何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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慎一さんと共に……

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慎一さんは、それからこれまでの自分のことと夢について僕に教えてくれた。

僕が事故に遭って入院したばかりの頃、僕を尋ねて弁護士さんがやってきた。あの時は、いろんなことを聞かれるがままに話をしてしまって、あまりの緊張にその弁護士さんのことをよく覚えていないけれど、優秀そうな人だっていうのは覚えていた。

その人は慎一さんの一つ上の先輩で、お医者さんと弁護士さんという二つの資格を持っているすごい人だったみたい。
慎一さん自身も獣医さんの勉強をしながら弁護士さんの勉強もしていて、その縁で知り合いになったそうだ。

僕なんか経済学の勉強だけでも必死なのに、ダブルライセンスなんて凄すぎる。やっぱり慎一さんもあの弁護士さんもすごく優秀な人なんだな。

「俺は大学卒業して司法修習を終えてからは、獣医師として動物病院で雇われで働いてたんだけど、成瀬さんが独立して法律事務所を開いた時に声をかけてもらったんだ」

慎一さん自身は弁護士ではなく動物に関する仕事をしたかったんだから、弁護士さんに声をかけられるのは自分の気持ちに合ってなかったんじゃないかな?
それでも先輩の言うことを聞くしかなくて仕方なく? と少し心配になってしまったけれど、

「表立って調査できないところに入り込んで裏事情を探るのが仕事。そういう時に弁護士の資格を持っていると調査しやすくてね、成瀬さんの声かけに乗ったんだ」

と弁護士ではなく探偵や調査員としてのお仕事だったと聞いて、さらに心配になってしまった。

「でも、せっかく獣医師さんとして働いていたのに……慎一さんはそれでよかったんですか?」

どうしても聞かずにはいられなくて尋ねると、慎一さんは笑って教えてくれた。

「俺にはブリーダーになるって夢があるって言っただろう? それを実現させるための人脈作りとかしたかったし、時間にゆとりのある働き方は俺にとっても好都合だったし、それに……伊月くんや砂川くんみたいに、困っているのに法律ではまだ手を出せない状況の子たちを守れるように証拠を集めて、悪い奴を捕まえて罪を償わせるのは良いことだって思ったんだ。元々、成瀬さんが俺に調査員という仕事を頼んできたのも困っている人を助けたいっていう思いからだからね。そのために俺の力が必要だっていうなら、助けになりたかったんだ」

困っている人を助けたい……。それはすごく素敵なことだし、僕自身も慎一さんに助けてもらって心強かった。
だけど、探偵とか調査員とか聞くとどうしても心配になってしまうことがある。

「慎一さん……でも、危なくないんですか? 僕……慎一さんに怪我はしてほしくないです」

自分が怪我をして辛かったから、慎一さんにはそんな思いしてほしくない。
でも慎一さんは僕の気持ちを理解してくれたのか、絶対に危ない目には遭わないと約束してくれた。

慎一さんが嘘をつかないってわかっているからこその約束だ。だったら、僕はそれを信じよう。

「俺は、調査員の仕事をしてよかったって思ってるんだよ」

笑顔でそう語る慎一さんに理由を尋ねると、僕に出会えたからと言ってくれた。

これだけでもう僕は十分だ。僕は一生、慎一さんと共に生きる。
そんな覚悟ができた瞬間だった。

「慎一さん……」

慎一さんともっと触れ合いたくなって、名前を呼ぶと慎一さんが僕の名前を呼びながら近づいてくる。
もしかして、慎一さんも僕と触れ合いたいと思ってくれてる?

でも言葉にするのは恥ずかしくて、そっと目を閉じた。

自分の勘違いじゃなければいい。ドキドキしながら、待っていると僕の唇に今までに感じたことのない感触を覚えた。

何度も下唇を甘噛みされるたびに身体の奥がきゅんと疼く。なんだろう、この感覚……。
わからないけど、気持ちがいい。

「んっ……」

自分の声とは思えない声が出て少し恥ずかしかったけれど、それを抑えることもできずそのまま慎一さんとのキスを続けた。

すごく気持ちが良くてずっとして欲しいのに、息が続かなくて

「んんっ……」

と声をあげてしまったら、ゆっくりと慎一さんの唇が離れていった。と同時に息が吸えて苦しさは無くなったけれど、やっぱりちょっと寂しい。

「ごめん、最初から無理させて……」

「そんなこと……っ、僕……気持ちよかったです」

「――っ!! そうか、それならよかった。伊月くん、今日は久しぶりに外に出て、一気にいろんな話を聞いて疲れただろう?」

「少しだけ……でも、大丈夫です」

「ううん。無理はだめって言っただろう? 少し休んだほうがいいよ」

「はい。なら、慎一さん。そばにいてくれますか?」

「ああ。もちろん」

その言葉にホッとする。慎一さんのベッドの中に入ると、ふわっと慎一さんの匂いに包まれる。
そして僕の隣に慎一さんが横たわってくれて、もっと強い匂いに包まれる。
ああ、これすごく幸せだ。

「おやすみ」

「はい。おやすみなさい」

慎一さんの笑顔を見て目を瞑り、僕はあっという間に眠ってしまっていた。
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