65 / 289
第一章
存在意義と才能
しおりを挟む
<sideマクシミリアン>
まさか、アズールさまがバロンを膨らませることができないとは思っても見なかった。
本当にウサギ族は狼獣人が溺愛するように、わざと庇護欲を掻き立てるような存在として生まれてくるのではないか。
そう思わずにいられなかった。
バロンを膨らませられないというあまりの想定外のことに驚きつつも、私はある道具を思い出していた。
それは騎士団に入るよりも前、私がまだ成人にもなっていない頃、将来何かの役に立つかもしれないと思い、バロンクンストを自己流で覚えたことがあった。
バロンクンストを作るには膨らませたバロンがなければ話にならない。
大量に膨らませてひたすら形作るのを練習するために少しでも時間短縮になればと思い、自作した道具があった。
何度か使って効果は確かにあったが、成長ともに膨らませる方が遥かに早くなってしまって、その道具を使うことは無くなっていたが、何かの役に立つかもしれないと思って、騎士団の詰め所にある自室に置いておいたのだ。
数年の時を経て、ようやく日の目をみることができる。
きっとアズールさまなら、この道具を喜んでくださるはずだ。
脇目も振らずに詰め所に飛び込んで急いで自室の荷物入れの奥からその道具を取り出した。
一応試運転をしてみる。
「ブルルルー」
「おおっ!」
簡単に押すだけであっという間にバロンが膨らんだ。
だが、音が大きすぎる。
これだとアズールさまが驚かれるかもしれない。
急いで改良に入るが、子どもの時に作ったものだから作りはあまりにも単純だ。
今の私の実力を持ってすれば、赤子の手をひねるようなもの。
あっという間に改良を終え、再び試運転をすれば、ほんのわずかな力であっという間にバロンは膨らんだ。
「よし、これならアズールさまにもバロンを膨らませることができるはずだ」
喜び勇んで、再び公爵邸に戻ると執事のベンが迎え入れてくれた。
まだ二人が応接室にいると聞いて、急いで駆けつければ、扉が開いて早々お祖父さまに叱りつけられてしまった。
どうやら私が扉を叩いた音でアズールさまを驚かせてしまったようだ。
無事にバロンを膨らませることができて喜びお顔が見たいと思って、先走りすぎたようだ。
アズールさまに非礼を詫びると、アズールさまはすぐに許してくださったばかりか、私の手に持っている道具に関心を持ってくださった。
これがバロンを簡単に膨らませることができる道具だとお教えすると最初は半信半疑のご様子だったが、私が手本を見せると途端に目を輝かせた。
実に可愛らしい。
やはり表情も仕草も全て可愛らしいと思わせるように生まれているのだなと考えてしまう。
早速アズールさまにもしていただこうとやり方を説明し、手のひらでグッと力を入れてもらったが、道具はびくともしなかった。
まさか、これを押す力すらないのか?
私とアズールさまに力の差はあれど、音を少なくして簡単に押せるように改良したはずなのに。
ちっとも道具が動かずに今にも泣き出しそうなアズールさまに両手でやってみましょうと声をかけたが、結果は同じ。
アズールさまはこの道具すら力が足りなかったのだ。
「ふぇ……っ、うご、かない……っ」
大きな目に涙をいっぱい溜めて、悲しげな表情を見せるアズールさまをなんとかお救いしたくて、気づけば
「アズールさま、申し訳ございません! 私のやり方が間違っておりました。もう一度やっていただけますか?」
と大声で叫んでいた。
アズールさまは半ば諦めのご様子だったが、それでも先ほどと同じように押してくれた。
そのタイミングで私も反対側から力を入れると、一気に道具が動きバロンが膨らんだのだ。
「わぁー! できた!!」
大喜びするアズールさまの後ろでお祖父さまが笑顔で微笑みかけてくれている。
どうやらお祖父さまには私がしたことは全てお見通しのようだ。
それでもアズールさまが喜んでくださればそれでいいんだ。
