上 下
123 / 286

久しぶりの診察

しおりを挟む
昇&直純のお話とわけたので今日の分の更新が無くなっちゃいました。
と言うわけでこんな時間に更新です。
せっかくなのでかなり久しぶりな人を登場させてみました。
楽しんでいただけると嬉しいです♡

  *   *   *

<side一花>

「あっ、榎木先生!」

「ああ、一花くん。すっかり顔色が良くなったね。しっかりご飯を食べているみたいだね」

「はい。毎日ご飯が美味しいです」

「そうか、それはよかった。じゃあ、診察をしようね」

今日は経過観察のために、病院からわざわざ榎木先生が診察に来てくれた。
本当は僕が病院に行く予定だったけれど、征哉さんがどうしても外せないお仕事があるとかで、先生の方がこっちに来てくれることになったんだって。

「痛みはどう?」

「普段はあまり痛みは感じなくなりました。リハビリの時とか、車椅子から移る時とかはたまに痛みがあります」

「そうか、それなら経過は良好だね。これからも無理しない程度にリハビリ頑張って。全体的にだいぶ脂肪も筋肉もついてきてるね。体重も増えてきたかな?」

「あの、毎日本当にご飯がおいしくてついいっぱい食べちゃうんですけど、食べ過ぎじゃないですか?」

「ははっ。その心配はないよ。毎日食べているものも先に見せてもらったけど、栄養バランスもいいし、元々が痩せすぎだったからね、今でもまだ同年代の子に比べたら痩せている方だよ」

