何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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わがままじゃない?

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「んっ? 今日はやけに嬉しそうだね」

「あっ、河北さん!」

リハビリを終えて部屋で寛いでいると、いつものように河北さんが来てくれて僕の顔を見るなり、そんな言葉をかけられた。

「何かいいことでもあった?」

「あの、今日尚孝くんとリバビリルームのテラスでお茶したんです」

「テラスって、ああ! あそこか。風通し良くて気持ちがいいよね」

「はい。昨日河北さんがお土産に持ってきてくれたお饅頭がすごく美味しかったから、尚孝くんと食べたくて持って行ったんですけど、僕……リハビリルームが飲食禁止だって知らなくて……」

「それで?」

「しかも、僕たちから物をもらっちゃダメだっていう決まりがあるらしくて、尚孝くんが叱られちゃうかもって心配だったんですけど、山野辺先生……すごく優しくて、テラスでお茶していいよって言ってくださったんです」

「そうか。それはよかったね」

「はい。尚孝くんから桜守大学のお話とか教えてもらって、僕も大学の話したりして……すっごく楽しかったです」

砂川くんの話をした時、すっごく優しい子だねって言ってくれたのも嬉しかったな。
なんだか尚孝くんにはなんでも話せる気がする。やっぱりリハビリの先生って話しやすい人が多いのかな。

「ずっと部屋にいると、あんまり人と話す機会がないから谷垣さんと話ができるリハビリの時間がいい気分転換になっているんだろうね」

「そうかもしれないです。だから、リハビリも楽しくて……それを山野辺先生にも言ったら、これから毎日テラスでのお茶の時間を作るって言ってくださったんです」

「へぇ、それはよかったね。じゃあ、これから谷垣さんと田淵くんの休憩用にお土産とは違うお菓子を持ってくるよ」

「えっ? でもそれじゃ河北さんが大変じゃ……」

美味しいお菓子も飲み物もなくても尚孝くんとリハビリのこと以外を話せる時間があるだけで僕は満足なのに、河北さんにそんな面倒なことさせられない。

「そんなこと気にしないでいいよ。言ったろう? 最近、お菓子を選ぶのが楽しいんだ。田淵くんが美味しいって言ってくれて、谷垣さんと楽しい時間が過ごせるならそれでいいんだよ」

「河北さん……」

「だから甘えて。ねっ」

「甘える……」

誰かに甘えるなんて考えたことなかったかも。両親にだって甘えた覚えもない。そもそも甘えるってどうしたらいいかもわからない。

「そう。田淵くんは甘えていいんだよ。なんでもしたいこと、欲しいものを言ってくれて構わないから」

「えっ、でもそんなわがままなこと……」

「そういうのはわがままとは言わないよ。だって、俺がしたくてしてるんだから。俺は田淵くんが願う通りにしたいだけだよ」

「僕が、願う通りに……」

「そう。だからなんでも言ってほしい。わがままだなんて絶対に思わないから」

「あの、じゃあ……ひとつだけ言ってみてもいいですか?」

「ああ! もちろん!!」

入院してからずっと思ってたことがあった。でもそんなこと言っちゃいけないって思ってたけど言ってもいいのかな……。

「あの、ダメならダメって言ってくださいね」

「ああ、わかった。それで、田淵くんの願いは何かな?」

「あの……夜ご飯を、河北さんと一緒に食べたいなって……」

「えっ? 俺と?」

やっぱりダメだったかな……。でも、河北さんが来てくれておしゃべりしながらお土産のスイーツを食べる時間がものすごく楽しいから、その分夜ご飯が寂しくて……。

大学に入って一人暮らしをする前から、実家でもずっと夕食は一人で食べることに慣れていたのにな。

でもやっぱり迷惑かな……。

「ごめんなさいっ、やっぱ――」
「もちろんいいよ!!」

「えっ? いいんですか?」

「ああ、もちろんだよ。というか、ずっと俺も一緒に食べたいと思ってたんだ。でも夕食はゆっくり食べたいかなって思ってたから遠慮してたんだよ。田淵くんが一緒に食べたいって言ってくれるなら喜んで食べるよ!! 早速今日から一緒に食べよう!!」

「今日から……?」

そんなことできるの? そう思った時には、河北さんは部屋を出てしまっていた。

あまりにも素早い行動に僕はただただ驚くしかなかったけれど、河北さんはすぐに部屋に戻ってきて、

「今日から一緒に食べられるようになったよ。あ、でも今日は急遽だったから病院の食堂のご飯をテイクアウトしたけど、明日からは田淵くんと同じメニューを食べられるからね」

と笑顔で教えてくれた。

それからしばらくして部屋に運ばれてきた二つの夕食。
河北さんの顔を見て、おしゃべりをしながら食べたご飯は今までで一番美味しく感じられた。
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