何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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僕だけのために

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僕は砂川くんが退院祝いに会いたいと言ってくれていることと、宮古島の実家に帰省していたという話を慎一さんに伝えた。

「それで、いつ会えるかなって……慎一さんに聞いてから返事しようと思って……」

「そうか。うちに来てもらえるならいつでも構わないよ」

優しい慎一さんならそう言ってくれると思っていた。でも、

――俺は自分の空間に他人を入れるのが落ち着かないんだ

って言ってたから、慎一さんが嫌がることはしたくない。

それでも僕の友人ならいいと言ってくれたけど、僕もこの部屋は慎一さんと二人だけの領域にしておきたいと思ってしまう。こんなこと今まで思ったこともなかったけど、なぜかそう思ったんだ。

正直にそれを告げると、慎一さんは一瞬驚きの表情を見せたけれど、それならと代替案を教えてくれた。
このマンションには来客が来た時の専用のお部屋があるらしい。おしゃべりをするだけでなくそこに泊まることも
できるんだって。なんだか自分の部屋を二つ持っているみたいで不思議だ。でもそこなら何も気にすることなく砂川くんと会えるかな。

「じゃあ、砂川くんにそう提案してみます」

僕の言葉に慎一さんは笑顔を見せて、夕食の準備を始めた。

今日はミックスフライを食べてみたいっていう僕のリクエストを慎一さんが叶えてくれるんだ。
だからすごく楽しみ。手伝いたいと思ったけど、今日は僕のお祝いだからと言われてフォークやスプーンだけ手伝いをさせてもらって、あとは慎一さんが料理を作るのを眺めることになった。

料理をしている慎一さんは無駄のない動き。何かを作っている間に、他のこともできていてすごい。
慎一さんの手際が良すぎて僕も料理できますというのが恥ずかしくなるくらいだ。

僕の場合は何品も同時に作るってことがなかったから当然だけど、それでもいつかは慎一さんのために何品も同時に作れるようになりたいなと思う。

フライパンを手際よく動かした横で、フライをあげていく。
ジュワジュワと揚げ物の揚がる音と一緒に香ばしい香りが漂ってくる。

うちで揚げ物の匂いなんて嗅いだことがなかったから、それだけで感動する。
揚げたてって美味しいんだろうな。ああ、匂いだけで涎が出そう。

漂ってくる匂いがどれも美味しそうで幸せに浸っていると、

「はい。伊月くん。どうぞ」

と慎一さんが僕の目の前にお皿を置いてくれた。

「――っ!! すごいっ!! ミックスフライだ!! それにオムライスも!!」

ずっと食べてみたいと思っていたあの<ミモザ>のミックスフライと全く同じものが目の前にある。
しかも、大好きな薄焼きたまごのオムライスまでついている。

これって夢じゃない?

「これ……僕が、本当に食べていいんですか?」

あまりにも豪華な食事が目の前にあるのが信じられなくて尋ねると

「もちろんだよ。伊月くんのためだけに作ったんだから。退院おめでとう。二ヶ月間もよく頑張ったね」

と笑顔で言ってくれた。
僕のためだけに……そんなこと、初めて言われた。

実家では気づいたら手料理なんて出てこなくなってた。
小学生の時から家に帰った時にはおにぎりやお弁当、菓子パンが置かれていたし、それも次第にお金が置かれるように変わってしまった。

だから僕にとっての懐かしい味は家の近くになったスーパーの惣菜。
あとは遠い昔、おばあちゃんに作ってもらっていたオムライスの味。それだけ。

だから目の前の手料理が嬉しくてたまらない。

「――っ、ありがとうございます! 慎一さん!!」

お礼を言って、僕は食べてみたかったエビフライに手を伸ばした。フォークで刺すとあまりの弾力の強さに驚く。
スーパーの惣菜で食べたことがあるエビフライとは全然違う。

ドキドキしながら口に入れると、あまりにも大きくて先っぽのところしか入らなかったけれど、そこを齧ってみた。

「――っ!!」

これ、が、エビフライ?

今まで食べたことあるエビフライと違いすぎて、おかしくなってしまいそう。
それくらい慎一さんの作ってくれたエビフライが美味しくてたまらなかった。

「このエビフライ!! すっごく美味しいです!!」

子どもみたいな感想しか言えなかったけれど、慎一さんは隣で優しく微笑んでくれた。

「そんなに喜んでもらえてよかったよ。オムライスも喜んでもらえるといいな。はい、あーん」

当たり前のように目の前に差し出されて一瞬戸惑ったけれど、せっかく出してくれてるんだ。
ドキドキしつつも口を開けると、慎一さんが口の中に入れてくれた。

「んっ! 美味しい!!」

記憶の中にあるおばあちゃんのオムライスのような優しい味が口の中に広がった。
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