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サカダイ編

1073.容赦のない副総長

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 ゲンロクの里に向かった『妖魔退魔師ようまたいまし』達は、その全員がゲンロクの居る部屋へと案内された。この場まで案内をしてくれた『妖魔召士ようましょうし』が、ゲンロクの居る最奥の部屋の扉を開いたかと思うと、その部屋には里中の『妖魔召士ようましょうし』達が、所狭しと座ってシゲン達を待ち受けていた。

 今回は前回のヒノエが報告を聞きに来た時とは、状況が全くと言っていい程に異なっている。両組織が互いに、自分達の領土の土地に不法侵入しただとか、ハッキリ言って今回はそんな程度のつまらない話ではない。人間の世界で数百年と続くこの『ノックス』の世界の二大組織『妖魔召士ようましょうし』と『妖魔退魔師ようまたいまし』の戦争を引き起こしかねない状況なのである。

 これまで両組織の間で戦争が起きなかった理由は、互いの組織に妖魔から町に生きる人間達を守るという志があり、根の部分では利害が一致していたからに他ならなかった。

 何よりどちらも妖魔に対抗する大きな力を有する人間が、固まって組織に所属しているのである。
 そんな二大組織の間で武力衝突を起こせばどうなるのか。それが分からない人間達では無かったはずなのである。

 だからこそこれまで数百年という長い期間、両組織は軽い揉め事やいざこざはあったりにせよ、武力を伴った戦争に発展する歴史は存在しなかった。

 ――だが、今回その歴史上で初めてとなる出来事が起きたのであった。

 …………

「ゲンロク殿、久しぶりだな」

 『妖魔退魔師ようまたいまし』のシゲンは話合いの場に姿を見せたと同時『妖魔召士ようましょうし』側の現在のトップに居るゲンロクに話掛けるのであった。

「シゲン殿か……。此度の一件で足を運んでもらってすまないな」

 本来であれば事件の発覚に気づいた時点で事件を起こした側の組織の長が、相手の組織へと足を運ぶものだが、今回は『妖魔退魔師ようまたいまし』側の方からゲンロクの元に向かうという話が行き『妖魔召士ようましょうし』側の組織に正式に伝えられた為、この『妖魔召士ようましょうし』の総本山で今後についての会合が行われる事となったのである。

 これには当然『妖魔退魔師ようまたいまし』側にも色々と事情があるのだが、どんな事情があるにせよ、ゲンロクにとっては引け目を感じており『妖魔退魔師ようまたいまし』側に頭が上がらない状況なのは変わらない。

「まぁ、今回の一件はこれまでのいざこざとは、まるで意味が違う事だからな。話をする場所等はどうでもいい事だろう」

 至極真っ当な事を総長シゲンに言われてしまい、ゲンロクは頭を右手で抱えながら溜息を吐いた。

「シゲン殿の言われる通りだ。今回の事は、うちとしても非常に理解が出来ぬ事であった」

 その事件を起こした側が何を言っているのだと、本来なら『妖魔退魔師ようまたいまし』側は思う事かもしれないが、これが逆の立場であったならば、シゲン達も同じことを考えるかもしれない。

 組織の行く末を預かる身としては、自分達が如何に気を付けていたとしてもその組織に居る者が跳ねっ返りを起こしたりすれば、当然にその責任は組織を預かる者の責任となる。

 一寸先は闇という言葉があるが、まさに何が原因で人生が狂うか分からない。
 しっかりと地盤を固めている筈だと思っていた土台がしっかりしておらず、足を踏み入れると同時、思いがけない怪我を負う事もあるのである。

 今回は『妖魔召士ようましょうし』側に起きてしまった出来事だが、組織の上に立つ者はいつもその不安を抱えている物である。これは決して他人事では無いのであった。

 しかし『シゲン』も内心では『ゲンロク』に同情の念を抱いているが、今回の事は流石に内々に済ます事は出来ない。

「ところでゲンロク殿、殿姿?」

 総長シゲンと『妖魔召士ようましょうし』の長であるゲンロクとの会話の間に、すっと自然に入り込む形で副総長ミスズの言葉が入り込む。

 シゲンの隣に座る副総長のミスズがその場を見渡した後に、眼鏡をくいっと上げながらそう口に出すと、ミスズは最後にゲンロクを一瞥する。追撃を受けた形でゲンロクは、苦痛が伝わるような表情を浮かべ始めた。

 ミスズのその完璧な『間』の取り方と、に、ミスズの隣に居た『妖魔退魔師ようまたいまし』の最高幹部である『ヒノエ組』の組長の『ヒノエ』は、ミスズの恐ろしさを再確認するのであった。

「非常に情けない事だが、何を隠そう今回の出来事の発端は、我が『妖魔召士ようましょうし』組織の副長というべき立場に居るヒュウガが招いた事なのだが、そのヒュウガは事件が明るみに出た後、ワシが問い詰めている最中に、奴は取り巻きを引き連れてこの里を出て行ってしまったのだ……」

 今回の出来事を引き起こしたのがまだ、右も左も分からない若衆だったり、ようやく組織に馴染んできて気が大きくなってしまった輩であったならば、まだゲンロクがここまで恥をかく事も無かっただろうが、その出来事を起こさせたのが組織のNo.2なのである。

 それも次期に『妖魔召士ようましょうし』の長となる可能性もあると『妖魔召士ようましょうし』内だけではなく、この場に居る『妖魔退魔師ようまたいまし』側の組織の者達にも囁かれていた『妖魔召士ようましょうし』のヒュウガが、事件を起こして責任も取らずに逃げたとあれば、ゲンロクにとっては想像を絶する程に相当な精神的な苦痛だろう。更にそれが歴史に残るような出来事ならば、尚更の事である。

「それは心中お察ししますが、起きた事は起きた事です。ゲンロク殿、畳みかけるようで申し訳ないですが、覚悟を決めて頂きますよ」

 『妖魔退魔師ようまたいまし』組織の副総長ミスズは、じわり、じわりと真綿で首を締め付けるかの如く、少しずつ『妖魔召士ようましょうし』組織の長であるゲンロクに、を与えていくのであった。
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