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一八四話

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「お前の能力ちからについて、もう少し詳しく話を聞こうか」

 そう言うジエロに、俺は【結合バンド】や【形状変化シャープ・チェンジ】だけでなく、他にも作業に役に立ちそうなスキルについて話をすることにした。
 例えば、【亜空間倉庫】やチェストボックスについて。
 【亜空間倉庫】は1アイテムに付き1スロットを必要とし、かつ、空のスロット数が少ないために、大量運搬にこそ向かないが、サイズはほぼ無視してなんでも収納出来る特性があるため、普通なら運べないような大型物の運搬が出来るというメリットがある。

 そして、チェストボックスには、逆に収納出来るサイズに制限があるが、箱一つに付き最大五万点という膨大な量の物を収納し運ぶことが出来る。
 正直、これらについては話すかどうかちょっと迷ったのだが、相手が騎士団なら悪いようにはならないだろうと、話すことにした。
 まぁ、騎士団と一言に言っても、みんながみんな、セリカみたいな生真面目な奴とも限らないんだがな。
 実際、ギュンターみたいなふざけたヤローも居るわけで。
 でも、このジエロからはブルックと似た様な印象を受けたので、まぁ、話すことにした。
 これで何か問題が起きたなら、それは俺に人を見る目がなかった、というだけのことだ。

 他にも、俺の十八番である【傀儡操作マリオネット・コントロール】についても話しておく。
 大型の人形を使えば、重量物の運搬などが簡単に行うことが出来るからな。
 それこそ、俺が持つ最大級の人形は高さ20メートルくらいあるので、大体高さ10メートル位しかない街壁の石積みなど、積み木感覚で処理出来るので楽勝だ。
 
 とはいえ、話しただけでは信用されなかったので、実演しつつ説明する。
 流石に人形に関しては、いきなり大きな物を出すわけにもいかないので、無難に黒騎士を出して説明した。
 黒騎士を見て、ジエロから「ゴーレムなのか?」と尋ねられたが、自立行動しないので似ているが違う物である、と話している。

 いまいち納得している雰囲気はなかったので、上手く伝わったかどうかは分からんところだ。

「……大方は理解した。では、直ぐにでも作業に取り掛かる。
 と言いたいところだが、各所に散っている者を呼び集めるのに多少時間がかかる。お前は暫しここで待機だ」
「あいよ」

 ジエロは直ぐにこの場を離れてしまったので、俺は彼が帰ってくるまで暫し待ち呆けである。

 ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢ ♢♢♢

「とにかく、すべての作業は一時中断だっ! 手の空いている者はとにかく廃棄した石材を回収して来いっ! 多少は風化していても構わんっ! ありったけ持って来いっ!」

 人でごった返した作業場に、野太いジエロの怒声が響く。
 何処にこれだけの人が居たのか……

 俺が言われた通り、大人しく待っているとジエロが大量の人達を連れて戻って来たのだった。
 初めに、軽く俺の紹介がされ、そのあと今日の作業内容を大幅に変更する旨が、ジエロの口から集まった人達へと伝えられた。
 ちなみに、ここに集まっている人達全員がジエロの部下であるらしい。
 つまり皆、国家騎士だということだ。
 自由騎士が一人も居ない辺りに、この仕事の不人気さが伺える……

 で、その作業内容はというと、これが実に簡単なもので、老朽化して廃棄された石材を、廃棄場所から回収してくること。この一点に尽きる。
 ちなみに、廃棄場所はここから少し離れた場所にあるらしい。
 ジエロの掛け声一つ、作業員達が各々散って行った。
 
「それではスグミ、お前の仕事場こちらだ。着いて来てくれ」
「あいよ」

 というので、大人しくジエロの後を着いて行くことに。
 事前に、ジエロとは作業内容について打ち合わせをしており、俺は石材の精製に専念すもことになっていた。

 石材の破棄には大きく分けると三つの工程があり、一つ目が老朽化した石材を城郭から切り離すこと。
 二つ目が、切り離した石材を運搬しやすいサイズに割ること。
 壁を作る際には重要になる石のサイズだが、崩す時はその大きさがかえって邪魔になるため、ある程度割って小さくしてから捨てに行くのだという。
 デカイままでは運ぶのも一苦労だからな。
 そして、三つ目が運搬だ。

 で、俺が今ジエロと向かっているのが、城郭から切り離し、運搬用に砕く加工をしている場所だ。
 要は、廃材回収班がせっせと廃材の回収作業に勤しんでいる間に、砕く前の大きな石を加工して再利用しよう、ということだな。

「ここだ。では頼めるか?」
「おーけー」

 石材の廃棄加工をしているその場所には、確かに大きな石があちこちにゴロゴロと無数に転がっていた。
 普段はここで作業をしている者達も、今は廃材回収に回されているので無人だがな。

「では早速」

 俺は手始めに近場に転がっていた石へと近づくと、いくつかまとめて【結合バンド】で一纏めにし、【形状変化シャープ・チェンジ】で既定の大きさへと整えていく。
 城郭に使われている石材は、日本の石垣のような不揃いな自然石を並べるのではなく、どちらかというと、ピラミッドのようなある程度統一した規格で加工されたサイズの石を敷き詰める、という工法で作られていた。
 用法・用途で多少形状が違うようで、細かなサイズはジエロの指示を受けながらの作業となった。

