8 / 42
河北さんがいない夜
しおりを挟む
「やぁ、田淵くん」
「えっ? 河北さん」
いつもはリハビリを終わったあとに来てくれるのに、今日はまだお昼前だ。どうしたんだろう?
「驚かせてごめんね。今日はちょっと夜に仕事で遠出するものだから、一緒に夕食が食べられなくて……その代わりと言ってはなんだけど、お昼を一緒に食べようと思ってきたんだ」
「あ、そうなんですか。遠出ってどこまでいくんですか? って、お仕事の話を聞いちゃダメですよね」
「いやいや、気にしないでいいよ。今日は名古屋まで行くんだ。田淵くんは名古屋、行ったことある?」
名古屋って、愛知だよね。僕はほとんど関東から出たことはないな。小学校の修学旅行は隣県だったし、中学校の時はインフルエンザで休んだし、高校は希望制だったから行かせてもらえなかったんだよね。公立高校だったから、割と行かない子も多くて特に何かを言われるわけじゃなくてよかったけど。北海道に行って楽しかったなんてクラスメイトが話しているのをみたらちょっと羨ましかったかな。
「いえ、ないです」
「そっか。じゃあ、美味しいお土産買ってくるね」
「あ、あの……」
「んっ? 何か、リクエストでもある? なんでもいいよ」
「あ、いえ、そうじゃなくて……気をつけて帰ってきてください」
「――っ、田淵くん。ああ、ちゃんと帰ってくるよ」
その笑顔にホッとする。ああ、そうだ。僕は河北さんが何か持ってきてくれるから嬉しいんじゃない。河北さんが来てくれることが嬉しくてたまらないんだ。
それからすぐにお昼ご飯が運ばれてきて、僕と河北さんの目の前に同じ料理が並ぶ。
「あ、これ。美味しくてまた食べたいなって思ってたやつです」
「そうか、楽しみだな」
夕食と昼食は割りと系統が違うから、河北さんも新鮮かもしれないな。
「ああ、美味しいな」
河北さんの笑顔を見ていると、いつも以上に美味しく感じられるのは昼食でも同じだったみたいだ。
「今日、夕食は一緒に食べられないけどリハビリの話はいつものように聞きたいから、メッセージ入れてくれたら嬉しい」
「わぁ、ぜひ送りますね!! 僕も河北さんに報告できると嬉しいです!!」
「じゃあ今日もリハビリ頑張って! 連絡待ってるよ」
河北さんに応援されて俄然やる気になった僕は、午後からのリハビリに河北さんからもらったお菓子を持って向かった。
そうしてリハビリをいつも以上に頑張った僕は、いつものお約束になった尚孝くんとのお茶の時間をテラスで過ごした。
「美味しそうな飲み物見つけたから一緒に飲みたくて持ってきたよ」
尚孝くんが保冷バッグから取り出したのは、ストロー付きの飲み物。ロイヤルミルクティと書かれていてとっても美味しそうだ。
「うちの近くに紅茶専門店ができてね。伊月くんと一緒に飲みたいなって思ったんだ」
「わぁ、美味しそう!! 今日のお菓子に合いそうだよ!!」
僕は河北さんからもらった焼き菓子を見せると、
「わ、マドレーヌだね。美味しそう!!!」
と笑顔を見せてくれた。
バターたっぷりのマドレーヌとロイヤルミルクティを味わいながら、今日も僕たちのお茶の時間は楽しく過ぎていった。
夜になって、久しぶりの一人の夕食を食べているとやっぱり寂しい。
お昼とお茶の時間が楽しかっただけに夜の一人は余計に寂しく感じられる。
実家でも、一人暮らしをしていた時も一人なんて普通だったのに、夜に河北さんと会えないだけでこんなに寂しいなんて……。退院したあと、河北さんのお家で働かせてもらうことが決まっていてよかったかも。
なんだかもう一人で夜を過ごせそうな気がしないな。
美味しい夕食だけど、寂しくてなかなか箸が進まない。でも残すのは嫌で必死に食べ進め、いつもよりもかなり時間をかけてご飯を食べ終わった。
そうだ! 今日のリハビリと尚孝くんとのお茶の時間の話を報告しておこう。
あのマドレーヌ、すっごく美味しくて尚孝くんも気に入ってくれたんだよね。あのロイヤルミルクティともピッタリですごく美味しかったな。
って、食べ物のことばっかりだ。
食いしん坊だって思われるかも……なんて思いながら、メッセージを書いて送った。
するとすぐに既読がついて、
<あのマドレーヌ、気に入ってくれて嬉しいよ。名古屋にも有名な焼き菓子があるからお土産にするね>
と返信が来た。
ああ、河北さんって本当に優しいな。
「えっ? 河北さん」
いつもはリハビリを終わったあとに来てくれるのに、今日はまだお昼前だ。どうしたんだろう?
