上 下
1,503 / 1,906
イダラマの同志編

1486.ソフィの幼少の頃の話

しおりを挟む
『妖魔退魔師』組織の本部にある『牢』と、そのひとつ前の部屋に『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』とそれを外から覆い隠す『魔神』の『結界』を施し終えたソフィ達は、倒れそうになっているヌーを休ませるために宛がわれていた部屋へと戻ってきていた。

 ソフィは自分の回復を拒んだ以上は、周りの迷惑も考えてもらうと告げて、このまま『里』へ向かおうと考えていたのだが、今にも倒れそうなヌーを見たミスズは、そのソフィの言葉に待ったをかけて、別室に用意されていた布団をこの部屋にまで運んできてくれるのであった。

 どうやらミスズは親身になってヌーの事を心配してくれたのだろう。

 そしてその少しだけ柔らかくて質の良さそうな布団は、少し前に『スオウ』の指示でサシャが用意した布団であった。

「どうぞ、これをお使いください。そしてソフィ殿には申し訳ないのですが、後でまた総長の部屋までご足労願えますでしょうか? どうしても総長はソフィ殿と個人的に話がしたいそうなのですが……」

「む? 分かった。少しだけヌーの容態を見たらそちらへ向かわせてもらう」

「ありがとうございます。そして『結界』の件、本当に助かりました」

 そう言って再びミスズはソフィに頭を下げるのであった。

「先程も言ったがこちらも色々と世話になっている身だからな。そのように気にしないでもらいたいのだが……」 

「いえ、感謝を伝えたいのは本当の事ですので。それではソフィ殿、また後ほど部屋までお願いします」

 そう言ってミスズは部屋に居る者達を一瞥した後に、軽く会釈を行い部屋を出ていった。

 ミスズが出て行った後、テアの力を借りて布団で横になっていたヌーは、身体を起こしてソフィの方を向いて口を開いた。

「さっきのお前の『極大魔法』の事だが、あんな『魔法』はこれまで『アレルバレル』の世界で見た事ねぇが、あれはお前の『固有魔法』なのか?」

「ふむ。それは『絶殲アナイアレイト』の事か?」

「ああ……」

「そうだな。使ったのは実に数千年、いやそれ以上ぶりではあるが、あれは確かに我が若かりし頃に編み出した『魔法』で間違いない」

「俺との戦いを含めてこれまでてめぇがそれを使ったところは見た事がないが、何故これまで使わなかった?」

 ヌーは何処か鋭い視線をソフィに向けながら問い訊ねると、ソフィはそのヌーの本音を暴こうとするかのように少しだけ目を細めて、少し返答内容を考えるように間を置いたが、やがてその口を開いた。

「それはこの『絶殲アナイアレイト』が少しばかり、他の『極大魔法』と違って扱いが難しいからだ。先程も言ったがこの『絶殲アナイアレイト』はまだ我が『アレルバレル』の世界で自分の強さというモノを自覚する前に、一番最初に編み出して使った『魔法』だったのだ……」

「てめぇが……、自分の強さを自覚する前?」

 ソフィがこれまで自分達に『絶殲アナイアレイト』とかいう『魔法』を使ってこなかったのは、単に下に見られていたからだと、単に手加減をされていたのだと考えていたヌーは、その神妙そうに話を始めたソフィにどうやら『理由がある』と感じたようで、素直に耳を傾け始めるのだった。

「そうだ。お主がまだ生まれるよりずっと昔だ」

 ソフィはどこか遠い目をしたかと思うと、過去を想い耽るように目を閉じた。

「まだ我が自分の『魔力』がどれくらいあるのか。いや、それどころか『ことわり』や『魔法』を使う為の『発動羅列』などもよく理解していない程の幼子だった頃の話だ。まだ自分の足で立てるようになって少し経った頃だったか」

「あぁ……? 自分の足で立てるようになった頃だと……?」

 その場で話を聴いていた『ヌー』だけじゃなく『セルバス』ですら『ソフィは一体、いつ頃の話をするつもりだ』と顔を見合わせる。

「あの頃の『アレルバレル』の世界の『魔界』は、自分の仲間以外の魔族が視界に映れば、何があってもおかしくはないような危険な時代だったのだが、その時の我は家族や知り合いといった者も居らず、どうやって暮らしていたかすら今となっては定かではないが……、我もその時に何度か襲撃をされたことがあったのだ」

(まぁそれは俺の時代でも似たようなもんだったがな……。あの世界の魔族が少ない原因は、幼少の頃に身を守る術がなければ皆殺しにされるからだ。生き延びられる者達には、運よく大魔王領域の保護者がついているか、運よくそういう連中が居ない離島などの施設で過ごせたかどうかだからな)

 ソフィの言葉にヌーは胸中でそう呟くのだった。

「なんかようやく共感出来る事を聞けた気がしますよ。旦那もそんな時代を過ごしていたんすねぇ。それでどうやって旦那の場合は襲撃してくる『魔族』から逃れたんすか?」

 セルバスもヌーの気持ちと共有が出来ていたようで、軽い気持ちでそう口にするのだった。

「いや、幼少の頃は自分の力と相手の差が分からなかったものでな。襲ってくる奴はに、のだ……」

「え? いや、その幼少の頃ってのは、旦那が自分の足で立てるようになって少し経った頃の話なんでしょ?」

「うむ。よくは覚えてはおらぬが、二歳かまだその少し前の頃だったと思うが……」

「え? お、襲ってきた奴は『魔族』だったんですよね? その相手も赤ん坊くらいだった……、とかいうわけじゃないっすよね?」

「よくは覚えておらぬが、何やら『魔法』を我に向けて放ってきた事くらいは覚えているな。その時に我はそれを見て色々と『魔力』の使い方を学ばせてもらってな。そしてそのおかげでこの『絶殲アナイアレイト』を会得が出来て初めて使ったのだ。自分の身を守るためにな」

 ソフィの話す内容があまりにも荒唐無稽すぎて、何を言っているんだと言いたげな表情を浮かべるセルバスであった。

(セルバスの馬鹿野郎め。話の流れ的に『絶殲アナイアレイト』の編み出した話をしてやがんだから、それくらい直ぐに理解が出来るだろうが。まぁ、相手の魔族とやらが『魔王』領域に至っていたかどうかは知らねぇが、まだまだ赤子から少し経った頃といえるような年齢の奴が、新たにを生み出して使って敵を消滅させたとあっちゃ、信じられねぇっていうセルバスの気持ちも分からなくはないがな……)

「それで話を戻すが、先程『魔力吸収の地アブソ・マギア・フィールド』に向けて放った時と同規模の『絶殲アナイアレイト』をその襲ってきた者達に使った時に、陸ごと消滅させてしまったりもしてしまってな。まぁ、その時に大陸そのものを消滅させないようにする『魔力コントロール』を覚えたりも出来たのだが、その頃の我には、自分の力量というモノが分からなかったから、使わなければ相手にも同じことをされるだろうと思って、襲ってくる者達には全員同じように消滅させてしまっていたのだが、それから数か月後に、どうやらこの『魔法』は自分の思っていた以上に危険なモノだと理解したのだ。クックック! 懐かしいな。それからはまぁ、他の魔王連中達の使う『魔法』を真似るようになって、力を抑えて簡単な『超越魔法』や『神域魔法』を使う事で、三歳になる前にはもう『絶殲アナイアレイト』を使う事を自ら禁じても生きていけるようになったのだ」

 懐かしいとばかりに笑うソフィに対して、セルバスだけではなく『ヌー』ですら唖然とした表情でソフィを見るのであった。
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...