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妖魔山編

1592.異色の存在

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 エヴィは横を向いたまま両ひざを腕で抱くように小さくなって寝ている。

 一見、子供が横になった時に見せるような姿勢で寝ているために微笑ましく思えるが、実はこの態勢で寝るエヴィは、自分の間合いに『殺意』や『殺気』を抱いた存在が入った瞬間に、彼が直ぐに立ち上がれて戦闘態勢を取るのに適していると判断した寝姿であった。

 どうやら彼もまた『アレルバレル』の世界で寝ている時に襲撃された事が幾度とあり、そういった経験が自然に彼にこの姿勢を齎せたようであった。

 イダラマはこの『ノックス』でエヴィの寝姿を何度も見ているため、今のコウエンの怒号で起きていない事を確信すると、ほっとしたような表情を浮かべるのだった。

「お主があの小僧を気にしている理由は何だ? まさかワシの大声で小僧の睡眠を妨げてはいないかと、そんな健康面を気にしての配慮ではあるまい?」

 自分で言っていて可笑しかったのか、先程までの『シギン』を馬鹿にされたと感じて怒号を発した時の表情とは雲泥の差といえる程の笑みを浮かべながらそう口にするコウエンだった。

「貴方には全てを話しておいたほうが、私としても今後の事を考えて円滑に事を進められそうですな。コウエン殿、あの麒麟児が私の護衛を務めているという話を前にしたと思いますが、その理由はこれを彼に渡す事が条件なのです」

 そう言ってイダラマは、懐から何やら『刻印』が刻まれている『転置宝玉』を取り出し始める。

「そ、それは『転置宝玉』か……! な、何故そんなものをお主が持っているのだ!?」

 『転置宝玉』を管理できるものは『妖魔召士』組織の者達を束ねる者と認められた、その代の『妖魔召士』の長だけである。

 これは『ゲンロク』や『シギン』の代だけではなく、それこそ数百年に渡って続く『しきたり』のようなモノであった。

 もういつから始められたしきたりなのか、今を生きる者は誰も知らないが、流石に組織の長が管理するという習慣は今日(こんにち)まで継続されており、彼ら『妖魔召士』組織に居る者達ならば誰でも知っている事なのであった。

 だが、そのしきたりこそ知ってはいるモノの、その『転置宝玉』が実際にはどのような代物なのかを知るものはあまりに少ない。

「はっ、はは……。ま、まさか『転置宝玉』とはな。お主、それをどうやって手にしたのかは存ぜぬが、分かっておるのか? それは昔から門外不出とされて、ワシらでも手に余る程のものなのじゃぞ?」

「クククッ! これは異なことを申される。私達は『妖魔召士』ではあるが、もう組織とは一切の関係はない。それにこの私がそんな古臭いしきたりを律儀に守ると本当にお思いか?」

 ――『守旧派』であった『コウエン』ならいざ知らず、このイダラマは『改革派』の中でも更に異色の存在である。

 何をしでかすか分からない天才にして、疑いようのない実力者――。

 前時代の『シギン』が長だったからこそ、上手く『イダラマ』の手綱を握れてはいたが、その『シギン』が姿を消した瞬間にはもう『イダラマ』は組織に興味を失くして、次の『ゲンロク』の代となると、当然に彼は組織を離れて『はぐれ』となった。

 だが、はぐれとなったイダラマに対して、誰も注意をするような真似はしなかった――。 

 ――何故なら、イダラマに恨みを抱かれたらそれこそ、何をされるかが分からないというのが理由であった。

 互いに互いを尊重し、横の結びつきを大事にしていた前時代の『妖魔召士』組織の中でさえ、彼は浮いていたといえたが、次のゲンロクの代の初め頃にはもう、彼は自ら孤立を選んで誰とも関わろうとせず、独自の『術』の開発に勤しんでいた。

 イダラマの『妖魔召士』としての『力』は、当代の組織の長となった『エイジ』ですら認める程であり、かつてのNo.2の座についていた『ヒュウガ』でさえ、イダラマだけは利用をするという考えを持たず、我関さずといった風な態度を徹頭徹尾貫いて近づこうともしなかった程である。

 そんな彼が『転置宝玉』をどのようにして入手を果たしたのか、そんな事は本当に知らないコウエンではあったが、こやつならば欲しいと思ったのならば、必ず手に入れようとするだろうなと考えるのだった。
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