そう言われて、ホッとする。

「何か心配事があったのかな?」

「あの……」

「ふふっ。私は一花くんの主治医だからね。なんでも気になることは話してくれていいんだよ」

「あの、いつも征哉さんが抱っこしていろんなところに連れて行ってくれるんですけど……」

「うん、車椅子だといけない場所も多いからね」

「そうなんですけど……あんまり、重くなっちゃったら抱っこしてもらえなくなっちゃうかなって……」

「――っ、ああ。そういうことか。ふふっ」

突然榎木先生が笑い出してびっくりしてしまう。

「あの、僕……変なこと言っちゃいましたか?」

「ああ、違う、違う。あんまり可愛いこと言うもんだからつい、ね」

「可愛い? 何がですか?」

「ふふっ。一花くんが、だよ。それって、征哉さんに抱っこしてもらうのが好きってことだよね?」

「はい。だって、征哉さんに抱っこされるのホッとします」

「そうか、よかった。でも、気にしないでいいよ。征哉さんはかなり鍛えてるから、今の一花くんが五人いても余裕で抱っこできるよ」

「えっ? 五人?」

驚きの答えが返ってきて、僕は驚きしかなかった。

でもそれならまだまだずっと征哉さんに抱っこしてもらえるなって、嬉しい気持ちが止まらなかった。

それから、僕は榎木先生の診察の合間に、初めて温泉に入ったことを話した。

「そうか、征哉さんならお医者さんだから、安心してお風呂も任せられるね」

「はい。洗ってくれるのもすごく気持ちよかったです。お医者さんってみんな髪を洗うの上手なんですか?」

「んっ? あー、うん、そうだね。手先は器用だから上手かもしれないね」

「やっぱりそうなんですね。あんなふうに誰かにゆっくり洗ってもらうのもお風呂に入るのも初めててすごく楽しかったです」

「そうか、温泉は身体にいいから、また連れて行ってもらうといいよ」

「はい。征哉さんにお願いしてみます」

そういうと、榎木先生は嬉しそうに笑っていた。
きっと榎木先生も温泉好きなんだろうな。


<side征哉>

一花の診察に間に合うように急いで帰ってきたところで、玄関でちょうど榎木くんに会った。

少しだけ話がしたいと声をかけ、私の部屋に向かった。

「どうだった?」

「征哉さんも医師ですから、彼の経過が良好なのはご存知でしょう?」

「ああ、それはもちろん。だが、一応主治医は榎木くんだからな。それに……あんなに元気になったと見せてやりたかったんだよ。榎木くんもニュースを見て驚いただろう?」

「はい。ニュースで見て、すぐにひかるくんのことだと、ああ、今は一花くんですね。一花くんのことだと分かりましたが、あんなに酷い目に遭う前から、あんな辛い運命を背負っていたんだとびっくりしましたよ。でも、そう考えれば考えるほどあの時未知子さんや征哉さんと知り合えたのは本当にいいタイミングでしたよ。そうでなければ、櫻葉さんにお会いすることもなく、短い生涯を終えていたかもしれません」

「本当に……あの時、救いだせて本当によかった……その言葉に尽きるよ」

「ふふっ。征哉さんはこれからもしっかりと鍛えておいてくださいね」

突然、笑いを含んだ声でそんなことを言われて、それが何のことだか全くわからない。

「?? それはどう言う意味だ?」

「ふふっ。一花くんの望みなんです」

「一花の望み?」

「ええ、ずっとどこに行くにも抱っこ、してほしいそうですよ」

「――っ!!! 一花が、そんなことを?」

「ええ。いっぱい食べるようになって、太ったら抱っこしてもらえなくなるかもって心配してましたから、一花くん五人くらいなら平気だって伝えておきました。だから、頑張ってくださいね」

一花が、私に抱きかかえられることをそんなに喜んでくれていたとは……。
ああ、本当にこれはいいことを聞いたな。

「ああ、じゃあトレーニングルームの機械を新調しておくとしよう」

「ああ、いいですね。じゃあ、私も御相伴に預かってもいいですか? 最近、ジムに通う暇がなくて」

「ははっ。有原くんも喜ぶだろうから、好きに使っていいぞ」

「ははっ」

こうして榎木くんと冗談を言って惚気あう機会ができるなんて……一花と出会う前なら信じられないな。
しおりを挟む
感想 490

あなたにおすすめの小説

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~

楠ノ木雫
BL
 俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。  これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。  計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……  ※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。  ※他のサイトにも投稿しています。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

運命を変えるために良い子を目指したら、ハイスペ従者に溺愛されました

十夜 篁
BL
 初めて会った家族や使用人に『バケモノ』として扱われ、傷ついたユーリ(5歳)は、階段から落ちたことがきっかけで神様に出会った。 そして、神様から教えてもらった未来はとんでもないものだった…。 「えぇ!僕、16歳で死んじゃうの!? しかも、死ぬまでずっと1人ぼっちだなんて…」 ユーリは神様からもらったチートスキルを活かして未来を変えることを決意! 「いい子になってみんなに愛してもらえるように頑張ります!」  まずユーリは、1番近くにいてくれる従者のアルバートと仲良くなろうとするが…? 「ユーリ様を害する者は、すべて私が排除しましょう」 「うぇ!?は、排除はしなくていいよ!!」 健気に頑張るご主人様に、ハイスペ従者の溺愛が急成長中!? そんなユーリの周りにはいつの間にか人が集まり…。 《これは、1人ぼっちになった少年が、温かい居場所を見つけ、運命を変えるまでの物語》

嫌われ者の僕が学園を去る話

おこげ茶
BL
嫌われ者の男の子が学園を去って生活していく話です。 一旦ものすごく不幸にしたかったのですがあんまなってないかもです…。 最終的にはハピエンの予定です。 Rは書けるかわからなくて入れるか迷っているので今のところなしにしておきます。 ↓↓↓ 微妙なやつのタイトルに※つけておくので苦手な方は自衛お願いします。 設定ガバガバです。なんでも許せる方向け。 不定期更新です。(目標週1) 勝手もわかっていない超初心者が書いた拙い文章ですが、楽しんでいただければ幸いです。 誤字などがありましたらふわふわ言葉で教えて欲しいです。爆速で修正します。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたアルフォン伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 アルフォンのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...