普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

文字の大きさ
82 / 157
4章 それぞれの愛のかたち

63.義姉の望み③ 

しおりを挟む
「何もかもがぶっ飛び過ぎて、処理能力がおいつかない……」

 ルーナスさん達に見つけられた私とパパはログハウスに通され、マヒナさんからホムンクルスだろう女性のいきさつを説明された。
 突っ込みどこ満載でそれしか言えず頭を抱える私。パパなんてあまりのことに放心状態。

 ホムンクルスの女性は私の予想通りで、魔王復活のための試作人。
 お母さんの死体の一部を使いホムンクルスにしたようで、自我はないものの簡単な命令はきちんとこなせるらしい。
 忍曰く失敗作でニシキに廃棄を頼んだけれど、ニシキはマヒナさんに託しこの地でひっそり暮らしているそうだ。
 これだけでも驚愕の事実でマヒナさんを疑えば、ニシキは実はスパイでマヒナさんの味方だって言ってきた。とてもじゃないけれど信じられなくって、取り敢えずこれは保留。

 そして魔王一族は魂と肉体の命が別にあり、命を失っても魂は生きいれば肉体を捨てこの世を彷徨うと言われている。魂は相性が良い魂のない肉体があれば復活が可能らしく、ホムンクルスは作られたそうだ。でもホムンクルスに魂の定着した成功例はないらしく、忍も苦戦しているらしい。
 だから忍はホムンクルスを器にするのは諦め、魔王の孫娘である私を器にしようと考えた。結婚して新たな魔王を産む選択肢があったのは、器にするのは私じゃなくても魔王一族の血筋であれば誰でもいい。忍にとって私は道具でしかない。

「私も多少なりとも混乱している」

 博識のルーナスさんもこの驚愕の真実は初耳だったらしく、私達同様頭を抱え困惑していた。

 特にニシキは私に優しかったのは事実だけれど、忍の忠実なる下部そのものだった。それなのに実はスパイでマヒナさんの仲間だって言われても、お人好しじゃないからはいそうですかとは言えない。
 そもそもマヒナさん自体信用してないから、マヒナさんが忍の部下でスパイと言う可能性の方が高い。パパを憎んでるしね。

 魔王一族についての情報は真実だと思う。

「それで頼みと言うのは、母様の魂を見つけて、あのホムンクルスに定着させて欲しいんだ。可能性は低いとしても、聖女であるセイカなら母様は蘇るかも知れない」
「マジですか?」

 処理能力がおいつかないと言っているのに待ってはくれず、今度は突拍子もないお願いにどうでも良くなってしまった。
 
 それをやって良いんだろうか?

「マヒナ、お主はどうして毎回自分の意見ばかり主張して、相手の話を聞こうとしないんだ」
「え、だって母様が蘇れば、セイカも嬉しいはずです」
「あのなマヒナ。セイカは魔術が存在しない異世界で人間として育てられた。こちらに来て一ヵ月足らずなのだから、そのようなことを言ってもすぐには信じられないだろう。考える時間をあげなさい」

 ルーナスさんは私を察してくれ全部代わりに言ってくれたのに、マヒナさんにはまったく伝わらない。それどころかなぜかパパに殺意を向ける。

 ????

「は、セイカを人間? 貴様、それは本当なのか?」
「ああ、本当だ。二度とトゥーランには戻らないつもりでいた。今もすべてが終われば、地球へ戻るつもりでいる」
「ふざけんな。セイカは誇り高き魔王一族。新たなる魔王となる女性なんだ」
「はい?」
「冗談じゃない。星歌を魔王になどさせない」

 話はどんどん大きくなり流石のパパもこれにはお冠のご様子で、マヒナさんと口論になり火花を散らす。二人の殺気は強烈で触れたら怪我をしそうだ。

 それにしても私が魔王になる?
 魔王って言うと怖ろしい邪悪な者ってイメージだけど、魔族の女王様になるって思えば怖くない。
 魔王一族は、魔族の王族の血筋。
 そう考えると魅力があって憧れるけれど、私は王女様って言う柄じゃない。
 自分のことだって満足に護れずパパと龍くんに護られているのに、民達を護るなんて無理ゲーも良い所。
 民達だってそんな人が王女になったら迷惑──

「あ、私魔族が嫌ってる人間とのハーフなんだから、きっと民達が私を認めてくれないよ。民主主義にしたら良いんじゃないかな?」

 よく考えずに明るく思った正論を言った直後、口論はピタッと止まり二人そろって悲しげに私を見つめた。

 地雷だった?

「そんなことない。確かに今は大半の魔族が人間を嫌っているが、魔王を倒した英雄は魔族でも英雄と称されている。あたしは認めてないが」
「魔王は十年以上も魔族さえも苦しめていたからな。むしろ多くの魔族は魔王復活など望んでいない」
「え、そうなの? でもそしたら余計民主主義にした方が良いよ」

 人間とは違い魔族は私を受け入れてくれることを知りそれは嬉しいけれど、そんなんなら私が女王になる必要がなく民主主義を再度押す。

 魔族の王族でも暴君魔王の孫娘。女王にしたら二の舞になる危機感はないのだろうか? ……しないけど。

 魔族の頭の中が分からない。

「俺もそれが良いと思う。でももし本当にスピカの魂が今でも彷徨っているのならば、蘇らせるのは別にしても捜したい」

 パパの考えは正常で私の肩をそっと抱き寄せ、話を元のお願いに戻し自分の意思を告げる。蘇らせると言わなかったのは、私と同じで違和感があるのかも知れない。

 後で二人になった時にでも話しをしよう。

「パパがそう言うなら捜そう。だけどなんで私に頼むの?」
「それはセイカが聖女だから。聖女と聖霊チョピは、魂の声を聞くことが出来ると言われている」
「そうなんだ。聖女ってすごいね」

 自分のことなのに感心してしまい、なんだかやる気がとてつもなく出てくる。

 これはマヒナさんのためではなくパパと私自身のため。
 それでお母さんと話が出来たら、私も嬉しい。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

【完結】大魔術師は庶民の味方です2

枇杷水月
ファンタジー
元侯爵令嬢は薬師となり、疫病から民を守った。 『救国の乙女』と持て囃されるが、本人はただ薬師としての職務を全うしただけだと、称賛を受け入れようとはしなかった。 結婚祝いにと、国王陛下から贈られた旅行を利用して、薬師ミュリエルと恋人のフィンは、双方の家族をバカンスに招待し、婚約式を計画。 顔合わせも無事に遂行し、結婚を許された2人は幸せの絶頂にいた。 しかし、幸せな2人を妬むかのように暗雲が漂う。襲いかかる魔の手から家族を守るため、2人は戦いに挑む。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...