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始まりの章

3.恋愛相談

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 人も車もないから私達は必死になってがむしゃらに走り続ければ、意外にもいやな違和感から逃げ切れたらしく気配は嘘のように消えていた。
 しかしそれでも人は姿を見せることもなく電話は繋がらず。
  走ってばかりでは体力を消耗するだけだと思った私達は、駅ビルの食堂に一端隠れ休憩することに。

「私、龍ノ介さんのことが好きなの」
「うん、知っていた」
「え?」

 陽にしてみれば勇気を振り絞って言ったのだろう告白に、私は申し訳ないと思いつつも知っていることを教えると、一瞬きょとんとなるも見る見るうちに顔を真っ赤に染め湯気まで立たせる。
 その姿がかわいすぎて思わず見とれてしまう。
 私がもし男性だったら間違いなく襲っていた。

「……。いつから知ってたの?」
「中二」
「え、そんなに前から? どうして黙ってたの?」
「隠しているみたいだったから、知らないふりをしていた方が良いかなと」

 慌てふためく姿が更に愛らしくなる陽をギュッと抱きしめたくなるけれど、その問いには少しカチンとなる。

 そりゃぁ恋愛どころか誰かを好きになったこともないから恋愛相談には乗れなくても、悩みを聞くことぐらいは出来たはず。
 それに龍くんはお父さんの悪友で私を娘のように可愛がってくれているから、プライベートはよく知っているつもり。
 趣味趣向はもちろんで、エロ本やDVDの隠し場所まで知っている。

「星ちゃんは龍ノ介さんのことどう思ってる?」
「優しくて頼りになるおじちゃんって言ったら可哀想だからお兄ちゃん。確かに私の理想の男性像ではあるけれど、物心つく前からの付き合いだし」
「そうなんだ。星ちゃんも龍ノ介さんが好きだと思ってたから」
「それだけは絶対ない」

 ありえない誤解にきつい口調で全否定。

 一体全体何をどうやったらそんな誤解をされるのか不思議だし、はっきり言って大迷惑でしかない。
 だって龍くんは私にとって………。

「実は龍くんとは私が小二になるまで一緒に住んでいて、……みんなにはお父さんとお母さんがいるように、私には父親が二人いるんだと信じて疑わなかったの。私にとって龍くんは父ちゃんだったりするの」
「!!」

 出来れば死ぬまで隠しておきたかった私の黒歴史を早口で暴露すると、顔を真っ赤に染め愛らしさ大爆発だった陽は驚きを隠せない様子で口をあんぐり開け私を見つめる。
 今度は私の顔から火が出るほど恥ずかしくなり穴があったら入りたい気分。
 いくら幼かったとは言え、可愛い誤解とは言えない消し去りたい黒歴史。

「それじゃ龍ノ介さんが見せる星ちゃんへの特別な視線は、父親が向ける親の視線だったんだね」
「え、そんな視線を向けられていたんだ。確かに龍くんも私のこと本当の娘……ひょっとして龍くんは私を好きだって思っていた?」
「ごめんなさい」
「………………」

 陽がなぜ私に隠し続けていた本当に理由がここでようやく分かり、完全に誤解は解けてめでたしめでたしとなるけれど納得は行かない。

 もし本当に龍くんが私に恋愛感情があって大人になるのを待っているとしたら、とてつもなく気持ち悪い。
  龍くんはロリコン変態ではない。
 ちゃんとした巨乳の美女好き。

 恋する乙女の思い込み最強。
 
「……星ちゃんは、応援してくれる?」
「もちろんだよ」

 だけど陽が本気であることはよく分かったため、いろいろ言いたいけれど素直に応援が出来る。
 最初から打ち明けてくれたら、応援しようと思っていた。

「ありがとう。さっそくだけど龍ノ介さんって今フリーなの?」
「うん。二ヶ月ぐらい前に彼女と別れたみたいで、その時お父さんを巻き込んで朝までヤケ酒をしていたよ」
「……いたんだ彼女」

 元カノであってもショックなのか再び凹むので、これ以上のことは言わない方が良さそう。

 私が知る限り元カノは少なくても五人いて、全員モデル並みの巨乳美女だった。
 なのに今まで結婚の話は、一度も出てこないんだよね?
 お父さんからは結婚を度々勧められてその度にその気になって盛り上がっているから、結婚願望は人並みにあるとは思う。
 と言うことはつまりまだ結婚したいと思える相手に出会っていないだけで、結婚にまだそんなに焦っていないって事だよね?
 教え子の陽にもまだチャンスがあるってことだよね?
        
