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安心して下さい
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<side一花>
「ふふっ。くすぐったいよ、フラン」
「クゥン、クゥン」
「ははっ。フランも一花が気に入ったようだな。これから仲良くしてやってくれ」
「はい」
「フラン、おいで」
両手を広げてそう呼びかけると、フランは僕の腕に近づいてきてくれた。
僕の腕の中にすっぽりとおさまる姿は本当に可愛い。
グリを抱っこするのとはまた違う感覚だ。
僕の上でからはみ出た尻尾がパタパタと揺れていてなんとも可愛い。
「ふふっ。尻尾が揺れるのが可愛い」
「犬が尻尾を振るのは喜びを表している時ですからね。一花さんに抱っこされて喜んでいるんですよ」
聞きなれないその声に顔をあげると、優しそうな男性が離れた場所から近づいてくる。
「お父さん、あの人は……?」
「ああ、一花と征哉くんにも紹介しよう。彼は甲斐慎一くん、優秀なブリーダーでフランの育ての親だよ」
「ぶりーだー?」
「ブリーダーというのはね、犬たちが子どもを産みやすい環境にして、生まれた子どもを自分の子どものように育てる仕事だよ」
生まれた子どもを自分の子どものように……
「一花、どうした?」
お父さんから甲斐さんのお仕事のことを聞いて、沈んでしまった僕を征哉さんが優しく抱きしめてくれる。
「あの、そうやって大事に育てた子を譲るのって寂しくないですか? 本当はずっと一緒にいたいんじゃないですか?」
「一花……」
征哉さんとお父さんが少し困ったように僕を見つめる。
でも聞かずにはいられなかった。
すると、目の前にいた甲斐さんがにっこりと微笑みながら僕の前に屈んだ。
「一花さんは本当に優しい人ですね。確かにフランが生まれた時から大事に大事に育ててきましたから、離れるのは寂しいと思う気持ちはあります」
「やっぱり……」
「でも、フランが新しい家族の元で幸せになる姿を見られるのもとても嬉しいことでもあるんです」
「えっ……」
「ほら、フランも一花さんに抱っこされてとても喜んでいるでしょう? 新しい生活に向けてワクワクしているんですよ。私はフランの育ての親として、子どもが巣立っていくのを喜んでいるんです」
「巣立つ……」
「そうです。一花さんもそうでしょう? お父さまと一緒にいる時も楽しいけれど、そちらで大切そうに抱きしめてくれている征哉さんとの生活も楽しいでしょう? お父さまはそんな一花さんの姿を見られるのも幸せなんですよ」
「お父さん……」
そっと視線を向けると、お父さんはニコニコと笑顔を見せて頷いてくれた。
そういえば、浅香さんも僕がグリと仲良くしているとすごく嬉しそうだった。
あの時はブリーダーって言葉を知らなくて、浅香さんがあの動物園から連れてきてくれたのを僕に育てさせてくれていると思っていたけれど、浅香さんもブリーダーってことなんだろうな。
――グリのことをよろしくね。
そう言って渡してくれた。
あの時、浅香さんもグリが巣立っていくのを喜んでくれていたんだろうか……。
僕にできることは、グリとフランを浅香さんや甲斐さんのように心を込めてお世話していくだけだ。
「僕……フランのこと、大切にします。だから、安心してください」
「ふふっ。フランも私も嬉しいですよ。よろしくお願いしますね」
「はい」
僕が甲斐さんとお話ししている間にもずっとおとなしく僕の腕の中にいてくれたフランを、優しく抱きしめた。
柔らかな毛にそっと顔を擦り寄せると、
「クゥン、クゥン」
と可愛らしい鳴き声が聞こえて、僕の頬をぺろっと舐めてくれた。
「ふふっ。可愛い」
この子は僕の弟かな。
グリのお兄さんになれるかも。
今度来る時はグリにもフランを会わせてあげたいな。
「あの、フランはウサギと喧嘩しますか?」
「ウサギ?」
「僕、お家でウサギを育てていて今度一緒に会わせてあげたいなって思ったんですけど……」
「ああ、そういうことですか。相性もありますが、犬とウサギを同じ家で飼われているご家庭もありますし、基本的に喧嘩にはならないと思います。ただ、ウサギさんの方がとても臆病だったりすると最初は怖がってしまったりするかもしれませんね。フランは絶対に噛み付いたり怖がらせたりはしないので、一花さんがそばについてて安心してあげていればウサギさんもフランに懐くかもしれません。ただ、どうしても無理な場合もありますから、その時は離してあげて下さい」
「わかりました!」
甲斐さんに優しく教えてもらえてすごくわかりやすかった。
「フラン、今度グリに会ってみてね。同じくらい可愛いんだよ」
