真っ白ウサギの公爵令息はイケメン狼王子の溺愛する許嫁です

波木真帆

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第一章

愛し合う相手

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<sideヴェルナー>

次期国王と認められるための大事な儀式を行うために、泣く泣くアズールさまと離れて神殿のある街に向かわれた王子。
その道中の護衛として、騎士団長の私がお供することになった。

「アズールさまは私がしっかりとお守りいたしますから、ヴェルナーは王子と無事の帰還をお願いします」

出発前夜、私の部屋にやってきたマクシミリアンは神妙な顔つきで言葉をかけてきた。
それだけ言って部屋から出て行こうとするマクシミリアンを制し、

「それだけで終わりか? 他に言いたいことはないのか?」

とじっと見つめながら言うと、

「いいのですか?」

とだけ問いかけられる。

――ヴェルナーを愛してもいいのですか?

そう言われていることはわかっている。
普通なら、明日からの長旅を前に愛し合うなんてやめておいた方がいいだろう。

それでも一週間もマクシミリアンと離れ離れだとわかっていながら、今愛し合わない選択肢は私にはない。

「手加減してくれ」

「善処します」

そういうとマクシミリアンは私を抱き上げ、そのまま寝室へと運んだ。

ベッドに腰を下ろすと、すぐにマクシミリアンの顔が近づいてくる。
上官と部下という立場から完全にスイッチが切り替わるこの時の顔が私は好きなんだ。

けれど、舌を絡めあうキスは少し戸惑ってしまう。
それはマクシミリアンとのキスに抵抗があるわけではない。
むしろずっとしていたいくらい私は気持ちがいい。

けれど、マクシミリアンはどうだろう。

黒豹族である私の舌はざらざらとして、痛みを与えることもあるのだ。
自分の快感のためにマクシミリアンに痛みを与えるなどということはしたくなくて、あまり深いキスはしないようにしてきたが、感情が昂るとついつい忘れて本能的にマクシミリアンと舌を絡めあってしまう。

けれど今日は私のいいところだけを覚えていて欲しい。

そう思って、重ね合わせるだけのキスにしようとしたのだが、

「ヴェルナー、あなたを深く味わいたいのです」

と言いながら訴えかけるような目で見られては、口を開けないわけにはいかなかった。

そっと唇をひらけばそれを逃さないとでもいうようにマクシミリアンの舌が滑り込んでくる。
チュッと舌先に吸いつかれて、身体が震えてしまった。

それで私のスイッチも入ってしまったのかもしれない。
そこからは躊躇いもなく、マクシミリアンの舌に絡みついてしまった。
結局今日も深いキスを味わって唇を離した後、

「マクシミリアン……マーキングしてくれ」

と頼むと、マクシミリアンは嬉しそうに私の首筋はもちろん、身体中に花弁を散らし、そして身体の内側にも外側にも自分の蜜をたっぷりと注ぎ込んでくれた。

「ヴェルナー……愛していますよ。その滑らかな肌も、そしてそのざらざらとした舌の感触も全てが私の欲情をそそる」

「マクシミリアン……私のこの舌を好んでくれるのか?」

「当たり前ですよ。愛しい人の身体に嫌いなところなど何もありません」

「マクシミリアン……愛している」

私の心配はどうやら杞憂だったようだ。
そんな優しいマクシミリアンとの愛の営みは普段なら一晩に三度以下で終わることなどはないが、今日はきっかり三度で終わったところにはマクシミリアンの我慢が見られた。

私の方が物足りないくらいだが、明日からの長旅に備えるならこれくらいで終えなければな。

それから朝までギュッと抱きしめられながら眠った。
明日からこれほど熟睡できるかは自信がないが、王子もアズールさまとお離れになるのだ。
私もわがままなど言っていられないな。


王都を出発し、最初の休憩時間に王子の気持ちを伺った。
少しでも早く王都に、そしてアズールさまの元に帰りたいと仰る王子に協力を申し出たが、私自身の思いでもある。
まだ出発したばかりなのにもうマクシミリアンに会いたい私と王子は同じだ。

ここは利害が一致する者同士、頑張るしかない。

そう思いながら、予定よりも早く最初の宿泊地に到着した。
これで明日は早く出発できる。

食事とお風呂を終え、すぐに眠りたいと仰る王子の意向通りに進めていたが、離れにある風呂場に入った瞬間事件は起こった。

水に触れれば溶ける薄衣を着た女性従業員が三名、脱衣所に勝手に侵入していたのだ。

生殖能力の高い獣人は一度の性行為で確実に子を孕ませることができると言われている。
だから、風呂のお世話だと言って入り込み、裸となって王子を誘惑し、男女の仲となって子種をもらおうと思ったのだろう。

しかし、すでに運命の番であるアズールさまと出逢われている王子は、他の者と性行為を行うことができないばかりか、アズールさまへの思いを無くしては子種のたっぷりと入った蜜を吐き出すことさえできない状況にある。

そんな王子にたとえ裸で迫ったとしても欲情することはあり得ない。
それどころか、アズールさまから正妻の座を奪おうとした不届き者として捕縛の対象となる。
そもそもが王族専用の離れに、了承も得ずに立ち入っていた時点で逮捕は免れない。

私は部下の騎士に命じ、三人を捕縛の上、別の場所で女将にも話を聞いた。

「王子の風呂場に侵入し、色気で迫ろうとしたのは女将の差金か? それとも本人たちの勝手な考えか? 答えよ」

「――っ、は、はい。私は何も指示はしておりませぬ。あの者たちが勝手に行動したのでございます。王族のお方にご迷惑をお掛けするなど、とんでもないことをしでかした罰をあの者たちにお与えください」

「そうか。其方の娘も仲間のようだが罰を与えて良いのだな?」

「えっ? そんなはずは……タリアは騎士団長さまにお声がけするようにと、あ――っ!!!」

目の前にいる女将は口を押さえながら、表情がみるみるうちに青褪めていく。

「女将、今なんと申したのだ?」

「い、いえ。私は何も……」

「とぼけようとしても無駄だ! 其方の言葉は全て録音済みだぞ。まさか王子だけでなく私も狙われていたとはな」

「申し訳ございません! どうかお許しくださいませ!」

女将は頭を床に擦り付けながら、必死に謝罪を繰り返すがこんなの何の意味も持たない。

「其方のような愚か者の謝罪と土下座になど何の価値もない。余計なことをせず、王都から応援が来るまで地下牢で娘たちと待つが良い」

「そんな……っ、どうかお許しをっ!!」

そう叫び続ける女将を部下の騎士たちに任せ、私は王子の元に報告に向かった。
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