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妖魔山編

1593.厄介な目

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「まぁその『転置宝玉』をお主がどうやって入手をしたのかは今は置いて話を戻すが、あの小僧に『転置宝玉』を渡すという事は、あの少年はこの『ノックス』の世界の住人ではないという事か?」

 コウエン程の『妖魔召士』組織の幹部であるならば、この『転置宝玉』の詳細を知っている事も当然である。

 全てをコウエンに包み隠さずに話そうと決めたイダラマは、静かに首を縦に振るのだった。

「コウエン殿の仰る通り、あの麒麟児は別世界からこの世界にきたらしいのです。それも本人が望んでこの世界にきたというワケではなく、麒麟児の元の居た世界で、麒麟児側の組織と抗争中であった相手の一味の『魔法』とやらでこの世界に跳ばされてきてしまったようなのです」

 イダラマの荒唐無稽な話にコウエンは苦笑いを浮かべる。どうやら思っていた以上に、コウエンには納得し辛い話だったようである。

「それでは何か? あの小僧達の居る世界では『転置宝玉』を用いずとも『魔法』とやらで自在に別世界に跳ばす事が可能という事なのか?」

「そうらしいですな。私達の世界では『魔力』とは『捉術』を扱うためにありますが、麒麟児たちの世界では『魔法』というモノに用いるらしく、それも『魔法』とは『精霊』という種族が『ことわり』を生み出した事で、その『ことわり』を理解する事で『魔力』が僅かでも持っていれば、誰でも『魔法』を会得する事が出来て、その『魔法』を使っていく事で『魔力』を誰でも高める事が可能なのだそうです」

 今度こそイダラマの言葉に、目を丸くして驚くコウエンであった。

「だ、誰でも『魔力』を高められるだと……?」

 この世界には『ことわり』を生み出す『精霊族』の存在などは居ないため、生まれた時に『魔力値』が少ない者はもう『魔力』を高める事など不可能とされている。

 しかしイダラマの話では『エヴィ』という少年の元居た世界では、誰でもが『ことわり』という代物を理解さえすれば、持っている『魔力』を高める事が可能だという。

 こんな話を聞かされて驚くなという方が難しかった。 

「まぁ、しかし肝心なのはここからなのですが、彼には仕える主というものが居るらしく、その主のために元の世界へ戻らなければならないと、何度も我々は彼に聞かされているのですよ」

「ふむ……」

 この時、コウエンにとってはもうイダラマの話や『エヴィ』という少年の事よりも、先程の話にあった『魔力』を高める『ことわり』のある世界の方に意識が向いているのだった。

 しかしこの後のイダラマの言葉に、再びコウエンの関心は『サカダイ』の町で発していた『魔力』の持ち主に戻るのであった。

「それで彼が自慢気に話すその主とやらの特徴を、耳にタコが出来る程に聞かされた私なのですが、どうやら『サカダイ』の町から感じた『魔力』の持ち主が、この麒麟児の主なのではないかと私は考えているのです」

 コウエンはその言葉に意識をイダラマに向け直すと、神妙な顔つきとなる。

「確かにあの小僧の面妖な『術』は、この世界で見た事も聞いたこともない技法の類だった。そして『サカダイ』の町に現れた膨大な『魔力』を発した者もこの世界の『妖魔召士』とは思えぬ『魔』の使い方であった。その事を踏まえてお主の言葉を省みるに、確かにそうだと言われれば納得も出来る話ではあるが、だが、それならば何故小僧と同じ世界にその主とやらが居て、小僧はその事に気づいておら……。あ、ああ、そういうわけか」

 コウエンは一つの疑問を抱いたが、その理由を明確に理解する。

 『妖魔山』に入る前からイダラマは、身を隠すだけにしてはあまりに過剰すぎるその『結界』にまわす『魔力』の使い方に、コウエンは常々不思議に思っていた。

 だが、それがイダラマ達が『妖魔退魔師』達から逃れるためにやっているのではなく、逆に外の情報を内に居る『エヴィ』という少年に知らせぬように『結界』を施していたというのであれば、過剰すぎる理由もその正体もよく分かるというものである。

「だが、まだ『サカダイ』の町に居る者が、その小僧の主と決まったわけではないのだろう? 少しばかり執着しすぎなのではないのか? これだけの規模の『結界』を常に使い続けているのであれば、流石のお主であってもいずれは枯渇しかねぬというのに……」

「いえ、コウエン殿。万が一があっては困るのですよ。私のここまで必死に保ってきた計画が瓦解する事に比べれば、私が『結界』を用いるのに使っている魔力の消費など、あってないようなものだ」

 そう告げるイダラマの目は、再びあの『コウヒョウ』の町で見せたような、何が何でも自分の目的を成し遂げてやるという真剣な目をしているのであった。

「左様か……。あいわかった」

 そんな厄介な目をしているイダラマに、もうコウエンは真っ向から逆らうつもりはないようで、強引に話を打ち切るように溜息を吐くのであった。
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