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第一章
存在意義と才能
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<sideマクシミリアン>
まさか、アズールさまがバロンを膨らませることができないとは思っても見なかった。
本当にウサギ族は狼獣人が溺愛するように、わざと庇護欲を掻き立てるような存在として生まれてくるのではないか。
そう思わずにいられなかった。
バロンを膨らませられないというあまりの想定外のことに驚きつつも、私はある道具を思い出していた。
それは騎士団に入るよりも前、私がまだ成人にもなっていない頃、将来何かの役に立つかもしれないと思い、バロンクンストを自己流で覚えたことがあった。
バロンクンストを作るには膨らませたバロンがなければ話にならない。
大量に膨らませてひたすら形作るのを練習するために少しでも時間短縮になればと思い、自作した道具があった。
何度か使って効果は確かにあったが、成長ともに膨らませる方が遥かに早くなってしまって、その道具を使うことは無くなっていたが、何かの役に立つかもしれないと思って、騎士団の詰め所にある自室に置いておいたのだ。
数年の時を経て、ようやく日の目をみることができる。
きっとアズールさまなら、この道具を喜んでくださるはずだ。
脇目も振らずに詰め所に飛び込んで急いで自室の荷物入れの奥からその道具を取り出した。
一応試運転をしてみる。
「ブルルルー」
「おおっ!」
簡単に押すだけであっという間にバロンが膨らんだ。
だが、音が大きすぎる。
これだとアズールさまが驚かれるかもしれない。
急いで改良に入るが、子どもの時に作ったものだから作りはあまりにも単純だ。
今の私の実力を持ってすれば、赤子の手をひねるようなもの。
あっという間に改良を終え、再び試運転をすれば、ほんのわずかな力であっという間にバロンは膨らんだ。
「よし、これならアズールさまにもバロンを膨らませることができるはずだ」
喜び勇んで、再び公爵邸に戻ると執事のベンが迎え入れてくれた。
まだ二人が応接室にいると聞いて、急いで駆けつければ、扉が開いて早々お祖父さまに叱りつけられてしまった。
どうやら私が扉を叩いた音でアズールさまを驚かせてしまったようだ。
無事にバロンを膨らませることができて喜びお顔が見たいと思って、先走りすぎたようだ。
アズールさまに非礼を詫びると、アズールさまはすぐに許してくださったばかりか、私の手に持っている道具に関心を持ってくださった。
これがバロンを簡単に膨らませることができる道具だとお教えすると最初は半信半疑のご様子だったが、私が手本を見せると途端に目を輝かせた。
実に可愛らしい。
やはり表情も仕草も全て可愛らしいと思わせるように生まれているのだなと考えてしまう。
早速アズールさまにもしていただこうとやり方を説明し、手のひらでグッと力を入れてもらったが、道具はびくともしなかった。
まさか、これを押す力すらないのか?
私とアズールさまに力の差はあれど、音を少なくして簡単に押せるように改良したはずなのに。
ちっとも道具が動かずに今にも泣き出しそうなアズールさまに両手でやってみましょうと声をかけたが、結果は同じ。
アズールさまはこの道具すら力が足りなかったのだ。
「ふぇ……っ、うご、かない……っ」
大きな目に涙をいっぱい溜めて、悲しげな表情を見せるアズールさまをなんとかお救いしたくて、気づけば
「アズールさま、申し訳ございません! 私のやり方が間違っておりました。もう一度やっていただけますか?」
と大声で叫んでいた。
アズールさまは半ば諦めのご様子だったが、それでも先ほどと同じように押してくれた。
そのタイミングで私も反対側から力を入れると、一気に道具が動きバロンが膨らんだのだ。
「わぁー! できた!!」
大喜びするアズールさまの後ろでお祖父さまが笑顔で微笑みかけてくれている。
どうやらお祖父さまには私がしたことは全てお見通しのようだ。
それでもアズールさまが喜んでくださればそれでいいんだ。
「それならこれでバロンクンストの練習がおできになりますね――って、あの、アズールさま」
「まっくす、どうしたの?」
「あの、その可愛らしい冠はどうなさったのですか?」
あの道具とバロンに夢中で目に入っていなかったが、アズールさまの目の前に置かれた可愛らしい冠が目に留まった。
「これー、おうかん。あずーるが、つくったの」
「えっ? これをアズールさまがお作りになったのでございますか?」
「うん。ねぇ、じぃー」
「はい。アズールさまが手ずからお作りになったものだから、マクシミリアン! 大切に扱うのだぞ」
お祖父さまの、アズールさまと私に向ける表情が違いすぎて同じ人物とは思えないくらいだが、それはともかく、これをアズールさまがお作りになったとは……こんなにも緻密な細工ができるとは信じられないくらいだな。
ウサギ族が狼獣人に守られるためだけに生まれてきたと思っていたのは、間違いだったかもしれない。
そう思えるくらい、この王冠は素晴らしい作品に見えた。