「それならこれでバロンクンストの練習がおできになりますね――って、あの、アズールさま」
「まっくす、どうしたの?」
「あの、その可愛らしい冠はどうなさったのですか?」
あの道具とバロンに夢中で目に入っていなかったが、アズールさまの目の前に置かれた可愛らしい冠が目に留まった。
「これー、おうかん。あずーるが、つくったの」
「えっ? これをアズールさまがお作りになったのでございますか?」
「うん。ねぇ、じぃー」
「はい。アズールさまが手ずからお作りになったものだから、マクシミリアン! 大切に扱うのだぞ」
お祖父さまの、アズールさまと私に向ける表情が違いすぎて同じ人物とは思えないくらいだが、それはともかく、これをアズールさまがお作りになったとは……こんなにも緻密な細工ができるとは信じられないくらいだな。
ウサギ族が狼獣人に守られるためだけに生まれてきたと思っていたのは、間違いだったかもしれない。
そう思えるくらい、この王冠は素晴らしい作品に見えた。
アズールさまにこんな素晴らしい才能がおありになったとは……驚きだな。
まさか、アズールさまがバロンを膨らませることができないとは思っても見なかった。
本当にウサギ族は狼獣人が溺愛するように、わざと庇護欲を掻き立てるような存在として生まれてくるのではないか。
そう思わずにいられなかった。
バロンを膨らませられないというあまりの想定外のことに驚きつつも、私はある道具を思い出していた。
それは騎士団に入るよりも前、私がまだ成人にもなっていない頃、将来何かの役に立つかもしれないと思い、バロンクンストを自己流で覚えたことがあった。
バロンクンストを作るには膨らませたバロンがなければ話にならない。
大量に膨らませてひたすら形作るのを練習するために少しでも時間短縮になればと思い、自作した道具があった。
何度か使って効果は確かにあったが、成長ともに膨らませる方が遥かに早くなってしまって、その道具を使うことは無くなっていたが、何かの役に立つかもしれないと思って、騎士団の詰め所にある自室に置いておいたのだ。
数年の時を経て、ようやく日の目をみることができる。
きっとアズールさまなら、この道具を喜んでくださるはずだ。
脇目も振らずに詰め所に飛び込んで急いで自室の荷物入れの奥からその道具を取り出した。
一応試運転をしてみる。
「ブルルルー」
「おおっ!」
簡単に押すだけであっという間にバロンが膨らんだ。
だが、音が大きすぎる。
これだとアズールさまが驚かれるかもしれない。
急いで改良に入るが、子どもの時に作ったものだから作りはあまりにも単純だ。
今の私の実力を持ってすれば、赤子の手をひねるようなもの。
あっという間に改良を終え、再び試運転をすれば、ほんのわずかな力であっという間にバロンは膨らんだ。
「よし、これならアズールさまにもバロンを膨らませることができるはずだ」
喜び勇んで、再び公爵邸に戻ると執事のベンが迎え入れてくれた。
まだ二人が応接室にいると聞いて、急いで駆けつければ、扉が開いて早々お祖父さまに叱りつけられてしまった。
どうやら私が扉を叩いた音でアズールさまを驚かせてしまったようだ。
無事にバロンを膨らませることができて喜びお顔が見たいと思って、先走りすぎたようだ。
アズールさまに非礼を詫びると、アズールさまはすぐに許してくださったばかりか、私の手に持っている道具に関心を持ってくださった。
これがバロンを簡単に膨らませることができる道具だとお教えすると最初は半信半疑のご様子だったが、私が手本を見せると途端に目を輝かせた。
実に可愛らしい。
やはり表情も仕草も全て可愛らしいと思わせるように生まれているのだなと考えてしまう。
早速アズールさまにもしていただこうとやり方を説明し、手のひらでグッと力を入れてもらったが、道具はびくともしなかった。
まさか、これを押す力すらないのか?
