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番外編

運命が動き始める

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『ロイヤルウエディング ~セクシーボイスに魅せられて』の
番外編 <叶わない夢>の対になるお話です。
どちらも読んでいただいた方がよりわかりやすいと思います。
楽しんでいただけると嬉しいです。

  *   *   *

<sideロベール>


『んっ? 珍しいな』

部屋で仕事をしていると突然スマホに着信があった。
電話など滅多にかけてくることのない友人からの着信に何事かと思って、電話を取ってみると思いのほか彼の声は明るかった。

ーエリック、どうしたんだ?

ー悪い。今、少し話せるか?

ーああ、問題ないがどうした? 今は確かコンサートでロサラン王国にいるんじゃなかったか?

ー実は、急遽今日の夜に日本に向けて飛び立つことになったんだ。ジェラルドも一緒にな。

ーえっ? ジェラルド王子も一緒に日本に? 本当に急だな。

ーああ。話せば長くなるが、端的に言えば、私もジェラルドも日本人の伴侶を娶ることになったんだ。それでジェラルドは相手の両親に挨拶をしに日本に行くことになった。

ーな――っ、それは……驚いたな。エリックもと言っていたが、じゃあ、エリックも相手の両親に挨拶を?

ーいや、私のパートナーは親と絶縁することになってな。

ーえっ……それは、エリックとの結婚が理由なのか? 反対されてるとか?

ーいや、元々両親とは疎遠だったようだ。はずっと祖父に育てられていたらしい。

ーえっ、今……彼と言ったか? もしかして、エリックの相手は男性なのか?

ーああ、そうだ。日本人の男の子だよ。ロサランで偶然出会って、一生離さないと決めた。ちなみにジェラルドの相手も同じ日本人の男の子で、彼らは友人同士でロサランに来ていたんだ。

ーそんな偶然が……。驚いたな。

ーだろう? 

ーいや、私が驚いたのはそのこともあるが、私の相手も日本人の男の子だからだよ。

ーえっ? ロベール、運命の相手が見つかったのか?

ーああ、しかも彼は私がずっと探し続けていた天使だったんだ。

私は彼との馴れ初めから、その彼がずっと忘れられずにいた天使だったことを話した。

ーすごい奇跡があるもんだな。

ーああ、これほど神の存在を感じたことはないよ。それで今、彼とうちの東京のホテルのペントハウスに宿泊しているんだ。

ーそれなら、そっちで会えるかもしれないな。実は、ジェラルドの分も含めてロベールの東京のホテルのスイートルームを二部屋用意して欲しいんだ。

ーちょっと調べてみよう。期間はどれくらいなんだ?

ーそうだな、一週間は頼みたい。期間は短くなるかもしれないが。

ーああ、それなら大丈夫だ。問題ないよ。

ー本当か、よかった。助かったよ。

ー私たちはいつでも時間の都合がつけられるから、会えそうなら声をかけてくれ。忙しいなら無理はしなくていい。

ーああ、わかった。連絡するよ。

そう言って、電話は切れた。

まさか、同じようなタイミングでエリックにも相手が見つかるとは思わなかったな
しかもロサラン王国のジェラルド王子も一緒だなんて。

ロサランの男は一生にただ一人だけを愛し続けると言われている。
それが男性でも女性でも関係なく、自分の心の示す人と一生添い遂げる。
ある意味、私も同じだ。

唇へのキスをした相手と一生添い遂げる。

だからこそ、私はヒロと出会えたんだ。

私たち三人の相手が同じ日本人男性だというのも神の思し召しなのだろうな。
エリックとジェラルド王子の相手がどんな人なのか、会うのが楽しみだな。


翌日の夕方、ヒロとペントハウスで過ごしていると、突然支配人から電話がかかってきた。
それはホテル内において、私にまで伝えなければいけないほどの騒ぎが起きたということだ。

『何があった?』

『フロントで騒ぎが起こっています。すぐに映像をそちらに回しますのでご覧ください』

ヒロにはリビングで少し待っていてもらうように頼み、私は急いで自室にあるパソコンでその映像を受けた。

『騒ぎの原因はこの男か?』

『はい。スタンダードルームにご宿泊予定でしたが、お連れの女性の希望でスイートルームをご所望されたのですが、飛び込みでの宿泊希望でしたので、税込242万円の支払いをお願いしましたところ、激昂されぼったくりだと騒がれました。たまたまそこにカーディフさまが通りかかられまして、その男がカーディフさまのお連れの方に声をかけられたのです』

『どういうことだ?』

『どうも、カーディフさまのお連れの方は、その男の息子さんだったようで、カーディフさまとのご関係を気持ちが悪いと大声で罵られたのです』

映像の中で支配人が教えてくれた以上の口汚い言葉で男が息子を罵っているのが確認できる。
あれが実の息子に対する言葉か?
信じられないな。

『連れの女性に促されて、男は出ていきましたが、私の予想では舞い戻ってくるのではないかと……』

『ああ、そうだな。私も思う。すぐにエリックと話をつける。君は男が舞い戻ってきた時のために、ジュニアスイートの部屋にカメラを用意しておいてくれ』

『承知いたしました』

私はすぐにエリックに連絡を入れた。

ー今、いいか?

ーああ、ロベール。私も連絡しようと思っていた。実はさっきフロントで――

ーその件なら、今支配人から全て聞いた。多分、あの男、もうすぐ戻ってくるだろう。そして、エリック……君に脅迫をしてくるはずだ。

ー脅迫?

ーああ、やつの息子なのだろう? 君の相手は。おそらく君と彼との関係をバラすと脅し、金を要求してくるはずだ。そういった輩を今までも何度も見たことがある。奴も同じだ、間違いない。それで彼との関係はどうなっている?

ーどう、というのは?

ーエリックの国籍に入れるつもりなのか?

ー元々、今回の日本滞在が終わったらすぐにヨウスケを私の国籍に入れようと思っていたのだが、あの愚かな父親の存在はヨウスケにとってマイナスでしかないから、たった今、私の国籍に入れる手続きを終えたところだ。友人に頑張ってもらったよ。

ああ、確かエリックの友人に国の法務大臣がいたな。
彼なら特例でやるなど造作もない。

ーなら、よかった。いいタイミングだったな。奴が来たら、エリックのいる部屋の二つ下にあるジュニアスイートに通すように言っているからそこで奴との縁は終わらせよう。

ーああ、それはいいが、その間ヨウスケは一人で部屋にいさせておくのは心配だな。

ーふふっ。すっかり過保護なのだな。

ーそれはロベールも同じだろう?

ーじゃあ、その間。よければ彼を私のペントハウスに連れてこないか?

ーえっ? いいのか?

ーああ。ヒロにも話しておくよ。男が来たら、すぐに行動に移そう。

ーわかった。


電話を切り急いでヒロの元に戻った。

ヒロにはこのホテルに友人が泊まっていて、彼と少し用事があって出かける間、彼のパートナーをもてなしておいて欲しいと頼んだ。

『ロベールの友人のパートナー? その彼のもてなしを俺なんかがしても大丈夫なの?』

『ああ、ヒロだから任せたいんだ。頼めるか?』

『うん、いいよ。ロベールの役に立てるなら喜んで』

ああ、私のヒロは本当に可愛いことを言ってくれる。


それからしばらくして、私と支配人の予想通り、あの男がホテルに舞い戻ってきて、玄関で騒ぎを起こしていると連絡がきた。

すぐにエリックに連絡を入れると、エリックは彼のパートナーを連れてペントハウスにやってきた。

『ヒロ、じゃあ少しの時間頼むよ。お菓子も飲み物も用意しているから好きに過ごすといい。但し、部屋からは出ないようにな』

『うん、わかってる。気をつけていってらっしゃい』

エリックの相手、ヨウスケという彼はヒロとほとんど変わらない年に見えた。
これなら仲良くできそうだ。

二人を部屋に残し、エリックをジュニアスイートの隣の部屋で待機させ、私は男の元に向かった。

男は軽く聞き齧った程度の知識でエリックを調べた気になっているが、詳しいことは何も知らないのだろう。
大人としての解決方法をなんて言っていたが、それが金であることは確実だろう。

私と男の会話は、エリックももちろん音声付きの映像でしっかりと確認済みだ。

男をジュニアスイートに案内すると、ちょうどいいタイミングでエリックが部屋に入ってきた。

日本語がわからないエリックの通訳として私も一緒にいたが、男の話していることが想像通りすぎて笑いを堪えるのが大変だ。

「エリック・カーディフ。お前の素性は全て調べた。お前が俺の息子を慰み者にしようとしていることをマスコミに流したら、お前の地位は失墜するだろう。ロサランの王子との仕事もクビになるだろうな。そうなりたくなければ、俺に十億渡せ! そうしたら、お前が息子を誑かしたことは黙っておいてやるぞ。お前の地位を守るためなら十億くらい安いもんだろう!」

得意げな顔をして話す、なんの意味もなさない脅迫がこんなにも面白いものだとは思わなかったな。

エリックの口から、彼の息子がすでに日本国籍から離れ、正式に夫夫となっていて、父親であるこの男と縁を切っていること、しかもこの男自身が息子に絶縁を叩きつけたことなどが明かされると、男はその場に地団駄を踏んで悔しがっていた。

だが、悔しがるだけで済ませる問題ではない。

れっきとした脅迫事件が私の目の前で行われたのだ。

支配人がすでに警察に連絡していて、もうすぐそこまでやってきている。

男にどれを告げると、逃げようとして玄関に飾っていた花瓶を私に投げつけてきたが、こんなのにやられる私ではない。
さっとかわし、男に一発入れるとそのまま後ろ手に縛り上げた。
そしてすぐに部屋に入ってきた警察官に捕まり、連れて行かれた。

『ふぅ、これで終わったな』

『ああ、あとは出所してきたあとだな』

『それなら問題はいらない。あれに乗せることで話はつけてある』

『ふふっ、さすがだな、エリック。じゃあ、私たちの姫の元に戻ろうか』

エリックと共にペントハウスに戻ると、

「ねぇ、ロサラン王国って知らなかったけど、行ってみたいな!」

「遊びに来るといいよ! 俺の友達がそこの王妃になるんだ。彼も紹介するよ」

「王妃が友達ってすごいね」

「ああ、俺も人生でそんな言葉を言うとは思ってなかったよ」

「ふふっ」

「ははっ」

となんとも楽しげな会話を繰り広げていた。

どうやら、すっかり友人になったようだ。

『彼も気に入ってくれているようだから、本当に今度ロサランに遊びにこないか? きっとジェラルドも喜ぶよ』

『ああ、そうだな。予定を考えておこう』

エリックからの電話で、運命はまた動き始めたようだ。
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