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一八五話
しおりを挟む鉄腕28号くんを前にして呆けるジエロを他所に、俺は鉄腕28号くんを操作し、俺の前に手の平を差し出させる。
「うおっ! 動いたぞっ!」
「そりゃ動くさ。事前にそういうものだと説明しただろ?」
鉄腕28号くんの動きに驚き、飛び退いたジエロ。それを尻目に、俺は鉄腕28号くんの手の平の上にピョンと飛び乗る。
「なっ、何をするつもりだ?」
「何をするも何も、上に行くんだよ。上に。でないと作業が出来ないだろ?」
そう言って、俺は鉄腕28号くんの頭部分を指さした。まぁ、肝心の頭はないんですけどね。
要は、この手をエレベーター代わりにして上へ行くのだ。流石にこの大きさともなると、よじ登るとか出来ないからな。
まぁ、セリカとかイオス辺りなら、少ない足場を利用して駆け上がって行きそうだが、俺にはムリムリカタツムリな芸当だ。
とにかく、鉄腕28号くんには見た目通り頭がないため、【視覚共有】などの感覚共有スキルが使えないので、こうして俺が目視によって操作する必要があるのだ。
まぁ、目付ければいいじゃん、という話しなのだが、そこは実験機ですしお寿司……
ちなみに、この子を元にした発展型には、全部頭部が付いている。
更にいえば、視界確保の為に、頭といわず色々な所に目を付けていた。
黒騎士の後頭部に目が付いているのもその影響だ。
何だかんだで結局あると便利なんだよな。
俺にとって、頭は決して飾りではないのだ。
ちなみに、この形状でも【傀儡操作】的にはギリ人型と認識されるらしく、スキル効果の対象となっている。
これで、頭があっても足がないと効果から外れるというのだから、このスキルの許容範囲がいまいちよく分からん。
「ほれ。そんな所でビビってないで、さっさとジエロも乗ってくれ。
作業の指示をしてもらわいと、何をしたらいいのか分からないだろ?」
と、既にへっぴり腰になっているジエロにそう声を掛ける。
「べ、別にビビってなどおらんわ! だ、だが、だ、大丈夫なんだろうな……?」
「大丈夫、大丈夫。別に噛みついたらしないから」
そう言って、俺はジエロに向かいおいでおいでと手招きをする。
何せ噛む口がないからなっ! はっはっはっ!
「そ、そうか……分かった」
そんな俺の渾身のギャグを理解する余裕もないのか、ジエロは妙にぎこちない動きで鉄腕28号くんの手の平に乗ると、その太い指にガシっとしがみ付く。
んで、手を持ち上げ上へと移動させる。
「ぬおっ!」
グングンと高度が上がって行くことに、ジエロが大袈裟に驚いていたが……
いや、これは案外怖いな、うん。
ゲームの頃は大して気にはならなかった高さだが、何故かリアルだと思うだけで体の一部がヒュンとなる感じがする。
……どこが、とは言わないがな。
それにしても、視覚的なことはゲームの時と大差ないはずなのだが、不思議なもんだ。
なんて考えているうちに、鉄腕28号くんの手が目的の高さへと到達する。
で、これから手の平から本来頭がある場所へと飛び移ることになるのだが、下手に足が竦むと返って危険なので、「大丈夫。落ちても今の装備なら死にはしない……はずだ」と自分に言い聞かせ、意を決してひょいと飛び移る。
ふぅ~、結構怖いなこれ……
これは何か安全に乗り降り出来る方法を考えた方がいいかもしれないな。今後、またこいつを使う機会があるかどうかは知らんけど。
余談だが、他の大型機はすべて安全に乗り降り出来るように造られている。
「さぁ、ジエロもこっちに来てくれ」
「ああ、分かった」
俺がそうジエロに声を掛けると、ジエロの奴、今まで鉄腕28号くんの指に必死の形相でしがみ付いていたとは思えないくらい、ケロっとした表情で簡単に飛び移って来やがった。
俺が決死の覚悟で飛んだというのに……
「さっきまでビビっていたくせに、案外平気そうだな」
「だからビビってなどいないと言ってんだろ。
……その、なんだ……この巨大なゴーレムに少し驚いていただけだ」
どうやら、ジエロは高さに対してそれほど恐怖心はないようだった。
よくよく考えてみれば、ジエロは工兵部隊の隊長で、工兵なら高所作業くらい出来て当然か。
目の前の城郭だって、10メートルくらいあるわけだし。高さにビビっていたらこんな所では働けないわな。
持ち主である俺が結構怖い思いをしたというに、ジエロの方が普通にしていることに、何故か敗北感のようなものを感じる。
「んじゃ、さっそく作業を始めるから指示を頼む……と、その前にだ」
俺は【形状変化】を使い、鉄腕28号くんのコクピット……と言っても、ただの凹みだが……を囲うようにフェンスを構築する。
この高さだ。下手に落ちたら、俺もジエロも危ないからな。
勿論、俺は大丈夫だと思うが、保険はあって越したことはない。何が起こるか分からんからな。
「よし。これで落ちる心配はないだろう。んじゃ、指示を頼む」
俺は気を取り直すと、鉄腕28号くんの左手を持ち上げさせ、その手の平に亜空間倉庫にしまっていた石材を乗せるだけ乗せつつ、ジエロにそう声を掛ける。
「ああ、ではまずはだな……」
というわけで、先ほど作った石材をジエロの指示に従いつつ並べて行く作業を始めることに。
しかしこれは難しいな……
結構複雑な形状で置いて行くため、ジエロの指示なしで積むのはなかなかに大変な気がする。
