何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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おねだりと驚き

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「この子……慎一さんがプレゼントしてくれたスマホケースのワンちゃんにそっくりです」

僕の言葉に慎一さんは嬉しそうに笑ってくれた。

「僕、この子がいいです」

両親にだって欲しいものをねだったこともないけど、慎一さんの笑顔を見たら、スッとその言葉が出た。
言ってしまった後でドキドキしたけど、慎一さんは笑顔でこの子にしようと言ってくれた。
そして並べられていた棚から僕が選んだワンちゃんを取り出してくれた。
近くで見ると思っていたよりも大きくてびっくりしたけれど抱っこするとまるで本物のワンちゃんのような抱き心地に驚いてしまった。

可愛くてたまらない。
ギュッと抱きしめていると、慎一さんが茫然とした表情を向けて僕を見ていることに気がついた。

気になって名前を呼びかけると、ハッとした表情をしながら、僕がぬいぐるみを抱っこしているのが可愛かったからと言ってくれた。慎一さんからそんなことを言われて照れてしまうけど、でも嬉しい。

慎一さんはすぐに店員さんを呼んで、僕の腕の中にいるワンちゃんを買いたいと声をかけてくれた。すると店員さんは少し言いづらそうにしながら、ゆっくりと口を開いた。

「実はこの子は、こっちの子と対になっている子なんですよ。もしよかったらこの子も一緒にお連れになりませんか?」

教えられた子は、このワンちゃんが寄りかかっていた大きなワンちゃん。
この子、慎一さんに似てるなって思ったんだよね。流石に大きいから連れて帰るの大変そうだなって思ってたんだけど、そっか……ペアの子だったんだ。

でも一緒に連れて帰るなんてできるのかな?

お金だって二倍以上するはずなのに……。

だけど慎一さんはそんなこと気にするそぶりもなく、

「じゃあ、この子もお願いします」

と言ってくれた。

あまりにも即決すぎてびっくりしたけど、構わないと言ってくれて嬉しかった。
ずっと欲しいと思っていたぬいぐるみのお友だちが一気に二人もできるなんて、僕幸せすぎるな。

この子たち、二人とも配送にしていいかと言われて、一瞬悩んだけど流石にこの大きな子たちを抱えたままご飯を食べに行けないもんね。

「今、配送をお願いしたら俺たちが家に着く頃にはもう到着してるよ」

「そうなんですね。わかりました」

離れがたかったけど、僕は素直に配送してもらうのをお願いした。

僕が棚に並べられていた可愛いぬいぐるみくんたちを見ている間に、さっと慎一さんが支払いを済ませてくれて、僕たちはお店をでた。

「ランチに予約している店があるんだ。ここから近いからそろそろ行こうか」

予約しないと入れないお店? 僕、そんなお店に行ったことない……。
どうしよう、すごいお店だったら……。

気になって、予約しないと入れないお店かを尋ねてみたけれど、当日でも一応入れるお店みたい。
時間を有効に使いたいっていう慎一さんの言葉が社会人ぽくてかっこいいなと思った。

ここから歩いていけるお店か……。

どこもかしこもキラキラ輝いててどこに入っても驚きそうだな。

ちょっと緊張してきちゃった。そのお店って一体どこにあるんだろう……。

ドキドキしながら歩いていると、急に慎一さんが立ち止まった。

「ここだよ」

そう教えられたお店は、僕の知っているお店の入り口とは全く違っていた。
何も知らなければ素通りしてしまうようなそんな入り口。それにただただ驚きしかなかった。

「わかりにくいから穴場なんだ」

慎一さんのその一言になるほどと納得してしまう。
誰も知らないけど自分だけが知っている秘密基地のようなお店。なんか楽しそう!

慎一さんに手を引かれ、お店の中に入るとすぐにお店の奥からピシッと着物を着こなした女性がやってきた。

「お待ちしておりました。お部屋にご案内いたします」

慎一さんは名前も何も告げていないのに、慎一さんの顔を見ただけで部屋に案内してくれる。
それだけ慎一さんがこのお店によくきているってことなんだろう。すごい、やっぱり大人だな。

案内された部屋は二人で過ごすにはものすごく広い部屋。
多分僕が一人で住んでいた部屋より広そう。しかも部屋の中央にあるテーブルは下が空洞になっていて、こういうのなんていうんだっけ……ああ、掘り炬燵だ。テレビか何かで見た覚えがある。
僕は正座には慣れているけれど、慎一さんみたいに足が長い人は正座も大変そうだから、こういうテーブルが合うんだろうな。

慎一さんは掘り炬燵になれない僕のために、隣に並んで座ってくれた。本当に優しい。
でもやっぱりこのお店の雰囲気、緊張しちゃうな。

しばらくして、さっきの店員さんの声が聞こえた。
あ、注文取りに来てくれたのかな? 

「はい。どうぞ」

慎一さんが襖の向こうに向かって声をかけると、スーッと襖が開いた。

「えっ?」

てっきりあの店員さんが出てくると思っていた僕の目に飛び込んできたのは、なぜか砂川くん。そして、その隣にはどこかで見たことのある人……えっと、どこだっけ?

っていうか、そもそもどうして砂川くんが??

頭の中がハテナばっかりで何も考えられない。
でもそれは砂川くんも同じだったみたいだ。

「あ、田淵くん? どうして、ここに?」

「砂川くんこそ、どうして? えっ? どういうこと?」

お互いに何が何だかわからずに見つめあっていると、

「真琴、とりあえず中に入ろう」

と砂川くんの隣にいた男の人がさっと砂川くんを抱きかかえて部屋の中に入ってきて、僕たちの向かいに座った。

「えっと、あの……これって、どういうことですか?」

まだ何が何だかわからない僕と違って、砂川くんはちょっと冷静になったようで問いかけてくるけれど、僕は何もわからない。すると砂川くんの隣にいた人が、

「シンを紹介するって言っただろう? だからこの店に来たんだ」

と答えた。

シンって、慎一さんのこと?

「それはわかりましたけど、どうしても田淵くんも?」

「それはシンから説明があるだろう。なぁ、シン」

砂川くんの隣の人は少し笑顔を浮かべながら慎一さんに声をかけた。すると慎一さんは隣に座る僕の肩に手を回してギュッと慎一さんの方に抱き寄せた。

「砂川くん、驚かせて悪いけど伊月くんは俺の恋人なんだ。今日は君にそれを伝えたくて連れてきたんだよ」

「えーーーっ!!」

慎一さんの言葉に外まで聞こえるんじゃないかと思うほどの大声をあげる砂川くんを、僕だけがまだ何もわからない状態でぼーっと見つめていた。
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