 そんな怖いながらも穏やかな時間が流れていたのに、突然嫌な胸騒ぎがして今の状況を思い出す。

「陽、そろそろ別の場所に行こうか?」
「え、あ、そうだよね? 暢気に恋バナなんてしている場合じゃなかった」

 それは陽も同じで再び私達に緊張感が走るのだが、それは少し遅すぎたらしい。

「みーつーけーたー」

『え?』

 今まで聞いたことがないなんとも言えない耳障りの悪い声が聞こえ、視線をそこに向けると人間ではない人型の蛙のような者が視線に入る。
 さっきまで私達を追っていたいやな違和感…………。

 これは夢?
 私はいつの間にか寝て……。

 バシュン

 風を切りさく音がしたと思えば、ほほに熱を感じる痛みがする。

「血?」

 ほほに手で触れ見ると、ねっちょりとした嫌な感触

「キャー」

 私を見るなり陽は悲鳴を上げ顔から血の気が引き気を失い、私も今まで感じたことがない恐怖を感じ全身の震えが止まらなくなる。

 何が起きているのか分からない。
 私はここで死ぬの?

「おまえの器で魔王様は復活すると、親分は言っている。おいらおまえの身体を親分に差し出す」
「は、魔王復活になんで私が必要なの?」
「おいらには関係ない」

 どうやら見た目通りこの蛙男は雑魚キャラでラノベであれば誰にでも倒せそうな物なのに、現実はそんなに甘くはないようで私は恐怖に怯え逃げ出すことさえ出来ない。

 雑魚キャラよりも弱い私は最弱小キャラ……。
 そんな最弱小キャラの私が、なぜ魔王復活のための器?
  そもそもこの蛙男とか魔王って、この世界は一体いつからファンタジーワールドになったのだろうか?

「ねぇ私だけが必要で連れて行けば、この子は関係ないから解放してくれるんだよね?」
「それは違う。その人間はおいらの顔を見たから殺す。みんなおまえと似てるから悪い」
「!!」

 恐怖に怯えていても声は思い通りに出るようなので無関係であろう陽だけは助けたかったのに、知らない方が良かった真実を知ってしまい恐怖が罪悪感に変わり押しつぶされそうになる。

 最近起こっていた残虐事件の原因はすべて私。
 私を探すために無関係な人達が殺害されて、しかもその人達は未だに身元不明。
 こんなのってあんまりだ。

「おいらには人の顔を見分けられない。でもおまえは違うおいら達と同じ魔族の臭いがする。なぜだ?」
「そんなの私が知るはずがない。魔族って何? あなたどこから来たの?」
「おいらの世界はトゥーラン。ここへはゲートを潜ってやって来た」

 蛙男が馬鹿正直なのか知っていることをちゃんと答えてはくれるも、聞いたくせしてその現実を受け止められずにいる。

 受け止めてしまったら私は人ではないことになって、だとしたら私はお父さんの子ではない?

 …………。
 そうだよね?
 改めてよく考えると私がお父さんの十五歳の時の子って言うのは、あまりにも嘘くさいことなんだよね? 
 龍くんならまだしも、あのお父さんが中学生で経験済みとかありえない。
 蛙男の言うことが本当だったとしたら、私はトゥーランって言う世界の魔族で日本に繋がるゲートを事故かなんかで潜ってしまい、その時困っている人を見るとほっとけず手を差し伸べてしまう人の良いお父さんに拾われ育てられた。
 二歳の時家が火事になってお母さんが死んだ事にしているのは、それ以前の私の写真がないからそのための嘘。
 うん、そう考えると辻妻があって納得が出来る。

  本当にお父さんはどうしようもないお人好しだな。
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