17 / 42
内緒にしていたこと
しおりを挟む
とりあえず中に入ろうと言われ、混乱しながら中に入るとそこはリビング。
明るい光と大きな窓に迎え入れられてもう驚きしかなかった。
窓の外には東京の景色が一望でき、初めて見る光景に感動してしまう。
好きに過ごしておいてと声をかけられたけれど、僕はその場から離れることができなかった。それほどまでにここからの景色は僕を惹きつけた。
「景色、気に入った?」
いつの間にか戻ってきた河北さんに尋ねられても尚、そこから離れられずに見入っていると、
「砂川くんちに行ったことはなかったの?」
と尋ねられる。
砂川くんち?
確かにこれまで何度か家で勉強しようと誘われたことはあったけれど、砂川くんが住んでいるお家がお兄さんが勤めている会社の社長さんから借りているお家だと聞いていたから、迷惑をかけてしまったら申し訳なくて今までお邪魔することはなかった。
僕のアパートには狭くて気疲れさせちゃうだろうと思って呼ぶこともできなかったし、こちらが呼べないのに砂川くんの家に行くなんてことはできなかった。
だから二人で勉強するときはもっぱら図書館。図書館には個室の勉強ルームがあるからそこだと気兼ねなくレポートを書けるし、必要な資料もすぐに図書館で探せるし、ものすごく都合がよかった。
だから、今でもお互いどんな家に住んでいるのかは知らないな。
でも河北さんが今、砂川くんの話題を出したっていうことは、結構高さがある部屋に住んでいるんだろう。
この景色を見た後だから、ちょっと行ってみたいなと思ってしまうな。
河北さんには砂川くんが誘ってくれたけど、迷惑かけちゃいけないと思って自分から断っていたと話した。だって、本当にその通りだもんね。
「さぁ、おいで。ジュースとお菓子があるよ」
僕のために用意してくれたんだと思うと、待たせちゃいけないと思って慌てて河北さんのところに行こうとすると、足がもつれて転びそうになってしまった。今までならこんなことはなかったけれど、やっぱり治っていると思ってもまだまだなんだろう。
――伊月くんはすぐに無理するから、気をつけてね。
尚孝くんのそんな声が聞こえるような気がする。
このまま転んでしまうと思ったのに、優しい腕に抱きしめられて思わず「ひゃっ!」と声が出た。
「ダメだよ。まだ足がしっかり治ったわけじゃないんだから。ここでは焦らなくていいからね」
尚孝くんと同じように河北さんにも優しく注意されて、僕は頷くしかなかった。
そのままソファーまで連れて行かれて優しく下ろされ、河北さんは僕の隣にそっと腰を下ろした。
まだ河北さんに抱きかかえられた感触が残っててドキドキする。
目の前のお菓子を食べてと勧められても喉を通らないかもと思って、ジュースが入ったグラスを手に取った。
わっ! 何これ、美味しい!!
まるで桃を食べているような味に驚きしかない。
「――っ、おいしいっ!」
もっとちゃんと味を言えたらいいのに、あまりにも美味しくて美味しいとしか言えない。
それでも河北さんは笑顔を見せてくれた。しかも僕のためにたくさん用意したとまで言ってくれて申し訳なさでいっぱいになるけれど、
「田淵くんが喜ぶのが見たくて買ったんだ。だから美味しいって言ってくれるだけで嬉しいよ」
と優しい言葉をかけてくれる。僕はどれだけ河北さんに恩返しをしたらいいのかもわからなくなっていた。
「河北さん……」
そう名前を呼ぶと、少し河北さんの顔が強張るのを感じた。何か変なことを言っただろうか? と不安になっていると、
「あのね、今日からここで田淵くんに住んでもらうから、いろいろ話をしておきたいことがあるんだけど」
と言われた。
確かに一緒に住むとなったらルールも必要だし、河北さんが過ごしやすいように僕も守らないとな。
「はい。なんでも言ってください。僕、頑張ります」
「そんな気を張らなくていいよ。実は……田淵くんに内緒にしていたことがあるんだ」
気合を入れた僕に、河北さんからそんな言葉が返ってきた。
僕に内緒にしてたこと? 一体なんだろう?
「河北さんが、僕に? なんですか?」
気になって尋ねると少し言いにくそうにしながら
「その名前だよ。本当は俺……河北じゃないんだ」
と想像していなかった答えが返ってきた。
河北じゃない? どういうこと?
頭の中がハテナでいっぱいだったけど、説明をしてくれたらすぐに納得できた。
内偵調査のために本名を使えなくて、事件が解決しても訂正するチャンスがなかなかなかったらしい。
確かに一度自己紹介をしたら、実は……というのは、いくら理由があったとしても話しにくいだろう。
「騙すようなことになってごめん」
そう謝られたけれど、僕は騙されたなんて何も思ってない。
河北さんが僕に優しくしてくれたのは変わらないのだから。
「あの……じゃ、お名前はなんて言うんですか?」
「俺は甲斐慎一だよ」
甲斐慎一……かっこよくて、河北さんより甲斐さんの方が似合ってるな。
明るい光と大きな窓に迎え入れられてもう驚きしかなかった。
窓の外には東京の景色が一望でき、初めて見る光景に感動してしまう。
好きに過ごしておいてと声をかけられたけれど、僕はその場から離れることができなかった。それほどまでにここからの景色は僕を惹きつけた。
「景色、気に入った?」
いつの間にか戻ってきた河北さんに尋ねられても尚、そこから離れられずに見入っていると、
「砂川くんちに行ったことはなかったの?」
と尋ねられる。
砂川くんち?
