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銀翼の鷲との死闘

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 白亜の神殿の中に入り真っ直ぐでAPが通れるほどの廊下をわたしはAPで滑走していた。
 いつもなら鍛錬と言う名目で生身で戦い力をセーブしているが今回の戦いはそんな事をする余裕はない。
 APを使わないと勝てないほどの相手なのだ。
 それだけ魔力が強い。

 滑走していた先に光が差し込めるとそこは大広間だった。
 APで空戦が出来るほど広い。
 そして、最奥には銀の羽で覆われ黒い瞳を持った銀翼の大きな鷲がいた。
 魔力の正体はこの鷲のようだ。
 鷲はこちらを見つけるや否や「キィィィィ」と言う鳴き声と共に飛翔しこちらに飛びかかる。

 ただ、その速度は光速に迫るほどでありわたしは咄嗟に左に避けた。
 命中していない筈なのだが、あまりの速度から放たれる衝撃で機体が揺れた。

 更にわたしが避けた側から慣性を無視したように急反転して口から枝分かれした無数のレーザーを吐きながら肉薄する。

 レーザーと鷲は並行移動しながら突貫する。
 レーザーは射撃用と言う印象があるがこのように使えばわたしの回避領域を狭める事が出来る。

 わたしはスラスターを最大限噴かしながら敵の攻撃域を右に避ける。
 そこから空間収納から右手にライフルを取り出し頭部に向けて5発発射する。
 だが、鷲は頭を器用に動かしながらギリギリのところで弾丸を避ける。

 こちらの射線を見切りその上で無駄なく最小の労力だけで避ける。
 中々、侮れない。

 かなり力がある癖に力押しで全てを解決しようとはせずにちゃんと時と場合を分別しながら無駄な動きをしない。
 初手で莫大なエネルギーを放つタイプの攻撃をした際の対策を既に空間に対して施していたがそれすら見抜かれておりしかも、その術がギリギリ作動しない魔力消費で抑えている。



「中々、厄介ですね……」



 こう言った敵は特にやり難い。
 力に自惚れた高慢になり神を僭称する馬鹿なら力に自惚れるので幾らでも罠にかける事は出来るがこの鷲は魔力を纏い正常とは言えないがその中でもちゃんと理知的に考え一手一手に意味を持たせている。

 この鷲の思考ベースはどちらかと言えば、わたしに近い。
 わたしもわたしと同じ思考ベースの者達と何度も模擬戦をしたがここまで命を奪い合いをするほどの殺気を交えない戦いは初めてだ。
 この敵に対してわたしは圧倒的に戦闘経験が足りていないと言うのが率直だ。



「でも、それはあなたも同じ筈です」



 迫り来る鷲は口から無数のレーザーを照射して牽制をかける。
 先程よりもレーザーの数は少ないがそれら全てはホーミングレーザーと化していた。
 わたしは鷲と距離を取るがレーザーはわたしを目掛けて追従する。

 このタイプは着弾するまでレーザーが消えないタイプだ。
 このまま追い回されればいずれ、ホーミングレーザーの数が増えいずれは回避領域が無くなり撃墜される。

 加えて、鷲もその辺の事を理解しているようでわたしがホーミングレーザーから逃れようと全力で逃げ回っていると嫌なタイミングのわたしの前に現れ進路を塞ぎ、前方の鷲と後方のレーザーで挟撃される形となる。

 その度に真下や真上、上斜め、下斜め、後ろ斜め上、後ろ斜め下などに急速軌道を描きながら跳んでくるホーミングレーザーを”障壁”と言うスキルで受け止め干渉して打ち消す。

 一度に全部受け止めると流石に相手のパワーもあり貫通するが少しずつ削れば問題はない。



「くっ……」



 だが、ホーミングレーザーが敵の術下にある以上、ホーミングレーザーの挙動は刻一刻と変化する。
 例えば、発射してからその出力を上げるような事もでき、そのせいでわたしのオラシオの右腕を蒸発しわたしの腕も消し飛んだ。

 PSG(フィジカル ステータス グランド)システムによりわたしとオラシオは量子的に接続されわたしのステータスをダイレクトにオラシオの機体ステータスとして反映している。

 わたしが使うAPはそのシステムを応用する事でわたしの戦闘力がよりダイレクトに機体の性能に直結するのだ。
 ただ、メリットばかりではない。
 こうして、被弾すれば機体の感度にもよるがわたしの腕が消し飛ぶのだ。
 勿論、痛みも激しくレーザーに肉を焼かれるのだから、猛烈に痛い。
 それでも戦闘中に失神する訳にはいかないと体が覚えているので堪える。

 わたしは直ぐに”再生”と言う術を使い右腕の時間を戻し腕も鎧も完全に再生させる。
 ただ、滴もその隙を逃さない。

 “再生”は神時空術に類する術ではあるが神時空術全般に言える事だが、非常に妨害を受け易い。
 神時空術を如何に妨害されないか……と言うのは前世のわたしの頃からのテーマなのだ。

 “再生”はそれほど顕著では無いが安定性が乏しく、僅かながら隙が生まれてしまう。
 それが格上相手となれば大きな隙となる。
 だから、鷲はそのチャンスに畳み掛ける為に一気に加速した。
 速度からしてタキオンの速度に達しているだろう。
 つまり、その速度分過去に戻る。

 この鷲はわたしが”再生”が発動しているほんの僅かな隙を寸分違わず記憶しその時点の過去に戻りタキオンの速度で過去のわたしを消し去る選択を取った。

 その選択は正しい。
 たしかにわたしが一番して欲しくない事ではある。
 相手も同じ思考ベースをしているならあらゆる事を逆算してその結論に至ったのだろう。
 だが、わたしと同じように考えると言う事はわたしがその時に置いて同じ行動をすると言う裏返しだ。

 敵はこう考えた筈だ。
 何故、あそこで”再生”を使ったのか?回復をすればリスクを避けられたのではないか?罠かも知れない……だが、罠の気配はない。
 ならば、問題はない。

 そのように考えた筈だ。
 たしかにその通りなのだ。
 それがわたし以外が相手なら正しかっただろう。
 だが、わたしには罠を仕掛けなくても討ち取る手がある。

 右腰に装備された刀と鞘に左手をかける。
 相手の唯一の誤算はわたしが剣士である事を知らない事だ。

 わたしはライフルを撃ち回避運動をしただけだ。
 そして、相手は頭は良いが完璧な戦士ではない。
 “戦紋”を見ればわかる。

 相手はわたしが剣士であるとは見抜けるほど達人ではない。
 刀を護身用くらいに思っている。
 だから、逆にわたしはその隙を突く為に”再生”を使い鷲を過去に飛ばし鷲が攻めてくるタイミングなどを全て誘導した。

 わたしがあの鷲に勝てるとすれば、その1点でありその一瞬だけなのだ。

 だから——全てをこの一刀に乗せる。

 わたしは待っていたと言わんばかりに居合を構えを取る。
 敵が過去から逆行した時点で”再生”は停止させいつでも抜けるようにした。



「キィィィィ!」



 鷲もその事を驚いたらしいが既に遅い、タキオンの速度に達すれば慣性は強い。
 もう、避けようがないのだ。

 わたしの抜刀が奔った。



「ヨォォォォォノォォォォハァァァァァァテェェェェ!」



 わたしの剣技最大にして最強の技を放ち重力で形成された刃が鷲をまるで空間ごと両断する様に裂け、鷲の上半身と下半身が滑るようにズレた。
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