何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

文字の大きさ
上 下
33 / 42

ずっと欲しかったもの

しおりを挟む
「わぁ、やっぱりマンションだけあって車がいっぱいですね」

目の前にある十数台の車がどれもかっこよくて驚いてしまう。僕の住んでいたアパートには駐車場がなかった。だからアパートを借りるときに、駐車場が必要な人は近くの駐車場を借りてくださいと言われたけど、東京はバスも電車もあるし、歩けばなんとでもなるから車がなくても何も困らなかった。家族で住んでいたのは田舎だったから車がなかったら生活できなかったけど、その点では東京に出てきて本当に良かったと思う。

「全部俺たちの車だよ」

当然のように言われて一瞬頭が真っ白になった。

えっ? 俺たちの、車? ここに見えている車が全部?

十数台はあるのにこれが全部、慎一さんの車?

びっくりして言葉も出ない。

「ああ。今日はどれにしようか? どれでもいいよ」

僕に選ばせてくれるつもりみたいだけど、どれを選べばいいのかもわからない。
だってどれも素敵な車だから。でも僕が選ばないとずっとこのまま駐車場に留まることになりそうだ。

どうしようと悩みながら全ての車に目をやるとまるっと可愛い車体の車が目に留まった。

「あっ、あの車、可愛いです」

かっこいい車がいっぱいの中で可愛い形に目がいったんだけど、慎一さんは僕が選んだ車を見て、嬉しそうに笑うとこれにしようと言って助手席を開けてくれた。

中も可愛くて僕はすっかりこの車が気に入ってしまった。

駐車場を出てしばらく走ると、僕がまだ足を踏み入れたことのないエリアに車が進んでいく。
すごい、慎一さんと出会わなかったら一生来ることはなかっただろうな。
お店も建物も歩いている人もみんなキラキラ輝いている気がする。

慎一さんは慣れた様子で車をどこかの駐車場に止めると、さっと運転席から降りて助手席の扉を開けてくれた。

「まだ予約の時間までは少しあるから、散策しようか」

「は、はい」

慎一さんの逞しい腕に腰を支えられると歩きやすい。
これならどれだけ長時間でも長距離でも歩けそうな気がする。

でも本当に見たことのないお店や建物ばっかりだ。珍しくてついキョロキョロしてしまって周りから見られている気がする。大人しくしとかないと慎一さんまで笑われちゃうな。気をつけないと!

慎一さんは散策と言っていたけれど、どこか目的の場所があるように進んでいく。

「慎一さん、どこに行くんですか?」

「連れて行きたかった店があるんだ。こっちだよ」

気になって尋ねてみると、僕が好きそうなお店があるということでどこかに連れて行かれた。
そこは田舎者の僕でも知っている高級ホテルのイリゼホテルだった。
入り口には黒い服を着ている紳士みたいな人が立っていて、僕なんかにも頭を下げて挨拶してくれる。

それに緊張しながらも、奥に進んでいく慎一さんについていくと現れたのはぬいぐるみがたくさん飾られた可愛いお店。
まるでここだけ絵本の世界のようで

「わぁーっ! 可愛いっ!!」

と叫んでしまった。

「よかった、中にもいっぱいいるから入ろうか」

騒いでしまって怒られるかと思ったけれど、優しい言葉をかけられてホッとしながらお店の中に入った。

店内はそれぞれ動物の種類ごとに場所が分けられているみたい。
クマやキリン、ゾウ、ウサギ、犬、猫など数え上げたらキリがないくらいの種類の動物のぬいぐるみで溢れていてみているだけで楽しくなってくる。

「どれでも好きなのを選んでいいよ」

思いがけない声をかけられてびっくりする。
どれも好きなのを、選んでいい? そんなの親にも言われたこともない。

本当にいいのかと心配になったけれど、

「俺から伊月くんへの退院祝い。俺がいない時間もそばに置いてて欲しいんだ」

と言われて、慎一さんの優しい気持ちを受け取ることにした。

僕は小さな頃からずっとぬいぐるみが欲しいと思っていた。一人っ子だったから余計に友達になれるような子が欲しかったんだ。だから今日、慎一さんがぬいぐるみ屋さんに連れてきてくれたとき、僕の心の中を知っていたのかと思ってびっくりしたくらいだ。

僕はお店の中を歩き回って可愛い動物たちをひとりずつ見ていった。どの子も可愛くて悩んでしまう。
でも慎一さんはゆっくり選んでいいからと言って決して急かしたりはしない。そういうところもホッとする。

そうして最後にワンちゃんたちのコーナーを見たときに、可愛いワンちゃんが僕の目に飛び込んできた。

「あっ! この子!」

慎一さんがくれたスマホケースのもふもふのワンちゃんにそっくりだと思ったらもう目が離せなくなっていた。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

処理中です...