私とアズールさまに力の差はあれど、音を少なくして簡単に押せるように改良したはずなのに。
ちっとも道具が動かずに今にも泣き出しそうなアズールさまに両手でやってみましょうと声をかけたが、結果は同じ。
アズールさまはこの道具すら力が足りなかったのだ。
「ふぇ……っ、うご、かない……っ」
大きな目に涙をいっぱい溜めて、悲しげな表情を見せるアズールさまをなんとかお救いしたくて、気づけば
「アズールさま、申し訳ございません! 私のやり方が間違っておりました。もう一度やっていただけますか?」
と大声で叫んでいた。
アズールさまは半ば諦めのご様子だったが、それでも先ほどと同じように押してくれた。
そのタイミングで私も反対側から力を入れると、一気に道具が動きバロンが膨らんだのだ。
「わぁー! できた!!」
大喜びするアズールさまの後ろでお祖父さまが笑顔で微笑みかけてくれている。
どうやらお祖父さまには私がしたことは全てお見通しのようだ。
それでもアズールさまが喜んでくださればそれでいいんだ。
「それならこれでバロンクンストの練習がおできになりますね――って、あの、アズールさま」
「まっくす、どうしたの?」
「あの、その可愛らしい冠はどうなさったのですか?」
あの道具とバロンに夢中で目に入っていなかったが、アズールさまの目の前に置かれた可愛らしい冠が目に留まった。
「これー、おうかん。あずーるが、つくったの」
「えっ? これをアズールさまがお作りになったのでございますか?」
「うん。ねぇ、じぃー」
「はい。アズールさまが手ずからお作りになったものだから、マクシミリアン! 大切に扱うのだぞ」
お祖父さまの、アズールさまと私に向ける表情が違いすぎて同じ人物とは思えないくらいだが、それはともかく、これをアズールさまがお作りになったとは……こんなにも緻密な細工ができるとは信じられないくらいだな。
ウサギ族が狼獣人に守られるためだけに生まれてきたと思っていたのは、間違いだったかもしれない。
そう思えるくらい、この王冠は素晴らしい作品に見えた。
アズールさまにこんな素晴らしい才能がおありになったとは……驚きだな。
327
お気に入りに追加
5,353
あなたにおすすめの小説
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます
muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。
仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。
成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。
何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。
汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。
【完結】守護霊さん、それは余計なお世話です。
N2O
BL
番のことが好きすぎる第二王子(熊の獣人/実は割と可愛い)
×
期間限定で心の声が聞こえるようになった黒髪青年(人間/番/実は割と逞しい)
Special thanks
illustration by 白鯨堂こち
※ご都合主義です。
※素人作品です。温かな目で見ていただけると助かります。
僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
【完結】たとえ彼の身代わりだとしても貴方が僕を見てくれるのならば… 〜初恋のαは双子の弟の婚約者でした〜
葉月
BL
《あらすじ》
カトラレル家の長男であるレオナルドは双子の弟のミカエルがいる。天真爛漫な弟のミカエルはレオナルドとは真逆の性格だ。
カトラレル家は懇意にしているオリバー家のサイモンとミカエルが結婚する予定だったが、ミカエルが流行病で亡くなってしまい、親の言いつけによりレオナルドはミカエルの身代わりとして、サイモンに嫁ぐ。
愛している人を騙し続ける罪悪感と、弟への想いを抱き続ける主人公が幸せを掴み取る、オメガバースストーリー。
《番外編 無垢な身体が貴方色に染まるとき 〜運命の番は濃厚な愛と蜜で僕の身体を溺れさせる〜》
番になったレオとサイモン。
エマの里帰り出産に合わせて、他の使用人達全員にまとまった休暇を与えた。
数日、邸宅にはレオとサイモンとの2人っきり。
ずっとくっついていたい2人は……。
エチで甘々な数日間。
ー登場人物紹介ー
ーレオナルド・カトラレル(受け オメガ)18歳ー
長男で一卵性双生児の弟、ミカエルがいる。
カトラレル家の次期城主。
性格:内気で周りを気にしすぎるあまり、自分の気持ちを言えないないだが、頑張り屋で努力家。人の気持ちを考え行動できる。行動や言葉遣いは穏やか。ミカエルのことが好きだが、ミカエルがみんなに可愛がられていることが羨ましい。
外見:白肌に腰まである茶色の髪、エメラルドグリーンの瞳。中世的な外見に少し幼さを残しつつも。行為の時、幼さの中にも妖艶さがある。
体質:健康体
ーサイモン・オリバー(攻め アルファ)25歳ー
オリバー家の長男で次期城主。レオナルドとミカエルの7歳年上。
レオナルドとミカエルとサイモンの父親が仲がよく、レオナルドとミカエルが幼い頃からの付き合い。
性格:優しく穏やか。ほとんど怒らないが、怒ると怖い。好きな人には尽くし甘やかし甘える。時々不器用。
外見:黒髪に黒い瞳。健康的な肌に鍛えられた肉体。高身長。
乗馬、剣術が得意。貴族令嬢からの人気がすごい。
BL大賞参加作品です。
【完結】竜を愛する悪役令嬢と、転生従者の謀りゴト
しゃもじ
BL
貴族の間で婚約破棄が流行し、歪みに歪んだサンドレア王国。
飛竜騎士団率いる悪役令嬢のもとに従者として転生した主人公グレイの目的は、前世で成し遂げられなかったゲームクリア=大陸統治を目指すこと、そして敬愛するメルロロッティ嬢の幸せを成就すること。
前世の記憶『予知』のもと、目的達成のためグレイは奔走するが、メルロロッティ嬢の婚約破棄後、少しずつ歴史は歪曲しグレイの予知からズレはじめる……
*主人公の股緩め、登場キャラ貞操観念低め、性癖尖り目、ピュア成分低めです。苦手な方はご注意ください。
*他サイト様にも投稿している作品です。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる