普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南

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始まりの章

4.お父さん

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「おとなしく言うことを聞くから、この子だけは助けて欲しい」

 今の私に唯一出来ことは、無関係の陽を助けること。
 陽はいつだって私の味方になってくれる大切な親友だから、私のせいでもう誰も死んで欲しくない。
  絶望するのは陽を助けた後にしよう。

「駄目だとさっき言ったはずだ」
「なら私はあなたには従えない。私が魔王復活のための器なら生かして連れてこいと命令されたんじゃないの?」
「言われてない」
「…………」

 私の秘策は呆気なく崩れ落ちる。
 
 魔王復活の器にするのなら、普通生贄なんじゃ?
 最後の最後まで天は私に味方してくれない。
 私が魔族だから神にさえも見放されたとしたら、今度こそ絶体絶命…私は陽に何も出来なかった。

「だからそいつも言うことを聞かないおまえもここで殺す。嫌だったらおとなしくおいらに従え」
「そんなの絶対に嫌」

 最後の警告を突き付けられるけれど、私の意思は変わらず強い口調で断固拒否。
 
「だったら仕方がない。おまえから殺す」

 当然しびれを切らした蛙男の周囲には無数の青い刃が生まれる。
 不気味でどんよりとした殺気を漂わせ、さらなる恐怖を感じ私はとっさに陽をかばう。
 初めて見る魔法と言う物は、地獄へのカウントダウンだった。

 指を鳴らすと青い刃達は私めがけ勢いよく襲ってくる。

バシュン
 
 たった十五年しか生きられなかった私の短かった人生。
 ほんの数時間前まで私はごく普通の女子高生で平凡でもそれなりに楽しい毎日を送っていたはずなのに、まさか私はファンタジーワールドの住人でしかも魔族。
 魔王復活のための器になるために殺されるなんて夢にも思わなかった。
 
 陽、巻き込んでごめんなさい。
 太、大切な妹を突然奪ってごめんなさい。
 そしてお父さん。
 赤の他人の私を愛してくれて、ここまで育ててくれてありがとう。
 本当のお父さんではなくても、私はお父さんのことが大好き。

 バシュン
 バシュン
 バシュン

 死を覚悟して目をつぶりよく言う走馬燈が脳裏を駆け巡って、私は突き刺しになり殺され魔王復活のための器に…………。

 ズバッ ズバッ

 刃が肉を引き裂く鈍い音。


 ………………
 ………………


 あれ?
 痛くないし意識がある?

 刃物が刺さる鈍い音が聞こえ続けているのに、なんともない事が不思議で恐る恐る目を開けると、

「お父さん、なんで?」

 目に映ったのは、痛々しく何かをこらえる表情をしたお父さんだった。

「星歌、痛い所はないか?」
「うん、私は平気。!?」

 とにかく私の心配をしてくれ優しい笑みに変わるから、一瞬この恐怖は夢だと思いたかったのに、お父さんの足元には真っ赤な血だまりが出来ていて今もなお止まることなくボドボドと流れている。

「それなら良かった。すぐに片づけるから、ここで待ってなさい」
「え、でもお父さん大けがをしているじゃない?」
「このぐらいたいしたことないから、心配しなくても良いんだよ。父さんは痛みには慣れているし、実はこう見えても強いんだよ」

 私が知っているお父さんとは全く違う人に見えるけれど、私に対してはいつもの優しいお父さんで頭をポンポンとなぜてくれ立ち上がり蛙男にすさまじい殺気を向ける。
 途端に空気の流れが一気に変わり恐ろしい程の威圧感に息をすることさえも危うく、今まで感じていた恐怖とは比べものにならない。


「おまえは誰だ? なぜあの攻撃をまともに喰らっても平気なんだ?」
「俺はこの子の父親だよ。俺の愛する娘に手を出すとは良い度胸だ。ただですむとは思うなよと言いたいが、俺はむやみに人を殺したくない。大人しく元の世界に帰ると言うなら、見逃してやる」

 お父さんが何を言っているのか分からない。
 人を傷つけることを嫌い虫さえ殺さず何度か喧嘩に巻き込まれて入院した人の台詞とは到底思えない上、蛙男が異世界人と言うことを知っている口ぶり。
 

「それは出来ない。おいらおまえも殺す」

 しかし蛙男は聞く耳を持たず剣を抜きお父さんを目掛けて突っ込んでくるのだけれど、お父さんは物応じせずに蛙男に蹴りを入れ吹き飛ばす。

 バシン
 ドーン

 爆音並みの音をさせ壁に叩き付けられ蛙男は、泡を吹き手足だけをピクピクさせおそらく失神。
  本当に一瞬にして決着が付き私は命を救われたと普通なら思うべきなんだろうけれど、さっきから感じている恐怖は収まらないどころか増すばかりで全身が身震いする。

 こんなのお父さんではない。
 お父さんがこんなに強いはずがない。
 …………お父さんの姿をした化け物?

 私を油断させて殺すために化け物がお父さんに化けて、私に最悪の恐怖を味合わせ絶望した所で殺そうとしている。

 怖い。
  恐ろしい。
 悔しい。
 悲しい。
 憎い。

 いろいろな感情が雪崩のようにあふれ出し、頭の中がグチャグチャになり髪をかきむしる。
 
 一体私が何をしたって言うの?
 こんな状態でも異世界から逃げ出した理由を思い出せないけれど、きっと生きたかったからだと思う。
 そんな当たり前の理由でも許されないの?

「星歌、どうしたんだ? もうすべて終わったんだ」

 私の異変に気づいた化け物は目を見開き私の元に駆け寄ってくる。

 殺される?

「来ないで。あんたみたいな化け物お父さんじゃない!!」
「せ・い・か?」
「その顔で私を見ないで声で言葉を発しないで!!」

 涙ながらに大声で化け物に全否定するとなぜか化け物はショックを受けた表情を浮かべ立ち尽くすけれど、それがまた許せなくて恐怖よりも猛烈な怒りがこみ上げ周りに落ちていたコップや割れた瓶を化け物目掛けて投げる。
 瓶の破片で手を切って痛みを感じても、化け物の正体を暴きたかった。

 がん

 化け物なら簡単に避けられるはずなのに、コップも瓶も額とほほに当たり傷つき血を流す。

「星歌、落ち着きなさい。怖かったね」
「いやだ。死にたく……?」

 ついに私を殺すのか強く抱きしめられ、耳元でゆっくりと囁き背中をさする。
 殺されたくないから必死になって抵抗するけれど、それは間違えなく大好きなぬくもりで落ち着ける石けんの匂いがする。
 
 パパだ……。

「怖かったよ、パパ」

 そう思ったら頭の中の絡まった感情がすっと消え、苦労して変えたはずなのにパパ呼びに戻ってしまう。

「もう大丈夫だから、ゆっくりおやすみなさい」

 優しくて頼もしいパパの声がそう言ったのと同時に、私は眠気に襲われ懐で眠りにつく。
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