普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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4章 それぞれの愛のかたち

64.禁忌の代償

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 パパと二人だけで話して、心の整理をする。

 と言って、私はパパと二人で外に出た。(チョピはバッグにいるけど、ガーロットは置いてきた)

「ねぇパパ、お母さんを蘇らせたい?」
「…………。ホムンクルスに魂を定着させるのは禁忌じゃないのか?」

 しばらくして私から話を切り出すと、パパは迷いながら辛そうに口を開く。本音を隠しているけれどダダ漏れだ。それだけ理性と本能が戦っている。

 そうだよね?
 パパは十四年たった今でもお母さんを愛していて、死を乗り越えられず苦しんでいる。
 例え禁忌を犯してもお母さんを蘇らせたい。言葉を交わし抱きしめて温もりを感じたい。そう願うのは必然なはず。
 もしお母さんが蘇れば、パパは報われるのかな?

「いいんだよ我慢しなくても。自分に正直になりな──」
【駄目~!!そんなことしたらセイカが死んじゃう!!】
「え、私が死ぬってどう言うこと?」
 
 パパの正直な気持ちを聞き出してなんであろうと私は賛成しようと思っていたのに、大人しかったチョピは必死になって不吉な言葉で話を遮る。
 いきなりの死の宣告に血の気がサッと引きチョピに聞き返す。流石のパパもそうなるとは考えてなかったらしく絶句していた。

【聖女の力で死者蘇生は可能だけど、その代償は死なの。先代の聖女は愛する人のために死者蘇生して命を落とした。ボクとっても悲しかったから、セイカは絶対にやったら駄目だよ】
「うん、わかった。命を代償にする死者蘇生は絶対にしない」

 初めて聞かされた先代の悲しい末路。

 純愛で素敵な感動話ではあるけれど、私に言わせれば先代は自分よがりの馬鹿である。
 だって先代は愛する人の気持ちも周りの気持ちも考えられず、自分の気持ちを優先したってことでしょ?
 死者蘇生した愛する人はきっとそんなこと望んでなかった。残りの人生生き地獄だったはず。
 まだ愛する子供のために命を代償にするんだったら分かるけれど、それでもそうなった子供には心に深い傷が残る。
 パパが自分よがりのパパだから、残される人の気持ちもわかるようになった。だから代償が命なら選択することは一ミリだってない。
 まぁ私にはまだ命を懸けてまで護りたいものがないから、自分よがりの馬鹿だと言えるだけかも知れないけれど。

「それでいい。星歌の命と引き換えに蘇ったとしても、母さんはきっと喜ばない。父さんだってそう言うことなら望まない」
「パパなら、そう言ってくれると思ったよ。じゃぁお母さんの彷徨っている魂を捜すだけ……見つけたらどうすればいいんだろう?」

 パパももちろん同意見でホッとして話をまとめようとしたけれど、新たなる問題が浮き彫りになり再び首をかしげた。

 彷徨った魂を見つけても、その後はどうするの?
 魂の声は私に聞こえるから会話は可能だけれど、その後は用が済んだらハイさいならと言うわけにはいかない。
 聖女の力で浄化と言うのもなんだか違う気がするし、……私とパパの傍にずーといてもらうため地球へお持ち帰りする?

「母さんの望みを叶えるのはどうだろう?」
「あ、それいいね。そうしよう」

 パパらしい考えに、今度こそこの話は完結す──。

「だったらこれから母さんの墓参りに行かないか? ひょっとしたら魂が彷徨ってるかも知れない」
「うん、行きたい。だけどパパは大丈夫なの?」
「言っただろう? 星歌が一緒なら大丈夫だよ」

 完結しないで墓参りすることになった。



「ルーナス先生、ちょうどよかった。スピカの墓に行きたいのですか、どこにあるかご存じですか?」
「ああ、そこなら人間に荒らされないよう結界を張ってあるんだ。一年前墓荒らしがあって強化したんだよ。私も行く所だから一緒に行こう」

 なぜかお母さんのお墓があるらしい場所にたどり着けず彷徨っていると、ルーナスさんの姿が見えたので聞くとそう答えられ一緒に行くことになる。
 言われて確かに結界を張ってあるのは当然のこと。納得いかなくても冤罪を晴らさない限りお母さんは極悪人として人間に嫌われている。

「ルーナスさんはお母さんの墓参りはよく来るんですか?」
「まぁな。だがこの半年以上は何かと忙しくて来れなかった。だからマヒナがあのホムンクルスとこの地で暮らしてるなど知らなかった」
「そうなんですか。……マヒナはスピカが蘇るのを心待ちにしてるのでしょうね?」
「だろうな。しかしマヒナには悪いが、ホムンクルスに魂を定着させ蘇らせることなど出来ぬ」

 ルーナスさんは表情を少しだけ曇らせ、まるで自分に言い聞かせるようにそう呟いた。

 本音はパパと同じで、出来ることなら蘇らせたいと思っている。でもそれは禁忌だと知っているから、絶対にやろうと思わない。
 マヒナさんだって本当は禁忌だって知っているけれど、会いたいの気持ちの方が強いから無意識に禁忌を忘れている。代償は私の命だと知れば、思いとどまって……くれず犠牲になれと言われたらどうしよう?
 ……怖いからしばらく黙っておこう。




 結界を抜ければすぐにお母さんのお墓があった。
 こじんまりとした小さなお墓だったけれど、周りはきれいな花が咲いていて小動物も駆け回っておとぎの国だった。
 お母さんの写真がたくさん飾られているのだけど、なぜか私がいてもパパが不自然なぐらいどこにもいなか……消されてる?

「まったくマヒナはしょうがないな」
「あ、パパが出て来た」

 ため息まじりで言いながら指パッチンをすると、写真から次々とパパが写し出された。どれも前に見せてもらった写真と同じ幸せいっぱいのパパで、見ているだけで私も幸せな気持ちになっていく。いつ見ても絵に描いたような幸せな家族。
 
「そんなに気に入ったのなら写してやるから持って帰りなさい」
「え、いいんですか? ありがとうございます。アルバムに貼って大切にします」

 無我夢中になって見ていると、嬉しいことをルーナスさんは言ってくれて、私の宝物はまた一冊増えるのだった。
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