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全てを理解した

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 かつて、世界そのものと呼べる地獄の獣達を屠る為に編み出した重力場による斬撃。
 空間そのものすら両断し一種のブラックホールの斬撃が万物すらも断つ。

 これ剣は魔術による技ではないので術発動前の魔力の流れなどは一切検知出来ない。
 なので、これを放たれた相手は不意を突かれて死ぬ。
 事前に重力操作でもしていれば話は変わるかも知れないがわたしはその辺の事も計算に入れて剣を高速かつ精密に制御しているのでこれを喰らって生きている者はいない。

 見た相手は大抵、死んでおり初見で見抜くのはほぼ不可能、わたしがこの鷲に勝つにはこれしか勝ち筋が無かった。
 だから、勝機を得る為の必勝パターンを常に演算し剣を抜くタイミングを測り抜いたのだ。

 鷲は地面に落ち膨大な魔力がわたしの中に入り込み神力に変換されていく。

 来た……この高揚感、久しぶりだ。

 わたしの中に莫大な力が流れ込み自身の次元が高まった事を理解した。
 わたしの予想が正しいなら、あの鷲は魔力により汚染されており“正常”な判断が出来ていなかったのだと考えられた。

 それもそうだ。
 この世界の魔力濃度はわたしの想定の7倍は濃い。
 正確にはこの火の池だけで7倍だ。
 地獄全体で見れば、もっと魔力濃度が濃かったはずだ。
 そして、地獄の時間の流れは現実と違う事から考えてもあの鷲は長期間高濃度の魔力に晒されていたはずだ。

 魔力とは厳密に言えば“悪意の気”だ。
 仮に正義感と言う善の心があったとしてもその本質に“悪”があるならそれは独善に変わる。
 いくら、善人そうでも必ずしもその人間が善人とは限らないのだ。
 もっとも、魔力があるからと悪とは言えない。
 例外も確かにあり魔力を持っていても魔力を使う適正が低い者は逆に神力に対する適正があったり無意識に神力の方を引き出したりと魔力=悪ではないが判断基準にできる程度の認識だ。

 そして、わたしはその時にあの鷲……だった者から記憶と知識を得た。

 それはわたしの長年の謎だった本来のレティシア オバルートの魂の所在を解明する知識や銀髪の邪神とは何者だったのか?また、何故ダンジョンが生まれ、何の為に造られたのか?そして、真の敵は誰なのかその時、ようやく全てを理解した。



「なるほど、そう言う事でしたか……あなたもあの方と同じ道を歩み、死んだと言う事ですか……」



 もう、その人物はいなくなったのだが、それでもその人物に聴きたかった。

 あなたは……幸せだったのか、少なくとも満足の行く形で死を迎えたのか?

 その答えは出ない。
 ただ、わたしも同じ気持ちだったと思う。

 辛かったのだと思う。
 恐らく、悔いはあった。
 だからこそ、このような回りくどい僅かな可能性の賭けたのだ。
 このままでは“浮かばれない”からだ。
 だからこそ、彼女の代わりにわたしが果たさねばならない。

 一度も会った事は無かったが、家族として彼女の代わりにわたしが使命を果たさないとならない。

 それが彼女のわたしをこの世界に呼んだ意味なのだ。
 「命を守る為の守り人となる者が現れるように……」その願いが成就した結果、わたしが呼ばれたののだから……。

 わたしが神殿を跡にした後、まるで神殿は役目を終えた様に崩れて行った。
 わたしは一切振り向かず元来た道を戻った。





 地獄から戻って来るとそこにはリオン陛下が待っており護衛の兵士もいた。
 どうやら、わたしの事を待っていてくれたようだ。



「レティシア嬢!無事だったか!」

「えぇ、何とか……」

「心配したぞ。神殿の奥から途轍もない振動が奔り今しがた地が大きく揺れていたのだ。もしや!と思って心配したがどうやら、本当に無事のようだな」



 リオン陛下がわたしの安否を心の底から心配しているのが分かる。
 神の力など無くても分かる。
 そう言った目をしており何よりリオン陛下からは発酵したような臭いがする。
 
 今までのわたしはそんな風に感じなかったが多分、神の力を使わなくても受動的にそう言った事が分かるほど力が高まったからだと思う。
 改めて思うと本当にリオン陛下に拾われたのは幸運だったと今になってシミジミと思う。




「さて、神殿の中での経緯を聴かせて貰おう。まずは場所を変えよう。事が事だ。内密に話したい。」

「分かりました。」



 わたしは陛下と共に城の陛下の私室の中で宰相である叔父さんと一緒に神殿の中での事を語った。
 そこでわたしは真実を語った。

 リオン陛下と叔父さんが信じるかは分からないが神殿を管理していた者として……当事者の1人として世界の真実……神話の真相を語った。

 それは人類が神から脱却し人の力だけで歩くと言う……言い方によっては“独り立ち”したように聴こえるがその頑なさが人類から永遠に生きる資格を剥奪した事やそうさせた真の敵の事を語った。

 リオン陛下達はその事実に絶句したがあるがままを受け入れ……膝をついた。
 それは自分が邪神だと思っていた者が真逆の存在であり神と信じられた者がとんでもない屑野郎だったと言う事実でありリオン陛下自身は気づかない内にその存在に唆されていたと言う衝撃的な内容だったからだ。

 この事を民に報せれば混乱を招く恐れがあった為、民には報せずリオン陛下と叔父さんとわたしとの間で留めておく事にした。
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