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始まりの章
2.日常
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私 村瀬 星歌はどこにでもいるごく普通の女子高生だと思う。
天パーで赤茶の髪色。瞳の色は赤。外見は目立つけれど、お母さんが外人だったらしいから仕方がない。
高校生になり髪を染めパーマをかけている子が多くなったから、今ではそこまで目立つ事はなくなり三つ編みから髪をおろした。
身長は平均よりは少し高くって、中肉中性。もう少し成長するとは思う。
周囲からの顔立ちの評価は、八重歯がチャームポイントで笑顔が似合う女子高生。
成績は平均点より少し良い程度ぐらいだし、運動神経は良い方だとは思うけれどスポーツ万能とは言い難い。
友達は男女問わずそれなりにいるけれど、スクールカーストでは晩年二軍選手。
趣味はサイクリングにカラオケ。後は漫画やラノベと言った読書にゲーム。と言う軽いオタク。
家族はお父さんと二人暮らしで、お母さんのことはまったく覚えていない。
なんでも私が赤ん坊の時家が火事になりそれで亡くなったらしく、その時写真もすべて燃えてしまったらしい。
その辺のことをもっと詳しく知りたいけれど、その時お母さんを救えなかったことがトラウマで聞いても悲しそうに謝ってばかりいる。
お父さんとは高校からの付き合いがある龍くんに聞いても、時が来たら話してくれるだろうと言うだけで、お母さんの名前がスピカである事しか知らない。
「星歌、来週誕生日だよな? その日お父さんとデートしないか?」
「は、十六才の誕生日にお父さんと?」
もうすぐ夏休みになるある晴れた日の朝。朝食とお弁当を作っていると、お父さんがやってきて真剣な眼差しで私に問う。内容が内容なだけに呆気に取られ棒読みで問い返してしまう。
細身でイケメンではないものの、格好いい分類に入りそうなお父さん。だけど残念ながら猫背に髪はぼさぼさで無精ひげ。若いはずなのに下手したら、四十過ぎの冴えないおじさんにしか見えない。
職業は今流行のIT企業のエンジニア。
性格も争いごとが大嫌いで虫も殺さない。よく言えば温厚、悪く言えばお人好しで頼りない人。
趣味は散歩でたまにふらりと出掛けているけれど、体力がなさ過ぎてなのか帰ってきたらすぐに寝てしまう。あ、シングルファザーだから料理と掃除は得意かな?
そんな残念過ぎて駄目駄目のお父さんでも、私はお父さんの事が大好き。
ただファザコンだと思われたくないから、普通の父と娘の距離を保つように努力をしている。
だからこの歳になって誕生日にお父さんとデートなんてありえない。
友達に見られたら、死ぬほど恥ずかしい。
「用事でもあるのか?」
「そう。先約があるの」
本当はまだ何もない。
しかしあてならある。
「そうだよな」
「……夕食だったら一緒に食べに行っても良いよ」
何かを察してくれたのか肩を落とし凹みまくりのお父さんはまるで捨てられた子犬に見えてしまい、仕方がないからこの代替案でどうにか手を打ってもらうことに。
外食なら家族で行っても、おかしくはない……はず。
「ありがとう。その時は恥ずかしくない格好で行くから」
「え、あうん?」
初めて聞く台詞に戸惑う。
お父さんは今までファッションを気にしたことがなく、必要最低限の身だしなみ(髪はボサボサで無精ひげだが)を整えるぐらい? お父さんが私のお父さんだって知られる事自体は恥ずかしいと思ったことはない……まさか私が格好悪いお父さんを恥ずかしいとでも思っている?
だとしたらあまりにも見当違いだ。
……まぁせっかくやる気になってくれているのだから、そのやる気を損なるとを言ったらいけないよね。
格好いいお父さんも見てみたいし。
「期待しているね。お父さんの見た目は悪くないはずなんだから、絶対格好良くなるはずだよ!」
「そうか? じゃぁ龍ノ介にコーディネートしてもらうな」
「うん、それがいいよ」
私の言葉にますますやる気になるお父さんは、無難な頼り先を出して私の期待は大となった。
龍くんは国語の教師で剣道の達人。その上センスある長身のイケメンで授業は分かりやすいし優しい独身貴族。
私にとっては物心つく前からよく知る格好いいお兄さん的存在で、高校ではダントツ人気を誇る先生だったりする。実は三十路だって、誰も気づいていない。
大人しく草食系のお父さんと正反対なのに二人は高校時代からの悪友。しかも龍くんがお父さんを尊敬しているみたい。
世の中分からないことだらけであると思いながら、卵を割れば双子だった。
「太陽、おはよう。私の誕生日に遊園地へ遊びに行かない?」
「星ちゃん、おはよう。私達も今その話をしてたんだよね太」
「おはよう。フリーの悲しい星歌にオレ達が救済の手を差し伸べてやるよ」
「何よそれ酷い。そう言う太だってフリーじゃん」
登校途中、幼馴染みの双子に出会う。早速誘ってみると頷いてくれるもの、相変わらず太は上から目線の皮肉。
しかし慣れっ子の私は負けていない。
太は見た目爽やかなイケメンで、幼い時から龍くんに剣道を教わっているため先日高一にも関わらず県大会で優勝した実力保持者。
しかし性格がお調子者で餓鬼っぽい所があるからそこまではモテないとかで、付き合ったとしてもすぐに本性を暴かれ破局。
一方陽は非の打ち所のない大和撫子系の美少女。
勘が鋭く言いたいことははっきり言うお姉さんタイプでもあるかな?
戸籍上太が兄で陽が妹。二人合わせた呼び名は太陽で、私とは小二の頃からの付き合いだ。
「そう言えば昨日道場で聞いたんだけど、最近道場破りが多発してるらしいぜ?」
「道場破りってあの漫画に良く出てくる突然戦いを挑んで勝ったら道場を乗っ取るって奴?」
「そう。実際はその一番強い奴らをボコボコにして帰って行くらしい。柔道 空手 合気道 テコンドー 相撲 ボクシング プロレスすべてが有段者なんだぜ? 化けもんだよなそいつ」
何を思ったのかいきなり物騒な話題になり、嘘みたいな話に耳を疑ってしまう。
太はいつも面白おかしく大袈裟に話をするから、いまいち信用がないんだよね。
そもそも本当にそんな人がいたら、間違えなく化けもんでサイコパスなら世界征服を企んでそう。
「太が通っている道場は大丈夫なの?」
「そのうち来るんじゃねぇの。でもうちにはオレと師匠がいるから、返り討ちにしてやるよ」
化け物と言っている割には、太は何故か自信満々で意気込んでいる。
確かに龍くんだったら返り討ちにするかもだけれど、太はこの台詞で負け……最悪死亡フラグが立ったかも知れない。
あまりのお気楽ぶりに嫌気が差す。陽に何か言ってもらおうと視線を向ければ、顔が真っ青になり私の袖を震えた手で掴む。
「ちょっと陽、どうしたの?」
「なんだかすごく嫌な予感がして……ほら最近残虐事件が多いじゃない? それと何か関係があるような」
「分かった。オレは関わらないようにするから心配するな」
あんなにやる気満々だった癖に陽の警告は素直に聞き入れ、陽の頭を優しくなぜニコッと笑う。
陽にしか見せない兄らしい姿。悔しいけれど格好良く思え、迂闊にもドキッと高鳴ってしまう。
かと言って絶対に好きになるなんてありえない。
太は異性の悪友なのだから。
「絶対だよ。星ちゃんも」
「私は端から関わるつもりないよ。そんな強い奴相手に出来るはずがないじゃん」
なぜか私の心配までしてくれる陽に、笑いながら相手に出来ないと言葉を返す。
最近関東圏内で多発している残虐事件。
あまりにも酷い状態でDNA鑑定も出来ず遺体の身元さえ分かっていないらしく、捜査は難航しているとニュースキャスターが言っていた。
お父さんからも必要以上に心配されている。私にしたらお父さんこそ用心してと言いたい。
運動なんてまったくやっていなさそうだし滅茶苦茶弱そう。
でももし道場破りと同一人物だったら、用心しようがないから怖いな。
本当のサイコパス?
「お前ら、なんの話をしてんだ?」
「あ、龍くんおはよう。この辺で起きている道場破りと残虐事件の話していたの」
「それか。まったく朝から物騒な話しをすんなよ」
そこで龍くんと遭遇し興味津々とばかりに問われ答えると、意味深な反応をされ笑われる。
?
「それで陽が惨殺事件と道場破りが関係があるかもと言い出して。師匠なんとかして下さい」
「は、それは警察の仕事だろう? そりゃぁ襲われたら必死で抵抗はするが、正義の味方をする気なんてまったくないよ」
「なんだよ師匠は案外冷たいな」
「オレは一教師だからな。正義の味方をしたければ警官になるんだな」
『ごもっともです』
龍くんをヒーローか何かと思い込んでいる太には残酷であろう回答。私と陽にしてみればこれ以上もない正論に納得する。
確かにヒーローをしたかったら、警官になれば良いこと。
特撮ではないんだから教師の傍らヒーローする物好きなんているはずがない。
そんなことも考えられない太はやっぱり馬鹿だな。
「そうか。ならオレは刑事になる!!」
「……馬鹿」
「なんかごめん……」
案の定太は目を輝かして乗り気になってはいるが、太の将来の夢は未だ月単位で変わるので私達は痛い脳みそを哀れみ彼を置き去り先に行く。
「しかしまぁその道場破りと惨殺事件は無関係だよ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。度々やってくるから、道場の師範達には有名人物でむしろ歓迎されている」
「龍くんは試合したことあるの?」
「もちろん。毎回あと一歩のとこで負けてるよ」
聞いているうちに道場破りと言って良いのか分からない真相にホッとするのと同時に、龍くんでも適わない武道全般の強者がいることに驚きである。
剣道の公式戦十八年無敗を誇る平成令和の武蔵と言われる龍くんに、勝ち続ける人って一体どんな人だろうか?
普通だったら悔しいはずなのに、龍くんは清々しくてなんだか嬉しそう。
「その割には嬉しそうだね?」
「まぁな。オレが唯一本気でやり合える相手だからな。それにいつか勝ってみせるよ」
「へぇ~、なんだかいいですねそう言うの」
負け続けて相手の強さを認めているのに、それでも諦めずに挑み続けようとするのは芯も強い剣士なのだろう。
眩しいぐらい輝いている龍くんは本当に格好良くって、私の理想の男性像なのだと思う。
後十年龍くんが若ければ好きになっていたかもと思うのだけれど、陽の顔は完全に恋する乙女になっていた。
本人は必死に隠しているつもりでも、私は陽が中二の頃から龍くんに片想いしていることを知っている。
年の差十五歳はありなのだろうか?
天パーで赤茶の髪色。瞳の色は赤。外見は目立つけれど、お母さんが外人だったらしいから仕方がない。
高校生になり髪を染めパーマをかけている子が多くなったから、今ではそこまで目立つ事はなくなり三つ編みから髪をおろした。
身長は平均よりは少し高くって、中肉中性。もう少し成長するとは思う。
周囲からの顔立ちの評価は、八重歯がチャームポイントで笑顔が似合う女子高生。
成績は平均点より少し良い程度ぐらいだし、運動神経は良い方だとは思うけれどスポーツ万能とは言い難い。
友達は男女問わずそれなりにいるけれど、スクールカーストでは晩年二軍選手。
趣味はサイクリングにカラオケ。後は漫画やラノベと言った読書にゲーム。と言う軽いオタク。
家族はお父さんと二人暮らしで、お母さんのことはまったく覚えていない。
なんでも私が赤ん坊の時家が火事になりそれで亡くなったらしく、その時写真もすべて燃えてしまったらしい。
その辺のことをもっと詳しく知りたいけれど、その時お母さんを救えなかったことがトラウマで聞いても悲しそうに謝ってばかりいる。
お父さんとは高校からの付き合いがある龍くんに聞いても、時が来たら話してくれるだろうと言うだけで、お母さんの名前がスピカである事しか知らない。
「星歌、来週誕生日だよな? その日お父さんとデートしないか?」
「は、十六才の誕生日にお父さんと?」
もうすぐ夏休みになるある晴れた日の朝。朝食とお弁当を作っていると、お父さんがやってきて真剣な眼差しで私に問う。内容が内容なだけに呆気に取られ棒読みで問い返してしまう。
細身でイケメンではないものの、格好いい分類に入りそうなお父さん。だけど残念ながら猫背に髪はぼさぼさで無精ひげ。若いはずなのに下手したら、四十過ぎの冴えないおじさんにしか見えない。
職業は今流行のIT企業のエンジニア。
性格も争いごとが大嫌いで虫も殺さない。よく言えば温厚、悪く言えばお人好しで頼りない人。
趣味は散歩でたまにふらりと出掛けているけれど、体力がなさ過ぎてなのか帰ってきたらすぐに寝てしまう。あ、シングルファザーだから料理と掃除は得意かな?
