上 下
931 / 1,906
ゲンロクの里編

916.覚悟を持つ者

しおりを挟む
 当初の契約ではエヴィを見つけた後に『アレルバレル』の世界までソフィ達を運ぶ事だった。しかしこの世界に来た後で分かった事は、この世界は一筋縄ではいかない世界だったという事である。

 ソフィにしても別世界へ跳ぶのはこれが初めてでは無い。自分の意思で別世界へ来たわけでは無いが、リラリオの世界に跳んだ経験はある。

 しかしその時であっても『漏出サーチ』を使う事で、ある程度離れていても仲間達の魔力を感知することは出来ていたが、この世界では結界が邪魔をしているようで、簡単にはエヴィの魔力が感じ取れない。

 実はソフィはエイジと裏路地で戦いになった時、を開放して魔力の感知を行っていたが、その時でさえもエヴィの魔力は、感じ取る事が出来ず仕舞いだった。

 つまりは単純な魔力の高さでは、この世界の人間の結界を突破して他人の魔力を感知する事が、難しいという事である。当然これはまだまだ調べる余地のある出来事な為、ソフィがこれまで以上に魔力を開放すれば、結界を突破する事が出来るかもしれないが、しかしこれはそんな簡単な話では無い。

 ソフィは自分の本来の戦力値という物を理解していない。魔神と戦った時でさえ、全力の僅か三割に届くかどうかといったラインだったのである。ソフィがその時より力を開放する事によって、世界にどういう影響を与えるかわかったものでは無いのだ。

 リラリオの世界ではを消滅させた時の僅かな力でさえ、ミールガルド大陸のあらゆる場所に歪が出来てしまった。

 そしてレキと戦った時では『』のオーラを使った状態で戦い、岩山が目立つ場所を更地化させてしまった。

 更にはあの大賢者『ミラ』と相対した時には、世界に干渉しすぎて空の色を完全に変えてしまい、あの状況でソフィがミラでは無く、大陸に殲滅魔法の一つでも放っていれば、下手をすればリラリオの世界で新たな『魔神』を出現させてしまっていたかもしれないのだ。

 ソフィは余程の事が無い限り、自分の決めた配分以上の魔力を開放しない。だからこそ強引にエヴィの魔力を頼りに感知するという手段は、他に手立てがなくなった時の最終手段と言う事になるだろう。

 つまり当分は足を使って地道に探す事になるだろう。だがそうなれば、先程エイジが言っていた話に結び付く。この世界の『妖魔召士ようましょうし』と呼ばれる人間達は、この世界に来る前に思っていた以上に手強い。

 当然まだソフィは自分が負けるとは思ってはいないが、ヌー達を連れて行くのであれば、どこまで行けるかが不明瞭となる。足手まといと言いたくはないが『特別退魔士とくたいま』であったタクシンよりも『妖魔召士ようましょうし』の方が魔力値も戦力値も、そして扱う『式』も強力だと想像するのは容易い。

 つまりこのままヒュウガ達が追手を差し向けてきた場合、出来得る限りはソフィが前に立って戦うつもりではあるが、絶対に大丈夫だからとは言い切ることは出来ない。

 単純な戦いであればそれでも何とかする自信はあるが、この世界の人間達は不思議な術を扱う。もし万が一、フルーフが扱うような『呪詛じゅそ』や『呪攻じゅこう』のように直接、相手の脳内や魔力を利用して、強制的に魂を引き抜くような術などがあれば、流石のソフィであっても守り切れるか分からない。

 ソフィは神聖魔法を使う事が出来る為、死人となった者でさえ魂があるうちならば、すぐ様蘇生も可能ではあるが、魂を抜き取られたり、破壊されるような見たことも無い芸当をされてしまえば、ソフィでさえもどうすることも出来ないだろう。

 流石にそんな相手であってもソフィであれば抵抗も可能かもしれないが、ヌーはまだその領域には達してはいないだろう。

 ――『、既に並ぶ者がいない程にヌーは強い。

 ソフィの従える九大魔王でさえも現在であればまだ、今のヌーに太刀打ち出来る者は居ないだろう。しかしそれはあくまで、なのである。リラリオの世界での経験でしかないが、ソフィはこの上の領域を知った。

