身も心もズタボロになった俺が南の島でイケメン社長と幸せを掴みました

波木真帆

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秘書として働くために

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「でも、そんないいとこ取りみたいな仕事をさせてもらうなんて、申し訳なさすぎて……」

「いや、航がそばにいてくれると思うだけで私の仕事が捗るんだ。私の仕事が今以上に捗るならそれはこの会社のためになることなんだから航の功績は大きいと思うが?」

そんなことをしれっという祐悟さんの言葉に砂川さんはまたもや大きなため息を吐きながら、

「でしたら、それを証明していただきましょうか。社長がこちらにいらっしゃる間にしなければいけない会議のスケジュールも既に押していますし、社長の決裁が必要な書類も山積みです。それに明日は社長がガイドされる特別ツアーのお客さまも待っておられます。藤乃くんを傍において仕事が捗ると仰るならこれらもすぐに終わらせられるでしょう。それを見せていただければ、藤乃くんを社長の秘書として採用することにいたしましょう。できなければ、当初の予定通り、藤乃くんはこの西表で働いていただくことにしましょうか」

と祐悟さんに提案した。

すると、『そんな簡単なことでいいのか?』と満面の笑みで砂川さんを見つめた。

「よし、砂川。男に二言はないな? なら、すぐに取り掛かるとしよう。航は私の傍で座っていてくれたらいい」

そういうが早いが、祐悟さんは俺を抱きかかえたまま社長室へと足早に向かった。

俺たちの後方からは『はぁーーーっ、あれ本当に社長?』とそれはそれは大きなため息と訝しむ声が聞こえていた。

祐悟さんは俺を社長席からよく見える場所に座らせると、これを読んでいてくれといくつかのファイルを手渡した。
見ると、それはこのK.Yリゾートの企画会議や経営会議の議事録やら決算書類などの重要機密書類、これまでに手がけた観光ツアーの詳細に至るまでの全てが詰まっている重要なファイルだった。

「これ……」

「航に私の秘書として働くために知識として入れてもらいたいものだよ。航にならできるだろう?」

俺は今まで5年間社会人として働いてきたけれど、こんな重要な書類を見せてもらったこともないし、触れることさえできなかった。
それを祐悟さんはこうやっていとも簡単に俺に見せてくれたのが不思議でたまらなかったけれど、恋人してだからではなく、本当に秘書として俺を傍におきたいと思ってくれているんだと思うと、嬉しくてたまらなくなった。
と同時に俺は祐悟さんの右腕として傍にいられたらなんて、俺みたいに何もできなかったものがそんなことを望んでいいんだろうかなんて不安もあった。

けれど、自分の能力を試せるこの機会を失いたくない。
祐悟さんの期待に応えられたら、俺は祐悟さんの傍にずっといられるかな……。
俺はずっと祐悟さんの大切な存在であり続けたい!
祐悟さんが作った会社だから、俺も彼の思いを汲み取りたいんだ。

「……が、頑張ってみます」

ファイルの重さが祐悟さんが今まで頑張ってきた証のような気がして、俺はその重さを確かめるようにぎゅっと抱きしめた。

祐悟さんは俺の気持ちがわかったのか『頼むよ』と言って、自分の席へと戻っていった。

それから俺は一心不乱にファイルをじっくり読み込んでいった。
最初こそ、祐悟さんが奏でる決裁印の音が耳に入ってきたけれど、あとはまるで水を打ったような静けさの中で俺はただひたすらに文字を追い続けた。

「――る、航……」

「わっ……!」

祐悟さんの声にハッとして顔を上げると、目の前に祐悟さんの顔があってびっくりした。

「ああ、ごめん。かなり集中してたな。途中リモートで会議してたのも気づかなかっただろう?」

えっ? 会議??

俺が驚きすぎて目を丸くしていると、祐悟さんはクスリと笑って

「それだけ集中できるってすごいことだぞ。だが、悪い、ちょっと充電させてくれ」

と俺に抱きついてきた。

「えっ? 充電、って……?」

「仕事頑張って終わらせてる間、ずっと航に触れられなかったんだ。ちょっとくらい航をチャージしとかないと今日はもう仕事ができそうにない」

祐悟さんはそう言いながら、俺が持っていたファイルをささっと目の前の机に置くと、椅子を動かし俺を抱き抱えて広いソファーへと移動した。

「えっ、ちょ――、ゆう、ごさん……」

「しーっ、静かに」

俺はソファーに座った祐悟さんの膝に横向きに乗せられて、祐悟さんの大きな腕でぎゅっと抱き込まれている。
祐悟さんは俺の首筋に顔を寄せスンスンと匂いを嗅いでいる。

「ああ……航の匂い、最高だな。癒されるよ」

「や……ぁっ」

汗臭くなってるのにそんなとこを嗅がれて恥ずかしく思っていると、ゾクリと身体が震えた。
なに? 今の……。

気づけば、祐悟さんが俺の首筋に舌を這わせている。

「ひゃぁっ……やぁ、ゆぅ、ごさん……そんな、とこ……」

「ふふっ。航……感じてる? 可愛いな……」

この部屋に鍵はかかっていないはず。
社長室に急に入り込んでくる人はいないだろうけど、それでもこんなところでこんなことしてるなんて……恥ずかしいのにどんどん興奮してしまっている俺、いったいどうしたんだろう……。

「……んっ」

すると、突然首筋にチクっと痛みが走った。

「ああ、最高だ……可愛い」

満足そうな祐悟さんの声が聞こえたと思ったら、最後に首筋をぺろっと舐められて離れていった。

「充電完了だ。これであと少し頑張れるよ」

祐悟さんは俺にチラッと視線を向けて嬉しそうに笑いながら、また自分の席へと戻っていった。

俺はまだ息が整わない中、祐悟さんに与えられた変な感覚に俺の中心が少し昂ってしまっていたけれど、それが祐悟さんに気づかれずにホッとしていた。

集中して続きだ!!
俺はパンパンと頬を叩き、気合を入れて読みかけのファイルを手に取った。

それからまた祐悟さんに声をかけられるまでひたすら没頭していた。


トントントンと扉がたたかれる音に驚いてビクッとした。
顔を上げれば、外はもう暗くなっていることに気づいた。
こんなに集中したことに驚きながら、合間の祐悟さんとの触れ合いがまるで夢だったかのように思えた。

社長室へとやってきたのは砂川さんだった。
俺の周りにあるファイルの山に驚きながらも、まずは祐悟さんの元へと歩み寄った。

「えっ? もうこんなに……?」

驚くほどの書類を手にバサバサと中身を確認しながら、目を丸くしていた。

「社長、会議も参加されてましたよね?」

「当たり前だ。だから言っただろう? 航が傍にいてくれるだけで仕事が捗るんだよ」

砂川さんは信じられないと言った驚愕の表情で書類と祐悟さんの顔を何度も見ていた。

その時俺の方をチラッと流し見て、『んっ?』と何かに気づいたと思ったら急に『はぁーっ』とため息をつきながら、

「なるほど。社長の傍には藤乃くんが必要なようですね」

と諦めたように言った。

「ふふっ。だろう?」

「ですが、明日藤乃くんが使い物にならないような事態にはならないようにしてくださいね」

「……それは確約はできないが善処する」

「だ、大丈夫です! 俺、やれます! 祐悟さんが頑張れるように奉仕・・しますから!!」

「「えっ??」」

二人の会話に入り込んで、明日も祐悟さんがお仕事を頑張れるようにサポートするって宣言したのに、祐悟さんも砂川さんも驚いた顔で俺を見ている。
なんで? 俺、おかしなこと言ったっけ???

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