何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

文字の大きさ
34 / 45

おねだりと驚き

しおりを挟む
「この子……慎一さんがプレゼントしてくれたスマホケースのワンちゃんにそっくりです」

僕の言葉に慎一さんは嬉しそうに笑ってくれた。

「僕、この子がいいです」

両親にだって欲しいものをねだったこともないけど、慎一さんの笑顔を見たら、スッとその言葉が出た。
言ってしまった後でドキドキしたけど、慎一さんは笑顔でこの子にしようと言ってくれた。
そして並べられていた棚から僕が選んだワンちゃんを取り出してくれた。
近くで見ると思っていたよりも大きくてびっくりしたけれど抱っこするとまるで本物のワンちゃんのような抱き心地に驚いてしまった。

可愛くてたまらない。
ギュッと抱きしめていると、慎一さんが茫然とした表情を向けて僕を見ていることに気がついた。

気になって名前を呼びかけると、ハッとした表情をしながら、僕がぬいぐるみを抱っこしているのが可愛かったからと言ってくれた。慎一さんからそんなことを言われて照れてしまうけど、でも嬉しい。

慎一さんはすぐに店員さんを呼んで、僕の腕の中にいるワンちゃんを買いたいと声をかけてくれた。すると店員さんは少し言いづらそうにしながら、ゆっくりと口を開いた。

「実はこの子は、こっちの子と対になっている子なんですよ。もしよかったらこの子も一緒にお連れになりませんか?」

教えられた子は、このワンちゃんが寄りかかっていた大きなワンちゃん。
この子、慎一さんに似てるなって思ったんだよね。流石に大きいから連れて帰るの大変そうだなって思ってたんだけど、そっか……ペアの子だったんだ。

でも一緒に連れて帰るなんてできるのかな?

お金だって二倍以上するはずなのに……。

だけど慎一さんはそんなこと気にするそぶりもなく、

「じゃあ、この子もお願いします」

と言ってくれた。

あまりにも即決すぎてびっくりしたけど、構わないと言ってくれて嬉しかった。
ずっと欲しいと思っていたぬいぐるみのお友だちが一気に二人もできるなんて、僕幸せすぎるな。

この子たち、二人とも配送にしていいかと言われて、一瞬悩んだけど流石にこの大きな子たちを抱えたままご飯を食べに行けないもんね。

「今、配送をお願いしたら俺たちが家に着く頃にはもう到着してるよ」

「そうなんですね。わかりました」

離れがたかったけど、僕は素直に配送してもらうのをお願いした。

僕が棚に並べられていた可愛いぬいぐるみくんたちを見ている間に、さっと慎一さんが支払いを済ませてくれて、僕たちはお店をでた。

「ランチに予約している店があるんだ。ここから近いからそろそろ行こうか」

予約しないと入れないお店? 僕、そんなお店に行ったことない……。
どうしよう、すごいお店だったら……。

気になって、予約しないと入れないお店かを尋ねてみたけれど、当日でも一応入れるお店みたい。
時間を有効に使いたいっていう慎一さんの言葉が社会人ぽくてかっこいいなと思った。

ここから歩いていけるお店か……。

どこもかしこもキラキラ輝いててどこに入っても驚きそうだな。

ちょっと緊張してきちゃった。そのお店って一体どこにあるんだろう……。

ドキドキしながら歩いていると、急に慎一さんが立ち止まった。

「ここだよ」

そう教えられたお店は、僕の知っているお店の入り口とは全く違っていた。
何も知らなければ素通りしてしまうようなそんな入り口。それにただただ驚きしかなかった。

「わかりにくいから穴場なんだ」

慎一さんのその一言になるほどと納得してしまう。
誰も知らないけど自分だけが知っている秘密基地のようなお店。なんか楽しそう!

慎一さんに手を引かれ、お店の中に入るとすぐにお店の奥からピシッと着物を着こなした女性がやってきた。

「お待ちしておりました。お部屋にご案内いたします」

慎一さんは名前も何も告げていないのに、慎一さんの顔を見ただけで部屋に案内してくれる。
それだけ慎一さんがこのお店によくきているってことなんだろう。すごい、やっぱり大人だな。

案内された部屋は二人で過ごすにはものすごく広い部屋。
多分僕が一人で住んでいた部屋より広そう。しかも部屋の中央にあるテーブルは下が空洞になっていて、こういうのなんていうんだっけ……ああ、掘り炬燵だ。テレビか何かで見た覚えがある。
僕は正座には慣れているけれど、慎一さんみたいに足が長い人は正座も大変そうだから、こういうテーブルが合うんだろうな。

慎一さんは掘り炬燵になれない僕のために、隣に並んで座ってくれた。本当に優しい。
でもやっぱりこのお店の雰囲気、緊張しちゃうな。

しばらくして、さっきの店員さんの声が聞こえた。
あ、注文取りに来てくれたのかな? 

「はい。どうぞ」

慎一さんが襖の向こうに向かって声をかけると、スーッと襖が開いた。

「えっ?」

てっきりあの店員さんが出てくると思っていた僕の目に飛び込んできたのは、なぜか砂川くん。そして、その隣にはどこかで見たことのある人……えっと、どこだっけ?

っていうか、そもそもどうして砂川くんが??

頭の中がハテナばっかりで何も考えられない。
でもそれは砂川くんも同じだったみたいだ。

「あ、田淵くん? どうして、ここに?」

「砂川くんこそ、どうして? えっ? どういうこと?」

お互いに何が何だかわからずに見つめあっていると、

「真琴、とりあえず中に入ろう」

と砂川くんの隣にいた男の人がさっと砂川くんを抱きかかえて部屋の中に入ってきて、僕たちの向かいに座った。

「えっと、あの……これって、どういうことですか?」

まだ何が何だかわからない僕と違って、砂川くんはちょっと冷静になったようで問いかけてくるけれど、僕は何もわからない。すると砂川くんの隣にいた人が、

「シンを紹介するって言っただろう? だからこの店に来たんだ」

と答えた。

シンって、慎一さんのこと?

「それはわかりましたけど、どうしても田淵くんも?」

「それはシンから説明があるだろう。なぁ、シン」

砂川くんの隣の人は少し笑顔を浮かべながら慎一さんに声をかけた。すると慎一さんは隣に座る僕の肩に手を回してギュッと慎一さんの方に抱き寄せた。

「砂川くん、驚かせて悪いけど伊月くんは俺の恋人なんだ。今日は君にそれを伝えたくて連れてきたんだよ」

「えーーーっ!!」

慎一さんの言葉に外まで聞こえるんじゃないかと思うほどの大声をあげる砂川くんを、僕だけがまだ何もわからない状態でぼーっと見つめていた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...