 これまでであれば『大魔王』領域の上は、もう魔神のような神々しかいないとソフィは思っていた。だが、リラリオの世界では『レキ』や『シス』といった『魔神級まじんきゅう』の存在に居る者達を知った。

 普段の状態のシスは『大魔王』領域に収まる程度だが、ひとたび彼女の中で覚醒が始まり、眠っている力が目覚めれば、一気に『』へと到達する。

 あの領域に達している者達であれば、タクシンやその上に居る相手であっても、そう簡単に遅れは取らないだろう。ただ、それでも『妖魔召士ようましょうし』と直接殺し合ったわけでは無い為に正確に測れたワケでは無い。

 つまりは今のヌーの強さであっても、安心はできないという事なのである。別世界に『代替身体だいたいしんたい』を置いていた場合、その魂は『代替身体だいたいしんたい』に向かうのか、その事は死んだことの無いソフィには分からないが、もし無事に生き残れたとしても『代替身体だいたいしんたい』から現在の身体までの『魔力』に戻すには、相当に長い年月をかけなければならない。

 ――少なく見積もっても一人の人間の寿命が、尽きるまでには戻る事は無いだろう。

 たとえ直ぐにはアレルバレルの世界に戻れなくなったとしても、目の前に居るヌーを自分の都合に付き合わせた挙句『代替身体だいたいしんたい』にさせるような真似はしたくなかったのである。

 別に親切心だというワケでは無く、これにはソフィにとっても都合が悪い。彼には強くなってもらって出来る事ならば、自分とまた戦ってほしいという願いもある。

 フルーフがどうするかまでは分からないが、可能性は残されている。

 だがここでこの世界の妖魔か人間の手によって魂を抜き取られて、今生の別れとなるような事があればもう二度とその願いは叶わない。

 だからこそソフィは『ヌー』に戻らないかという選択肢を与えたつもりだった。

 ――しかし。

「あぁ? てめぇ、今更何を言っていやがる」

 返ってきた言葉は強い否定が含まれていた。

「どうせてめぇの事だから俺達を気にして言ったんだろうがよ、大きなお世話だソフィ。最初に決めた通り『天衣無縫エヴィ』の奴を見つけるまでは帰る気はねぇよ。あんまり俺を舐めるなよ?」

「そうか。しかしこれだけは言っておくが、ヒュウガという男や、その取り巻きの者達はこの世界で襲ってきた連中よりも更に上だと我は思う。その者達とやり合う覚悟がお主にはあるのか?」

「だから俺をみくびるな……よ?」

 今度は脊髄反射でソフィに否定しようと、言葉を投げかけたヌーだったが、そこでソフィの目を見た瞬間に彼は口ごもる事となった。

「――!」(や、やべぇ!)

 ソフィの話す言葉が分からずに、成り行きを見守っていたテアだったが、ヌーに向けてのソフィの放つ殺気がと感じ取ったテアは、ヌーの盾となる為に間に割って入ってしまうのであった――。

「――」(かっ……、はっ……っ!)

 しかし今の冷酷無比なソフィの視線を受けると『神位』を持つ死神貴族クラスであっても、心臓がきゅっとくるような恐ろしさを感じさせられた。

 ――当然であると言える。

 今のソフィの視線は、覚悟を示せなければ帰らせると暗に告げているのである。先程、言葉にした時とは比較にならない程の試す視線。の言葉無き圧力であった。

 直接睨まれているワケでは無いテアだったが、口元を押さえながら必死にソフィの殺気を受けて耐えている。だが、直接ソフィの視線を受けているヌーは、そんなテアとは比較にならない程の圧力だろう。

 しかしそれでもヌーは意識をしっかりと持って、脂汗を流しながらでも自分を押し通す。互いに視線を逸らさずに睨みつけ合うソフィとヌー。時間にして数秒程だっただろうか。

 エイジも腕を組みながら感心するように、ソフィの圧力に耐え続けるヌーの様子を見るのであった。

「ソフィ殿、もうその辺で良いだろう。ここまでお主の圧力に耐えられておる時点で、覚悟の程は十分だと小生は思うのだが」

 エイジがそう言うと、ソフィも一度目を閉じて頷く。するとテアとヌーに対してかかっていた圧力が消えて行った。

……。?」

 ……
 ……
 ……
しおりを挟む
感想 259

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...