アズールさまにこんな素晴らしい才能がおありになったとは……驚きだな。
まさか、アズールさまがバロンを膨らませることができないとは思っても見なかった。
本当にウサギ族は狼獣人が溺愛するように、わざと庇護欲を掻き立てるような存在として生まれてくるのではないか。
そう思わずにいられなかった。
バロンを膨らませられないというあまりの想定外のことに驚きつつも、私はある道具を思い出していた。
それは騎士団に入るよりも前、私がまだ成人にもなっていない頃、将来何かの役に立つかもしれないと思い、バロンクンストを自己流で覚えたことがあった。
バロンクンストを作るには膨らませたバロンがなければ話にならない。
大量に膨らませてひたすら形作るのを練習するために少しでも時間短縮になればと思い、自作した道具があった。
何度か使って効果は確かにあったが、成長ともに膨らませる方が遥かに早くなってしまって、その道具を使うことは無くなっていたが、何かの役に立つかもしれないと思って、騎士団の詰め所にある自室に置いておいたのだ。
数年の時を経て、ようやく日の目をみることができる。
きっとアズールさまなら、この道具を喜んでくださるはずだ。
脇目も振らずに詰め所に飛び込んで急いで自室の荷物入れの奥からその道具を取り出した。
一応試運転をしてみる。
「ブルルルー」
「おおっ!」
簡単に押すだけであっという間にバロンが膨らんだ。
だが、音が大きすぎる。
これだとアズールさまが驚かれるかもしれない。
急いで改良に入るが、子どもの時に作ったものだから作りはあまりにも単純だ。
今の私の実力を持ってすれば、赤子の手をひねるようなもの。
あっという間に改良を終え、再び試運転をすれば、ほんのわずかな力であっという間にバロンは膨らんだ。
「よし、これならアズールさまにもバロンを膨らませることができるはずだ」
喜び勇んで、再び公爵邸に戻ると執事のベンが迎え入れてくれた。
まだ二人が応接室にいると聞いて、急いで駆けつければ、扉が開いて早々お祖父さまに叱りつけられてしまった。
どうやら私が扉を叩いた音でアズールさまを驚かせてしまったようだ。
無事にバロンを膨らませることができて喜びお顔が見たいと思って、先走りすぎたようだ。
アズールさまに非礼を詫びると、アズールさまはすぐに許してくださったばかりか、私の手に持っている道具に関心を持ってくださった。
これがバロンを簡単に膨らませることができる道具だとお教えすると最初は半信半疑のご様子だったが、私が手本を見せると途端に目を輝かせた。
実に可愛らしい。
やはり表情も仕草も全て可愛らしいと思わせるように生まれているのだなと考えてしまう。
早速アズールさまにもしていただこうとやり方を説明し、手のひらでグッと力を入れてもらったが、道具はびくともしなかった。
まさか、これを押す力すらないのか?
私とアズールさまに力の差はあれど、音を少なくして簡単に押せるように改良したはずなのに。
ちっとも道具が動かずに今にも泣き出しそうなアズールさまに両手でやってみましょうと声をかけたが、結果は同じ。
アズールさまはこの道具すら力が足りなかったのだ。
「ふぇ……っ、うご、かない……っ」
大きな目に涙をいっぱい溜めて、悲しげな表情を見せるアズールさまをなんとかお救いしたくて、気づけば
「アズールさま、申し訳ございません! 私のやり方が間違っておりました。もう一度やっていただけますか?」
と大声で叫んでいた。
アズールさまは半ば諦めのご様子だったが、それでも先ほどと同じように押してくれた。
そのタイミングで私も反対側から力を入れると、一気に道具が動きバロンが膨らんだのだ。
「わぁー! できた!!」
大喜びするアズールさまの後ろでお祖父さまが笑顔で微笑みかけてくれている。
どうやらお祖父さまには私がしたことは全てお見通しのようだ。
それでもアズールさまが喜んでくださればそれでいいんだ。
「それならこれでバロンクンストの練習がおできになりますね――って、あの、アズールさま」
「まっくす、どうしたの?」
「あの、その可愛らしい冠はどうなさったのですか?」
あの道具とバロンに夢中で目に入っていなかったが、アズールさまの目の前に置かれた可愛らしい冠が目に留まった。
「これー、おうかん。あずーるが、つくったの」
「えっ? これをアズールさまがお作りになったのでございますか?」
「うん。ねぇ、じぃー」
「はい。アズールさまが手ずからお作りになったものだから、マクシミリアン! 大切に扱うのだぞ」
お祖父さまの、アズールさまと私に向ける表情が違いすぎて同じ人物とは思えないくらいだが、それはともかく、これをアズールさまがお作りになったとは……こんなにも緻密な細工ができるとは信じられないくらいだな。
ウサギ族が狼獣人に守られるためだけに生まれてきたと思っていたのは、間違いだったかもしれない。
そう思えるくらい、この王冠は素晴らしい作品に見えた。
アズールさまにこんな素晴らしい才能がおありになったとは……驚きだな。
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