何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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優しく甘い嬉しい匂い

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いい匂いがする。
この匂いが僕を安心させてくれる。

ああ、ほらまた匂いが強くなった。

その優しく甘い嬉しい匂いに包まれて、僕はまた深い眠りに落ちていく。

「可愛いなぁ……」

そんな声が聞こえた気がした。
大好きな声に反応するように目を開けると、寝る時と同じく優しい笑顔の慎一さんが見えた。

起きてすぐにおはようと声をかけてもらえるのが嬉しい。
だって今までそんなことなかったから。

抱きしめてくれる慎一さんから夢の中と同じ匂いがする。
ああ、やっぱりあの優しくて甘い、包まれているだけで嬉しくなる匂いは慎一さんの匂いだったんだな。

「いい匂いが、夢の中までしてました。これ、慎一さんの匂いだったんですね」

嬉しくて慎一さんの胸元に擦り寄って匂いを嗅ぐと、どんどん幸せを感じる。
僕の好きな匂いは慎一さんだな。

ギュッと抱きついていると、少し慎一さんの身体に力が入っている気がした。僕が強く抱きつきすぎたからかな?
気になって慎一さんにどうかしたか聞いてきたけどなんでもないと返される。僕の勘違いだったかな?

「俺の匂い、好き?」

「はい。すっごく安心します」

なんでもなかったように質問されて正直に答えると慎一さんの頬が緩んだ気がした。よかった、匂いを嗅いでも怒られないみたい。

「伊月くんはもう少し休んでいて。俺は夕食の準備をしてくるよ」

そう言ってベッドから出て行こうとするのが寂しくて、夕食作りを手伝いたいと言ったけれど、やんわりと断られてしまう。慎一さんは優しいから僕に無理をさせないようにと思ってくれているんだろうけど、今は慎一さんと一緒にいたい。

でも迷惑なのかな?

いつもなら言えない言葉だけど、慎一さんになら言える気がする。
だって僕の全てを包み込んでくれそうだもん。

ドキドキしながら迷惑ですか? と尋ねると、そんなことないよと言ってくれた。それなら一緒に行けるかなと思っていたら、このタイミングでスマホに何か通知が来ていたと教えられた。

渡されたスマホには砂川くんの名前が表示されていて、どうやらメッセージが来ているみたい。

優しい慎一さんは僕にスマホを手渡すと

「ゆっくりしてて。俺は先に準備しておくよ」

と言ってベッドを降り、部屋を出ていった。

一緒にいられないのはちょっと寂しかったけれど、砂川くんからのメッセージはすぐに読みたいし、返事も返したいもんね。

何が書かれてるんだろう……。

身体を起こしスマホの表示を見るとメッセージがいくつかきていて写真も何枚か入ってる。うわ、なんだろう。楽しみ。

ドキドキしながらメッセージを開くと、

<今日、退院だったよね? おめでとう! あまり病室にお見舞いに行けなくてごめんね。元気になった田淵くんに会いに行きたいけど都合はどうかな? 実は少し前まで兄さんと宮古島に帰省していたんだ。田淵くんにもお土産買ってきたから渡すね。都合がいい日を教えてね>

と書かれていた。

お土産なんて気にしなくんにもよかったけど、砂川くんのその気持ちが嬉しいな。
僕の退院のこと、覚えててくれてたんだな。

<宮古島はずっといい天気で、海に行ったりお祭りに行ったり、もちろん実家の手伝いもしてきたよ>

宮古島のお家ではマンゴーを作ってるって言ってたもんね。
前にお弁当のデザートに持ってきてたことがあって、一つもらったけどびっくりするくらい甘くて美味しかった。
あれが僕の人生で初めてのマンゴーだったけど、あんなに美味しい果物があるんだって初めて知ったんだ。

<これがうちのマンゴーだよ>

というメッセージの次に出てきたのは砂川くんの手のひらよりも大きくて丸々とした赤い実。

「うわっ! おっきぃ!」

砂川くんがくれた切り分けられたものしか見たことがなかったけど、こんなに大きなものなんだ。
前にスーパーで見たメキシコ産だったか、どこかのマンゴーとは大きさも色も違う。

写真でも美味しそうに見えるんだから、あんなに美味しいのも当然だな。

<すごーい! 前に食べさせてくれたマンゴーだよね! 写真だけでも美味しそうだよ!! 宮古島のお土産話いっぱい聞かせてね。会えるのを楽しみにしてる。都合がいい日が決まったら連絡するね。メッセージありがとう!!>

慎一さんに聞かないといつ会えるかはわからないから、とりあえず既読スルーにならないようにそのメッセージと可愛いうさぎがお辞儀をしているスタンプだけ送って寝室をでた。

こっちがキッチンだったよねと思いながら向かうと、慎一さんはすぐに僕がきたのに気づいて、

「砂川くん、なんだって? 退院するって伝えてた?」

と声をかけてくれた。
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