何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

文字の大きさ
7 / 45

わがままじゃない?

しおりを挟む
「んっ? 今日はやけに嬉しそうだね」

「あっ、河北さん!」

リハビリを終えて部屋で寛いでいると、いつものように河北さんが来てくれて僕の顔を見るなり、そんな言葉をかけられた。

「何かいいことでもあった?」

「あの、今日尚孝くんとリバビリルームのテラスでお茶したんです」

「テラスって、ああ! あそこか。風通し良くて気持ちがいいよね」

「はい。昨日河北さんがお土産に持ってきてくれたお饅頭がすごく美味しかったから、尚孝くんと食べたくて持って行ったんですけど、僕……リハビリルームが飲食禁止だって知らなくて……」

「それで?」

「しかも、僕たちから物をもらっちゃダメだっていう決まりがあるらしくて、尚孝くんが叱られちゃうかもって心配だったんですけど、山野辺先生……すごく優しくて、テラスでお茶していいよって言ってくださったんです」

「そうか。それはよかったね」

「はい。尚孝くんから桜守大学のお話とか教えてもらって、僕も大学の話したりして……すっごく楽しかったです」

砂川くんの話をした時、すっごく優しい子だねって言ってくれたのも嬉しかったな。
なんだか尚孝くんにはなんでも話せる気がする。やっぱりリハビリの先生って話しやすい人が多いのかな。

「ずっと部屋にいると、あんまり人と話す機会がないから谷垣さんと話ができるリハビリの時間がいい気分転換になっているんだろうね」

「そうかもしれないです。だから、リハビリも楽しくて……それを山野辺先生にも言ったら、これから毎日テラスでのお茶の時間を作るって言ってくださったんです」

「へぇ、それはよかったね。じゃあ、これから谷垣さんと田淵くんの休憩用にお土産とは違うお菓子を持ってくるよ」

「えっ? でもそれじゃ河北さんが大変じゃ……」

美味しいお菓子も飲み物もなくても尚孝くんとリハビリのこと以外を話せる時間があるだけで僕は満足なのに、河北さんにそんな面倒なことさせられない。

「そんなこと気にしないでいいよ。言ったろう? 最近、お菓子を選ぶのが楽しいんだ。田淵くんが美味しいって言ってくれて、谷垣さんと楽しい時間が過ごせるならそれでいいんだよ」

「河北さん……」

「だから甘えて。ねっ」

「甘える……」

誰かに甘えるなんて考えたことなかったかも。両親にだって甘えた覚えもない。そもそも甘えるってどうしたらいいかもわからない。

「そう。田淵くんは甘えていいんだよ。なんでもしたいこと、欲しいものを言ってくれて構わないから」

「えっ、でもそんなわがままなこと……」

「そういうのはわがままとは言わないよ。だって、俺がしたくてしてるんだから。俺は田淵くんが願う通りにしたいだけだよ」

「僕が、願う通りに……」

「そう。だからなんでも言ってほしい。わがままだなんて絶対に思わないから」

「あの、じゃあ……ひとつだけ言ってみてもいいですか?」

「ああ! もちろん!!」

入院してからずっと思ってたことがあった。でもそんなこと言っちゃいけないって思ってたけど言ってもいいのかな……。

「あの、ダメならダメって言ってくださいね」

「ああ、わかった。それで、田淵くんの願いは何かな?」

「あの……夜ご飯を、河北さんと一緒に食べたいなって……」

「えっ? 俺と?」

やっぱりダメだったかな……。でも、河北さんが来てくれておしゃべりしながらお土産のスイーツを食べる時間がものすごく楽しいから、その分夜ご飯が寂しくて……。

大学に入って一人暮らしをする前から、実家でもずっと夕食は一人で食べることに慣れていたのにな。

でもやっぱり迷惑かな……。

「ごめんなさいっ、やっぱ――」
「もちろんいいよ!!」

「えっ? いいんですか?」

「ああ、もちろんだよ。というか、ずっと俺も一緒に食べたいと思ってたんだ。でも夕食はゆっくり食べたいかなって思ってたから遠慮してたんだよ。田淵くんが一緒に食べたいって言ってくれるなら喜んで食べるよ!! 早速今日から一緒に食べよう!!」

「今日から……?」

そんなことできるの? そう思った時には、河北さんは部屋を出てしまっていた。

あまりにも素早い行動に僕はただただ驚くしかなかったけれど、河北さんはすぐに部屋に戻ってきて、

「今日から一緒に食べられるようになったよ。あ、でも今日は急遽だったから病院の食堂のご飯をテイクアウトしたけど、明日からは田淵くんと同じメニューを食べられるからね」

と笑顔で教えてくれた。

それからしばらくして部屋に運ばれてきた二つの夕食。
河北さんの顔を見て、おしゃべりをしながら食べたご飯は今までで一番美味しく感じられた。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

月弥総合病院

僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

隣国のΩに婚約破棄をされたので、お望み通り侵略して差し上げよう。

下井理佐
BL
救いなし。序盤で受けが死にます。 文章がおかしな所があったので修正しました。 大国の第一王子・αのジスランは、小国の王子・Ωのルシエルと幼い頃から許嫁の関係だった。 ただの政略結婚の相手であるとルシエルに興味を持たないジスランであったが、婚約発表の社交界前夜、ルシエルから婚約破棄をするから受け入れてほしいと言われる。 理由を聞くジスランであったが、ルシエルはただ、 「必ず僕の国を滅ぼして」 それだけ言い、去っていった。 社交界当日、ルシエルは約束通り婚約破棄を皆の前で宣言する。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

病弱の花

雨水林檎
BL
痩せた身体の病弱な青年遠野空音は資産家の男、藤篠清月に望まれて単身東京に向かうことになる。清月は彼をぜひ跡継ぎにしたいのだと言う。明らかに怪しい話に乗ったのは空音が引き取られた遠縁の家に住んでいたからだった。できそこないとも言えるほど、寝込んでばかりいる空音を彼らは厄介払いしたのだ。そして空音は清月の家で同居生活を始めることになる。そんな空音の願いは一つ、誰よりも痩せていることだった。誰もが眉をひそめるようなそんな願いを、清月は何故か肯定する……。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

処理中です...