「クゥン、クゥン」
「ふふっ。いい子、いい子」
ああ、本当に可愛い。
「ふふっ。くすぐったいよ、フラン」
「クゥン、クゥン」
「ははっ。フランも一花が気に入ったようだな。これから仲良くしてやってくれ」
「はい」
「フラン、おいで」
両手を広げてそう呼びかけると、フランは僕の腕に近づいてきてくれた。
僕の腕の中にすっぽりとおさまる姿は本当に可愛い。
グリを抱っこするのとはまた違う感覚だ。
僕の上でからはみ出た尻尾がパタパタと揺れていてなんとも可愛い。
「ふふっ。尻尾が揺れるのが可愛い」
「犬が尻尾を振るのは喜びを表している時ですからね。一花さんに抱っこされて喜んでいるんですよ」
聞きなれないその声に顔をあげると、優しそうな男性が離れた場所から近づいてくる。
「お父さん、あの人は……?」
「ああ、一花と征哉くんにも紹介しよう。彼は甲斐慎一くん、優秀なブリーダーでフランの育ての親だよ」
「ぶりーだー?」
「ブリーダーというのはね、犬たちが子どもを産みやすい環境にして、生まれた子どもを自分の子どものように育てる仕事だよ」
生まれた子どもを自分の子どものように……
「一花、どうした?」
お父さんから甲斐さんのお仕事のことを聞いて、沈んでしまった僕を征哉さんが優しく抱きしめてくれる。
「あの、そうやって大事に育てた子を譲るのって寂しくないですか? 本当はずっと一緒にいたいんじゃないですか?」
「一花……」
征哉さんとお父さんが少し困ったように僕を見つめる。
でも聞かずにはいられなかった。
すると、目の前にいた甲斐さんがにっこりと微笑みながら僕の前に屈んだ。
「一花さんは本当に優しい人ですね。確かにフランが生まれた時から大事に大事に育ててきましたから、離れるのは寂しいと思う気持ちはあります」
「やっぱり……」
「でも、フランが新しい家族の元で幸せになる姿を見られるのもとても嬉しいことでもあるんです」
「えっ……」
「ほら、フランも一花さんに抱っこされてとても喜んでいるでしょう? 新しい生活に向けてワクワクしているんですよ。私はフランの育ての親として、子どもが巣立っていくのを喜んでいるんです」
「巣立つ……」
「そうです。一花さんもそうでしょう? お父さまと一緒にいる時も楽しいけれど、そちらで大切そうに抱きしめてくれている征哉さんとの生活も楽しいでしょう? お父さまはそんな一花さんの姿を見られるのも幸せなんですよ」
「お父さん……」
そっと視線を向けると、お父さんはニコニコと笑顔を見せて頷いてくれた。
そういえば、浅香さんも僕がグリと仲良くしているとすごく嬉しそうだった。
あの時はブリーダーって言葉を知らなくて、浅香さんがあの動物園から連れてきてくれたのを僕に育てさせてくれていると思っていたけれど、浅香さんもブリーダーってことなんだろうな。
――グリのことをよろしくね。
そう言って渡してくれた。
あの時、浅香さんもグリが巣立っていくのを喜んでくれていたんだろうか……。
僕にできることは、グリとフランを浅香さんや甲斐さんのように心を込めてお世話していくだけだ。
「僕……フランのこと、大切にします。だから、安心してください」
「ふふっ。フランも私も嬉しいですよ。よろしくお願いしますね」
「はい」
僕が甲斐さんとお話ししている間にもずっとおとなしく僕の腕の中にいてくれたフランを、優しく抱きしめた。
柔らかな毛にそっと顔を擦り寄せると、
「クゥン、クゥン」
と可愛らしい鳴き声が聞こえて、僕の頬をぺろっと舐めてくれた。
「ふふっ。可愛い」
この子は僕の弟かな。
グリのお兄さんになれるかも。
今度来る時はグリにもフランを会わせてあげたいな。
「あの、フランはウサギと喧嘩しますか?」
「ウサギ?」
「僕、お家でウサギを育てていて今度一緒に会わせてあげたいなって思ったんですけど……」
「ああ、そういうことですか。相性もありますが、犬とウサギを同じ家で飼われているご家庭もありますし、基本的に喧嘩にはならないと思います。ただ、ウサギさんの方がとても臆病だったりすると最初は怖がってしまったりするかもしれませんね。フランは絶対に噛み付いたり怖がらせたりはしないので、一花さんがそばについてて安心してあげていればウサギさんもフランに懐くかもしれません。ただ、どうしても無理な場合もありますから、その時は離してあげて下さい」
「わかりました!」
甲斐さんに優しく教えてもらえてすごくわかりやすかった。
「フラン、今度グリに会ってみてね。同じくらい可愛いんだよ」
「クゥン、クゥン」
「ふふっ。いい子、いい子」
ああ、本当に可愛い。
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