そんな残念過ぎて駄目駄目のお父さんでも、私はお父さんの事が大好き。
ただファザコンだと思われたくないから、普通の父と娘の距離を保つように努力をしている。
だからこの歳になって誕生日にお父さんとデートなんてありえない。
友達に見られたら、死ぬほど恥ずかしい。
「用事でもあるのか?」
「そう。先約があるの」
本当はまだ何もない。
しかしあてならある。
「そうだよな」
「……夕食だったら一緒に食べに行っても良いよ」
何かを察してくれたのか肩を落とし凹みまくりのお父さんはまるで捨てられた子犬に見えてしまい、仕方がないからこの代替案でどうにか手を打ってもらうことに。
外食なら家族で行っても、おかしくはない……はず。
「ありがとう。その時は恥ずかしくない格好で行くから」
「え、あうん?」
初めて聞く台詞に戸惑う。
お父さんは今までファッションを気にしたことがなく、必要最低限の身だしなみ(髪はボサボサで無精ひげだが)を整えるぐらい? お父さんが私のお父さんだって知られる事自体は恥ずかしいと思ったことはない……まさか私が格好悪いお父さんを恥ずかしいとでも思っている?
だとしたらあまりにも見当違いだ。
……まぁせっかくやる気になってくれているのだから、そのやる気を損なるとを言ったらいけないよね。
格好いいお父さんも見てみたいし。
「期待しているね。お父さんの見た目は悪くないはずなんだから、絶対格好良くなるはずだよ!」
「そうか? じゃぁ龍ノ介にコーディネートしてもらうな」
「うん、それがいいよ」
私の言葉にますますやる気になるお父さんは、無難な頼り先を出して私の期待は大となった。
龍くんは国語の教師で剣道の達人。その上センスある長身のイケメンで授業は分かりやすいし優しい独身貴族。
私にとっては物心つく前からよく知る格好いいお兄さん的存在で、高校ではダントツ人気を誇る先生だったりする。実は三十路だって、誰も気づいていない。
大人しく草食系のお父さんと正反対なのに二人は高校時代からの悪友。しかも龍くんがお父さんを尊敬しているみたい。
世の中分からないことだらけであると思いながら、卵を割れば双子だった。
「太陽、おはよう。私の誕生日に遊園地へ遊びに行かない?」
「星ちゃん、おはよう。私達も今その話をしてたんだよね太」
「おはよう。フリーの悲しい星歌にオレ達が救済の手を差し伸べてやるよ」
「何よそれ酷い。そう言う太だってフリーじゃん」
登校途中、幼馴染みの双子に出会う。早速誘ってみると頷いてくれるもの、相変わらず太は上から目線の皮肉。
しかし慣れっ子の私は負けていない。
太は見た目爽やかなイケメンで、幼い時から龍くんに剣道を教わっているため先日高一にも関わらず県大会で優勝した実力保持者。
しかし性格がお調子者で餓鬼っぽい所があるからそこまではモテないとかで、付き合ったとしてもすぐに本性を暴かれ破局。
一方陽は非の打ち所のない大和撫子系の美少女。
勘が鋭く言いたいことははっきり言うお姉さんタイプでもあるかな?
