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家族の一員 <sideフラン>

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sideグリが楽しかったので、今回はsideフランで書いてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡


  *   *   *

<sideフラン>

「やぁ、甲斐くん。連絡ありがとう」

甲斐パパに抱っこされてお外の光を浴びていると、車から一人の男の人が降りてこっちにやってきた。
この人、誰だろう?

「お忙しいのにお呼びだてして申し訳ありません」

「いや、初お目見えの子がいるというなら、喜んで来させてもらうよ。それで今はその子に会えそうかな?」

「ええ。ちょうどその子と日光浴をしていたところです。この子ですよ」

そういうと甲斐パパはぼくをその人に見せた。

「生後32日のミニチュアダックスフンドの男の子です。大人しくてとても賢い可愛い子ですよ」

「おお、可愛いな。抱っこさせてもらっても構わないかな?」

「はい。大丈夫です。どうぞ」

えっ、甲斐パパ……。
ぼくを知らない人に抱っこさせるの?
ちょっと怖いよ……。

そう思ったけれど、小さなぼくの身体はあっという間に甲斐パパの手から離れてその人のところに行ってしまった。

怖かったらどうしよう……。

ぼくは不安でいっぱいで身体が震えてしまった。
けれど、

「怖くないよ、大丈夫。大丈夫」

そう言って、ぼくを撫でてくれる手がものすごく優しかった。

なんだか甲斐パパの温もりみたいで安心する。

ぼくは知らない間にそのまま寝ちゃってた。

気がつくと、ぼくはママのお部屋で寝ていた。

ーママ……。

ーあら? 起きたの?

ーうん、今日知らない人に抱っこされた。

ーあの人はね、あなたを家族にしたいって言ってたわ。

ーえっ……家族? ぼく、ここから離れちゃうの?

ーふふっ。とってもいい人だったわ。私にもあなたを連れ帰っていいかって優しく撫でながら尋ねてくれたの。それがとっても優しい手だったから、きっとあなたは幸せになれるって思ったわ。

ーでも、ぼく……離れたくないよ。ママとも甲斐パパとも離れたくない。

ーそうね。私も離れるのは寂しいわ。でもね、あなたを可愛がってくれる家族も欲しいの。

ー嫌だ、ぼくはここから離れない!

そう言ったけれど、それから何日かおきにあの人は来てくれて、ぼくを優しく抱っこして声をかけてくれた。
いつの間にか、あの人が来ないかなって待ち侘びてしまっていて、自分でも驚いてしまった。

そして、

「君を家族に迎えたいんだ。うちに来てくれないか?」

その言葉に、ぼくは生まれてから初めてくらいの大きな声で

「ワンっ!」

と返事したんだ。

けれど、その日にすぐにおうちに連れて行ってもらえるわけじゃない。
甲斐パパはぼくたちが生まれてから60日は絶対にここから出さないように決めているんだって。

この間に新しい家族のところに行けるようにいっぱい勉強するんだ。

「櫻葉さん、この子の名前をつけてもらえますか?」

「そうか、名前か……」

新しい家族ができるまでぼくにはずっと名前がなかった。
ここで初めて名前をつけてもらえるんだ。

ぼくはなんて名前になるんだろう?
ドキドキしていると、新しいパパはぼくを抱っこして、

「そうだな、君の名前はフランだ。気に入ったかな?」

フラン?
なんか、可愛い。

「櫻葉さん、何か由来はありますか?」

「一花がね、プリンが好きなんだそうだ。この子のクリーム色の毛並みを見ていると、そのことを思い出したんだ」

「ああ、なるほど。だからフラン……可愛い由来ですね」

「ははっ。さすが甲斐くん。語学も堪能だな」

甲斐パパと新しいパパのお話はよくわからなかったけど、フランという名前が可愛いということはわかった。

その日からぼくはフランになった。

それから毎日いっぱいお勉強した。
名前にも反応できたし、ちゃんと間違えることなく決められた場所でトイレに行けるようになったし、おすわりとか待てとか伏せとかもできるようになった。
甲斐パパとたくさん仲間がいるところに行って他の仲間たちと仲良く遊べるようにもなったし、何にも理由がないのに噛んだり怒ったりしちゃいけないっていうのもお勉強した。
お外は大きな乗り物がいたり、うるさい乗り物もあったり、びっくりすることがいっぱいだったけど何度かお外に出ているうちに危ないものもちゃんとわかってきた。

