112 / 157
5章 私が目指す聖女とは
93.すべてが予想外
しおりを挟む「ようやく見つけましたよ。聖人様方」
急がず焦らずに進み後もう少しで武器工房と言う所で、初老だろう男性とすれ違う。
私達と視線が合うにこやかに声を掛けられる。しかしその笑顔が逆に不気味で、その呼び名に危機感を抱く。
私は息を呑みゆっくり後退すると代わりに太が私を護るように前進し、柄に手をあて戦闘態勢に入る。
今更私を連れ戻しに来たんだろうか?
でも聖人なんて星ちゃんを亡き者にするために作ったハリボテでしかないんだから、連れ戻されて祭り上げられても私達には特別な力なんて何もない。
そもそも魔族皆殺しは願い下げ。
「オレ達は聖人なんかじゃない。本物の聖女を護る戦士だ」
「聖女? あれは穢れし魔王の血筋。聖女のはずがないだろう」
「星ちゃんをそんな風に言わないで下さい。それに星ちゃんは英雄星夜の娘でもあるんです」
「セイヤ様は魔王の娘に騙されているだけ。あれとセイヤ様に血の繋がりはない」
『…………』
太の迷いのない全否定を、彼は顔色一つ変えずに酷い台詞を吐く。これには頭に来て怪訝しく言い返せば、真っ向から今度は根拠がない嘘で否定される。
これにはあまりにも男が愚かで、唖然となり何も言い返せない。
こんな台詞おじさんに聞かれてたら──。
「星歌は俺の娘だ!! いい加減なことを言うんじゃない」
ドスーン
そう思ってた矢先尋常じゃない邪悪な殺気が近づいてきたかと思えば、怒り声と供に男はものすごい地鳴りと供に地面へと沈められる。
巨大なクレーターが出来た。
………………。
………………。
何もかもが規格外過ぎて、訳も分からず呆然と立ちつくす。
一体何が……。
この世界は、隕石は横から落ちてくるんだろか?
でも星歌は俺の娘って……????
「ヒナタ、怪我はないか?」
「え、あはい。ってスピカさん? 太こっちむいちゃだめ」
「は、ひょっとして星歌の母ちゃんがいるのか?」
「そう」
頭の中が大混乱している中誰かに心配され振り返ると、弱冠うんざりしていて肩を落としているスピカさんがいる。おかげでようやくこの不可解な出来事に納得がいく答えにたどり着く。そしてスピカさんは魔族なので太に忠告。
おじさんが私達の話を聞いていて、男のあの言葉に聞いてブチギレこうなった。
納得です。そしてスッキリしました。ありがとう。
「さすがおっさん!!」
「これはさすがなのか? 少々やり過ぎだと思うが。そりゃぁあたしも頭に来ているが、こいつはおそらく重要参考人だろう?」
私も太と同じ意見だったため、スピカさんの先を見据えた受け止めにハッとなる。
初老で私達を聖人と呼び魔族に敵対していれば、確実に重要参考人。洗脳について何か知っているかも知れなかった。
だから一番良い方法は、言い方が悪いけれど生け捕りだったよね。
「……死んでませんよね?」
「セイヤの全力の一撃を、一般人であれば確実に死ぬと思うが。瀕死であればリュウノスケなら……」
ダメ元で微かな望みを言葉にして聞いて見るけれど、返ってきたのはごもっともな答えだった。スピカさんは様子を見にクレーターへと入っていく。
「それなら私が、龍ノ介さんをすぐに呼んで──」
「師匠ならこっちに向かってくるぞ。やべぇ星歌も一緒みたいだから、オレちょっと離れるわ」
視線に入ってくる二つの人影の正体を確認するなり、軽くそう言い急いで私達から離れる。洗脳の症状が現れ、苦しいんだと思う。
大好きな相手を見るだけでイライラして暴言を吐くって、どんなにキツいことなんだろう?
声だけなら大丈夫って言ったって最初は良くても、好きという気持ちが大きくなればなるほどそれだけじゃ物足りなくなる。
私なら耐えられない。龍ノ介さんを一ヶ月以上も見られないなんて。
「陽、一体何があったんだ?」
「簡単に言えば、私と太を聖人と呼ぶ人がやって来たんですけど、その人が星ちゃんを悪く言い出して。そしたらなぜかおじさんが出て来てこうなりました」
「うん、そうだな。そりゃぁ星夜はぶち切れるわな」
「パパ、私のためにありがとう」
星ちゃんを傷つけたくなくって出来るだけオブラードに包んだのに、龍ノ介さんは呆れ返り察しのついた答え。星ちゃんもちょっとだけ悲しげな表情を浮かばせた。
そんな顔見たくなかったのに、何を言ってもそうなっちゃうよね?
ただ本当のことを言ったら、星ちゃん泣いて怒るんだろうな?
「それでその怒り狂った星夜をスピカが落ち着かせているとこか?」
「はい。それで龍ノ介さんも……え?」
「どうした?」
男の治療をと言おうとした時、私が放った式達が騒ぎだしている。
どうやらどこかにたどり着いたらしい。
何かを見つけた?
「実は男の前に気になる人影がいたので、式を作って尾行させてたんです。そしたらその式達が騒ぎ出して」
「だったらすぐに真相を突き止めに行かないとな。星歌、あとはよろしく頼む」
私の言葉に緊急性を感じた龍ノ介さんはそっちを優先してくれ、男のことを星ちゃんに丸投げする。
言われてみれば龍ノ介さんより聖女の星ちゃんの方が治癒能力は高いかも。
「え~私がやるの? しょうがないな」
「サンキュー。それと聖剣は太に渡しておくから、心の準備をしておくんだな」
「!!」
どこか不満そうにも頷く星ちゃんだったのに、龍ノ介さんの意味深な台詞を聞いた途端、顔が真っ赤に染まり口をパクパクさせる。
これはもしやついに二人は結ばれる?
出来ることなら告白する心境を聞きたいけれど、今の状況はそれどころじゃないって分かっている。
そんでもって告白場面を盗み見するほど無粋でもないから、今夜ゆっくり聞けばいいか。
失恋の心配はないんだから、楽しみに待っておこう。
それよりも今は
「それじゃ、陽案内してくれ。太、どこにいるんだ?」
「はい、任せて下さい」
「オレならここにいる」
龍ノ介さんのかけ声に、私だけでなく太もすっと手を上げやる気も気合も十分だ。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです


〈完結〉毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる