最弱で最強な人形使いの異世界譚

大樹寺(だいじゅうじ) ひばごん

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一五〇話

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SIDE セリカ

 プレセアからスグミという人物について、その容姿や人となりを聞かれたので、セリカがそのことについて話し始めて暫し……

「マレアが戻って来たようですね」

 誰もが興味深げにセリカの話しに耳を傾ける中、唐突にアテンツァがそう切り出した。
 言われてセリカも耳に意識を集中すると、確かに遠くからマレアの足音がこちらに向かって近づいて来ていることが分かった。
 セリカやアテンツァを始めとした侍女隊は、日頃から足音だけで敵と味方を識別出来るように、かなり特殊な訓練を積んでいた。
 その為彼女達は、相手がある程度近づいてこれば、喩え姿が見えなくとも、それが誰なのかを瞬時に知ることが出来るのである。

 何故、そのような訓練をしているかといえば、相手の姿が見えない様な状況下、例えば夜間であったり藪が生い茂る森の中での戦闘になった際、足音で仲間の位置を把握することで同士討ちのリスクを下げると共に、敵に対して一早く対応する為だ。

 スグミの暮らしていた世界と比べ、この世界の夜はとても暗く森は深い。
 故に、こうした視力に頼らない情報収集能力というのは、彼女達にとっては必須の技能といえた。
 勿論、こうした技能を持ち合わせているのは一部の者のみであり、騎士であれば誰でも彼女達と同じようなことが出来るわけではない。

 そういう意味では、他人からの認識力を低下させることしか出来ないカメレオンクロークの能力は、耳鼻の利く者、また彼女達のような稀有な技能を所持している者には、容易に看破されてしまうという欠点はあった。
 言い方は悪いが、所詮はスグミが“あまり価値のないアイテム”として簡単に手放した代物である。
 そこまで万能な能力は有していなかった。
 とはいえ、セリカ達から見たらそれでも十分過ぎるほどの隠密効果を持つ道具ではあったが。

 そして、アテンツァの言葉から少しして……

「ふぁふぁいま~」

 と、執務室の扉が数度ノックされたのちに、主の許しもなく勝手に入って来たのはアテンツァの言う通りカメレオンクロークを頭から被ったマレアの姿であった。
 出て行った時との違いは、マレアがカメレオンクロークを羽織っていることともう一つ。
 その手に、一本の腸詰が握りしめられていることであろう。……既にその半分は姿を消してしまっていたが。
 それを見て、マレアが何処に行っていたのか、それをこの場の者達は瞬時に理解した。

 ちなみに、カメレオンクロークを着ていながら、誰もが普通にマレアのことを認識出来ているのは、セリカ達が特殊な能力を有しているから、というよりは、マレアがドアをノックし注目を集めたことでカメレオンクロークの効力が消失したためである。

「もぐもぐ、ごくっ……これ凄いよっ!
 正面から堂々と入って行ったのに、だ~れも私に全然気付かないのっ! マジでっ!
 いやぁ~、驚いた驚いた。もぐもぐ……」

 マレアは口の中に残っていたソーセージを嚥下すると、実に楽し気に、それこそ新しいおもちゃを自慢する子どもの様に嬉々と語ると、手にしていたソーセージに齧り付き、また咀嚼を始める。

「職務中に盗み食いとは……何をしているんだお前は……私はそのことの方が驚きだ」

 そんなマレアの姿に、呆れたとばかりにセリカは深いため息を吐いた。

「もぐもぐ、ごくっ……盗み食いとは失敬なっ! これは歴とした毒見を兼ねた調査だよっ! 
 陛下の口に入る……かもしれない物に、毒が入っていたら大変じゃん!
 だからこうして私が、このローブを使ってそんな不届き者がいないか、内々に調査を……」
「マレア、盗み食いにより減給っと……」

 そんな、何やら大仰に言い訳をしているマレアに耳を貸すこともなく、アテンツァは何処からともなく取り出していたメモ帳に、マレアの処分の内容を無慈悲に書き込んでいく。

「そんにゃ! 私の完璧な計画がっ! 酷いよっ、アテンツァ侍女長! 今月はツケ払いが一杯残ってるのにっ!」
「酷いも何も、何もかも自業自得だろうが……」

 そんなマレアに、セリカもまた冷たく放つ。
 そんな中……

「アテンツァ、盗み食い程度で減給は可哀想ですよ。別の、もっと軽い罰にしてあげられませんか?
 例えば、そうですね……私の私室の掃除当番を一週間、とかではどうですか?」

 と、そんなマレアへとプレセアが助け船を出す。

「陛下~……好き」

 マレアはそう言うと、そそっとプレセアへと近づいて、ぎゅっとその身を抱きしめる。

「陛下もソーセージ食べる?」

 で、手にしていた食べかけのソーセージをプレセアへと向かってついと差し出した。

「私もマレアのことは好きですよ。でも、ソーセージは遠慮しておきます」

 そんなマレアに、プレセアは笑顔でそれをやんわり拒否するのだった。
 プレセアよりも背の低いマレアが抱き着いているものだから、その言動も相まって、一見、傍から見れば妹のおいた・・・を庇う姉、というような光景に見えなくもない。
 が、その実態は完全に真逆であり、抱き着いてる方が抱き着かれいてる相手よりも十近くも上なのだ。

