何もできない僕が甘えてもいい? 〜イケメンな彼の優しさに戸惑っています

波木真帆

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半分こ

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今日もリハビリを終えてベッドで休んでいると、河北さんが部屋にやってきて

「今日のお土産だよ」

と言いながら小さな紙袋を見せてくれた。

「いつもすみません」

「いや、そこはありがとうって言って喜んでくれた方が嬉しいよ。俺も自分ではスイーツを買いに行ったりしないから、選ぶのが結構楽しいんだ」

「河北さん……ありがとうございます」

「お茶淹れるから開けてみて」

「はい」

今、河北さん……お茶って、言ってたから和菓子なのかな?
そんな推理をしながら、渡された紙袋を開けると竹紐が結んである手のひらサイズの竹皮が現れた。

「わぁ! すごい!! この竹紐、解いてもいいですか?」

「ああ、もちろん」

まだほんのり温かい竹皮を取り出し、紐を解くと真っ白な皮の小さなお饅頭が六個入っていた。

「美味しそう!!」

「よかった。ここの病院のすぐ近くにどら焼きが有名な老舗の和菓子屋があるんだけど、まだあったかいっていうから今日はお饅頭の方にしてみたんだ。田淵くん、あんこは好き?」

「はい。大好きです。小学生のとき、家族で温泉旅行に行ったときに、蒸し立てのお饅頭を食べてから大好きになって……でも、それ以来あったかいのは食べたことなかったので、このお饅頭、すっごく嬉しいです!!」

「そうか、それならよかった」

河北さんは嬉しそうに僕の前に緑茶を置いてくれた。やっぱり和菓子には緑茶が合うよね。
夕食前だけど、小さなお饅頭だから大丈夫だよね。あったかいときに食べないと勿体無いし。

「いただきます」

ほんのり温かいお饅頭をとって半分に分けると、薄い皮に包まれた中にぎっしりとこし餡が包まれていて、ものすごく美味しそう。半分を一口で食べるとあまりの美味しさに

「んっ! おいひぃ!!」

ついついもぐもぐしながら喋ってしまった。

「ははっ。そんなに喜んでもらえて嬉しいな」

湯呑みを手渡されながら笑顔で言われて少し恥ずかしくなりながらもお茶をいただく。
やっぱりあんこと緑茶は相性がいい。

「河北さんも食べてみてください!」

「ああ、じゃあいただこうかな」

河北さんが手を伸ばすのをみて、僕は半分に割ったお饅頭を持ったまま竹皮に乗ったお饅頭を差し出したけれど、

「これ、もらうよ」

と言って河北さんが手に取ったのは、僕が半分に割ったお饅頭。

「えっ、でも――」
「んっ! 美味しいな!!」

僕の食べかけなんて……と思ったときには、もう河北さんの口に入ってしまっていて、美味しそうな笑顔を向けられる。

河北さんと、半分こしちゃった……。それだけでなんだか嬉しくなる。

――僕は兄さんとなんでも半分こして食べてたんだよ。同じものが二個あってもわざわざ半分こで食べてたな。

学食で砂川くんがそんな昔話をしてくれたことがある。
同じものがあるのに、どうして……? そんな僕の質問に砂川くんは笑って言ってたっけ。

――そっちの方がずっと美味しく感じたんだ。

あの時は兄弟ならではの話なのかと思っていたけれど、今なら砂川くんの気持ちがよくわかる。
半分こして食べるって、一個丸々食べられるより幸せが増す気がするもん。きっと、笑顔の分だけ美味しく感じられるんだろうな。

六個あったお饅頭は小さかったけれど夕食前ということもあり全部は流石に食べられなくて、二個だけ残して竹皮に包んでおいた。

「明日も食べられるからゆっくり食べたらいい」

河北さんがそう言ってくれてホッとした。

翌日、僕は残っていたお饅頭を看護師さんからもらったラップに包み、薄いハンカチで包んでリハビリに向かった。
最初のストレッチから歩行訓練までのスケジュールをなんとかこなし、いつものように尚孝くんからタオルと飲み物をもらったタイミングを見計らって、

「あの、これ……尚孝くんと一緒に食べたくて、持ってきたんだ」

とハンカチを開けてみせた。

「えっ、あっ……お饅頭……」

「うん。昨日、河北さんが持ってきてくれたんだけど、すごく美味しかったから一緒に食べられたならなって……」

「そっか。嬉しい! ありがとう!!」

尚孝くんが笑顔でお礼を言ってくれて嬉しかったけれど、

「でもごめんね。ここ、水分補給以外の飲食厳禁なんだ。それに患者さんから物をもらうことは禁止されてて……」

とものすごく申し訳なさそうに謝られた。

「えっ? そうだったの? 僕の方こそごめん。わぁー、どうしよう。おまんじゅう持ってきちゃった!」

これをみられて尚孝くんが怒られたら困ると思って、慌ててハンカチで隠そうとしていると、

「二人ともどうしたんだ?」

と山野辺先生の声が聞こえた。

「わっ!!」

焦っていた僕は、包んでいたラップのままお饅頭を一つ落としてしまって、転がったお饅頭は山野辺先生の足元に落ちた。

「んっ? これは、饅頭か?」

「あ、あのごめんなさい。ここが飲食厳禁だって知らなくて、すごく美味しかったから尚孝くんと一緒に食べたくて、それで、僕が勝手に持ってきただけで、尚孝くんは悪くないです。本当です!!」

「ははっ。田淵くん、大丈夫だよ。そんなことで谷垣くんを叱ったりしないから」

「本当ですか?」

「ああ。ちょうど二人とも休憩時間だろう? せっかく田淵くんが持ってきてくれたならそこのテラスでこのお饅頭を食べてきたらいい。谷垣くん、これでお茶でも買いなさい」

「は、はい。ありがとうございます。行こう、伊月くん」

「うん!」

尚孝くんは山野辺先生からお金をもらうと、僕を車椅子に乗せてくれてそのまま近くのテラスに案内してくれた。

車椅子の僕をテーブルのある席に案内してから、テラス席に置いてある自動販売機でお茶を買って、戻ってきた尚孝くんはなんだかすごく嬉しそうだった。

「伊月くんとここのテラスでお茶できるなんて嬉しいな」

「うん、僕も! ごめんね、決まり事何も知らなくて! 尚孝くんが怒られると思って焦っちゃった」

「ううん、僕も何も言ってなかったし。伊月くんは悪くないよ。ねぇ、お饅頭もらっていい? 僕、お饅頭好きなんだ」

「うん! あ、でもこっちは落としちゃったから、こっち食べて!」

床に落としてしまった方は少し潰れてしまっているからよくわかる。

「いいよ、そんなの気にしないよ」

「ううん、ダメだよ」

「じゃあ、どっちも半分こしようよ」

尚孝くんはサッと二つのお饅頭を半分に分けて潰れてしまった方をパクリと口に運んだ。

「あっ!」
「うん! 美味しいね!! 伊月くんも食べて!」

驚く僕をみながら、ものすごく美味しそうに笑顔を見せてくれる。

尚孝くんの優しさを感じながら、僕は半分に分けられた少し潰れたお饅頭を口に入れた。

「ん、美味しい!!」

河北さんと半分こした時とはまた違った喜びで僕の胸はいっぱいになっていた。
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