なんでも、下の一部が崩れても上まで崩れないようにするための組み方、らしい。
で、作業を進めるにつれ次第に面白いことが分かって来た。
この城郭、ただ石が積まれているだけの簡単なものではないみたいなのだ。
ついでにジエロに説明を求めると、指示の合間合間にジエロが色々と教えてくれた。
曰く。
城郭の構造がどうなっているのかというと、大きく分けて三つの層から成っているのだとか。
まず、漆喰の様なもので塗り固められた一層目。
これは補強も然ることながら、見た目の美しさに重点を置いた加工らしい。
岩が剥き出しの状態では不格好だからな。それが国王が住まう王都ともなれば尚更だ。
勿論、ただ見た目をよくするだけではなく、強度の増加であったり、仮に敵兵が攻めて来た時、表面の凹凸を無くすことで壁を登り難くしている、などの目的もあるらしい。
ちなみに、ブルックの居るアグリスタの街門は岩肌が剥き出しになっていた。
で、二層目が今、俺が積んでいる岩の層だ。
ここの目的は勿論、強度の確保だ。大きく硬い岩を積むことで堅牢な城郭としているわけだな。
基本的に長方形に近いブロックを、縦にしたり横にしたり色々な方向に置いてくみ上げている。
こうすることで、一部が倒壊しても全体が崩れれない造りにしているらしい。
そして最後の三層目。
実は城郭は、ただ石を積んで出来ているのではなく、石壁は外側と内側部分のみで、その中身は別の物が詰められているのだ。
で、その中身というのが割栗石だった。
割栗石というのは、簡単に言えば割って作った砂利よりも大きな石、といったところか。
主に地盤を安定させる建材として、よく使われている物だ。
これが三層目として、二層目の岩の層の間に敷き詰められているのだ。
城郭は高さだけでなく、その厚みも結構ある。その幅は大体3から4メートルといったところか。
でだ、そのすべてを岩で埋め尽くすには相当量の石材が必要になって来る。
そこで、中層を割栗石で敷き詰めることで、石材の節約を図っているということだった。
しかし、ただ節約の為に割栗石が使われている、というわけでもないらしい。
全てを硬い岩で壁を作れば、確かに頑丈な城郭が出来るのは間違いない。
しかし、それでは岩自体が耐えられる衝撃の限界を超えた衝撃を受けた際、簡単に崩れてしまうのだと、ジエロは言う。
そこで、内部を割栗石で埋めることで、外岩が受けた衝撃を内部で拡散させることで外岩が受ける衝撃を軽減し、崩れ難くしているのだとか。
つまり、割栗石の層を衝撃を吸収するクッションとして使っている、というわけだ。
しかも、詰まれている石材は綺麗な長方形ではなく、上面と下面に若干の傾斜がついた、平行四辺形に近い形をしており、積み上げると自重で自然に一方向に滑り落ちる力が働く様になっていた。
城郭の外と内、その両方の石を中央に滑り落ちる様に配置することで、中に詰めた割栗石を石の重量で押し固め、更に、割栗石の重量で城郭が内側から倒れないように設計されているのだと、ジエロが誇らしげに語っていた。
こういっては失礼なのだろうが、なんだか色々と考えられて作られているだなぁと、感心してしまう。
と、そんな解説を聞きながら、俺はジエロの言う通りに岩を並べて行く。
手持ちの石材を使い切ってしまったので、石材を回収しては積み、使い切ったらまた回収と繰り返し、今ある石材だけでなんとか補修部分の一段目の石積みが完了した。
で、ここからは今積んだ石の間に割栗石を敷き詰めて行く工程に入る。
元々使われていた割栗石が近くに積まれているというので、鉄腕28号くんの手ををショベルカーの代わりに使い、掬っては詰め、掬っては詰めと繰り返す。
摺り切り一杯になったところで、割栗石を上から叩き均す。
人力でやる時は、丸太の様な物で割栗石を上から叩いて均すのたが、鉄腕28号くんなら指でトントンするだけで事足りる。
ただし、力加減を間違えると、折角積んだ石積みごと破壊してしまうので慎重にだ。
そうこうしている間に、廃材回収に出ていた人達がちらほらと帰ってき始めていた。
一応、作業員? 騎士? の人達にも人形のことは事前に説明はしていたが、言葉だけでは伝わり切らなかったのか、誰も彼もが帰って来るなり、実際に巨大人形を目の当たりにして相当驚いているようだった。
鉄腕28号くんの上から、皆が驚いている姿を見るのは、中々に面白いものだったがな。
割栗石の均しも終わったところで、まずは一旦ここまでと、ジエロの指示で作業を中断することに。
ここからは直近の問題である石材の確保が第一だと、回収して来た廃品を石材に作り替える作業をすることに。
どのみち、一日でどうこう出来る作業量ではない為、その日は次から次へと運ばれてくる廃材をひたすら石材に作り替えるという作業で一日が終わって行った。
そうして日か沈んだ頃、作業を切り上げ解散。
帰り際、ジエロから酒の席に誘われたので、他の作業員共々酒場へと繰り出すことになったのだった。
宿屋のリースさんへは、近くでウロチョロしていたガキんちょを捕まえて、小銭を渡してメッセンジャーになってもらった。
こういう時、ケータイの偉大さを思い知るな。
あっ、共振リングを渡しておくのは手だな。そうしたら連絡とかスムーズに出来そうだし。
帰ったら渡しておこうっと。
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