(これで二三だというのだから信じられんな。まったく、どちらが姉でどちらが妹なのか……)

 容姿、そして言動、二重の意味でどちらが年上なのか分からなくなる光景だな、とセリカは内心そう思った。

「はぁ、ですから甘やかさないでくださいと……分かりました。では、陛下の私室掃除を一ヶ月、ということで」
「あれ? 単位がおかしいですよ侍女長?」
「……一ヶ月です」
「あっ、はい……」

 その有無を言わさない狼の様な鋭い眼光に射抜かれて、これ以上言葉を吐いてはいけない、と本能的に感じたマレアは素直に頷く他なかった。

「そういえば、カネの話しで思い出したが、伯父上から書状を一つ預かっているんだった」

 おもむろに背負っていたボロい革袋から、セリカは封筒を一つ取り出すと、それをプレセアへと差し出した。

「ブルックランズ様が私宛に? 筆不精なあの方からのお手紙なんて、珍しいこともあるものですね」

 抱き着いたままになっていたマレアを隣へとどかしつつ、プレセアは体をセリカの方へと向ける。

「……そうしなければならない程の内容だ、ということだな」
「その口振りですと、アンジーは手紙の内容を既に知っているのですね?」
「渡された時に少しな」

 プレセアはセリカから封書を受け取ると、途端、手に違和感を感じた。

「何か入っていますね……これは、硬貨? でしょうか?」

 そう言いつつ、プレセアは慣れた様子で封蝋を解き、手紙を取り出した。と同時に、違和感の正体もまた姿を現したのだった。

「これは……銀貨? ですか、我が国で使われている物とは随分違いますね。サイズも一回り程大きいですし、意匠も見たことないものです」

 おそらく手紙はこの銀貨……正しくは白金貨なのだが……に関する内容なのだろうと、プレセアは当たりを付けて、ブルックからの手紙に目を通し始めたのだが……

「っ!? 冗談……ではないのですよね?」

 手紙の内容は実に簡素なものであった。
 季節の挨拶もなければ、身辺報告もなし。およそ、手紙としての礼節を一切無視した、それは手紙というよりむしろ業務報告に近いとすらいえる代物ではあった。
 だが、そこにブルックらしさがあるな、とプレセアは感じはしたが、そんなこが最早些末事でしかないような内容がその手紙には記されていたのだった。

 まず、同封されていた硬貨。これが銀貨などではなく白金貨だとうこと。
 それもかなり高純度で精製された物で、硬貨のサイズを考えても最低でも一枚三〇〇〇万ディルグの価値がある、というのがブルックの見立てとして書かれていた。
 しかも、その出所がくだんのスグミという男であり、更にその男の話しでは同種の硬貨を大量・・に所持しているのだという。

「伯父上が、そんなくだらない冗談を言うような方でないのはプレセアも知っているだろ?」
「陛下? 恐れながら、手紙には何と書かれていたのですか?」

 プレセアの、普段の彼女らしくない態度に違和感を覚えたアテンツァは、プレセアへとそう問いかけた。

「アテンツァ。貴女はこの硬貨を見て、どう思いますか?」
「失礼します」

 アテンツァはプレセアから差し出された硬貨を受け取り、それを慎重に検分する。
 そして、ある一つの事実に気が付いた。

「っ!! もしや……これは白金貨……でしょうか?」
「流石はアテンツァですね。私は最初、銀貨かと思いました。
 ブルックランズ様からの手紙によれば、純度は我が国で使われている物より遥かに高く、我が国の価値に換算して、その硬貨一枚で三〇〇〇万ディルグはくだらないだろう、とのことです。
 そして、それを所持していたのが、件のスグミ様であり、彼はその硬貨をまだ大量に所持しているそうです」
「さ、三〇〇〇万ディルグを大量にっ!!」

 その言葉に真っ先に反応したのは、プレセアの傍らに控えていたマレアだった。
 が、アテンツァに五月蝿いとばかりに一睨みさら、さっと両手で押さえて押し黙る。

「三〇〇〇万ディルグの硬貨を大量に……ですか? これだけの魔道具を所持しているだけでも驚きだというのに、更に高価な貨幣まで……その男は一体何者なのですか?」
「分からないそうです。
 ブルックランズ様は最初は異国の王侯貴族ではないか、と見ていたようですが、本人はそれを否定しているみたいですね。
 アンジーは実際に見て、どう感じましたか?」
「そうだな。本人が言う様に、少なくとも貴族、というような印象は感じなかったな。
 かと言って、平民という雰囲気でもなかった。教養、教育、礼節、どれをとっても高い水準にあるのは間違いと思うが……
 正直、奴が一体何者なのかなんて、私も、分からない、としか言いようがないな」

 と、セリカは肩を竦めてみせたのだった。
 そんなこと、セリカ自身が一番知りたいことなのだから。

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