その間も新しいパパは何度もぼくに会いに来てくれて、お庭で一緒に走り回ったり、ご飯をくれたり、抱っこしてくれたり……すっごく楽しかった。

「フラン、明日櫻葉さんの家に行くよ」

とうとうその言葉を言われた。

最後にママのところに連れて行かれる。

ーママ……ぼく、今日でお別れなんだって……。

ーおめでとう。ママは嬉しいわ。

ーママ、寂しくない?

ーふふっ。子どもの成長を喜ばない親はいないわ。フラン・・・、元気でね。

ーママっ!! ぼく、新しいパパのところで幸せになるね。

ーええ。祈ってるわ。

ママと、そして甲斐パパとのお別れは寂しかったけれど、新しいパパの匂いがするケージに入れられたらワクワクしてしまった。

そして、甲斐パパと一緒にやってきたお家。
ここが今日からぼくの家になるんだ。

広いお部屋で待っていると、櫻葉パパが来てくれた。
いつもと同じ優しい目でホッとする。

「おいで」

その声にすぐに反応して、櫻葉パパの元に向かう。
差し出された手をぺろっと舐めると、優しく抱き上げられた。

「フランも一花に会いに行こうか」

そんな声が聞こえて、ぼくは嬉しくなった。
まだ会ったこともない人だけど、いつも櫻葉パパが一花、一花って話してくれたから気になってた。

どんな子なんだろう。

ドキドキしていると、少し開かれた扉の前でそっと下ろされる。

ちらっと顔を出すと、

「わぁっ!」

と可愛い声が聞こえた。

その声がとても優しくてぼくは嬉しくなって近づいた。
後ろにいた人がさっとその子を守るように動いたのが見えて、驚かせてはいけないんだと思い出した。

怖がらせないように、ぼくは頭を差し出した。

可愛い子がぼくを優しく撫でてくれる。
その手の温もりが櫻葉パパや甲斐パパと同じで安心する。

櫻葉パパが部屋に入ってきて、ぼくを紹介してくれる。

「この子の名前はフランだ。一花、征哉くんも仲良くしてやってくれ」

「わぁー、フラン。僕は一花だよ。よろしくね」

その可愛らしい表情にぼくは惹かれたんだ。

これでずっと一緒にいられると思って喜んだけれど、一花ちゃんはぼくが甲斐パパに育てられていたことを知ると、

「大事に育てた子を譲るのって寂しくないですか? 本当はずっと一緒にいたいんじゃないですか?」

と言って、ぼくを甲斐パパと引き離してしまうことに不安そうな顔をしていた。

ぼく……ここには居られないのかな?
ずっとこの家に来るために頑張ってお勉強してきたんだけどな。

そう思っていると、甲斐パパが一花ちゃんにお話をしてくれた。

「フランも一花さんに抱っこされてとても喜んでいるでしょう? 新しい生活に向けてワクワクしているんですよ。私はフランの育ての親として、子どもが巣立っていくのを喜んでいるんです」

その言葉はぼくも嬉しかった。

「僕……フランのこと、大切にします。だから、安心してください」

その瞬間、ぼくはようやくこの家族の一員になれたんだ。

嬉しくて一花ちゃんのほっぺたをぺろっと舐めた。
可愛い一花ちゃん。

ぼくはこの家に来られて本当に幸せなんだ。
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