普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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3章 一難去ってまた一難 魔王の孫娘は不幸?

50.父の好きな匂い

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「うわぁ~、きれい」
「気に入ってくれたか?」
「うん!!」

 星歌を連れて訪れた場所は絶景が望める丘。
 地平線がきれいな茜空に染まり掛けていて、まるで風景画のようだった。
 俺とスピカの大切な思い出の場所。

「ここは父さんが母さんに告白した場所なんだよ」
「え? そんな場所に来てよかったの?」
「ああ。いつまでたっても逃げてたら前には進めないし、何より星歌が母さんのこと知りたいんだろう?」
「……うん。今までパパが辛そうな顔をするから知らなくても良いやと思ってたけれど、こっちに来てからお母さんのことよく知りたくなったんだよね?」

 俺の顔色ばかり気にしている星歌が、珍しく本音を強く語る。
 それは心優しい星歌だからと思うものの、やっぱり俺は情けない父親だ。
 本当なら俺からスピカの話を積極的にすれば良いのだが、星歌の優しさに甘えて話をするのを避けていた。
 でもヨハンに星歌はスピカの話を聞きたがっていると言われてようやく気づいた。

「これからは出来るだけ母さんとの思い出を話すよ。レジストに行く途中、父さんが領主を勤めてた村に行こう。今は廃村となり俺の墓と石像が建てられてるらしい」

 トゥーランでの俺は魔王の娘に騙され殺された憐れな英雄となっていて、今でも人々から崇められているそうだ。はっきり言って迷惑でしかなく、それならスピカ同様冤罪を着せられて罵倒してくれた方がよっぽど良かった。
 ちなみに龍ノ介は俺の仇をとるべく、今もどこかで独りで魔族と戦っているとなっている。
 最初に聞いた時は目が点になり、耳を疑った。

「…………無理してない?」
「星歌と一緒なら大丈夫だと思う」
「それならそこに着いたら、こうやって手を繋いでいこう」

 と星歌は言い俺の手をギュッと握ってくれ、俺はそっとその手を握り返す。
 小さくてか弱い愛らしい手であるはずなのに、俺はいつもこの手に護られ勇気を貰っている。

 俺だけの魔法の手。

「ありがとう。これなら大丈夫だな。それじゃぁ母さんのどんな話が知りたいんだ?」
「パパは最初お母さんのどんな所に惹かれたの?」
「……匂い?」
「え、匂いって? パパってやっぱり野性的なんだね」
「…………」

 出来るだけたくさんのことを話そうと意気込む俺だったが、最初っから突拍子のない問いを投げられ、疑問系で答えてしまい星歌に誤解を与えてしまう。

 いやオレは認めたくないだけで、本当は野生的なのかも知れない。……この前も脳筋と言われかけたよな。
 俺にはスピカの魔族臭がリラックスが出来る心地の良い匂いだった。おそらく俺にとって魔族臭は相性が良いんだと思う。もちろんスピカのは格別なんだが。

 スピカと初めて出会った日。
今まで嗅いだことがない良い匂いに心奪われ呆然となった。外見よりも匂いに心惹かれたと言うのはかなり特殊なんだろう。自分でもそれはよく分かっている。

「それならパパは私の匂いも好きなんだね? ……魔族臭ってどんな匂いなの?」
「ハーブ系の香りだよ。人によっては強烈に感じるらしいが、父さんは好きだよ」
「そなんだ。太陽も気にはならないって言ってたし、パパが好きって言うのならもう悩むのはやめよう」
「それがいい」

 聴かれた瞬間瞳の奥が怯えるが俺の答えが腑に落ちたらしく、何かを吹っ切れた清々しい表情に変わる。

 星歌の魔族臭は正直俺には分からない程度で、龍之介からそこまで気にしなくていいと言われていた。
 二か月前の蛙男により同じ魔族には分かるんだと知ったが、地球に魔族はいないためやっぱり気にはしなかった。
 黒崎くんに言われて初めて焦りもしたが、よくよく聞けばどうやら彼は人一倍鼻が利くらしい。それで魔族臭を徹底的に叩き込まれ、あの時微かに匂った星歌を罵倒したそうだ。魔族を敵対視している彼にとって、本当に魔族臭は悪臭なのか疑問である。

「パパはお母さんが初恋なの?」
「いいや違う。父さんの初恋は隣の家の香澄姉。小さい頃からよく遊んでもらってたからな」
「へぇ~そうなんだ。初恋は匂いじゃなかったんだね?」

 やっぱり変な誤解をされていた。

「当たり前だろう? 星歌は父さんが匂いで恋愛するとでも思たのか?」
「うん。匂いフェチだと思った」

 いつの間にかスピカではなく俺の話になりおちょくられ、繋いでる手を離し逃げようとする星歌を抱きしめわき腹をくすぐる。
 ここが星歌の弱点と言うべき場所で、途端に声を上げ笑いジタバタと俺の懐で暴れる。

 成長していく我が子とこうやって戯れられる俺はどんなに幸せなんだろうか?
 この幸せが長く続くようにするには、相当努力をしないとダメなんだろう。
 相手はあの忍だ。
 あの時確かに死んだのを確認したはずなんだが、これもあいつのもう一つのスキルなのか?
 英雄候補には最大二つのチートスキルが与えられ、俺は自然治癒 惑星破壊。龍ノ介は魔力貯蓄 全魔術習得がある。
 まぁ惑星破壊とは、惑星丸ごと塵にする一度限りの使えないチートスキル。いくら追い込まれたとしても、使うことはけしてない。

「パパ、どうかした?」
「いいや、なんでもない。母さんの話──」

 笑っていたはずの星歌が真顔に変わり、俺の顔をじーっと覗き込む。話を戻そうとするのだが、星歌はムッとしてしまい地面に押し倒される。

「隠しごとしないで。今パパの表情すごく深刻だったよ。パパ今朝約束してくれたよね? 地球に戻るまで絶対に護り抜く。って。それは嘘なの?」

 隠していてもすでにバレていてしかも日頃の行いが悪いためなのか、あらぬ誤解をして泣きながら怒りしがみつく。

 今朝の俺だったらなんの迷いもなくこの命と引き替えにと思っていたが、龍ノ介にいろんな意味で任せられないと知った。
 何より星歌は俺をまだまだ必要としている。太くんにも任せられない。
 だから俺は相手が忍であっても生き残ってみせる。

「嘘じゃない。父さんはもう相打ち覚悟の無謀な戦闘はしないから。戦闘モードも再び鋼の精神を手に入れられるまで封印する」
「鋼の精神なんて手に入れられるの?」
「努力する。星歌との幸せな未来を手に入れるためにな」
「うん、分かった。パパの言葉をもう一度だけ信じてあげる」

 俺の決意を力強く断言しても星歌の答えは厳しく、まだ少し疑っているそんな気がした。
 それでも一度だけ信じてくると言ってくれたのだから、約束を絶対に裏切らなければ良い。星歌の疑いを出来るだけ早くなくせるように信頼を得よう。

 そして俺達は寝っ転がり空を見ながら、いろいろ話し合った。
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