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初めてのフレンチキス※

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<side一花>

「一花」

「あっ、征哉さん。おかえりなさい! 今、さっき榎木先生が……」

「ああ、下で会ったよ。経過は良好だって仰ってたな」

「はい。ここに来て、いっぱい食べられるようになったから、先生……僕を見て驚いてましたけど、喜んでくれました」

「患者が健康になるのを見るのは嬉しいものだからね。この調子でしっかりと食べるんだよ」

良かった。
先生、さっき僕が言ったこと、征哉さんには伝えてないみたいだ。
でも、もっといっぱい食べても大丈夫なんて……本当に征哉さんってすごいな。

征哉さんは僕のベッドの横に腰を下ろして、なおも話し続ける。

「ああ、そうだ。saraさんから連絡があってね、来週の初めにはぬいぐるみが届くようだよ」

「えっ! もう届くんですか!! 嬉しい!!」

「だから、櫻葉さんに連絡を入れておいたよ。ぬいぐるみが届いたら、麻友子さんのお墓参りに行きたいと言っていただろう?」

「――っ、麻友子お母さんのところに行けるんですね! 良かった……」

麻友子お母さんが作ってくれたベビー服を自分の代わりにぬいぐるみに着てもらって、一緒にお墓参りに行きたいと思ってた。

ぬいぐるみを頼んで、いつ頃できるかななんて毎日楽しみにしていたけれど、こんなに早く連絡が来るなんて思わなかった。

「木曜日には仕事の都合がつけられそうだから、その日で約束したよ」

「木曜日……わぁ、楽しみです」

「ああ、私もだよ。やっと一花のお母さんに挨拶ができる」

「えっ? 挨拶?」

「ああ、そうだ。一花を一生大切にしますって、ご両親の前で挨拶しないとな」

「――っ、征哉さん……」

「一花、ご両親に挨拶したらもう離れられないぞ」

「嬉しい……僕、嬉しいです」

征哉さんに抱きしめて欲しくて腕を伸ばすと、

「一花……愛してる」

と優しく甘い声で愛を囁きながら、僕の背中に長い腕を回して隙間がないくらいに抱きしめてくれる。
トクトクと征哉さんの少し早い心臓の音が聞こえて、僕と一緒だと嬉しくなりながら、征哉さんの顔を見上げると、征哉さんの唇がちゅっと重なった。

ゆっくりと離れていく、唇をつい見つめてしまう。

「一花、どうした?」

「もっと……キス、したいです……」

「――っ、一花……じゃあ、もっと深いキスをしても……?」

「深い、キス? ってどういうのですか?」

いつもキスと違うキスがあるの?
いつもは唇が重なって、唇を食べられそうになるくらいちゅっちゅってしてくれるけどそれとは違うのかな?

「怖くないから、唇が重なったら少し口を開いてくれるかな? それだけであとは私に任せてくれたらいい」

「口を……? わかりました!」

征哉さんが何をしたいのかはよくわからなかったけれど、征哉さんの言うとおりにしたらなんでも大丈夫だもんね。

「一花……」

征哉さんの優しい顔が近づいてきて、僕は目を瞑る。
そっと唇が重なって、いつものようにちゅっとしてくれる。
ドキドキしながら、口を開くと

「――っ!!」

口の中に何かが入ってきた。

何、これ?

わからないけど、口の中を動き回るそれは僕の舌にも絡みついてきて、吸い付いてきたりする。

あっ、これってもしかして……征哉さんの舌?

深いキスって、舌を入れることなんだ!

思いもしなかったことに驚いてしまうけれど、唇を重ねるだけよりももっと気持ちがいい。

クチュクチュと舌が絡み合う音が聞こえるたびに、身体の奥に不思議な感覚を覚える。
なんだろう……。
でも、もう何も考えられないくらいに気持ちがいい。

もっと、もっとしていたい。

だけど、どんどん苦しくなっていく。

我慢できなくなって、征哉さんの胸をトントンと叩くと、征哉さんの唇が離れていった。

「はぁっ、はぁっ……」

「一花、苦しかったか? 悪かった、つい抑えられなくて……」

心配そうに僕を見つめる征哉さんがなんだか可愛く思えた。

「謝らないで、ください……僕、すごく気持ちよかったです」

「――っ、一花っ!! ああ、もう本当に一花は可愛すぎるな!」

そう言って抱きしめてくれる征哉さんの温もりが僕はとても心地よかった。


<side征哉>

あまりにも一花が可愛すぎて、重ねるだけのキスでは我慢ができなくなってしまった。
流石にフレンチキスはまだ早いかと必死に抑えていたのに、キスをしたあと名残惜しそうに私の唇を見つめる一花を見ていたら、欲が出た。

フレンチキスをしたいと言っても一花にはわからないだろう。

だから深いキスと言ったが、それもわからなかったようだ。

あまり説明すると嫌がられるかもしれないと思って、口を開いてくれればいいというと、素直な一花はすぐにわかったと言ってくれた。

信用されている……そう思うだけで嬉しいが、私以外には絶対にさせないようにしっかり言っておかないといけないな。

一花とフレンチキスができる。
それだけで緊張してしまう自分がいる。

私がこんなにもドキドキしてしまうなんて、志摩くんに知られたら笑われそうだ。

でもそれくらい一花のことを愛しているということだ。

柔らかくて小さな一花の唇に重ねて、口が開いたところで舌を滑り込ませる。

一花は何が何だかわからない様子だったけれど、私が舌を絡めると一気に力が抜けて無意識なのだろうが、自分からも舌を絡み付けてきた。

それが嬉しくてつい長くなってしまい、息が続かなかった一花が私の胸を叩いて知らせてくれた。

急いで唇を離して謝ったが、気持ちよかったですと潤んだ瞳で返されてどうしようもできないくらい興奮してしまった。

ああ、もう本当に私は一花無しじゃ生きていけないな。
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