何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

文字の大きさ
上 下
25 / 42

恋人だから……

しおりを挟む
「僕、この薄い卵で巻くオムライスが好きなんです」

今はとろとろの卵がかかったオムライスも多いけど、僕にとってオムライスは薄い卵で巻いてあって上にケチャップがかけられたものというイメージが強い。それはおばあちゃんのオムライスがそうだったから。

今まで誰にもその話をしたことがなくて、でも真一さんが僕の好みのオムライスを作ってくれたことが嬉しくて、つい言ってしまった。

そうなんだーって言われるかなって思ってた。
でも慎一さんの口から出たのは、「知ってる」という言葉。

あれ? 僕、気づかない間に言ってたっけ?
でも今までオムライスの話になったことはなかったはずなのに。

「伊月くんのことならなんでも知ってるよ。俺は伊月くんの恋人だからね」

びっくりした僕に慎一さんはそう言ってくれた。
慎一さんが僕の恋人だから……。ああ、なんて嬉しい響きなんだろう。

「僕も、慎一さんのこと……何でも知りたいです……恋人、ですから……」

口に出すのは少し恥ずかしかったけれど、慎一さんは僕の言葉に嬉しそうに笑って抱きしめてくれた。
ああ、本当に僕……慎一さんの恋人なんだ。幸せすぎて怖いな。

「ふぅ……お腹いっぱいです。オムライスもミックスフライもすっごくおいしかったです。あのカニクリームコロッケも、カニがいっぱいでびっくりしました」

「伊月くんに満足してもらえて良かったよ。またいつでも作るからね。ああ、今度は<ミモザ>にも食べに行こうか。俺が作ったものと食べ比べてみてよ」

「はい。でも……僕はきっと、慎一さんが作ってくれたものが美味しいと思います」

素直な気持ちを告げると、慎一さんは嬉しそうに笑ってくれた。

「片付けるからそこで休んでいて」

「僕も手伝います!」

「そう? じゃあ、お願いしようかな」

二人でキッチンに並ぶと、家のキッチンよりずいぶん高いことに気づく。きっと慎一さん仕様になっているんだろうな。
僕が使う時は踏み台でもおいたほうがいいかな?

なんて考えていると、

「これ、拭いてもらっていい?」

と大きな鍋とボウルを渡される。

「はい。任せてください!」

慎一さんに頼まれたのが嬉しくて水滴ひとつ残らないように丁寧に拭き終わると、

「ありがとう。おかげで片付けも終わったよ」

と笑顔を向けられる。

「えっ?」

僕があれだけ拭いている間にシンクはピッカピカになっていて、食洗機も動いている。
慎一さんって凄すぎる……。

「食後のデザートにプリンあるよ。食べる?」

「慎一さんの手作りですか?」

「ああ。もちろん!」

「食べたいです!」

お腹がいっぱいでも慎一さんが作ってくれたものなら絶対に食べたい。

慎一さんは冷蔵庫からプリンを取り出すと、僕の手を取ってソファーに連れて行ってくれた。

「さぁ、どうぞ召し上がれ」

「いただきます」

スプーンを入れるとわかる。僕の好きな少し硬めのプリンだ。

慎一さんが食べさせてくれたあのプリンによく似ている。うん、すっごく美味しい!

「すごく美味しそうに食べてくれるね」

「はい。だってすっごく美味しいです」

「そうか、それなら良かった」

プリンを三分の一ほど食べたところで、

「明日は、これからこの家で暮らすにあたって必要なものを買いに行こう」

と提案された。
でも必要なものと言われてももう全部揃っている気がする。
学校も休みだし、家で過ごす時間が多いからと言ってくれるけれど、それならなおのこともう全部揃いすぎてるから僕のために買い物なんて必要ない。

「これ以上買ってもらうなんて……」

申し訳なく思っていると、慎一さんは困ったように笑って口を開いた。

「ごめん、ちょっとカッコつけた」

カッコつけた? えっ? どういうことだろう?

「恋人になった伊月くんと買い物に託けてデートしたいだけなんだ。一緒に、出かけてくれる?」

ぼ、僕が……慎一さんと、デート……。そっか。恋人だから、デートできるんだ……。
嬉しい! 嬉しすぎる!!

「はい。僕も、慎一さんとデート、したいです……」

「やった!!」

僕の言葉に子どもみたいに喜んでくれた慎一さんをみて、本当に僕のこと好きなんだと思うと嬉しくてたまらなくなっていた。


「はい。これ、着替えね」

お風呂場に案内されて、着替えを渡される。
病院でも使っていたのと同じものだ。

病院で毎日僕のお見舞いに来てくれるたびに僕の出した汚れ物を持って帰ってくれていたことに気がついた時に、申し訳なく思っていたけれど、自分の洗濯物を洗うのと手間は変わらないからと言われて結局ずっとやってもらってたんだよね。
そのおかげで毎日綺麗な下着を身につけることができて嬉しかった。

しかも事故の前に僕が履いていたパンツと違って、すごく穿き心地が良くてこんなにも違うんだってびっくりした。
いつも穿いていたのはゴムのところがすぐに赤くかぶれてしまうからわざと緩めにして穿いてたけど、その分、穿き心地は悪かったけど、被れるよりマシだって言い聞かせてた。
でも最初の砂川くんが用意してくれた下着も、慎一さんの下着もかぶれたりしないかったな。
あれ? そういえば、砂川くんが用意してくれた下着はどこ行ったんだろう?
もしかしたら転院した時にどこかに無くしちゃったのかな? 後でもう一度荷物を探してみようかな。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

処理中です...