「ほぉ、しかしこれは便利なもんだな……」

 と、俺の作業を後ろから見ていたジエロが唸るそうにそんなことを言う。

「城郭の改修工事の際は、いつも廃材の捨て場を何処にするかでいちいち揉めることが多かったからな。
 こうして廃材を再利用出来るというなら、そんなことで手間取る必要がなくなる。なにより、膨大な費用を費やして、石材を調達する必要がなくなるのがなりより素晴らしい」

 そんなジエロの言葉に、なんというか、残土処理の問題って何処にでも付きまとうものなんだなぁと、つくづく実感する。
 日本でも、残土の不法投棄が度々問題に上がったりするからな。
 で、そんな盛土が大雨で崩れて多大な被害が出した、なんて度々耳にするニュースだ。

 ちなみに、こうした残土? 残石? はというと、大きなものは細かく綺麗に整形して一般建材として販売することで、再利用するらしい。
 そして、こうした石材を売ったお金が、新しい石材の購入資金に回されるのだとか。
 しかし、今回は廃材そのものを材料に、新しい石材が入手出来ると、ジエロは実にご満悦の様だった。

「どうだスグミ? 工兵大隊に入隊する気はないか? その能力があれば、好待遇で迎え入れるぞ?」
「遠慮しておくよ。依頼としてならいくらでも受けるが、国家騎士になるのはちょっとな……」

 以前にもセリカに騎士隊への入隊を誘われたが、やっぱり俺は騎士ってガラではないからな。
 それに俺は所詮は外国人……まぁ、正確には異世界人なのだが、とにかく、この国の人とは縁も所縁もない関係だ。
 そんな俺が、この国の人達の為に体と命を張って国を、そして国民を守れるかというと、正直難しい物がある様な気がする。
 そんな俺が騎士になって、国民の税金から給料をもらうっていうのは、何か間違っている気がするんだよな……

「そうか、残念だ。まぁ、気が変わったらいつでも声を掛けてくれ」

 お誘いが本気だったの、それともただの社交辞令だったのか、ジエロは特に食い下がることもなく話を引いてくれた。
 まぁ、粘られても困るんでよかったが。

「それより、ジエロ……隊長はこんな所で油を売っていていいのか?」
「別に、お前の隊長ではないからな、ジエロで構わん。
 どのみち、今は指揮する部下は全員廃材回収に回っているからな。
 出来ることは何も無い。なら、お前の能力を見定める為にも、ここでお前の仕事ぶりを見ていた方が有意義というものだ」

 ということで、ジエロの見学タイムが暫し続くことに。
 まぁ、じっと見られての作業というのも、やややり難いところはあるが、別に邪魔なわけではないのでジエロの好きにさせることにした。

 そんなジエロを背後に、俺は次々と転がっている石から新しい石材を作って回る。
 一応、出来上がった新しい石材は、亜空間倉庫に一時保管していくことに。
 あまり空スロットはないが、入れられるだけ入れておこう。
 そんな作業は、一時間もしない内に廃材を使い切り終了。都合、一〇〇個程の新しい石材を作ることが出来た。
 一応、亜空間倉庫に限界まで収納し、入りきらなかった物は適当に集めて積んでおいた。

「さて、取り敢えず二〇個くらいならすぐにでも運搬出来るけど、早速積むか? それとも、回収班が戻って来るのを待つか?」
「いや、まずはお前がどうやって作業をするつもりなのかが見たい。
 数は多くはないが、手始めに石積みを始めることにしよう」

 という、ジエロの指示に従い、早速石積み作業に入ることに。
 で、今では人っ子一人いなくなってしまった工事現場へと戻って来た。

「んじゃ、大型の人形を出すから離れてくれ」

 俺の言葉に従い、ジエロが俺から離れて待機する。
 ジエロも安全圏に移動し、十分なエリアが確保されていることを確認しつつ、俺は亜空間倉庫から普段はあまり使わない……こちらに来てからもそうだが、『アンリミ』でもあまり使わなった巨大な人形をポンと出した。
 流石に、20メートル級はデカ過ぎて、逆に作業がし難そうなので、今回はその半分の10メートル級の人形を出すことにした。
 途端、周囲に大きな影が落ちる。出した人形が日を遮ったのだ。

「っ!! なっ、なんだこのバケモノは……」

 それを見て、ジエロの顔がちょっとどころではなく引きつっていた。
 まぁ、その気持ち分からなくはない。

「こいつは俺が持っている人形の一体。名前を“鉄腕28号くん”という」

 鉄腕28号くんは、戦闘を目的に作った人形ではなく、人形の大型化の実験を目的とした制作した試作実験機だ。
 そのため、使われている材質も黒騎士などに使っているような希少で貴重なアマリルコン合金ではなく、一般的に手に入る鋼やモンスター素材などを利用して作られている。

 また、そのフォルムは黒騎士やエテナイトの様な人型ではあるが、見た目はずんぐりむっくりしたマッシブなボディをしており、足が酷く短い代わりに両の手は立っている時でさえ地面に手が届くほどに長い、という特徴的な姿をしていたをしている。
 起立時の安定性、また、胴体の上下運動を押さえつつ歩行出来る事、更に各種関節の可動範囲の確保などの要素を取り込んで行った結果、こんな姿になってしまった。

 仮にその姿を動物に例えるなら、ゴリラが近いだろうか?
 ただし、頭部らしきものはこの鉄腕28号くんには存在しないがな。
 所謂、肩、に当たる部分から上はのっぺりと平らになっている。そこに人が、というか、俺が乗り込むスペースが確保されているのだ。
 
 ちなみに、名前に28号とか付いているが、これは改修と実験で手を加えた回数であり、28機も作った、というわけではない。
 流石にこんな面倒なモン、28台も作ってられるかっ!


 
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