確かにこれまで何度か家で勉強しようと誘われたことはあったけれど、砂川くんが住んでいるお家がお兄さんが勤めている会社の社長さんから借りているお家だと聞いていたから、迷惑をかけてしまったら申し訳なくて今までお邪魔することはなかった。
僕のアパートには狭くて気疲れさせちゃうだろうと思って呼ぶこともできなかったし、こちらが呼べないのに砂川くんの家に行くなんてことはできなかった。
だから二人で勉強するときはもっぱら図書館。図書館には個室の勉強ルームがあるからそこだと気兼ねなくレポートを書けるし、必要な資料もすぐに図書館で探せるし、ものすごく都合がよかった。
だから、今でもお互いどんな家に住んでいるのかは知らないな。
でも河北さんが今、砂川くんの話題を出したっていうことは、結構高さがある部屋に住んでいるんだろう。
この景色を見た後だから、ちょっと行ってみたいなと思ってしまうな。
河北さんには砂川くんが誘ってくれたけど、迷惑かけちゃいけないと思って自分から断っていたと話した。だって、本当にその通りだもんね。
「さぁ、おいで。ジュースとお菓子があるよ」
僕のために用意してくれたんだと思うと、待たせちゃいけないと思って慌てて河北さんのところに行こうとすると、足がもつれて転びそうになってしまった。今までならこんなことはなかったけれど、やっぱり治っていると思ってもまだまだなんだろう。
――伊月くんはすぐに無理するから、気をつけてね。
尚孝くんのそんな声が聞こえるような気がする。
このまま転んでしまうと思ったのに、優しい腕に抱きしめられて思わず「ひゃっ!」と声が出た。
「ダメだよ。まだ足がしっかり治ったわけじゃないんだから。ここでは焦らなくていいからね」
尚孝くんと同じように河北さんにも優しく注意されて、僕は頷くしかなかった。
そのままソファーまで連れて行かれて優しく下ろされ、河北さんは僕の隣にそっと腰を下ろした。
まだ河北さんに抱きかかえられた感触が残っててドキドキする。
目の前のお菓子を食べてと勧められても喉を通らないかもと思って、ジュースが入ったグラスを手に取った。
わっ! 何これ、美味しい!!
まるで桃を食べているような味に驚きしかない。
「――っ、おいしいっ!」
もっとちゃんと味を言えたらいいのに、あまりにも美味しくて美味しいとしか言えない。
それでも河北さんは笑顔を見せてくれた。しかも僕のためにたくさん用意したとまで言ってくれて申し訳なさでいっぱいになるけれど、
「田淵くんが喜ぶのが見たくて買ったんだ。だから美味しいって言ってくれるだけで嬉しいよ」
と優しい言葉をかけてくれる。僕はどれだけ河北さんに恩返しをしたらいいのかもわからなくなっていた。
「河北さん……」
そう名前を呼ぶと、少し河北さんの顔が強張るのを感じた。何か変なことを言っただろうか? と不安になっていると、
「あのね、今日からここで田淵くんに住んでもらうから、いろいろ話をしておきたいことがあるんだけど」
と言われた。
確かに一緒に住むとなったらルールも必要だし、河北さんが過ごしやすいように僕も守らないとな。
「はい。なんでも言ってください。僕、頑張ります」
「そんな気を張らなくていいよ。実は……田淵くんに内緒にしていたことがあるんだ」
気合を入れた僕に、河北さんからそんな言葉が返ってきた。
僕に内緒にしてたこと? 一体なんだろう?
「河北さんが、僕に? なんですか?」
気になって尋ねると少し言いにくそうにしながら
「その名前だよ。本当は俺……河北じゃないんだ」
と想像していなかった答えが返ってきた。
河北じゃない? どういうこと?
頭の中がハテナでいっぱいだったけど、説明をしてくれたらすぐに納得できた。
内偵調査のために本名を使えなくて、事件が解決しても訂正するチャンスがなかなかなかったらしい。
確かに一度自己紹介をしたら、実は……というのは、いくら理由があったとしても話しにくいだろう。
「騙すようなことになってごめん」
そう謝られたけれど、僕は騙されたなんて何も思ってない。
河北さんが僕に優しくしてくれたのは変わらないのだから。
「あの……じゃ、お名前はなんて言うんですか?」
「俺は甲斐慎一だよ」
甲斐慎一……かっこよくて、河北さんより甲斐さんの方が似合ってるな。
619
お気に入りに追加
711
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる