普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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5章 私が目指す聖女とは

94.式の報告

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 村から離れ森の奥に式がいる小屋が見えた。ごく普通のログハウス。
 入口には見張りがいる辺り、何かあると言っているようなもん。

「太、今からこの聖剣を使え。お前のために作られたお前専用の聖剣だ」
「え、これがオレの聖剣? ……」

 ついに星ちゃん特製の聖剣が太に託され、その瞬間聖剣と太は一体したような気がした。いつもならここでおちゃらける太なのに、何かを感じたのか聖剣を真剣な眼差し見つめる。
 私の時と同じで、聖剣は太を主として選んだ。

「星歌がお前のために一生懸命作ったんだから、後でちゃんとお礼を言うんだぞ?」
「ああ、ちゃんと分かってる。それより今はここを調べる方が先決だろ?」

 やっぱりいつもの太と違った。
 意外過ぎる冷静な判断に、私と龍ノ介さんは口をあんぐり開けて見つめ合う。
 
 愛する人のために悪ガキだった少年が、見る見るうちに頼れる男性に成長していく。

 私も龍ノ介さんに見合う魅力的な女性になりたい。
 そしたら想うだけじゃなくって、もう一度アタック出来るのに……。

「確かにそうだな。陽、中に何人いるか分かるか?」
「え、あはい。ちょっと待ってて下さい」

 せっかく龍ノ介さんが頼ってくれたのに、いきなりだったから答えられず戸惑ってしまう。
 こんな時に余計なことを考え悩んでいた私がすべての悪いんだけど、龍ノ介さんの切り替えが早すぎです。

 高鳴る鼓動を抑えながら式に意識を集中させ、伝わってくる映像の部屋の中を見回す。
 女性と男性二人がせっせと何かを箱に詰めている。そしてもう一人の男性が書類整理中。式が騒ぎ出した割には、地味な光景に少しだけ拍子抜けした。
 それでもこの状況を包み隠さず報告する義務が私にはある。

「三人です。二人が何かを箱詰め。もう一人が書類整理していると思います」
「箱詰め? 理解に苦しむ行動だな」

 拍子抜けしたことを悟られないよう報告すると、やっぱり龍ノ介さんもしょっぱい表情をするだけ。
 なんだかすみませんと言いたい気分だ。

「師匠、オレが先進を切って、あの見張りを倒す」
「ああ。やっぱりそう言うとこは太のままか。んなことしたら中の奴らが、逃げるだけだろう? ここはまず見張りを眠らせる」

 今日の私はいろいろとダメかもしれない。

 太提案の荒っぽいやり方が妥当だと思ってしまった。

 言うのは恥ずかしいから黙っているのは卑怯だろうか?
 確かに眠らせる方法はあるけれど、私の場合成功確率三割ぐらいだから無意識に除外していた。でも龍ノ介さんだったらもっと高そう。

「だったら中の奴らも?」
「いくらオレでも一斉に眠らせることは不可能だ。一人ならば成功確率八割。失敗しても気絶させれば問題ないだろう? そんじゃ行ってくる」

 思った通り龍ノ介さんの方が成功確率は高かった。後半は結局最後は力業なんだと思いながら、一人行く龍ノ介さんの後ろ姿を見守る。
 見張りの目を可憐に搔い潜り背後に回って、耳元でフィーガースナップ。
これが睡眠の魔術で見張りは、龍ノ介さんに倒れ込む。そして見張りを地べたに寝かしつけて、私達を手招きして呼び寄せる。
 私には隙のない可憐な一部始終に見惚れているのに、太と来たら隣で不満そうな表情を浮かべていた。

「なんだよ? それだったら一気に仕留めてもいいじゃん」
「何馬鹿なこと言ってんの? 行くよ」

 荒っぽい言動だったため相手にせず、太の手を掴み龍ノ介さんの元に急ぐ。

 穏便に解決出来る方法があればそれが一番なのに、どうしてわざと荒っぽい方法を選んで解決しようとするんだろうか?
 せっかく成長したんだなと関心していたのに、これでは完全に危ない人だ。
 本当に信じられない。




「え、誰もいない? でも──」

 気を引き締めて家の中に入ると、そこはもぬけの殻と言うか人がいた形跡がなさそう。 でも式から伝わってくる映像は、さっきとは変わらず三人がいて作業を続けている。

 あれ、よく見ると部屋の構造が少し違う?

 バン

 風がそんなに強くないのに扉が勝勢いよく閉まる。
 途端に不吉な空気が流れ出し、式の映像が途切れた。

「どうやらオレ達は敵の罠にまんまとハマったらしいな」
「すみません。よく見極められなかった私のせいですよね?」
「いいや。オレも少し甘く見てたよ。ここはオレがなんとかするから、陽は心配するな」

 心強く言われても龍ノ介さんの焦った表情がすべてを物語っていて、余計責任を感じでしまう。
 私に出来ることがあれば、なんでもする。もちろん龍ノ介さんに迷惑を掛けたくないから、絶対に無茶はしない。

「見張りをしている太に開けても──声がしない?」
「おそらく扉が閉まって時点で、この部屋には強力な結界を張られたんだな。しかも無理にこじ開けようとすれば、電撃を食らう仕組みだな」

 ダメ押しとばかりに、突きつけられる厳しい現実。
 軽く壁を叩き回って冷静な判断を下そうとしている龍ノ介さんを、ただ見ているしかなかった。下手に動いて罠にハマったらそれこそ迷惑が掛かる。
 そんな自分がもどかしい。

「龍ノ介さん、私に出来ることがあるのならば、協力させて下さい」
「本当に? なんでもやるか?」

 それでも出来ることがあるならば協力したい一心で覚悟を決める。真剣な眼差しで見つめられ念押しされた。
 それだけ危険な頼みで慎重に考えないといけないと思っても、私なら出来ると思ってくれている。
 だったらその期待に応えたい。

「もちろんです。なんでもします」

 即答で深く頷く。

「分かった。この方法は賛否両論あると思うが知れないが、これしか方法がないんだ。この埋め合わせは後でするから、許してくれよ」
「え、埋め合わせって何……!!」

  しかし龍ノ介さんは意味深なことを言った後、目の前に指を差し出されフィーガースナップした。
 途端に睡魔が私を襲う。

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