何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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ずっと欲しかったもの

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「わぁ、やっぱりマンションだけあって車がいっぱいですね」

目の前にある十数台の車がどれもかっこよくて驚いてしまう。僕の住んでいたアパートには駐車場がなかった。だからアパートを借りるときに、駐車場が必要な人は近くの駐車場を借りてくださいと言われたけど、東京はバスも電車もあるし、歩けばなんとでもなるから車がなくても何も困らなかった。家族で住んでいたのは田舎だったから車がなかったら生活できなかったけど、その点では東京に出てきて本当に良かったと思う。

「全部俺たちの車だよ」

当然のように言われて一瞬頭が真っ白になった。

えっ? 俺たちの、車? ここに見えている車が全部?

十数台はあるのにこれが全部、慎一さんの車?

びっくりして言葉も出ない。

「ああ。今日はどれにしようか? どれでもいいよ」

僕に選ばせてくれるつもりみたいだけど、どれを選べばいいのかもわからない。
だってどれも素敵な車だから。でも僕が選ばないとずっとこのまま駐車場に留まることになりそうだ。

どうしようと悩みながら全ての車に目をやるとまるっと可愛い車体の車が目に留まった。

「あっ、あの車、可愛いです」

かっこいい車がいっぱいの中で可愛い形に目がいったんだけど、慎一さんは僕が選んだ車を見て、嬉しそうに笑うとこれにしようと言って助手席を開けてくれた。

中も可愛くて僕はすっかりこの車が気に入ってしまった。

駐車場を出てしばらく走ると、僕がまだ足を踏み入れたことのないエリアに車が進んでいく。
すごい、慎一さんと出会わなかったら一生来ることはなかっただろうな。
お店も建物も歩いている人もみんなキラキラ輝いている気がする。

慎一さんは慣れた様子で車をどこかの駐車場に止めると、さっと運転席から降りて助手席の扉を開けてくれた。

「まだ予約の時間までは少しあるから、散策しようか」

「は、はい」

慎一さんの逞しい腕に腰を支えられると歩きやすい。
これならどれだけ長時間でも長距離でも歩けそうな気がする。

でも本当に見たことのないお店や建物ばっかりだ。珍しくてついキョロキョロしてしまって周りから見られている気がする。大人しくしとかないと慎一さんまで笑われちゃうな。気をつけないと!

慎一さんは散策と言っていたけれど、どこか目的の場所があるように進んでいく。

「慎一さん、どこに行くんですか?」

「連れて行きたかった店があるんだ。こっちだよ」

気になって尋ねてみると、僕が好きそうなお店があるということでどこかに連れて行かれた。
そこは田舎者の僕でも知っている高級ホテルのイリゼホテルだった。
入り口には黒い服を着ている紳士みたいな人が立っていて、僕なんかにも頭を下げて挨拶してくれる。

それに緊張しながらも、奥に進んでいく慎一さんについていくと現れたのはぬいぐるみがたくさん飾られた可愛いお店。
まるでここだけ絵本の世界のようで

「わぁーっ! 可愛いっ!!」

と叫んでしまった。

「よかった、中にもいっぱいいるから入ろうか」

騒いでしまって怒られるかと思ったけれど、優しい言葉をかけられてホッとしながらお店の中に入った。

店内はそれぞれ動物の種類ごとに場所が分けられているみたい。
クマやキリン、ゾウ、ウサギ、犬、猫など数え上げたらキリがないくらいの種類の動物のぬいぐるみで溢れていてみているだけで楽しくなってくる。

「どれでも好きなのを選んでいいよ」

思いがけない声をかけられてびっくりする。
どれも好きなのを、選んでいい? そんなの親にも言われたこともない。

本当にいいのかと心配になったけれど、

「俺から伊月くんへの退院祝い。俺がいない時間もそばに置いてて欲しいんだ」

と言われて、慎一さんの優しい気持ちを受け取ることにした。

僕は小さな頃からずっとぬいぐるみが欲しいと思っていた。一人っ子だったから余計に友達になれるような子が欲しかったんだ。だから今日、慎一さんがぬいぐるみ屋さんに連れてきてくれたとき、僕の心の中を知っていたのかと思ってびっくりしたくらいだ。

僕はお店の中を歩き回って可愛い動物たちをひとりずつ見ていった。どの子も可愛くて悩んでしまう。
でも慎一さんはゆっくり選んでいいからと言って決して急かしたりはしない。そういうところもホッとする。

そうして最後にワンちゃんたちのコーナーを見たときに、可愛いワンちゃんが僕の目に飛び込んできた。

「あっ! この子!」

慎一さんがくれたスマホケースのもふもふのワンちゃんにそっくりだと思ったらもう目が離せなくなっていた。
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