呂場を出ていった。
その間に風呂に入っておくとするか。
さっきの三人が余計なものを仕掛けた様子は……ないな。
一安心して風呂に入る。
それにしてもさっきの三人がきていた薄衣は、濡れると溶けてしまう素材で出来ている衣服だ。
あんなのを着て私の風呂の世話だと?
私が裸に興奮して襲って子でもできればという算段だろうが、愚かな者たちだ。
私にはもうすでにアズールという愛しい相手がいて、それが運命の相手で、しかも唾液の交換まで済ませているのだ。
今更他の者に欲情することがあるわけがない。
獣人は本能に忠実で女を見れば見境なしに襲うというデマが王都以外の地で広まっているらしいと聞いたことがあるが、本当だったようだな。
こんな噂がアズールの耳に入る前にさっさと消し去ってしまうに限る。
これもアズールを守るために私がすべきことだな。
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