戸籍上太が兄で陽が妹。二人合わせた呼び名は太陽で、私とは小二の頃からの付き合いだ。
「そう言えば昨日道場で聞いたんだけど、最近道場破りが多発してるらしいぜ?」
「道場破りってあの漫画に良く出てくる突然戦いを挑んで勝ったら道場を乗っ取るって奴?」
「そう。実際はその一番強い奴らをボコボコにして帰って行くらしい。柔道 空手 合気道 テコンドー 相撲 ボクシング プロレスすべてが有段者なんだぜ? 化けもんだよなそいつ」
何を思ったのかいきなり物騒な話題になり、嘘みたいな話に耳を疑ってしまう。
太はいつも面白おかしく大袈裟に話をするから、いまいち信用がないんだよね。
そもそも本当にそんな人がいたら、間違えなく化けもんでサイコパスなら世界征服を企んでそう。
「太が通っている道場は大丈夫なの?」
「そのうち来るんじゃねぇの。でもうちにはオレと師匠がいるから、返り討ちにしてやるよ」
化け物と言っている割には、太は何故か自信満々で意気込んでいる。
確かに龍くんだったら返り討ちにするかもだけれど、太はこの台詞で負け……最悪死亡フラグが立ったかも知れない。
あまりのお気楽ぶりに嫌気が差す。陽に何か言ってもらおうと視線を向ければ、顔が真っ青になり私の袖を震えた手で掴む。
「ちょっと陽、どうしたの?」
「なんだかすごく嫌な予感がして……ほら最近残虐事件が多いじゃない? それと何か関係があるような」
「分かった。オレは関わらないようにするから心配するな」
あんなにやる気満々だった癖に陽の警告は素直に聞き入れ、陽の頭を優しくなぜニコッと笑う。
陽にしか見せない兄らしい姿。悔しいけれど格好良く思え、迂闊にもドキッと高鳴ってしまう。
かと言って絶対に好きになるなんてありえない。
太は異性の悪友なのだから。
「絶対だよ。星ちゃんも」
「私は端から関わるつもりないよ。そんな強い奴相手に出来るはずがないじゃん」
なぜか私の心配までしてくれる陽に、笑いながら相手に出来ないと言葉を返す。
最近関東圏内で多発している残虐事件。
あまりにも酷い状態でDNA鑑定も出来ず遺体の身元さえ分かっていないらしく、捜査は難航しているとニュースキャスターが言っていた。
お父さんからも必要以上に心配されている。私にしたらお父さんこそ用心してと言いたい。
運動なんてまったくやっていなさそうだし滅茶苦茶弱そう。
でももし道場破りと同一人物だったら、用心しようがないから怖いな。
本当のサイコパス?
「お前ら、なんの話をしてんだ?」
「あ、龍くんおはよう。この辺で起きている道場破りと残虐事件の話していたの」
「それか。まったく朝から物騒な話しをすんなよ」
そこで龍くんと遭遇し興味津々とばかりに問われ答えると、意味深な反応をされ笑われる。
?
「それで陽が惨殺事件と道場破りが関係があるかもと言い出して。師匠なんとかして下さい」
「は、それは警察の仕事だろう? そりゃぁ襲われたら必死で抵抗はするが、正義の味方をする気なんてまったくないよ」
「なんだよ師匠は案外冷たいな」
「オレは一教師だからな。正義の味方をしたければ警官になるんだな」
『ごもっともです』
龍くんをヒーローか何かと思い込んでいる太には残酷であろう回答。私と陽にしてみればこれ以上もない正論に納得する。
確かにヒーローをしたかったら、警官になれば良いこと。
特撮ではないんだから教師の傍らヒーローする物好きなんているはずがない。
そんなことも考えられない太はやっぱり馬鹿だな。
「そうか。ならオレは刑事になる!!」
「……馬鹿」
「なんかごめん……」
案の定太は目を輝かして乗り気になってはいるが、太の将来の夢は未だ月単位で変わるので私達は痛い脳みそを哀れみ彼を置き去り先に行く。
「しかしまぁその道場破りと惨殺事件は無関係だよ」
「え、そうなんですか?」
「ああ。度々やってくるから、道場の師範達には有名人物でむしろ歓迎されている」
「龍くんは試合したことあるの?」
「もちろん。毎回あと一歩のとこで負けてるよ」
聞いているうちに道場破りと言って良いのか分からない真相にホッとするのと同時に、龍くんでも適わない武道全般の強者がいることに驚きである。
剣道の公式戦十八年無敗を誇る平成令和の武蔵と言われる龍くんに、勝ち続ける人って一体どんな人だろうか?
普通だったら悔しいはずなのに、龍くんは清々しくてなんだか嬉しそう。
「その割には嬉しそうだね?」
「まぁな。オレが唯一本気でやり合える相手だからな。それにいつか勝ってみせるよ」
「へぇ~、なんだかいいですねそう言うの」
負け続けて相手の強さを認めているのに、それでも諦めずに挑み続けようとするのは芯も強い剣士なのだろう。
眩しいぐらい輝いている龍くんは本当に格好良くって、私の理想の男性像なのだと思う。
後十年龍くんが若ければ好きになっていたかもと思うのだけれど、陽の顔は完全に恋する乙女になっていた。
本人は必死に隠しているつもりでも、私は陽が中二の頃から龍くんに片想いしていることを知っている。
年の差十五歳はありなのだろうか?
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