「驚かせてごめんね。今日はちょっと夜に仕事で遠出するものだから、一緒に夕食が食べられなくて……その代わりと言ってはなんだけど、お昼を一緒に食べようと思ってきたんだ」
「あ、そうなんですか。遠出ってどこまでいくんですか? って、お仕事の話を聞いちゃダメですよね」
「いやいや、気にしないでいいよ。今日は名古屋まで行くんだ。田淵くんは名古屋、行ったことある?」
名古屋って、愛知だよね。僕はほとんど関東から出たことはないな。小学校の修学旅行は隣県だったし、中学校の時はインフルエンザで休んだし、高校は希望制だったから行かせてもらえなかったんだよね。公立高校だったから、割と行かない子も多くて特に何かを言われるわけじゃなくてよかったけど。北海道に行って楽しかったなんてクラスメイトが話しているのをみたらちょっと羨ましかったかな。
「いえ、ないです」
「そっか。じゃあ、美味しいお土産買ってくるね」
「あ、あの……」
「んっ? 何か、リクエストでもある? なんでもいいよ」
「あ、いえ、そうじゃなくて……気をつけて帰ってきてください」
「――っ、田淵くん。ああ、ちゃんと帰ってくるよ」
その笑顔にホッとする。ああ、そうだ。僕は河北さんが何か持ってきてくれるから嬉しいんじゃない。河北さんが来てくれることが嬉しくてたまらないんだ。
それからすぐにお昼ご飯が運ばれてきて、僕と河北さんの目の前に同じ料理が並ぶ。
「あ、これ。美味しくてまた食べたいなって思ってたやつです」
「そうか、楽しみだな」
夕食と昼食は割りと系統が違うから、河北さんも新鮮かもしれないな。
「ああ、美味しいな」
河北さんの笑顔を見ていると、いつも以上に美味しく感じられるのは昼食でも同じだったみたいだ。
「今日、夕食は一緒に食べられないけどリハビリの話はいつものように聞きたいから、メッセージ入れてくれたら嬉しい」
「わぁ、ぜひ送りますね!! 僕も河北さんに報告できると嬉しいです!!」
「じゃあ今日もリハビリ頑張って! 連絡待ってるよ」
河北さんに応援されて俄然やる気になった僕は、午後からのリハビリに河北さんからもらったお菓子を持って向かった。
そうしてリハビリをいつも以上に頑張った僕は、いつものお約束になった尚孝くんとのお茶の時間をテラスで過ごした。
「美味しそうな飲み物見つけたから一緒に飲みたくて持ってきたよ」
尚孝くんが保冷バッグから取り出したのは、ストロー付きの飲み物。ロイヤルミルクティと書かれていてとっても美味しそうだ。
「うちの近くに紅茶専門店ができてね。伊月くんと一緒に飲みたいなって思ったんだ」
「わぁ、美味しそう!! 今日のお菓子に合いそうだよ!!」
僕は河北さんからもらった焼き菓子を見せると、
「わ、マドレーヌだね。美味しそう!!!」
と笑顔を見せてくれた。
バターたっぷりのマドレーヌとロイヤルミルクティを味わいながら、今日も僕たちのお茶の時間は楽しく過ぎていった。
夜になって、久しぶりの一人の夕食を食べているとやっぱり寂しい。
お昼とお茶の時間が楽しかっただけに夜の一人は余計に寂しく感じられる。
実家でも、一人暮らしをしていた時も一人なんて普通だったのに、夜に河北さんと会えないだけでこんなに寂しいなんて……。退院したあと、河北さんのお家で働かせてもらうことが決まっていてよかったかも。
なんだかもう一人で夜を過ごせそうな気がしないな。
美味しい夕食だけど、寂しくてなかなか箸が進まない。でも残すのは嫌で必死に食べ進め、いつもよりもかなり時間をかけてご飯を食べ終わった。
そうだ! 今日のリハビリと尚孝くんとのお茶の時間の話を報告しておこう。
あのマドレーヌ、すっごく美味しくて尚孝くんも気に入ってくれたんだよね。あのロイヤルミルクティともピッタリですごく美味しかったな。
って、食べ物のことばっかりだ。
食いしん坊だって思われるかも……なんて思いながら、メッセージを書いて送った。
するとすぐに既読がついて、
<あのマドレーヌ、気に入ってくれて嬉しいよ。名古屋にも有名な焼き菓子があるからお土産にするね>
と返信が来た。
ああ、河北さんって本当に優しいな。
610
お気に入りに追加
711
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる