身も心もズタボロになった俺が南の島でイケメン社長と幸せを掴みました

波木真帆

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本当にいいの?

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社内にいる大勢の社員さんが突然現れた俺たち、しかもお姫さま抱っこで運ばれている俺を驚いた表情で見ているけれど、倉田さんはそんな視線など気にすることもなく一番奥の部屋へと入りすぐに鍵をかけた。

そして、俺をソファーに座らせると、目の前にしゃがみ込み

「騙していたのは悪かった。でも、航が思っているのとは違うんだ!」

と必死な目で訴えかけてくる。
でも、俺はまだ信じられない。

だって……そもそも倉田さんみたいに素敵な人が俺なんかを好きになってくれるわけがないんだ。
そう、今思えば、社員として見極めるための行動としか思えない。

「……でも、俺のこと知ってて黙ってたなんて、やっぱり何か魂胆があったとしか思えないです!」

そう突き放した言い方をしたのは俺の倉田さんへの想いを断ち切るためだ。
けれど、彼は俺の言葉を聞いて項垂れた。

「はぁ……っ。そう思われても仕方ないな……。だが、君に一目惚れしたのは本当なんだ。
初めてだった。こんなに一瞬で人を好きになることがあるのかって驚くくらい君に惹かれた。
だけど、君はきっと男同士なんて考えもしないだろう?
しかも、私がこれからいく面接先の社長だと知ったら、たとえ嫌だと思っていても優しい君のことだ。
きっと邪険にはしないだろう。だが、私は航にちゃんと私自身を見て欲しかったんだ。
昨日、航にああやって一緒に過ごしたいって言ってもらえて、飛び上がるほど嬉しかった。
昨日、君に話した言葉に嘘偽りは何もない! あれが私の本心なんだ!
騙していた私がいうのも信じられないかもしれないが、あの言葉は全部本当だ。信じてくれないか?」

必死な形相で俺に縋りついて訴えかけてくる倉田さんの言葉にも、瞳にも、嘘はどこにも感じられなかった。

本当に俺のことが好き??
社員としてじゃなく、俺自身が好きってこと??
それならすごく嬉しいことだけど……信じて良いのかな?

俺がなんて答えるのかものすごく緊張しているその顔つきに思わず笑ってしまう。
急に笑顔を浮かべた俺を不思議そうな顔で倉田さんが見つめている。

「航……? ま、まだ信じられないか?」

俺の手を握る彼の指先が冷たくなってる。
わぁ、本当に緊張してるんだ……。
これは……信じるしかないよな。

俺は倉田さんの手をぎゅっと握りしめて、

「倉橋社長……俺、あなたの言葉を信じます」

笑顔でそう言った瞬間、倉田さんは満面の笑みを浮かべて俺をぎゅっと抱きしめた。

「ああ、よかった……本当によかった……」

少し涙声で何度もそう呟く倉田さんがとても愛おしく思えた。
そして、あんなに感情を乱すほど、俺のことを手放したくないと思ってくれたことが嬉しかった。

「航……愛してる」

「俺も、社長のこと……好きですよ」

「……なぁ、航……そこは名前で呼んでくれないか?」

倉田さんの名前が違うとわかってからわざと社長と呼んでいたけれど、それが気に食わなかったらしい。
騙されてたんだからもう少しイジワルをしてやろうかと思ったりしたけど少し潤んだ目で見つめてくる倉田さんが可愛くて名前で呼んでみることにした。

「ふふっ。……祐悟さん、愛してます――うわっ!」

名前を呼んで気持ちを伝えた途端、突然ものすごい勢いで抱きしめられた。

「ああ、航に名前を呼ばれるのがこんなに嬉しいとは……」

ふふっ。祐悟さん、すごく嬉しそうだ。
イジワルし続けないで良かったかも……。

「航……」

祐悟さんの顔が近づいてくる。
あっ、キスされるんだ……

そう思った瞬間、扉がドンドンドンと強く叩かれ、祐悟さんは『チッ!!』と大きく舌打ちをして俺から離れた。

そして足早に扉へと向かうと、

「私が良いっていうまでって来るなって言っただろう!」

と大声で叫んだ。

しかし、
『藤乃くんの安全が確認できるまでここから離れません! 藤乃くん! 藤乃くん! 大丈夫ですか??』と砂川さんの心配した声が響く。

「あいつ、私を全然信用してないな」

祐悟さんはがっくりと頭を下げながら『はぁーっ』と大きなため息を吐き、俺のところに戻ってきた。

そして、俺を抱き上げ『続きは夜にな』と耳元で囁いて扉へと向かった。

カチャリと扉を開けると心配そうな砂川さんの後ろに他の社員さんたちの姿も見える。

「藤乃くん、大丈夫ですか? 社長に酷いことを何もされてませんか?」

と声をかけられたけれど、俺はさっきの『続きは夜に』の声が耳から離れず、顔を赤らめてしまった。

「――っ! 社長、藤乃くんに何をしたんですか?!」

「何もしてない! 私が彼にひどいことなんかするわけないだろう!」

「だって、藤乃くんのあの赤い顔見たら絶対何かあったとしか思えないでしょう!!」

俺のせいで砂川さんに食ってかかられている祐悟さんが可哀想で俺は大声で叫んだ。

「あの、違います! 大丈夫です! 祐悟さんすごく優しく抱いてくれた・・・・・・だけで……俺、ひどいことなんてされてません」

「「「「えっ?」」」」

俺の言葉になぜかみんな顔を真っ赤にして、祐悟さんをジロっと睨んでいる。
えっ? なんで?
俺、喋っちゃダメだった?

「……航」

顔を真っ赤にしながら、がっくりと頭を下げ俺を見てくる祐悟さんの姿に、俺は何か悪いことを言ってしまったらしいと気づいた。

えっ? 俺、今、なんて言ったっけ??

――祐悟さんすごく優しく抱いてくれた・・・・・・だけで……俺、ひどいことなんてされてません

さっき自分が言った言葉が頭の中で何度も繰り返される。
抱いてくれただけ、抱いてくれた、抱いて…………
自分がとんでもない言い間違いをしていたことに気づき、

「わぁーーっ!! ちが、違うんですっ!!! 抱きしめてくれただけです!!!」

バタバタと手足を動かしながら必死にそういうと、祐悟さんはクスリと笑って

「航、もう大丈夫だから……」

と優しく抱きしめてくれた。
そして、扉の前に集まっている砂川さんやその他の社員さんたちを前に

「心配してもらって悪いが、彼は私の大事な恋人だ。私が彼に酷いことをすることなど未来永劫あり得ない。
あと、これからはここの社員ではなく、私の秘書として働いてもらうつもりだ。
もうこれは決定事項だから君たちもそのつもりで」

「「「「はっ?」」」」

祐悟さんの言葉にみんな目を丸くして言葉も出ない様子だ。
もちろん俺も。

祐悟さんの秘書って一体どういうこと?
俺はここで採用されたんじゃないの?
ここでは働けないっていうこと?

そんな彼らを前に祐悟さんは続けて、

「砂川、悪いが彼のことは今言った通りだ。別の人材をすぐに探してくれ」

と言い放った。

「えっ? 俺、ここで働くんじゃないんですか?」

「いや、決定事項って……社長! それはちょっとっ!!」

俺の驚きの声と同時に砂川さんの諌める声が重なったけれど、

「仕方ないだろう。航をひとりで私の目の届かない離島にずっとおいておくことなどできるわけがないんだから」

と事もなげにそんなことを言う祐悟さんの主張に砂川さんは『はぁーーーーっ』とものすごく大きなため息を吐いた。

「……社長。あなたいつからそんなキャラになったんですか? いつもの冷静沈着な社長はどこに行ったんですか?」

「航には関しては冷静でいられないんだからしょうがないだろうが」

「はぁーーっ。これ以上言っても仕方ないですね。藤乃くん、申し訳ないが社長のおっしゃる通りになりそうです」

「えっ……でも、俺……西表で」

「大丈夫だ、航。私の秘書として働いてもらえれば月に何度かは西表に来られるし、航だってすぐに拠点をここに移すのは難しいだろう? 私の元で働けば、東京でも働きつつ、ここにいる間は観光ツアーも手伝ってもらえるしそっちの方がいいんじゃないか?」

確かにあの時はあの会社からも何もかも全てのことから離れたい、その一心だけで地方の仕事を探したけれど実際にここに引っ越しとなればいろんな問題は山積みだ。
そう考えたら東京で仕事をさせてもらいながら、時々こうやって西表で仕事ができるなんて願ったり叶ったりじゃないか。
でもこれって……俺だけにメリットがないか?
そんなのって本当にいいのかな?
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